老父の介護に追われて、何もせぬままに11月が終わってしまった。 運動不足なのか、10月の甲州街道歩き旅からほんのひと月で3㎏増。 これがなかなか減らないのだ。 糖尿を抱える身にとって、体重が増えるのは良くない…と分かっていても、食事量は減らせないし…。 来週の血液検査がちょっと怖いです。 さて、11月の読書は再読を含めて22冊。 読書量が増えた分、運動不足になってしまったのもうなづける。 このバランスのコントロール、なかなかうまくいきませんね。  ※本文とは関係ありません 11月の読書メーター読んだ本の数:22 読んだページ数:5616 ナイス数:1145 ホームレス女子大生川を下る―inミシシッピ川の 感想タイトルを見てあなどっていたが、これは一級の冒険記だ。 「アウトドアは、お金を出して苦労を買う変態的な遊び」と言い切り、野宿を重ねて3000㎞をカヤックで漕ぎ下る。 クライミングや冬山、アコンカグアに登る実績をもった素地がなせたチャレンジである。 立ち寄る先々で貧富格差や人種差別といったアメリカ社会の現実に直面し、自らの立ち位置を見つめていく旅は貴重な経験。 将来の仕事を見つけたことを含めて、旅での見聞は生きてく上での強い意志と精神的な成長を促したようだ。 文章力もあり、キャンプ料理の数々にはヨダレが込み上げた。 読了日:11月30日 著者: 佐藤 ジョアナ玲子 地獄の田舎暮らし (ポプラ新書 し 9-1)の 感想中途半端な内容にあんぐりしながらも辛抱強く最後まで読んだ。 そもそも著書が指す田舎のイメージが掴めない。田舎にははっきりとした定義もないので人によって捉え方がそれぞれ違う。 政令都市に住んでる人でも郊外に行くほど生活の利便性が落ちるので、田舎だと感じることもあるだろう。 ロケーションが違う集落と別荘地を同列に並べて田舎論議をするのもよく分からなかったが、それ以上に田舎暮らしの良さをまったく拾わず、コケ落とすことに躍起になっていることが鼻につく。 挙句、最後は都会に戻ろう…とは、支離滅裂。久しぶりに駄本に当たった。 読了日:11月28日 著者: 柴田 剛 生きるために登ってきた――山と写真の半生記の 感想三部作『大いなる山、大いなる谷』『果てしなき山稜』『黒部へ』を読んだのは20年以上も前。今読み返しても色褪せない。 大井川、黒部川の全沢の単独遡行、厳冬期の知床連山、日高山脈縦走など、ストイックなソロクライマーとしての活動はおそらくこの先も破られることがない前人未到の記録である。 本書は三部作の内容と重複する箇所も多くあるが、後半の写真家として夢を追う章に入ると、挫折を越えた自信と躍動感に満ちた人生観が語られていく。 家族や多くの人々との出会いも彩を添え、次のステップに向かって力強く輝く人生が見て取れた。 読了日:11月27日 著者: 志水 哲也 ノマド: 漂流する高齢労働者たちの 感想先進国の中でも最大の所得格差をもつアメリカ。その不平等なしわ寄せが無力な高齢者にきている。 車上生活をしながらノマドとなった低賃金のワーキャンパーとして彷徨する高齢者が、珍しくもない現象として認知されている社会は病んでいるとしか言いようがない。 救いは同じ境遇の仲間とつながったコミュニティの存在だが、これとてキャンプがなくなれば散っていくその場限りの関係で、孤独からの解放と精神的な支えにはなるが、貧困を救済するための支援の一助にはならない。 映画『ノマドランド』でも印象に残っているが、「ホームレスではなくハウスレス」という言葉には、そこ(底)まで落ちないという強いプライドも見て取れた。 アメリカの広大な土地を巨大なキャンピングカーで旅する高齢者の一群は、何も知らずに傍から見れば実にワイルドで羨ましくもあるが、肉体が朽ちるまでその生活を続けることの怖さは筆舌に尽くしがたい。 規模は小さいが近年になって社会問題化してきた、道の駅で車上生活をする老後破綻した高齢者が増えている日本も、同じ道を歩んでいるように思う。 読了日:11月26日 著者: ジェシカ・ブルーダー 京都を歩けば「仁丹」にあたる 町名看板の迷宮案内の 感想京都仁丹樂會のブログをチェックしているので、内容的には新鮮さはないが、著者を始め仁丹町名看板に関わる人々の熱い思いがひしひしと伝わってきた。 直近の調査では木製と琺瑯製合わせて523枚の現存となっているが、1995年には1200枚が確認されている。 家屋の取り壊しやリフォーム等で年々減少していくのは残念だが、これは京都市が誇る文化遺産でもある。 民間、行政を含めて保存活動が更に推進されることを望みたい。 ちなみに琺瑯看板マニアの小生は、2005年から撮影を始め、現在までに741枚をカメラに収めて打ち止めとした。 読了日:11月24日 著者: 樺山聡,京都仁丹樂會 西成で生きる~この街に生きる14人の素顔の 感想コロナ禍の釜ヶ崎の現状と今後に興味をもって手に取った。 内容は釜ヶ崎に生きる人々の証言をもとに多岐にわたるが、コロナ禍により世の中が変化しても釜ヶ崎が放つアンダーグラウンドの本質は変わっていないように思えた。 証言者からは「釜ヶ崎は良い町だ」という言葉が何度も語られるが、それは浄化された町のイメージとは程遠く、労働者からピンハネする手配師や覚醒剤の売人、泥棒市の不法売買、飛田新地の存在は以前のままだ。 その一方で加速した生活保護者の高齢化に対応した福祉サービスや炊き出しも充実の中で継続されている。 時代は変われど、ここ釜ヶ崎は「人が最後に流れ着く街」として不変だということを改めて再認識した。 私は新世界や飛田新地などこの町が放つ雰囲気が好きで、20年ほど前から関西方面に旅行すると、わざわざ釜ヶ崎のドヤを選んでよく泊まった。 一泊800円くらいから2500円程度の驚くほどの安さ。しかし数年前に南京虫の被害に遭ってから、さすがに懲りたのか今は釜ヶ崎からは遠のいている。 当時、釜ヶ崎で目にしたのは本書でも取り上げられた教会の炊き出しに並ぶ労働者や、三角公園に続く路上での泥棒市、白昼堂々と新今宮駅近くの高架下で布団にくるまって眠る人。 少なからずカルチャーショックを受けたが、何度も目にするとマヒするのか、当たり前の風景として受け止めてしまう自分がいた。 これから釜ヶ崎はどう変わっていくのだろうか。釜ヶ崎を追い続ける著者の次作が楽しみだ。※(注)「あいりん」「西成」ではなく、「釜ヶ崎」の呼称を使いました。 読了日:11月24日 著者: 花田 庚彦 夜這いの民俗学の 感想収録された逸話は大正期から戦前のものが多いので、古典的要素は大。夜這いの風習による怨恨が事件の引き金の一つとなった、津山三十人殺し事件のあらましを反芻しながら読んだが、夜這いはムラ社会では年中行事の一つとして、実にシステマチックに管理運営されていたことに驚いた。 そこには宗教的な背景のもと、貞操観念は抜きにして、性に大らかな土着信仰が見て取れるし、倫理観を欠いた猥雑さはあまり感じない。 陰陽物が神社や寺に奉納される風習も無縁ではないように思う。 柳田國男の民俗学をこっぴどくこけおどしているのは個人的には痛快。 読了日:11月23日 著者: 赤松 啓介 昭和ブギウギ: 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲 (NHK出版新書 703)の 感想朝ドラを観ているので、笠置シズ子と服部良一が出会った背景を含め、気になるこれからの展開が掴めて良かった。 稀有な才能を持った二人の出会いが大阪道頓堀から生まれ、戦前、戦後を代表する楽曲を量産したことは偶然ではなく必然であったようだ。 本作を読みながら笠置の代表曲である「ラッパと娘」「東京ブギウギ」「買物ブギ」をYouTubeで観たが、どれも圧巻のパフォーマンス。 物心ついた頃、タレントとして出ていた笠置をリアルタイムで見ていたが、大阪出身の母とダブってしまい、いつも親近感を抱いていたことを思い出した。 読了日:11月23日 著者: 輪島 裕介 焼き芋とドーナツ 日米シスターフッド交流秘史の 感想焼き芋とドーナツは日米の産業革命期を生きた女性たちの胃袋を満たした食べ物。本書の内容では比喩でしかない。 高井としを、津田梅子、相馬黒光、伊藤野枝、ルイーザ・オールコット、エレン・リチャーズなど女性解放運動の旗手となったファーストペンギンたちを取り上げているが、彼女たちに共通しているのは、食べ物や賃金、長時間労働、教育といった目に見える身近な女性差別から、不条理に対する疑問や憤懣を当たり前の要求にして風穴を開けたことにある。 黎明期の日本では、労働環境の改善を進め、女工を人間として扱った大原孫三郎のような先進的な思想をもった資本家の存在もあったが、それはほんの一握りであり、多くが食事も満足に取れない劣悪な環境下にあったという。 100年前と現代を比較して女性の地位が進化したのだろうか。 ウーマンリブの時代に盛んに使われたシスターフッドは死語ではない。 他国に比べてもフェミニズムへの抵抗が大きく、ジェンダーギャップが露骨に存在する日本にとって、シスターフッドの認識と実践はますます必要になってくると思う。 時間のズレはあるにしろ、日米が辿っている女性解放への道は同じものであると改めて考えさせられた内容であった。 読了日:11月20日 著者: 湯澤 規子 芝浦屠場千夜一夜の 感想【再読】読みが浅かったのか、どうにも気になって再度手に取った。 屠場を語るに切り離すことができない差別問題に対して本書での取り上げ方についてである。 どこまで書くのか?書けるのか?そこには関係者との駆け引きもあっただろし、著者の悩みや熟考も半端ではなかったと思う。 著者が筆を執るまでの四半世紀に差別意識がどれほど変化したのか、今、語ることができるのはここまでが精一杯ではなかっただろうか。 赤裸々に描かなくても問題がもつ業の深さを十分に伝えてくれたと思う。 読了日:11月20日 著者: 山脇史子 秘境駅で途方に暮れたの 感想そもそもこの人からは鉄道愛を感じない。粗野な言葉の圧力も節々から臭う。 しかし、鉄ヲタではないから逆にマニアックすぎるきらいもなく、見たままのルポになっていることには好感が持てた。 秘境駅の予備知識もないまま勢いで突入して行くなかで、少しは思い入れが深まっていったのか、駅を訪問する一部マニアのマナーの悪さやダイヤの問題も訴えている。 半年をかけて北海道から九州へ南下していく旅で、どういった基準で目的の路線や駅を選んでいるのか分からないが、手をつけた以上一過性で終わることなく、続編もぜひ期待したい。 読了日:11月19日 著者: カベルナリア吉田 さよなら、野口健の 感想現在の環境活動、社会貢献活動のトップリーダーとして活躍する野口健に手放しで拍手を送る一方で、登山家と名乗っていた野口に対して苦々しく思っていた自分がいた。 山登りに明け暮れていた1990年代、8000メートル峰の全てが単独無酸素で登られた時代に、七大陸の最高峰に最年少で登った野口を知った。 より困難な高みを目指すアルピニズムを標榜するクライマーたちは、自分もそうだが売名行為とも思えるその時代遅れの記録について冷ややかな目で見ていた。 所詮一般ルートからの登頂などカネがあれば誰でもできるという、貧乏人の妬みだったかもしれない。 本書を読むと野口はクライマーとして実力の無さを早い段階で気づき、方向転換したことが伺える。 国内において清掃登山は盛んに行われているが、ことエベレストのような地球規模での実施は野口ならではの発想であり、それを強引に実現していくスピードもまた天性のものであるようだ。 著者の小林が精神を病んでまでも、アクの強い野口に磁石に引き寄せられる砂鉄のように捕らわれてしまうのは、二人が惹かれあう似た者同士だからなのか、それとも悪縁であろうか。 本書は野口を隠れ蓑にした、著者の成長物語のようでもあった。 読了日:11月17日 著者: 小林 元喜 芝浦屠場千夜一夜の 感想タイトルからして単なる食肉業界のルポではないと察しがつく。 著者が屠場に通いだしてから四半世紀もの間温めてきた作品だけあって、その間に父と娘の関係、ライターとしての成長、社会をしっかりと見つめる目が熟成されていくのが見て取れた。 野菜や魚ではなく、豚や牛に関わることでなぜ差別されなければならないのか…差別される側に立った気づきや苦悩が突き刺さる。 瀕死のカマキリの腹を突き破って勢いよく出てきた寄生虫のハリガネムシは、著者を縛りつけていた迷いからの解放を暗示するのだろうか。 生々しい内容のなかにも清々しさが光った。 読了日:11月16日 著者: 山脇史子 B:鉛筆と私の500日の 感想これは手元に置きたい一冊。図書館で借りたことを後悔している。 コロナ禍で自宅にこもる500日間に毎日一枚づつ書き続けた鉛筆画とエッセイが綴られているが、そのクオリティの高さはさすが。 鉛筆は日本製のトンボ鉛筆Bをこよなく愛し、使い勝手を絶賛。宮崎駿や葛飾北斎の画も収録されており、同じ日本人として嬉しい。 1日目に描かれ、何度も登場する「決然とした青年」の画は、パンデミックの苦しい日々から解放に向かう変化を表現しており、500日目の最後の一枚は清々しく、著者自身を投影した心理状態を同時に表しているようにも思えた。 読了日:11月15日 著者: エドワード・ケアリー 思い出すこと (新潮クレスト・ブックス)の 感想詩人としても非凡な才能を魅せた作品。 『ネリーナ』のノートに書かれた詩の草稿は勘ぐることもなくラヒリ自身の創作であるが、イタリア語で綴られるローマでの暮らしを描く詩は自伝的要素に溢れており、著者の人となりが垣間見えた。 散文、韻文、叙情、リズム感を意識したものなど表現方法も一定ではなく、様々なスタイルへのチャレンジと詩作へのこだわりが見てとれる。 「ざっと目を通す」という短い詩には「一ページも飛ばさず読むべき 六百ページ以上もある長たらしくて恐ろしく散漫な小説で発見した言葉」(P89)とあり、ユーモアを感じた。 読了日:11月15日 著者: ジュンパ・ラヒリ 思い立ったら隠居 ――週休5日の快適生活 (ちくま文庫)の 感想隠居の定義はいろいろあるようだが、「世辞を捨てて閑居すること」。早期退職して四年が経つ自分にとって、これが一番当てはまっている。 ついでに言うと私の理想とする隠居生活は、衣食住カネに困らず、対人関係や社会の面倒なことに振り回されず、ストレスをためることなく好きなことで健やかに過ごす生活。 もちろん仕事などしない。本書を途中まで読んで思ったのは、週休5日間の生活をどう作り上げ、維持するのかという著者の健気な努力。 そこにはストイックな節約生活も見え隠れするので、自然体とは言い難い。これはちょっと隠居とは違うんじゃないかと。 しかし、最後まで読むと「頑張らないで生きる」という個人の価値観を大切にする著者の一本気な生き方に気づき、フェードアウトやひきこもりとも違う、何だか楽し気な隠居生活が見えてきたので、爽快な読後感を得ることができた。 読了日:11月14日 著者: 大原 扁理 デミーンの自殺者たち: 独ソ戦末期にドイツ北部の町で起きた悲劇の 感想歴史に埋もれていた事実を掘り起こした労作。 数百人規模の集団自殺がなぜ起きたのか、その答えは簡単ではない。 出口のない密室空間になったデミーンの町に留め置かれ絶望した住民と恐怖から弛緩した赤軍兵士。 そこにあったのはプロパガンダに煽られ暴力を正当化した兵士と、侵略されることで破壊と強姦の恐怖を刷り込まれた婦女子や老人たちの関係に、勢いよく絶望自殺へと傾いていく負のスパイラル。 暴力に向かうメカニズムに迫ることは、同時に最終手段の自殺という選択肢を植え付けたナチスの愚かな闇の一端を知ることでもあるようだ。 読了日:11月12日 著者: エマニュエル・ドロア 団地で暮らそう!の 感想小説らしからぬ、団地愛に溢れたルポルタージュ。 すでに昭和は遠い昔になってしまったが、読み進めるうちに万感の思い出がよみがえってくるのを感じた。 これは団地で育ち、団地の日常を経験した人でないと分からないと思う。 私は生まれて間もない昭和34年を皮切りに、三ヵ所の団地に合わせて20年以上住んだ経験がある。木造の借家住まいから当時はモダンだった新築の団地の抽選に当たった両親は大喜びをしたそうだ。 しかし、私たち子供が成長するにつれ、家族5人で風呂なしの2Kはあまりにも狭く、入居して15年も経つとエレベータもないヨーカン型の公営団地は貧困家庭の象徴のようにも揶揄された。 本書にあるように団地生活は盆踊りや映画会などのイベントも多くあり、子供たちにとっては楽しい日々だったが、私たち一家の願いはなんとしてもここから出たい、そればかりだった。 今、昭和30年代にできた団地暮らしがにわかに脚光を浴びているが、その不便さは本書に書かれている通り。主人公の若者のような興味本位や憧れだけでは、到底太刀打ちできないだろう。 読了日:11月09日 著者: 長野 まゆみ 加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)の 感想加害者家族に降りかかる様々な苦しみが、想像に難くないこをまずもって実感。 ネットを始めとするSNSを使った陰湿な誹謗中傷の“匿名攻撃”は今の時代を象徴するが、それ以前にも差別や家屋への浸入、破損、落書きといった“姿なき攻撃”が存在しており、カタチは変われどその陰湿性に大差はない。 メディアの横暴も含め、然るにそうした人々が存在している世の中に問題がありそうだが、単に国民性や民度の低さとは片づけられそうもない。 被害者家族の二次被害と加害者家族をどう護っていくのか、国や行政を交えた表裏一体の対応が急務である。 読了日:11月07日 著者: 鈴木 伸元 列島縦断&本土四極踏破 63歳からの歩き旅 自宅と繋がるGPS4000㎞の軌跡の 感想63才から15年かけて日本列島縦断と四極踏破を達成した記録である。 著者は海外登山を何度も経験した山屋で、植村直己に刺激された垂直から水平への歩く旅の実行は、山の延長線上にあってすんなりと始まったようだ。 私も徒歩での日本縦断を達成したが、山から歩き旅に入ったいきさつは同様である。 長く歩く旅を続けていると「なんでこんなことをしているのだろう」という自問自答が絶えず脳裏をよぎる。 更に雑念に支配され、それを乗り越えると無の境地に達し、気づいたときには40㎞を歩いている。視野に広がる歩き目線での風景も魅力である。 スタート時の著者の旅は列島縦断をすることが目的ではなく、ゴールへの貪欲さは薄いが、歩数を延ばし続けるうちに列島縦断を達成したという印象だ。 GPSを駆使した歩行記録を数値として巻末にまとめているのは元理科教師らしさが出ており、1ミリたりとも空白区間を作らずに、歩いた線をつなげることの強いこだわりが見てとれた。 読了日:11月04日 著者: 松木 崇 絶望老人の 感想実家に帰省し、90才を迎えた老父と過ごすなかで本書を読んだ。 認知が進み「歳は取りたくない」と何度も繰り返す父の独り言を聞きながら老いることの意味を考えたが、タイトルにある絶望まではないにしろ、明るい未来を想像できない現実はぬぐえない。 本書には様々な事情を抱えた老人たちが出てくるが、著者がいう「途方もなく長くなった老いて生きる日々は、それまで自分がそなえてきたものの上に成り立つ」という事実には、頑なに自己の生き方を貫く信念に共感を覚える一方で、軌道修正ができない柔軟性が失われる、老いの怖さを知る思いがした。 読了日:11月04日 著者: 新郷 由起 山折哲雄の新・四国遍路 (PHP新書)の 感想独自の視点から四国遍路を論じており、内容は村上水軍や高田屋嘉兵衛、龍馬脱藩の道など多岐にわたる。 日本の巡礼は円運動になっているという解釈は大いに共感できる。 今年の春に40日間をかけて歩き遍路をしたが、時計回りに歩く順打ちは自然のままに流されていくようで心地よく、心身ともに浄化されていくのを感じた。 無心に山を歩き、海辺を歩き、雨に打たれ、暑さに焼かれ、自分が辿った道を振り返って人生の縮図を知る。まさに夢のような体験であった。 道中雑記では善根宿の坂本屋のことにも触れており、情景を思い出しては懐かしく読んだ。 読了日:11月01日 著者: 山折 哲雄読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
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本日から実家に帰省して、しばらく老父と過ごします。 同居している妹が、長女の妊娠による体調不良の介護で東京に行くことになったからです。 認知が進み齢90才になろうとする父を放ってはおけず、私たち夫婦の出番となった次第です。 実家にはWi-Fi設備がないので、スマホはともかくパソコンが使えないのが痛いです。 まぁ、どうしても必要な時は近くの図書館で無料Wi-Fiを利用するつもりです。 ということで、しばらくブログの更新ができないかもしれませんが、その間にネタをため込んでおきますね。 さて、先月は2週間にわたって横浜、東京から甲州街道を歩く旅をしていたので読書は進まず。 帰宅してからペースを上げて読んでました。 10月の読書メーター読んだ本の数:11 読んだページ数:2237 ナイス数:525 バーデンハイム1939の 感想最後の一行にこの作品の凄さが凝縮されていると感じた。 この一行のために、退屈で抑揚もなく淡々とした文章を辛抱強く読まされていくが、最後の最後に体を貫かれたような切れ味を魅せられ、バッサリとやられる。 この退屈な文章を理解するためには再読が必要かもしれないが、それは人それぞれでしょうか。私の場合は何度読んでも印象は変わらないような気がする。 物語は1939年のバーデンハイム。暗黒のホロコーストへ突入する、ユダヤ人の大量移送が始まる前夜の話である。 読了日:10月28日 著者: アハロン アッペルフェルド 食魔 谷崎潤一郎 (新潮新書)の 感想本書を読み終えてから改めて嵐山光三郎著『文人悪食』の谷崎の項を読んでみた。 というのは、本書にあった「谷崎はヌラヌラな食い物が好き」という記述がどうにも気になったからだ。 コンニャクやトコロテン、バナナなどヌラヌラ、ドロドロしたものになぜ執着したのか。 当時人気があった女優春川ますみのような豊満な女性の肉体賛美にもそれは連想されていく。著者の見解では食への異常な執着を谷崎のフェティシズム的な性的思考に結びつけているのも見逃せない。 蛇足だがマゾヒズム画家の春川ナミオは、春川ますみを女王様のモチーフとして好んで描いており、このあたりは谷崎の影響を受けているようだ。 『文人悪食』によると、谷崎がヌラヌラな食べ物を好んだのは、虫歯が多く固いものを噛めなかったことによると書いている。 これは拍子抜けするような面白い逸話。 ともあれ、これまで谷崎作品を食の観点から読んだことはなかった。 茫洋の海のような作品群の再読に、老後の楽しみがまた増えた。 読了日:10月26日 著者: 坂本葵 蛇にピアス (集英社文庫)の 感想長らく本棚の肥やしになっていた作品をようやく手に取った。 19年前に19歳の女性が書いた作品は、全く色褪せることない、 凶暴な毒をまき散らしながら飛び込んできた。この衝撃は他に例えようもないが、表現という小説の世界が、改めて無限に広がる掴みどころもない空間のような恐ろしさであると感じずにはいられなかった。 今更だが、この作品は時代を象徴することさえも超越した、圧倒的な才能を紡ぎだした後世に残る一冊になるに違いない。 併せて吉高由里子主演、蜷川幸雄監督の同名映画も見たが、原作世界を忠実に描いており好感が持てた。 読了日:10月26日 著者: 金原 ひとみ ガラスの帽子の 感想ホロコーストの悪夢は子や孫の世代にまで伝染し、遺恨を残し続ける。 『ガラスの帽子』はそんな悪夢を脱ぐことのできない帽子に例えて、体の重要な一部とした比喩である。 建国間がないイスラエルではホロコーストの生還者が歓迎されず、むしろ避けられ、虐げられていたという。 「ホロコーストはなかった」のごとく、歴史の闇に葬むることはできない。 生還者たちが忘れようとしても消し去ることができない悪夢は、時の隙間に入り込むように戦後何十年が経っても凶暴な姿となって現れてくる。 収録された九篇は重く沈むような因果と捉えることができない恐ろしさを綴っている。 結婚のためにユダヤ教に改宗までしたドイツ人女性の物語「でも、音楽は守ってくれない」は、生還者の夫の両親の複雑な心境と苦悩が痛いほど突き刺さった。 読了日:10月25日 著者: ナヴァ・セメル 祖母の手帖 (新潮クレスト・ブックス)の 感想全編を通して、そこはかとなく甘美なエロティズムが漂う雰囲気を堪能しながら読了。 最後の数ページにすべての謎が解き明かされるが、そこまでのプロセスに、否応なしに祖母の人間像や理解し難い心情の変化が読む側に蓄積されていく。 それが最後の解放となって放出され、長く余韻を残す見事な構成に舌を巻く。 才能に溢れた憎らしく上手い小説に出会えたことが嬉しい。イタリアでベストセラーとなったこの作品を、クレスト・ブックスに収録した編者の目の付け所にも関心した。 読了日:10月24日 著者: ミレーナ アグス 怖い村の話の 感想眉唾モノの怪談話や都市伝説、殺人事件があった現場や奇祭など、寄せ集めのごった煮的な内容。 実話といいながらも話の出所や記事を書いたライター名もなく、さらに登場人物がいずれも仮名の羅列になると、信じろというのは無理というもの。 奇抜すぎて笑わせる話もあったり。だったら読まなけゃいいが、この手の怖い話が好きな自分には、やはり覗いてみたくなることを抑えられない。 まぁ、娯楽作品としては楽しめたでしょうか。願わくは、次作を出すことがあるなら背筋が凍るようなホンモノのノンフィクションホラーを編集してほしい。 読了日:10月22日 著者: ギリヤーク尼ヶ崎という生き方: 91歳の大道芸人の 感想生い立ちから大道芸人として生きていく過程を世相を織り込みながら、ギリヤーク本人や交流がある周辺の人々へのインタビューを中心にまとめている。 著者の突っ込みが甘いのか、引き出した答えは核心を突けずに浅いのが残念。なぜ生涯現役として踊ることにこだわるのか…それは本人にしか分からないだろう。 本作を読んでからYouTubeを見たが、1990年代の圧倒的なキレがあるパフォーマンスに驚き、93歳になったこの夏の路上公演の姿に心を打たれ、止めどなく涙が溢れた。 そこにあったのは、痛いほど伝わる死ぬまで踊り続ける覚悟である。 読了日:10月20日 著者: 後藤 豪 ハンチバックの 感想あまりの薄さに驚いたが、それに比例するように最後まで読んでも何も残らなかった。 「日本では社会に障害者はいないことになっている」という、これをあえて書くか。 健常者から見れば障害者への関心の薄さは否めないが、その存在は否定していない。誰もが障害者になる可能性をもっているからだ。 障害者である私の従弟は、自分の障害の不幸と辛さを、生まれてこのかた吠えるように周囲に当てつけ、毒をまき散らしている。 著者を従弟に重ね合わせ、どうすることもできない閉塞感と邪悪な暗い叫び声を、後味の悪いこの作品に見てしまったように思う。 読了日:10月18日 著者: 市川 沙央 世界を、こんなふうに見てごらん (集英社文庫)の 感想事象に捉われず、物事を断定しない、「なぜ」という疑問を絶えず持ち続ける柔軟性。 著作を手にするたびに、その人間性の素晴らしさの魅力にはまっている。 解説で作家の篠田節子が「日本の知の最高峰」と称えるくらいの大学者なのに、文章は平坦で分かり易く、何やら庶民的な匂いがプンプンしてくるのだ。 すでに鬼籍に入ってしまわれたが、講演をぜひ聴いてみたかった。 蝶の習性に決まったコースを翔ぶ「蝶道」があるが、クロアゲハは樹上高くを翔ぶので捕虫網が届かず採集できない、これはなぜか。 こんなことを真剣に考える人はいないだろうと思う。 読了日:10月04日 著者: 日高 敏隆 狙撃兵ローザ・シャニーナ―ナチスと戦った女性兵士の 感想息もつかせぬドキュメントを一気に読んだ。 自ら志願し、女性の狙撃兵を養成する学校を出てソ連赤軍の兵士となり、わずか20歳で戦死した伝説の狙撃兵の話である。 任務に就く兵士が日記や記録をつけることを厳しく禁止していた状況下で、奇跡的に残った日記は過酷な戦況とローザの心境の変化を綴っている。 スターリン政権下で英雄として担がれ、祖国を鼓舞するプロパガンダの道具にされた彼女が、小隊を率いるリーダーとなった終盤には人の命の尊厳を悟る。 穏やかになり、慈愛に溢れた女性らしさがにじみ出た死の直前に書かれた手紙が涙を誘った。 読了日:10月03日 著者: 秋元 健治 津山三十人殺し 最後の真相の 感想この未曾有の事件を追うことになった動機が突発的かつ流動的。 事件の背景を怨恨や差別によるもの以上に、集落にはびこっていた夜這いの風習による性の乱れに起因しているということに執着しすぎているのも鼻につく。 報告書や遺書などの当時の資料を掲載しているが事件の核心には迫れておらず内容が薄い。 不十分さを補うためか、三年後に上梓した『津山三十人殺し七十六年目の真実』では、筑波昭著『津山三十人殺し』の内容矛盾を指摘しているものの、新たに発掘された真実から新解釈を記しているので、ライターとしての拘りを見ることができた。 読了日:10月01日 著者: 石川 清読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
10月に入りようやく涼しくなってきましたね。 待ちに待った秋本番です。 今週から少し長い歩き旅に出ることにしました。 どんな風景に出会えるのか、今から楽しみです。 さて、9月の読書ですが、7冊という相変わらずの低空飛行で終わってしまいました。 振り返ってみても特に忙しかったわけでもないですが、暑さで読書に身が入らなかったということでしょうか。 今月は旅に出ますのでさらに読書量が落ちますが、良書に巡り合えればいうことありませんね。 画像は琵琶湖近くで撮影した朝の風景です。 9月の読書メーター読んだ本の数:7 読んだページ数:2031 ナイス数:346 白装束集団を率いた女 (論創ノンフィクション)の 感想謎の白装束集団騒動のことは記憶の片隅に残っている。 その時にパナウェーブ研究所という家電メーカーのような名称が刷り込まれたが、実際は千乃正法会という宗教でも政治団体でもない奇怪な組織。 本書は中心である千乃裕子の生涯に迫っていくが、資料に頼り過ぎて千乃本人の人間像が掴めず、ベールに包まれたまま最後まで実態が見えてこなかったのが残念。 千乃に人を惹きつける求心力があったとは思えないが、気づいたら周囲から祭り上げられていのではないだろうか。 狂信的な幻想と幻視、幻聴が織りなす狂騒劇に翻弄された人々が哀れでならない。 読了日:09月28日 著者: 金田直久 つげ義春日記の 感想1975年から80年の日記。この時期は著者にとって精神の高揚と低迷に翻弄された時期である。 高揚は長男の誕生と育児、低迷は不安神経症の発症と妻マキの病気。 体調の不安定さを書き続ける後半の日記は、読む側にもその不安が乗り移るかのように重くのしかかってくる。 この時期のことを綴った藤原マキの『私の絵日記』と『別離』(87年)も併せて再読しながら日記を読むと、著者の苦悩が一層伝わったきた。 私小説をこよなく愛し、マンガだけでなく文筆にも非凡な才能をもった著者。 『別離』から長い休筆となっているのがファンとして寂しい。 読了日:09月25日 著者: つげ 義春 つげ義春の温泉の 感想この作品は2003年にちくま文庫版で読んだが、初版の単行本が手に入ったので、改めて再読してみた。 昭和40年代の温泉場の写真、『長八の宿』『ゲンセンカン主人』などの漫画、そして温泉旅行をもとにしたエッセイ。 そのどれもが、つげワールド。このバランスの良さとクオリティの高さは非凡なる故か。 著者が好んで描いた、鄙びて、寂れて、貧しい…そんな昭和の情景が匂い立つような温泉場や宿も絶滅危惧種になってしまったが、東北の山奥には自炊ができる湯治場もまだ残っているという。 いつの日にか、作品の残像を探しに訪ねてみたくなった。 読了日:09月14日 著者: つげ 義春 多読術 (ちくまプリマー新書)の 感想久しぶりに覗いたら『千夜千冊』は1829夜。圧倒的な知の大海原になすすべもなく、尻尾を巻いたまま眺めている。 著者のいうキーブックでの多読術は、こだわりもなく読み散らかすスタイルを通してきた私には、到底真似できぬ方法なので参考に留める。 ひとつ上げるとすれば、どんなときも、愉快なときも悲しいときも、調子が良いときも悪いときも本を読む…これこそ読書家たるもの。心にずしんと響く。 ある程度の好奇心は目で見て体感することで満たされるが、それに知的要素を加え、更に視野を広げる手段として本が一役買う。これに尽きる。 読了日:09月14日 著者: 松岡 正剛 完全なる白銀の 感想山岳小説としての描写にこだわって読んだ。 厳冬期のデナリはトップエキスパートにだけ許された山という印象がある。 カメラマンの藤谷緑里がこの山に挑む実績や実力があるのか、夏のデナリの登頂経験があってのチャレンジなのか。 この点については国内での難易度が高いアルパインクライミングや冬山登攀のリアルな描写を挟んでくれたら納得もしたが、シーラも含めてプロセスを省いたばかりに、冬のデナリが無謀登山に感じてしまう。 ロープワークなど登攀技術の描写も甘く、デナリ特有の雪崩の脅威など厳しさをもっと描き込んで欲しかったところ。 読了日:09月12日 著者: 岩井 圭也 【改訂完全版】アウシュヴィッツは終わらない これが人間か (朝日選書)の 感想ホロコースト関連を読み漁ってきたが、これは『夜と霧』に並ぶ名著であり、必読の書。 読メ読了3000冊目の節目として読めたことが嬉しい。 「自分のパンを食べよ、そしてできたら、隣人のパンも」は、人間としての尊厳をも奪い取るラーゲルの生活を端的に表している。 その上でダンテの表現を借りて、人間破壊されて死んでいく人々を「溺れるもの」と辛辣に比喩していることは衝撃的である。 ナチが行った非人間的な残虐行為、その狂気の本質の根源を生涯かけて追及した著者は、単なる生存者ではなく、歴史が生んだ選ばれし者に他ならないだろう。 読了日:09月08日 著者: プリーモ・レーヴィ 丑三つの村 (徳間文庫 120-5)の 感想映画化されたこの作品は、横溝正史『八つ墓村』を始め、岩井志麻子『夜啼きの森』、松本清張『闇に駆ける猟銃』など、津山三十人殺しを題材にしたなかでも史実をもとに再現したノンフィクション小説として秀逸だと思う。 事件後43年という、当時の関係者が健在での取材と執筆は説得力があり、惨劇のデテールを克明に描くことに味方している。 それ以上に、未曽有の殺人へと向かう犯人犬丸継男の内面心理の変化や、土俗的、閉塞的な集落に生きる人々の人間模様と時代背景を冷めた文体で表現することに成功している。 これが一段と恐怖を煽るから凄い。 読了日:09月02日 著者: 西村 望読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
めちゃくちゃ暑かった8月。 青春18きっぷを握りしめてカミさんと行った大阪への小さな旅を除けば、病院に通ったくらいで、それ以外はほぼどこにも行かず、何もせずにゴロゴロと過ごした8月だった。 検査を受けた徐脈と不整脈の結果が気になって、ずっとやきもきしていたからか、読書には集中できず13冊で終了。 それでも今年はいつにないハイペースもあって、8月終わったところで103冊の大台越えとなった。 さて、まだまだ残暑が厳しい9月ですが、深まる秋を感じつつ、本格的な読書モードに突入したいと思います。  ※本文とは関係ありません 8月の読書メーター読んだ本の数:13 読んだページ数:4512 ナイス数:700 東海道でしょう! (幻冬舎文庫)の 感想昨年18日間かけて完歩した東海道。五十三次の一コマづつの風景を懐かしく思い出して読んだ。 一緒に行動しながらも著者それぞれの視点と思い入れが違うので新鮮である。 文学や歴史のウンチクが豊富な杉江氏は宿場にちなんだ作家や史跡を詳しく紹介しており参考になる。 歩くことに集中して資料館等に立ち寄らなかった自分の旅がずいぶん勿体なく感じた。 かたや藤田氏のルポは、足が痛い、バテた、もう嫌だ、泣いたり、マッサージとか…ネガティブな連続にうんざり。 更に話題も食べることばかりなので「アンタ、何で歩いてるの?」と問いたくなった。 読了日:08月27日 著者: 杉江 松恋,藤田 香織 運命の旅の 感想抑揚がない文章、更にドラマチックな内容に関わらず自己の精神性や宗教観を投影した表現が多いので難しく感じる。 ナチスドイツからの逃亡を目指したヨーロッパ、アメリカを巡る流転の旅は、ドイツを取り巻く戦時中の国際情勢が描かれており興味深い。 運よく亡命できたのは著者もまた一握りの恵まれたユダヤ人であるが、ユダヤ団体からの生活支援を受けながらもカトリックに傾倒し受洗する。 ユダヤ教を信じず、祈りや神について考察していたことがその理由だが、本書において、信教とは、ユダヤ人とは何かという根源的な疑問を突きつけたように思う。 読了日:08月21日 著者: アルフレート・デーブリーン ヨーゼフ・メンゲレの逃亡 (海外文学セレクション)の 感想メンゲルがヒトラーに命じられるまま忠実に職務を行ったという主張はアイヒマンと共通するが、本人には大量殺人であるという認識はなく、人体実験を楽しむサイコパスの本性が浮かぶ。 骨の髄までナチスなのか、職責を国や医学の進歩に転嫁する神経は保身以上である。 ナチ戦犯の逃亡を手助けする地下組織が戦後何十年も南米にはびこっていたことは国際秩序をバカにしているが、多くの証拠や情報がありながらメンゲルの逃亡を許した捜査の手ぬるさは、責められても仕方がない。 逃亡に疲れ、死を恐れ生にしがみつく晩年の姿は哀れというほかなかった。 読了日:08月20日 著者: オリヴィエ・ゲーズ 狼の幸せの 感想前著『帰れない山』と『フォンターネ』を読んだ身には、優しさにうっとりと包まれる、あの心地よい感触を三度味わうことができたことが何よりも嬉しい。 流れに身を任せるように気負わず、あくまで自然体に過ごす主人公ファウストのフォンターナ・フレッダの四季が、心にしみ入る感触で迫ってくる。 山や自然の美しい描写を書かせたら右に出る者はいないと思えるくらいだ。 お互いの体をザイルで結ぶファウストとシルヴィアの氷河のコンティ二アス歩行は、頼りなくも細い命綱だが、そこには決して切れることがない二人の深い愛情と絆を読み取れた。 読了日:08月18日 著者: パオロ・コニェッティ 異貌の人びと ---日常に隠された被差別を巡るの 感想海外の被差別民や迫害の実態が、日本の路地を含めた下層社会にある独特な問題と比較できるとも思えないが、そこに共通するのは、どこの国においても差別されてきた人々が存在する(した)という事実だ。 スペインのカゴやヨーロッパのロマもしかり、カーストや人種、職業、信教による差別が表面的には撤廃したとされる国においても、差別する側の人々の意識から消さない限り、差別は根深く生き続ける。 ルポは2000年代のものなので少し古いが、実弾が飛び交うパレスチナやネパールの内戦を取材した突撃ルポは、生々しく、読み応えがあった。 読了日:08月16日 著者: 上原 善広 クスノキの番人 (実業之日本社文庫)の 感想ずっと敬遠してきた東野作品を『ナミヤ雑貨店』以来6年ぶりに手に取った。 テンポよくサクサクと読めるのは“東野節”ならではだが、ミステリではないのでやはり物足らない。 良くいえば、安定したストーリーテラー。悪くいえば、キレが無く野暮ったい。 内容は緊張感もなく、いたって平和的にストーリーが展開する。後半に入るとおおよその結末まで読めてしまうので、心の躍動も感じないし、盛り上がりに欠けたまま終わってしまう。 クスノキ内部の描写や到底考えられない会議乱入など不自然な部分もあり、もう少し丁寧に書いて欲しかったところだ。 読了日:08月14日 著者: 東野 圭吾 「ウルトラQ」の誕生の 感想1966年に放送された『ウルトラQ』を当時小学生だった私はリアルタイムで見た。 記念すべき第一話『ゴメスを倒せ!』の視聴率はなんと32.2%。 白黒だったが、オープニングテーマ曲や石坂浩二のナレーションも斬新で、怪獣をテレビで毎週見ることができるという嬉しさで心が躍った。 本書は番組の企画段階から制作秘話を織り交ぜて、マニアックすぎるほどの熱意で取材している。 幼稚園児だった著者はいまだに映像が焼き付いているというから、当時の少年たちを熱狂させたのもうなずける。 ガラモンやカネゴン、M1号…昭和の世界が愛おしい。 読了日:08月12日 著者: 白石 雅彦 山と渓に遊んでの 感想沢登りを通じて交流があった著者の作品。 秋田での幼少期から山を始めた青年期、浦和浪漫山岳会の結成、フリーとなった現在の活動について綴っている。 登山家には非凡な文章力をもった人が多いが、著者は現役の山岳ライターの中でもトップクラスだ。 抒情感溢れる文章も良いが、1997年にACC-J茨城の故・本図一統氏と挑んだ黒部川剱沢大滝の登攀は今読んでも手に汗握る。 本図氏とはクライミングをご一緒し酒を飲んだことを思い出す。 多くの名クライマーが鬼籍に入ってしまったが、高桑氏は唯一無二の沢屋のレジェントとして頑張って欲しい。 読了日:08月12日 著者: 高桑 信一 うかれ女島 (新潮文庫)の 感想モデルのW島がうかれ女島と呼ばれていたのか興味本位で調べてみたが、そんな記述も見当たらないので、どうやら創作のようだ。 だとしたらこれは本書を読む上でも的を得たネーミングだと思う。 東電OL事件を絡ませたり、ミステリ仕立ての盛り沢山の要素を突っ込み過ぎて、最後は無理にまとめた感もある。 娼婦の母を憎んでいた息子が亡き母の思いを知った場面で終わっても良かったのでは。 極論のようだが「男に復讐したいなら、娼婦になればいい。屈服させ、支配し、勝利するんだ」この言葉に、性の解放と女性差別への憤りが込められていると思えた。 読了日:08月08日 著者: 花房 観音 ナチスと映画―ヒトラーとナチスはどう描かれてきたか (中公新書)の 感想ナチスやヒトラーをモチーフにした映画が現在でも量産されているのは何故なのか、ずっと疑問に思っていた。 捉えどころがない虚像と実像を悪の象徴としてばかりでなく、チャップリンの『独裁者』ではその蛮行を茶化すことで批判しているのが面白い。 様々な解釈と角度から描くことができるのは、人々を惹きつける魅力的なモチーフだからこそだろう。 映画をプロパガンダの手段として使ったナチスが、戦後はプロパガンダの道具として、多くの映画に描かれたのは皮肉なめぐり合わせである。 ヒトラーの一挙手一投足もプロパガンダの産物だったのだろうか。 読了日:08月07日 著者: 飯田 道子 完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件の 感想豊田正義著『消された一家』を読んでいたので、この事件の概要は知っていたが、綿密な周辺取材のもと、圧倒的なスケールで書かれた内容に改めて戦慄を覚えた。 著者は『人殺しの論理』でも触れているが、主犯・松永との面会やその後の手紙のやり取りにおいても、蛇に睨まれた蛙のような精神的なストレスと恐怖心を抱いている。 緒方が殺人に手を染めたのは、サイコパス松永の支配によるものだけとは思わないが、松永さえいなかったらこの事件はなかったはずだ。 今だに松永の死刑は執行されておらず、遺族の心情と被害者の不憫を思うと胸が痛む。 読了日:08月06日 著者: 小野 一光 復讐者たち〔新版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の 感想2021年公開の同名映画はユダヤ旅団やナカムによる報復活動を中心に描かれたが、原作を読むとこれはエピソードのほんの一部でしかない。 ユダヤ人はナチの不条理に対して決して羊のようにおとなしく殺されたわけでなく、戦時中の早い段階から抵抗活動があったが、事実があまり前面に出てこなかったのは、強固なナチスのイメージを創るためのプロパガンダによるものだと分かった。 ナチ戦犯のアイヒマンの拉致やボルマン、メンゲレの逃亡とそれを追うイスラエル諜報員の追跡はさながらスパイ小説のようにリアルだが、反ユダヤ団体のみならず、いまだに戦犯を援助し続けるナチの地下組織が存在していることには驚く。 これがネオナチや極右勢力と結びついていくのもファシズムの怖さと感じる。 非合法を含めた復讐者たちの行為を“目には目を”のごとく正義として受け止めることができるのか、感情のおもむくまま同感したいが、すっきりとは正当化できない自分である。 読了日:08月04日 著者: マイケル・バー゠ゾウハー ある行旅死亡人の物語の 感想一人旅が好きで登山や歩き旅を楽しんでいるが、たえず気にしているのが万が一のこと。 遭難や旅先で行き倒れ、身元を証明できなければ無縁仏になるという、そんなリスクだ。 単身世帯が大多数を占め孤独死も増えている今、隣人が誰かも分からないという無縁社会では、本書の内容は決して特殊な事例ではない。 家族との関係を断ってひっそりと暮らす人もいるだろう。 死亡した女性が残した小さな手がかりをたぐり、ようやく身元判明に辿り着いても、謎は残りすっきりとしない。 これ以上の詮索はしないで欲しいと、まるで故人が拒んでいるような気がした。 読了日:08月03日 著者: 武田 惇志,伊藤 亜衣読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
8月に入っても猛暑が続いています。 プランターで育てているゴーヤも第一弾を収穫することができました。 20センチほどの小ぶりですが、バナナと牛乳を混ぜジュースにして、濃厚な苦みを味わっています。 7月は暑さに辟易して、日中は外に出ることもなくひたすら籠っていました。 その分好きな読書に集中できたのは良かったかも。 28冊も読めたのは、ここ何十年かのハイスコアです。 収穫はたくさんあった。 『野原』『マスコット』『亜鉛の少年たち』『コード・ガールズ』は今年のベストになると思います。  ※収穫したゴーヤ 7月の読書メーター読んだ本の数:28 読んだページ数:8083 ナイス数:1505 ぼくは猟師になった (新潮文庫)の 感想シカやイノシシなどの大型動物の猟の現場に立ち会ったことがないので、罠の設置から捕獲、解体までを臨場感溢れる筆致で記した内容に衝撃を受けた。 少しでも嫌悪感を持ったらおそらく読めなくなるが、自然の恵みに感謝し、無駄なく食べるという著者のスタンスには好感が持てた。 自給自足の生活を今の世に実践することは難しいが、私たちが山菜採りや釣り、潮干狩に心が躍るのも古来から受け継がれてきた狩猟民族としての証しではないだろうか。 小さな肉の一片に生きていた姿を思うことも時には必要である。そんな当たり前のこと教えてくれたと思う。 読了日:07月31日 著者: 千松 信也 青春の影 ジョヴァンニーノ(角川文庫)の 感想シチリアを舞台にしたパッティの三部作『さらば恋の日』『しのび逢い』『シチリアの恋人たち』を読んだのはもう50年近く前。 青春期のやるせなさとさわやかなエロティズムを丁寧に描いた秀作だった。 それ以来イタリア近代文学の書き手としてずっと気になっていたが、今年になって手に入れたのが本書。まさに恋焦がれた人に出会ったような僥倖だった。 1954年に発表され、日本語訳は1978年発行なのですでに古典の部類に入るが、今読んでもそれほど古さを感じない。 著者自身を投影したジョヴァンニーノの少年期から壮年期の姿に、誰もが経験する青春の美しさと苦渋する老いの変貌を織り交ぜ、人生を映す走馬灯のように淡々と描いていく。 ジョヴァンニーノの人生は波乱万丈ではなく、むしろ平凡である。 その背景あるシチリア島カターニャのまばゆく照らす陽光が私にも重なり、人生もまんざら悪くないよと、日々老いていくもどかしさと不安を少しだけ和らげてくれたように思えた。 読了日:07月30日 著者: エルコレ・パッティ アウシュヴィッツで君を想う (ハヤカワ文庫NF NF 599)の 感想『アンネの日記』に先立つ前年に刊行された本書は、オランダ系ユダヤ人である著者が収容所での日々を克明に記したものだ。 あらゆる国籍、人種、犯罪者や政治犯が収容されているなかで、ユダヤ人が最下層の序列に位置づけられていることが分かる。 医師と看護師の夫婦であるハンス(エディ)とフリーデルが解放後まで生きながらえたのは、運以上に、生き抜くことへの執着と二人の強い絆があったと思いたい。 人体実験が公然と行われた陰にはヨーゼフ・メンゲレの存在を示唆し、収容所での生活や、死の行進から解放前後の混乱が描かれたのも興味深い。 読了日:07月29日 著者: エディ・デ・ウィンド 書評稼業四十年の 感想3つのペンネームを使い分けた文章に慣れ親しんできただけに、鬼籍に入ってしまったのは残念。 今更だが本書で北上=キタガミだと知った。てっきりキタカミだと思っていたので、これではファンとして失格である。 著者は生業で食えた数少ない書評家の一人だが、それは読書量と知識の深さ、卓越した文章力があってのこと。 最後の章で、未読の本が並ぶ書棚の前に座って、何を読もうと選ぶだけで終わる至福を書いている。これこそ読書家冥利に尽きるだろう。 煽り書評と知りつつも信頼し、多くの本と出会え、私もまた至福の時間をもてたことに感謝したい。 読了日:07月28日 著者: 北上 次郎 コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たちの 感想「鉛筆を動かす女たちが日本の船を沈没させる」と比喩された、暗号解読により戦争を終結に導く原動力になった女性たちの存在が浮かび上がった。 輸送路を断たれたことで日本兵が餓死し、捨て身の神風特攻隊に繋がっていく過程には戦慄を覚える。 一方で、洒落た制服で仕事や食事を楽しむ女性たちと、もんぺ姿の日本女性とのギャップに国力の差を感じてしまう。 暗号解読施設が重要視され、終戦後の米ソ冷戦時代から現代への諜報活動に受け継がれたのは米国の先見の明として、少なからず女性の雇用拡大と能力発掘、地位向上に貢献したことも見逃せない。 読了日:07月27日 著者: ライザ・マンディ 春の数えかた (新潮文庫)の 感想少年の頃からもち続けていた疑問が一瞬にして氷解した、そんな気分にさせてくれた一冊。 これを読まなかったらそれこそ墓場までもっていくところだった。 例えば、なぜ虫は光に集まるのかという習性に対して、著者は「虫たちは暗い林床から林の外へ早く出るために夜空からやってくるほのかな光に向かう」と答える。 ゴキブリや蝶の行動についてもしかり。エサを探して、あるいはメスを求めて体が動いていると説く。 科学的な根拠を並べて、平坦でいて詩的な文章で教えてくれるのだ。 セミの項では、今が盛りの蝉しぐれに、幼き日の情景が瞼に浮かんだ。 読了日:07月25日 著者: 日高 敏隆 娘巡礼記 (岩波文庫)の 感想才気溢れる瑞々しい文章に唸った。 真っ直ぐに物を見る目と、その裏側を射抜くような感性は持って生まれた力だろうか。 寂れた遍路宿の垢が浮いた風呂におののき、汚い柄杓で盛った飯に手を付けることもできぬお嬢様であり、“情け美わしく濃まやかにしかも高らかなる気品ある夫人こそ私の理想であり情景である”と書く。 世間から疎まれ、忌み嫌われた遍路に飛び込んだ初々しい24才の女性が、その体験を通して、後に女性解放の旗手として活躍していく片鱗を十分に感じ取ることができた。 それにしても当時の遍路事情は凄まじい。修業と称する托鉢や物乞いを生活の糧とする人や病人、犯罪者、国を追われた人々が渦巻き、そこには純粋なお大師信仰が存在しているのかと疑いたくもなる。 カタチは違うが、今の時代はスタンプラリーのようにレジャー感覚で遍路を楽しむ人は多いし、少なからず職業遍路もいるので、そのあり方も人それぞれで、ガチガチの巡礼がすべてではない。 しかし、野宿を重ね、苦しい峠を越え、しかも逆打ちという厳しさのなかで結願を果たした著者の精神力は何と言っても素晴らしい。 同行のご老人がいたことは幸運であるが、当時の遍路の厳しさは現代では想像もつかない。 私もこの春40日間の歩き遍路を体験しただけに、無心で歩いた四国の情景がまぶたに浮かび、頬を撫でたうららかな風までを感じるようだった。 読了日:07月24日 著者: 高群 逸枝 亜鉛の少年たち: アフガン帰還兵の証言 増補版の 感想ソ連軍の戦死者1万5千、アフガニスタンは民間人合わせて150万の死者と難民は400万人を数えた。 ソ連軍が撤退した後に残された武器を手に、更に泥沼化が続いたアフガン紛争はいまだに収束の兆しはない。 亜鉛の棺で帰還した少年たちの魂はこの現実を知る由もないだろう。 日本製のラジカセに憧れ、戦況も知らぬまま送り込まれた兵士たちは、国家の統率者たちの犯罪的な歯車にされたことさえも気づいていない。 これは今のウクライナ戦争とダブってくる。ソ連、ロシアは何度同じことを繰り返すのだろうか。 本書で戦争の悲惨さと愚かさを突きつけた著者に対しての裁判にも、裏で蠢く国家権力の悪意がある。 本人や家族たちの生々しい証言を読み進むほどマヒしてしまい、戦争=殺人という現実が重みを失くし、まるで日常生活の一コマに見えてくるのが恐ろしかった。 読了日:07月23日 著者: スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 二畳で豊かに住む (集英社新書)の 感想「狭いながらも楽しい我が家」これは死語だろうか。 単身世帯が爆発的に増えている今は、「狭い」と「楽しい」が切り離されたように思える。 かつての、貧乏だけど家族が寄り添うように暮らしていた生活は、楽しさ=豊かさがあったと思う。 私も昭和30年代から40年代にかけて、家族5人の狭い団地暮らしでそれを経験したからよく分かる。 内田百聞や高村光太郎は、狭さのなかに積極的に豊かさを求めて楽しんでいるから、これは恵まれた人の粋な酔狂にも見て取れなくもない。 しかし、貧富格差が住環境を決めかねない今はどうだろうか。たとえ二畳でもホームレスよりマシと思う人もいるだろう。 本書で紹介されたお遍路が利用したという四国の茶屋は壁もない東屋。今でいう遍路小屋である 。雨風が入るあけっぴろげな造りは、乞食遍路や不審者を締め出すための防犯対策である。 これを住居として同列に論じるのはどうかと思うが、正岡子規の六畳間にしかり、表題の二畳にこだわっているわけでもなさそうなので、物足りなさを大いに感じてしまった。 読了日:07月22日 著者: 西 和夫 土偶を読むを読むの 感想私が『土偶を読む』を痛快と感じたのは、オニグルミや栗に似ているという論証よりも保守的、権威的な学会・専門家批判(あるいは否定)にあった。 竹倉氏が在野の研究者だからこそ自由な発想で書き出版できたと思うが、位置づけは所詮一般書でしかない。 本書は縄文マニアである著者が自説を正当化するために専門家の応援団をはべらせて、鼻息荒く竹倉説を潰している。 一般人どうし好きなだけやってくれたら外野は面白いが、では土偶の正体は何なのか?研究が進んでいるというなら、専門家はそろそろ成果を出してもいいのでは。 まったく、じれったい。 読了日:07月21日 著者: 望月 昭秀,小久保拓也,山田 康弘,佐々木 由香,山科 哲,白鳥兄弟,松井 実,金子 昭彦,吉田 泰幸,菅 豊 ネオナチの少女 (単行本)の 感想ヒトラー政権下から続く正統派ナチと、戦後のナチス主義の復活を目指すネオナチの違いについてある程度の予備知識がないと本書の背景が分かり難いかもしれない。 ナチを信奉する父はホロコーストの存在を否定し、娘をヒトラーユーゲントに仕立てようとする時代に取り残されたような愛国者だが、平凡な生活を夢見つつも、そこから逃れてより過激なネオナチの活動に入ってしまう著者は不憫である。 何も知らない少女を誘導してしまうことこそ狂信的な思想の恐ろしさだろう。 脱退の辛苦は筆舌しがたいが、本書は右傾化が進む世に一石を投じたと思う。 読了日:07月20日 著者: ハイディ ベネケンシュタイン 秘宝館という文化装置の 感想昭和の終わり頃、テーマソングまで覚えてしまうほど、CMにしつこく流れていた伊勢の元祖国際秘宝館。 今更後悔してもしかたないが、ずっと気になっていながら訪ねなかった。おそらく恥ずかしさが躊躇させたんだろう。 1980年代に一世を風靡した秘宝館も今ではそのほとんどが閉館となったが、果たした役割は決して小さくない。 温泉地とセットの団体旅行の目玉になり、大人がこっそりと楽しめるアミューズメントパークでもあった。 それゆえ経済効果も大きかったはず。 単なるエロ文化の発信基地というだけでなく、昭和の娯楽を担った文化遺産といってもいいのに、その位置づけが低いのは、タテマエとしてタブー視された性がウリだったからと察しがつく。 掲載された秘宝館の画像を見ると、昭和レトロな看板のフォントや精巧な蝋人形、大掛かりな仕掛けに過ぎ去った時代を見ることができる。これが離散し消えていくのは残念でならない。 文化装置と称え、学術的な見地から真面目に論じた著者の努力を買いたい。 読了日:07月19日 著者: 妙木 忍 アントンが飛ばした鳩:ホロコーストをめぐる30の物語の 感想プーリモ・レーヴィの励ましもあってこの作品が世に出たという。 少年期から晩年までを綴る珠玉の短編は一話完結のブツ切りではなく、自らのホロコーストを巡る体験が直接的に、あるいはさりげなく織り込まれており、計算された文章の流れと巧さに舌を巻く。 ナチスが拡散したファシズムの潮流に飲み込まれた人々はユダヤ人ばかりではない。 SS兵士やドイツ人、ポーランド人、ロシア人…であり、誰もが生き抜くために自分の立ち位置を必死に守ろうとしていただけである。 ホロコーストの加害者、被害者という分け方はあまりにも短絡的であると感じた。 読了日:07月19日 著者: バーナード・ゴットフリード あの図書館の彼女たちの 感想ナチスの足音が近づくパリと、ロッキー山脈を仰ぐアメリカモンタナ州。50年の時を結ぶ、ひたむきに生きた女性の物語を堪能した。 ナチスによるフランス侵攻から始まる怒涛の展開は、史実に基づいた手抜きがない描写に納得。 自由を尊重するパリ人には到底受け入れられない、生真面目体質のドイツらしい門限や、不当逮捕や密告がはびこる狂気。 パリ解放後にドイツ兵との不貞を理由に狩りだされた丸刈りにされる女性や、罪もないのに暴行を受けるボッシュの子が悲惨。 これまで数多の関連本でこのあたりの描写を読んできたが、鬱屈した憤懣が爆発し、それが集団による残虐行為に変わる過程は人間不信に陥るくらいの生々しさだ。 オディールやマーガレットもまたナチスの狂気に人生を翻弄された被害者であるが、自分の居場所を探す力強さのなかに、もろくも揺れる心を絶妙に描いている。 そしてこの作品の肝でもある、本の力を信じ、図書館を開け続けることと、本を読む人全員に本を届けることがナチスへの抵抗の形だと、職業意識を越えた信念をもって活動する司書たちの姿が心を打った。 読了日:07月16日 著者: ジャネット・スケスリン・チャールズ マスコット―ナチス突撃兵になったユダヤ少年の物語の 感想著者没後の2011年に出版された作品だが、ホロコースト関連を読み漁っている身としても、これはかなりの衝撃作だった。 ナチスドイツや旧ソ連に翻弄されたラトビアや、いまだにロシアの属国のようなベラルーシが舞台だけに興味が尽きない。 戦時中の東欧のユダヤ人が置かれた状況やナチスの勢力図を知る上でも貴重な記録である。 運命のいたずらといってもいいだろうか、ナチスSSの兵士となったユダヤ人の少年が部隊のマスコットにされた裏には、やがて降りかかってくる戦争犯罪の追跡から逃れるための謀略が見て取れる。 無垢な子どもを証言台として使うという卑劣な手段に憤りを感じるが、これもナチスならではのプロパガンダであろう。 出自を隠して軍服を着ることにこだわったのは、殺される恐怖よりも少年らしい嬉しさが勝っているようにも思える。 5才の少年が自分の名前も思い出せないというのもいただけないが、肉親が殺される殺戮の現場を見たショックからと考えれば、それもありだろうか。 アレックスが肌身離さず持っているトランクの中身や、生家を意図的に隠した異母兄弟のエリックの態度など疑問が残る点はさておく。 旧ナチスの残党やそれを追っかけるユダヤ人組織の妨害に遭いながらも、わずかに覚えていた「コイダノフ」「パノク」の単語を追っかけて次々と事実が判明していく後半の怒涛の展開は、良質のミステリを読んでいるようで手に汗握った。 アレックスの奥底にくすぶり続けて消えることがない、ナチスに加担したかもしれないという心の闇は、ホロコーストの悲劇といってもいい。 記憶の糸を紡ぎながら家族の歴史を掘り起こしていく壮大な旅が心に響いたこの作品は、今年一番の収穫となった。 読了日:07月13日 著者: マーク カーゼム 地質学者ナウマン伝 フォッサマグナに挑んだお雇い外国人 (朝日選書)の 感想ナウマンゾウとフォッサマグナの発見者というイメージしかなかったナウマンだが、わずか10年間の来日期間で成し遂げたその超人的な業績に改めて驚いた。 来日してすぐにフォッサマグナと中央構造線の存在を提唱した見識は天才肌にも見えるが、根底には基礎となるフィールドワークあってのこと。 日本列島の地質図は現在の物と比較しても遜色はなく、調査過程で岩手県三陸(ジュラ紀)、岐阜県赤坂(ペルム紀)、高知県領石(デボン紀)、岐阜県瑞浪(第三紀中新世)などの現在でも有名な化石産地に巡検し、更に示準化石の発見により三畳紀の存在を示唆している。 化石好きにはたまらない記述だが、ナウマンの最大の業績は何といっても我が国の地質学の礎を築いたことによるだろう。 学問以外の場で、プライベートの不幸な事件や東京大学門下生との確執、森鴎外とのボタンの掛け違いのような論争が独り歩きし、その功績が歴史からかき消された背景には、どこかに悪意的な意図を感じる。 教科書を含めた学校教育の場でも広く紹介し、正当な評価をされるべき人物ではないだろうか。本書出版の意義は大きい。 読了日:07月11日 著者: 矢島道子 帰れない山 (新潮クレスト・ブックス)の 感想『フォンターネ山小屋の生活』を先に読んだので、順番が逆だったか?と気になったが、読み進むにつれそんなことはどうでもよくなった。 森を歩き、尾根を攀じ、氷河を登る自らの姿を思い描くほど、心が躍動する至福の時間を味わえたことが嬉しい。 山好きにとっては、物語の背景にたえず山があることはこれ以上ないほどの喜びであり、その世界にどっぷりと浸かることができれば言うことはない。 バキバキの山岳小説でなくとも、山の厳しさや優しさを伝えることはできる。 登場人物たちの人生模様もまた、あたかも山に包まれて同化したように輝いていた。 読了日:07月11日 著者: パオロ コニェッティ ミッテランの帽子 (新潮クレスト・ブックス)の 感想洗練された美味そうな料理やワインをなけなしの知識で思い描き、濃密な空気が肌にまとわりつくお洒落なパリの街角に、まるで自分が立っているような、そんな錯覚を味わいながら読んだ。 ミッテランの帽子を手にした人の幸運を不思議な力のエピソードと言ってしまえば、子供だましのドタバタコメディで終わってしまうが、この作品の面白さはそれで終わらない奥行きの深さにある。 ミッテランが生きた当時の社会情勢や風俗、芸術の息遣いがふんだんに描かれ、キーワードとなった帽子が見事に動き出す。最後の数ページの痛快なオチには思わず拍手した。 読了日:07月09日 著者: アントワーヌ ローラン 痴者の食卓の 感想著者の死後、未読本を読み漁っていたが、私小説についてはこの作品をして完読となった。 中でも秋恵モノは作品群の中でも中核となるくらい筆を割いているが、貫多の粘着質の性格そのままに手を変え品を変え、最後には決まって暴力と反省の顛末に沈むという悪どいくらいのワンパターン。 更に“にわか読み手”が離れていくことは計算づくで、嫌悪感を撒き散らすこのスタイルに辟易になることを見通して「だったら、読むなよ」と著者は天からあざ笑う。 そんな中でも光ったのが『夢魔去りぬ』。離散した家族の話を書くとの決意に、ぜひ読んでみたかった。 読了日:07月08日 著者: 西村 賢太 (やまいだれ)の歌の 感想横浜に流れてきた19歳の北町貫多を読む。 バイト先で出会う同い年の女性への片思いや飲めぬ酒での失敗など、共感できる部分を探して私自身の遠い日の体験と重ね合わせたりもするが、やはりそこはどこにでもある爽やかな青春グラフィティで収まるはずもなく、期待を裏切らないアクの強さを存分に発揮してくれた。 「流れていくうちにはいつか摑まる枝もあろうし、浮かぶ瀬だってある」浮世草のような汲み取り便所のその日暮しに、ほんの少し先の薄明りさえ見えぬ閉塞感。 肩先をそっと掠めた師・藤沢清造との出会いが、一筋の光明になるのはまだ先だ。 読了日:07月08日 著者: 西村 賢太 歪んだ忌日の 感想著作完読のコンプリートを目指しているが、調べてみるとまだ未読の作品がいくつかあり、手始めにこれを読み始めた。だが、短編を3つ目まで読んで、再読だったことに気づいた。 本作が出た2013年前後は読書記録も中途半端にしか残しておらず、それが災いしたようだ。 しかし、二度目に違わずそれぞれの短編がリズミカルにテンポよく、鋭利な刃物のように突き刺さってくる。 秋恵と過ごす日常を描いた『青痣』や、その後の顛末『膣の復讐』では、時には狂暴に、一転して弱味をさらけ出す。 その有無も言わせない破壊力に改めて唸った。 読了日:07月07日 著者: 西村 賢太 アウシュヴィッツの小さな姉妹の 感想アウシュヴィッツに移送された21万6千人の子どものうち、解放時の生存者は451人。 そのうちのイタリア系ユダヤ人の姉妹が本書の著者である。 収容所での体験を6才と4才の2人がどこまで記憶しているのだろうかという一点に関心をもって読み進めたが、当時の状況を等身大にリアルに書いていることに驚いた。 中でも、ピラミッドと呼んだ死体の山の周りで遊んだという記述は、子ども目線ならではの驚愕の記憶である。 解放から50年目にして、姉妹はアウシュヴィッツの真実を人前で語り始めるが、印象に残ったのは、ホロコーストはドイツ人だけの責任ではなく、当時のヨーロッパ諸国にも責任があったということ。 その根底にあるファシズムや、根強く残る人種差別や偏見について非難していることである。全体主義や右傾化が勢いを増している世界情勢の中で、ホロコーストの生存者は残り少なくなっている。 悲劇の歴史を風化させないように記録し、グローバル視点で国を越えて次世代に継承していくことも、今を生きる者の責任のように思う。 読了日:07月06日 著者: タチアナ&アンドラ・ブッチ 失踪願望。 コロナふらふら格闘編の 感想このところ著者の新刊から離れていたので、最近の動向を知るうえで読んで良かった。コロナに罹ったことも知らず、ずいぶんご無沙汰してしまった。これでは長年のシーナファンとして失格だ。 前半の日記では、西村賢太について、尊敬する作家であり、日記の天才であったとその死を悼んでいる。やはり見る人は見ている。 そして後半のコロナ感染記は凄まじいの一言。本当に助かって良かったと思う。 カバー写真の姿は随分とやつれたように見えるが、ワッセ、ワッセとビールを飲み、カツ丼をガシガシ食っていた彼も78才だ。まだまだ頑張って欲しい。 読了日:07月05日 著者: 椎名 誠 奇食珍食 糞便録 (集英社新書)の 感想過去に読んだことがあるエピソードが多くあったが、こうして一冊にまとまると、改めてシーナワールド全開の勢いを感じた。 世界のトイレ事情のなかでも、とりわけ天安門事件以前の、1980年代初めの中国のオールオープントイレの話はそのまま臭ってきそうでぶっ飛ぶが、まさしく同じ頃に、中国で同じ体験をした私としても、著者に対して“腐れ縁”ならぬ“臭い縁”を見出して、妙な親近感が湧いた。 後半のゲテモノ食いの話もおぞましい。これも中国で、美味い、美味いと言いながらお代わりまでして知らずに食べた蛇のスープが懐かしい。 読了日:07月05日 著者: 椎名 誠 ある娼婦の秘密の生涯の 感想ナチス占領下のパリからドイツ、そして解放後のパリへ。その間、娼婦として戦火をくぐり生き抜いた女性の手記。 「一かけらのパンのために体を売った」と語っているが、一方でポジティブな性格がそう感じさせるのか、切羽詰まった悲壮感はあまりない。 むしろ、金を巻き上げるしたたかさや、自身の快楽を求めることが先行し、趣味と仕事が一体になっている生々しさがある。 寡婦や失業者への苦肉の策か、売春は合法だったようで、娼婦には登録済証明書が発行され、当時の混乱の歴史が垣間見える。 作者としてボーヴォワールの名も挙がったという。 読了日:07月05日 著者: マリー・テレーズ 別れの色彩 (新潮クレスト・ブックス)の 感想別れの予感を散りばめた九編の物語は、どれをとっても切なさが長く尾を引く。 気に入った映画の印象に残った一コマを、何度も繰り返し観たくなるような余韻が残るのだ。 『朗読者』で魅せた、少年と母親のような年上女性との恋に、そんな設定はありえない…と思っていたのが、ここでは71才老人と33才の女性や、義理の父親と娘といったアンバランスな関係がそれほどの違和感もなく物語を紡いでいく。 「過去を折り紙の船のように運河に浮かべて流してしまえるのではないか」こんな美しい文章に出会えただけでも、読んだ価値があったと思う。 読了日:07月04日 著者: ベルンハルト・シュリンク 本を読むひと (新潮クレスト・ブックス)の 感想改行が少なく読みづらいが、小説といえども知らない世界の話だけに興味深くページを進めることができた。 現代のフランスのジプシーは、自由移動権を持ち、社会保障、教育も少しづつ充実してきているようだ。 定職があり定住する人々も多いが、本書に出てくる、キャンピングカーで移動を繰り返す、大家族の放浪民もいる。私がもっていたジプシー像はまさにこのタイプ。 確かに、偏見と差別にさらされる極貧の暮らしは悲惨であるが、そこには中心的な存在である老婆アンジェリーヌと、強い絆で結ばれた家族たちの存在がある。 人としての尊厳を重んじ、「尊敬する人は、人からも尊敬される」というジプシーの言い伝えは心に響く。 図書館員エステールの読み聞かせにより、どんどん変わっていく子供たちの姿に、「本というものは、寝るところやナイフとフォークと同じくらい生活に必要不可欠」という彼女の考えに、いたく感動せずにはいられない。 アンジェリーヌとエステールがナナチスの迫害にあった犠牲者の系譜で、二人の信頼関係を強くする要素となったことも見逃せない。 読了日:07月03日 著者: アリス フェルネ 野原(新潮クレスト・ブックス)の 感想墓地に眠る29人の死者たちの語らいやつぶやきは、一見バラバラのようでそうではない。 それぞれが個性をもちながらも緩やかにかろうじてつながっていくパズルの一片だ。 緻密にできた立体パズルが組み上がると、オーストリアのどこかにある町パウルシュタットの全貌が見えてくる。 ケルナー広場やレクレーションセンター、焼けた教会、商店や酒場が軒を並べるマルクト通り。 死者たちはかつてそこに住まう人々であり、ほんの一瞬でも吐息のような輝きを放っていた。 計算された構成力と息遣いまでが聞こえてくる描写力は、見事というほかない。 読了日:07月01日 著者: ローベルト・ゼーターラー読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
本棚のこやしになっている、いわゆる“積読”が500冊を越えた。 これはどう考えてもやばい状況。 なかには20年以上もページを開かれることなく、焼け(ヤケ)て、紙魚(シミ)て、風化するまま静かに時を刻んでいる本もある。 積読が増える原因は、 ・いつかは読むつもりで、購入 ・もう手に入らないかもしれないで、購入 ・特定のジャンル、著者の本だから集めたいで、購入 ・図書館にないからで、購入 そして、一番の原因が、 読むことが追っつかない!!これだけ積読本があるのに、私は足繁く図書館に通い、本を借りまくっているのだ。 借りた本を読むことに追われて、手元にある積読を崩せないのがその理由である。 私が利用している市の図書館はけっこうな蔵書量を誇るが、検索しても在庫がない本も多い。 そんな時は、司書が近隣自治体の図書館の在庫を確認し、取り寄せてくれる。 ありがたいサービスには違いないが、わずか3万人しかいない隣市の図書館に在庫があるのに、なぜ人口10数万人の私が在住する市の図書館に置いていないのか。 これははなはだいただけない。 最近取り寄せてもらった『あの図書館の彼女たち』(ジャネット・スケスリン・チャールズ 2022年4月刊)、『帰れない山』(パオロ・コニュッティ 2018年10月刊)は、海外文学好きならよく知られた人気の作品。 映画化もされた『帰れない山』にいたっては、新潮クレストブックスのなかでも一番人気の30万部のベストセラー作品なのだ。 本屋にも並ぶ新刊や話題の本がなぜ置いていないのか司書に問うと、明確な答えは返ってこない。 図書館はどんな基準で本を購入するのだろうか。 もちろん限られた予算あってのことだろうが、選書の購入基準が司書の判断によるものだけなら、市民はもっと口出ししてもいいかもしれない。 「この本を置いてください」といえば、希望を聞いてくれるようだが、どこまで対応してくれるかは分からない。 私としては、少なくとも人口数万の隣市にある本なら置いてもらいたいし、あって当たり前だと思いたい。 …ということで、つい昨日も、隣市にあるという最近話題になっている『土偶を読むを読む』(望月昭秀他 2023年4月刊)を予約し、ずっと読みたかったホロコースト関連の作品で『マスコット~ナチス突撃兵になったユダヤ人少年の物語』(マーク・カーゼム 2011年刊)を近隣の図書館から取り寄せてもらった。 『土偶を読むを読む』は、数年前に考古学界を揺るがすほどのベストセラーになった『土偶を読む』(竹倉史人著)の反論本であるが、『土偶を読む』は半年ほど待って私が利用する図書館で借りて読んだ。 これはある意味“リンク本”なので、そのつながりで読みたいと思う利用者は多いのではないだろうか。 私が「『土偶を読むを読む』はここ(図書館)にはないから」と何度も言っているのに、司書の方がムキになって「ありますよ、コレ」といって、PCの検索画面を見せてくれたのが『土偶を読む』。 これには、空いた口がふさがらなかった。 書評でも多く取り上げられて話題になっている本くらいは、本の専門家ならアンテナを張ってインプットして欲しい。 すべてのジャンルに精通しろとまではいわないが、少しくらい勉強してもいいのでは。 といっても、私が司書と思っている人たちの多くは、資格も必要としないパートやアルバイトの人たちなんだろうなぁ。 不満を並べても仕方がないが、金をケチる図書館利用の身としては、近隣の図書館も含めて、ひとつの大きな図書館があると考えればいいかもしれない。 希望する本を手にするまでは時間もかかるが、気長に待つとしよう。 もっとも、それが嫌なら買えばいいが。 それもあって、私の本棚には本が溢れかえり、積読も高くそびえるということになっているのだろうね(笑)。 さて、最後にひとつ。 積読本をどうしたら無くせるのか。 これは、しごく簡単な答え。 本を買わない、図書館に行かない、ひたすら読むもう一つ付け加えるなら、 エイ、ヤーと本を処分する。…これに尽きると思います(笑)。  ※近隣の図書館から取り寄せてもらった本 メインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
今日から7月。 あっという間に半年が過ぎましたね。 こうして、どんどん齢を重ねていくんでしょうか。 6月は24冊の本を読みました。 おそらく、ここ数年での最高記録だと思います。 読んだページ数は6232ページ、一日平均208ページとなりました。 私は遅読で、しかも一字一句をすべて読み込むスタイルなんで、性分的に飛ばし読みや冒頭のみ読んで終わり、ということができません。 どんなにつまらなくても辛抱強く最後まで読んでしまうという、どちらかというと困ったタイプです。 だから後で後悔するんですね。 こんなの読まなきゃよかったって(笑)。 本の読み方の指南書は数多ありますが、多読を推奨する本には、決まって「本はすべて読む必要はない」なんて書いてあります。 冒頭と気に入った箇所のみを拾い読みすれば内容が掴めるということです。 ビジネス書や学術書、あるいはガイドブック、how to本、図鑑や写真集、画集ならこれで良いかもしれませんが、小説やノンフィクションといったエンタメ系は、こんな読み方はしたくありません。 コミックもそうかな。 なんだか、著者が精魂込めて記したものに対して失礼な気がするんですよね。 やはり根が真面目なんでしょうかね。この考え方は。 私が参加している読書アプリの【読書メーター】には、いろんな読書家がいますが、毎月180冊とか200冊を目標に読んでいる人が何人もいます。 一日に5冊、10冊とアプリに本の感想をアップしてくるのです。 それこそマンガや雑誌まで、活字なら何でもありです。 推測するに、読み方は『飛ばし読み』か、『チラッと見』だと思いますが、別にこれをけなすつもりもありません。 読書のスタイルは人それぞれですから。 しかし、私が5日かけて読了した同じ本の感想をアップされると、つい興味津々で読んでしまいますが、思った通り、まったく中身が薄く、的外れなことに気づきます。 本当に読んでいるんかいな…と疑わずにはいられません。 本に対して失礼じゃないかと…。 そして、実に勿体ない。 じゃあ、そんな感想を読まなきゃいいんですが、これも活字中毒の性です。 同じ本を読んだ人の感想が気になって仕方ないんですね。 …ということで、つまらないことをダラダラと書きましたが、先月の読書のまとめです。 収穫はジョン・ウイリアムズ著『ストーナー』。 平凡な大学教員の一生を淡々と綴った内容ですが、これが見事に心の琴線に触れてくる。 それは何故だろうかと…ずっと考えながら読んでましたが、本を閉じたときにその答えがちよっとだけ見えた気がしました。 興味がおありの方は、ぜひ手に取ってみてください。  ※本文とは関係ありません 6月の読書メーター読んだ本の数:24 読んだページ数:6232 ナイス数:1050 蝙蝠か燕かの 感想「賢光院清心貫道居士」昨年急逝した著者の戒名である。 師と仰ぐ藤沢清造の「清」と、慕い続けた「清らかな心」、そして分身である北町貫多の「貫」。 能登の西光寺で師の隣に眠る著者は、きっと今頃は私小説を肴にあの世で酒を酌み交わしているだろう。 本書に収録された表題作は死の直前の『文学界』2021年11月号に掲載されたもの。 死を予感していたのだろうか。54才になった貫多(著者)は、師の全集刊行が思うようにいかない焦りのなかで、自分に残された時間のすべてをぶつけることを何度も書き綴っている。 しかし、志半ばで人生のすべてをかけた仕事が完遂できなかった悔しさを思うと心が痛む。 私と北町貫多とのつき合いは、彼が中学を出て鶯谷の三畳間に転がり込んでから始まった。 人生これからというのに、54才ではあまりに早いじゃないか。 もっともっと長く一緒に歩きたかったが、今となってはそれも叶わぬ夢。 短い年月だったが、活字を通して楽しませてくれた彼に次の言葉を手向けたい。 「作者死しても名著は遺る」合掌。 読了日:06月30日 著者: 西村 賢太 本売る日々の 感想柔らかく包み込むように、そして流れるようなテンポが心地よい。 情景が目に浮かぶ無駄をそぎ落とした巧い文章にも感心するが、山本周五郎作品を彷彿とさせる市井に生きる人々の人情噺となれば、つまらないわけがない。 著者の狙いの術中にはまって、それだけで頁をめくるスピードも上がるというわけだ。 和書を扱う江戸時代の本屋という設定も珍しい切り口だが、『初めての開板』にいたっては、次々に出てくる医学書の見識の深さに舌を巻いた。 知らない世界を覗くことは読書の無常の楽しみ。この作品を書くための著者の努力が目に浮かんだ。 読了日:06月29日 著者: 青山 文平 ストーナーの 感想今のところの今年のベスト。頑固で不器用、真面目で世渡り下手…まるで高倉健のような主人公ストーナーの、その人なりにぐんぐん惹かれた。 学究の徒そのものの平凡な男の一生を淡々と語っていくだけなのに、なぜそこまで魅力を感じるのか。 おそらく我が身が辿ってきたサラリーマン人生をそこに重ね合わせ、自分に足りなかったものをストーナーの生き方に見出そうとしたからだろう。 悪妻を憎まず、深い愛情で家族を支え続ける中での不倫は、自らの殻を突き破った冒険だった。 小さなロマンスともいえるドラマチックな展開が彩を添えたように思う。 読了日:06月29日 著者: ジョン・ウィリアムズ ソーネチカ (新潮クレスト・ブックス)の 感想決してうまくいくはずもない、主人公ソーネチカとその夫ロベルト、そして同居人の女性ヤーシャとの三角関係が、何事もなかったかのように、まるでうららかな春の季節のごとく平穏に過ぎていく。 その昔の一夫多妻、妻公認の妾制でもないのに、これに不自然さを感じさせないのは何故か。 芸術家としての夫をどこまでも支える妻として目をつぶったのか、それとも夫と一心同体の見地からか。 人に寛容すぎることは無垢とは違うが、きれいな心のままで生きることは難しい。 生きていく悦びのみが支配するソーネチカの一生こそ「静謐」の言葉が似合っている。 読了日:06月28日 著者: リュドミラ ウリツカヤ われら闇より天を見るの 感想2021年英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガー受賞、2023年本屋大賞翻訳小説部門1位。 30年前の不幸な出来事に端を発して、次々に事件が起こるサスペンスであるが、それだけで終わらない骨太で壮大な家族小説に仕上がっている。 全編にわたって緊張と不安定な心理状態が続くストーリーに、根底にある姉弟愛、肉親の絆、幼馴染の友情といった普遍的なテーマが、一服の清涼剤のごとく見事に調和し生かされている。 海外ミステリーに添付される登場人物表とは別に、家系図がなんで付いてるのだろうかと最初は気に留めなかったが、頁が進むにつれこれを何度も見にいった。 これもプロットの一つだと気づいた。 久しぶりに重量感がある作品世界に酔いしれることができた作品だった。 読了日:06月27日 著者: クリス ウィタカー お遍路ガールズ (ハルキ文庫)の 感想タイトルとカバーイラストを見て、その軽さに引いてしまったが、荒削りの部分を除いても思った以上に面白く、良い意味で裏切ってくれた。 実際にお遍路を体験して書かれただけに、遍路道の情景や札所の描写は実にリアルである。 この春に40日間の歩き遍路を結願した身としては、苦しく楽しかった長い道のりを反芻しながら読むことができた。 「お大師様に出会えますように」と、道中多くの人たちからかけられた言葉が、本書のキーワードになっている『かりそめの御霊』とどこかダブってしまい、新たな発見をした思いだ。 映画化を望みたい。 読了日:06月25日 著者: 又井健太 ある秘密 (新潮クレスト・ブックス)の 感想淡々とした抑揚のない文体がまるで我慢比べのように続く前半だが、一転して後半はジェットコースターのごとく驚愕の事実が次々に明らかになっていく。 自然体の情景の美しさに合わせて、それぞれの役割をもった登場人物が生き生きと動き出す。 美しくも不思議な文章の虜になっていくのを感じた。 ホロコーストの悪夢は戦後何十年経っても、生き残った人々に対して深い傷跡を残している。 収容所での過酷な実態やユダヤ人虐待といった直接的な描写がなくても、その恐ろしさと罪の深さを伝えきった作品の構成力と、次世代に問うメッセージ力に感服した。 読了日:06月23日 著者: フィリップ グランベール 今日、ホームレスになった 平成大不況編の 感想平成大不況篇と銘打った本書が出版された2010年の全国のホームレスの数は13000人。2021年の調査では4000人となっている。 数の上では大幅に減少しているが、これはあくまで特定の拠点に定住している数であって、毎日のようにねぐらを替えて流動する人の数まで捉えていない。 駅や公園から追い出され、ビルの隙間でさえ寝ることができなくなった人々はどこにいるのだろうか。 この本でヒントとなりえたのが、深夜営業の店であったり、ネットカフェである。 統計にも表れない不可視化したホームレスへの介入と支援が、令和の課題である。 読了日:06月22日 著者: 増田 明利 461個の弁当は、親父と息子の男の約束。の 感想淡々と流れていく弁当づくりの毎日に、父と息子のほのぼのとした関係と強い絆が見え隠れする。 それが弁当の写真を通して見えてくるから面白い。 定番の玉子焼きと肉巻き以外の毎日違うおかずやごはんの配置、弁当箱や調理器具にもこだわった日々の変化が、料理が巧くなりたいという気持ち以上に息子への愛情のメッセージとして迫ってくる。 物言わぬ写真が持つ力を改めて感じた。 対極をなす(?)ttkk著『今日も嫌がらせ弁当』と読み比べてしまうが、母と娘より、父と息子のほうがさっぱりして、妙な思惑を感じることなく読後感も爽やかだった。 読了日:06月22日 著者: 渡辺 俊美 蒼き山嶺の 感想舞台は残雪期の北アルプス白馬岳。過去に登ったことがある主稜や日本海に抜ける栂海新道の位置関係を思い出しながら読んだ。 山岳小説にとって、山の情景や技術をリアルに連想させる描写力が必要なのは言うまでもない。 笹本稜平亡き後、著者がこの分野に挑み続けてくれれば嬉しい。 本作のポイントにもなっている、怪我人を背負って山を登下降する苦労は並ではない。 私も冬の槍ヶ岳で、自分より体重がある火傷を負った仲間を背負って下りた経験があり、もう45年も昔のことを思い出した。 カバー写真が旧知の山岳写真家だったことも嬉しかった。 読了日:06月21日 著者: 馳星周 あの女(オンナ) (文庫ダ・ヴィンチ)の 感想工藤美代子著『なぜノンフィクションはお化けが見えるのか』に収録された対談を読んで手に取った。 著者にまとわりついて離れない因縁の女を、シリーズ化して面白おかしく書いているようにも見えるが、冷静に見ると、これはとんでもなく怖い話だ。 生身の人間でこれほど邪悪でおぞましい力をもった人がいることに驚くが、女の素性や生い立ちが分からないだけになおさら怖い。 この女にも親や家族がいるのだろう。死霊の怪談話よりもはるか上をいく生霊の話は、鈍感な自分にも背筋が凍る一級品。 生きている限り絶対に遭遇したくない世界だ。 読了日:06月19日 著者: 岩井志麻子 無人島に生きる十六人 (新潮文庫)の 感想なんとも痛快な漂流記。 全編に漂うほのぼのとした雰囲気が、悲壮感をまったく寄せつけていない。 そこには、救助されるまで何年でも皆で楽しく待つという強い意志が首尾一貫溢れているからだろう。 中川船長のリーダーシップがメンバー全員に浸透し、一丸となって困難に立ち向かい、次々にクリアしていく様子は、英国人シャクルトン船長が率いたエンデュアランス号漂流の物語を彷彿とさせる。 しかし、これは二番煎じではない。 龍睡丸の遭難は1899年(明治32)年。エンデュアランス号の遭難(1914年)よりもずっと以前の出来事であった。 読了日:06月19日 著者: 須川 邦彦 被差別のグルメ (新潮新書)の 感想アブラカス、サイボシ、アイヌ料理や沖縄のイラブー、ソテツ味噌といった路地や少数民族の間で受け継がれてきたソウルフードは、一般家庭では食卓に上ることもなく、一線を画しているのは間違いない。 そんな中で焼肉やホルモン焼が料理の一大カテゴリーとして隆盛を極めている背景には、在日や路地の人々による歴史的な努力があったことが伺える。 料理は味だけでなく、精神性が歴史と場所から生じるという著者の見識は的を得ている。 郷土食にしかり、おふくろの味も同様かもしれない。 ホルモン=放るもんではないことが分かったことも収穫である。 読了日:06月15日 著者: 上原 善広 寝ころび読書の旅に出た (ちくま文庫)の 感想積読本が500冊を超えたので、しばらくはそれを崩すことにした。 この作品は7年間も本棚の肥やしになっていた。 『恐るべき空白』や『大西洋漂流76日間』など、著者の岩波新書の活字シリーズ4冊で紹介されている本と被るところはたくさんあるが、それだけ思い入れが強いのだろう。 冒険記や漂流記といった、極限状態に置かれたリスクが高い旅に関する特定のジャンルについては、なんといってもその見識は半端ではない。 もちろん、ビビッとくる本についてはマーキングして注文体制に。 いかん、いかん、また積読が増えてしまう(笑)。 読了日:06月15日 著者: 椎名 誠 テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る (光文社新書)の 感想寅さんの口上、神社の縁日、飴売り、なわばりや姐さんといった隠語、広島県で見つけた神農湯のホーロー看板、屋台のラーメン、闇市…。 これまでなにげなく接してきたバラバラだった言葉のピースが一枚の絵となり、あたかもパズルが完成したようなすっきりとした気分だ。 学んだこともたくさんあった。 露天商と露店商の使い分け、親分子分の関係がテキヤ社会では現役で機能していること、男性のみしかテキヤになれない掟、極道と神農道の違い等々。 陽の当るところからちょっと引っ込んでいるポジションだからこそ、人々には気になる存在なんだと思う。 読了日:06月14日 著者: 厚 香苗 アウシュヴィッツ生還者からあなたへ: 14歳,私は生きる道を選んだ (岩波ブックレット NO. 1054)の 感想わずか63頁の小冊子だが、その内容は衝撃的だ。 ホロコーストの語り部として活動してきた90歳を迎えたアウシュヴィッツの生還者が、最後のメッセージとして今を生きる若者に託す話である。 そこにはあらゆる差別を憎み、「無関心は暴力そのもの以上に暴力的だ」と訴える。 罪を憎んで人を憎まず。ドイツが降伏し、死の行進から解放されたとき、冷酷なドイツ兵に鉄槌を下すチャンスがあっても、それを許す。 彼女が人間としての尊厳と未来を選んだからだ。 差別と復讐心が蔓延する世の中にこそ、戦争に発展する火種があることを改めて認識した。 読了日:06月13日 著者: リリアナ・セグレ エヴァ・ブラウンの日記―ヒトラーとの8年の記録 (学研M文庫)の 感想ヒトラーの私生活と女性関係は謎に包まれているが、最期を共にしたエヴァ・ブラウンだからこその視点で綴られた、貴重な証言であるといえる。 しかしこれを読んでも、ヒトラーの偏執的な潔癖さと病的なガードの固さが誇張されるだけで、独裁者としての狂気や人間性には迫れていない。 単なるひねくれたワガママなオヤジにしか映らない。 ともあれ、直筆ではなくタイプ打ち、家族や側近ではなく数回しか面識のない友人に託され、戦争が終わった頃合いを見てからの出版。 肝心な1945年の欠落。エヴァの出産の謎…。 日記の真偽は闇の中である。 読了日:06月13日 著者: アラン・F. バートレット なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか (中公文庫)の 感想著者のノンフィクションを興味深く読んできたが、こうしたジャンルの作品もあったことにまずは驚いた。 まったく霊感の無い私にはどれも突拍子もない話に思えたが、霊と接触した不可思議なストーリーをこれだけ並べられると、もう信じるしかない。 本人が気にしていなくとも、引き寄せてしまうという特異な体質(?)は、常人との違いか。 著者のノンフィクション作品に潜む深い洞察力や切れ味は、その体質と関連がありそうな気もする。 後半の岩井志麻子との熟女対談も面白かった。 読了日:06月11日 著者: 工藤 美代子 四国八十八ヵ所歩きへんろ 平成娘巡礼記 (文春新書)の 感想40日間の歩き遍路から帰ってまだ10日しか経っていないが、その時の感動を反芻したくて、お遍路の本を読み漁っている。 本書は大正時代に奇しくも同じ24歳で歩き遍路にチャレンジした高群逸枝さんの『娘巡礼記』の平成版ともいうべき位置づけを意識しているようにも見えるが、そこは現代の女性。マンガ喫茶に立ち寄ったり、スナックやジャンクフードも大好き。 しかし特異なのは、越後瞽女の伝統を引き継ぐ三味線奏者としての強い信念。 かつて存在した四国遍路と瞽女の関りと通じ合いたいがために、札所ばかりでなく道中の先々で演奏しながら旅を続けることで、その細い糸を確かなものにしていく。 最初は気負いがあった演奏も自然体で滑らかなものになり、最後の結願の寺で、自分を縛っていた「こだわり」が解けたことを自覚する。 お遍路の感動は歩く過程にあり、今まで知らなかった自分に出会えたことだという。 同じ1200㎞を歩いた自分に、それが共感できたことが少しばかし嬉しく思った。 本書を読んでから、YouTubeで著者の遍路組曲を聴いてみたが、素晴らしい音色と歌声に圧倒された。 読了日:06月10日 著者: 月岡 祐紀子 「ジプシー収容所」の記憶: ロマ民族とホロコーストの 感想ホロコーストの犠牲となったロマについて書かれた本は数少なく、ナチスが行った戦争犯罪を知る上では貴重な一冊。 内容は収容所から生還した女性の証言と、彼女との二度にわたる聞き取り調査。 後半は国内外を問わずホロコーストの事実(ガス室の有無等)を否定・歪曲する勢力に対して論点を詰めた検証を行っている。 インドを起源とする国をもたない流浪の民ロマは、ジプシーのくくりとして一言でまとめるものではなく、そこには本書の証言者のような音楽や舞踊を生業としてきた定着民であるスィンティもいる。 日本人のロマに対する認識の乏しさと差別的な偏見がなぜ生まれたのかを知るには、まずもってロマ族についての正しい知識を持つことから始まる必要性を感じた。 世界でもロマを受け入れていない稀な国である日本では、グローバルにその置かれた現状を知ることは難しいが、難民問題も然り、根底にある知識不足からくる差別や偏見を失くす努力をしなければ、先進国の中でリーダーシップはとれないと思う。 ホロコーストの犠牲者はユダヤ人ばかりでなく、ロマには50万人をくだらない犠牲者がおり、戦後補償でさえうやむやにされている。 これは戦時下の日本の慰安婦や強制労働問題にも通じるものがあるのではないだろうか。 そうした事実を知りえただけでも、本書を手に取れて良かったと思う。 読了日:06月09日 著者: 慈雨の 感想タイトルの『慈雨』の意味を辞書で引くと、「万物を潤し育てる雨」とある。 著者は物語の中で、結願の札所となる八十八番大窪寺に降る雨を「優しく降り注ぐ、慈しみの雨」と書いた。 私もつい一週間前に、先がすり減った金剛杖を突き、ようやく辿り着いた同じ場所で同じ雨を経験した。 あれは、結願の雨は、慈雨だったのかもしれない。 四国遍路を歩くという、あえて苦しく辛い道を選んだことには、おそらく誰もが何らかの理由をもっている。 最初はそれがぼんやりしたものだとしても、札所を回っていく過程で、より一層はっきりしたものになってくる。 これはお遍路が持つ不思議な力だろうか。 旅立ちから結願へと時間軸が進む中で、緊迫する事件模様、夫婦愛、家族愛はもとより、主人公・神場の揺れる人間心理が見事に捉えられていく。 その構成力と巧さに舌を巻いた。 読了日:06月08日 著者: 柚月 裕子 渓の旅、いまむかし 山懐に漂い半世紀の 感想私が社会人山岳会で登山に明け暮れていた2000年代初め、沢登りを通じて交流があった著者の新刊。 奥利根、南会津、川内、下田山塊といった登山では不遇だが、沢登りでは魅力のある山域の遡行記録を軸に、著者が立ち上げた浦和浪漫山岳会時代の思い出や仲間たちとの交流を語っている。 すでに古希を超えたが、現役で山行をこなすバイタリティと沢への思い、それを包含する歴史や民俗、風土への飽くなき探求心はいささかも衰えていない。 今更であるが、山旅の情景を紡ぐように表現する味のある文章は、山岳ライターとして稀有な存在だと思う。 読了日:06月07日 著者: 高桑 信一 ママチャリお遍路1200km―サラリーマン転覆隊の 感想私事だが、先週、40日間かけて歩いたお遍路を無事に結願した。 旅が終わったらその余韻を味わうために、数多あるお遍路本を読もうと思い、最初に手に取ったのがこの作品。 ママチャリでお遍路に挑戦するという発想もユニークだが、気の合った仲間たちが同じ目的で挑むというチームワークが、何とも爽快である。 道中のドタバタ劇も面白いが、要点を抑えた札所での印象が同じ道を辿った自分として、記憶を思い起こさせてくれて嬉しくなった。 もちろん、88番大窪寺での結願シーンは感動的。 涙でぐしゃぐしゃにした女性遍路が境内を歩いていくシーンをさりげなく挟む、構成力も光っている。 カヌーを主体にしたサラリーマン転覆隊シリーズとしては異色の作品と言えるが、著書が最後に書いている「チャレンジすれば、必ず結願する。僕はそのことをお遍路で教わった」は、胸にぐさりと突き刺さった。 私のお遍路もまったく同じだったからだろう。 読了日:06月06日 著者: 本田 亮 銀河鉄道の父の 感想まずもって、父・政次郎の賢治に対する深い愛情に感心した。 賢治ばかりでなく、他の子供たちに対しても分け隔てなく愛情を注ぐ。 長男の賢治を好きな道に進ませるために、家業を継がなくても良いという政次郎の苦肉の判断は、明治期の家長制度の因習を壊すという、革新的な努力の上に成り立っている。 何よりも柔軟性と先見性の持ち主だからこそと思える。 宮沢賢治は政次郎の愛情の分身であり、作品でもあった。私たちの心を揺さぶる賢治の作品もしかり。 そこには賢治を通して政次郎の愛情がたっぷりと注ぎ込まれていることを忘れてはならないだろう。 ※後日、役所広司主演の同名映画を観た。原作に忠実で見ごたえがあった。 読了日:06月05日 著者: 門井 慶喜読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
一昨日、四国遍路から帰宅し、文字通りぐた~となっています。 老体にムチ打って歩いた区切り打ち3回目のお遍路、無事に結願を果たすことができました。 というわけで、5月は17日からのお遍路の旅出発もあって、読書はそれまでに読んだ5冊にとどまりました。 今月はしばらくのんびりと本を読んでみたいと思っていますので、本棚にある積読崩しをしていきたいですね。 5月の読書メーター読んだ本の数:5 読んだページ数:1735 ナイス数:286 男は遍路に立ち向かえ―歩き遍路四十二日間の挑戦の 感想わたくし事だが、今週から四国歩き遍路に出発する。今年3月から始めた区切り打ちの3回目で、今回は愛媛県の44番大宝寺からのスタートとなる。 2週間後の結願を目指す予定だが、この本を読んで最後まで読まなきゃよかったと後悔している。 前回中断した43番までのくだりで止めて、帰還してから最後までを読むべきだったと。 それほど、88番大窪寺で結願を果たす著者の描写が感動的なのだ。 果たして自分も、同じような感動を味わうことができるのだろうか。その瞬間はいかがなものか。 元新聞記者だけあって文章も簡潔で読みやすい。息子ほど年が離れた若者たちや、「お接待」の文化を絶やさない一期一会の四国の人々との交流は、遍路ならではの素晴らしさである。 本作は数ある歩き遍路のルポとしても秀逸なでき栄えだと思う。 帰還したら自分が体験したことを反芻しながら、たくさんのお遍路本を手に取ってみたくなった。 読了日:05月15日 著者: 森 哲志 ザ・ナイン ナチスと闘った9人の女たちの 感想戦争犯罪を隠ぺいするナチスが取ったやぶれかぶれの策ともいえる死の行進と、そこからの逃亡劇を詳細に記録しているドキュメンタリー。 驚きなのは主人公の9人が、ナチスに対抗したヨーロッパ各国のレジスタンスの女性だということ。 ホロコーストについては、被収容者のユダヤ人側、加害者のナチス側からの手記や証言は数多あるが、この設定は貴重ではないだろうか。 解放後のパリでドイツ兵に加担したとして丸刈りにされた女性たちや、その子供たちの「ボッシュの子」についても触れており、これまで読んできた関係書が一本の線に繋がったと思う。 読了日:05月12日 著者: グウェン・ストラウス 日本の同時代小説 (岩波新書)の 感想1960~2010年代までのそれぞれの時代背景をもとに、大海原に大量に散っている文学作品群を、系統分類化し整理した深い洞察力に驚く。 圧倒的な分量を読み込んだとも思えるが、一方で私小説を周回遅れのタワケ自慢、貧乏自慢と執拗にこき下ろすことに、ある種の悪意も感じた。 タワケとは、今は死語となった名古屋弁。この方言を使うことが、すでに周回遅れ、時代遅れである。 ともあれ、誰もが分かっていないノンフィクションと小説の違いや純文学とエンタメの違い、その中間の位置づけを、私見なれど分かりやすく解説した努力も買いたい。 索引に作家名のみ羅列されているが、できれば取り上げた作品名があれば、ブックガイドとしてもより利用価値が上がると思う。 ただし、本書に登場した作品の感想はあくまで著者の主観。それを頭から信じるのも読者次第か。 読了日:05月06日 著者: 斎藤 美奈子 限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地の 感想ややもすると、今自分が住んでいる郊外の分譲団地が将来限界ニュータウン化するのではないかという、一抹の不安をもって読んだ。 本書では千葉県東北部を中心に、地価狂乱のバブル期に投資目的により乱開発された限界分譲地の現状とこれからの展望についてルポしている。 おそらく全国にはこうした事例は溢れかえっており、少なからずベッドタウンといわれる郊外の大規模団地にもその片鱗がある。 住民の高齢化と児童数の減少はもとより、空き家の増加、交通インフラの低下はどこでも抱えている問題だ。 全国的な視点で捉えてもらうと更に良かった。 読了日:05月04日 著者: 吉川 祐介 雨滴は続くの 感想遺作となった長編を慈しむように読んだ。 デビュー以来ずっと読み続けてきたファンとして、〈未完〉の二文字が哀しい。 作品をもう読むことができない寂しさは、私にとって、池波正太郎の『鬼平犯科帳24誘拐』の〈著者死去により絶筆〉以来。 自身を投影した北町貫多の性格破綻ぶりは、齢40にしても炸裂。師と仰ぐ藤澤清造への一途な思いとのギャップは首尾一貫しブレていない。 これまでの既作の中に藤澤清造を織り込んできた意味が本作で痛いほど伝わったと思う。 芥川賞が見えてきた物語の続きが読みたかったが、それも叶わぬ。罪な作家である。 読了日:05月04日 著者: 西村 賢太読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
明日から四国お遍路を再開します。 今年3月から始めた区切り打ちの3回目で、今回は愛媛県の内子から歩き、久万高原にある44番大宝寺からのスタートとなります。 体調に問題なければ、2週間後の結願を目指す予定です。 さて、このところ夢中になって読んでいた遍路本。 森哲志著『男は遍路に立ち向かえ』(長崎出版2009年)ですが、正直言って、最後まで読まなきゃよかったと後悔しています。 前回中断した43番明石寺までのくだりで止めて、帰還してから最後までを読むべきだったと。 それほど、88番大窪寺で結願を果たす著者の描写が感動的でした。 果たして自分も、同じような感動を味わうことができるのだろうか。その瞬間はいかがなものか。 楽しみは、最後まで取っておくべきでした。 著者は元新聞記者だけあって文章も簡潔で読みやすいです。 息子ほど年が離れた若者たちや、「お接待」の文化を絶やさない一期一会の四国の人々との交流は、遍路ならではの素晴らしさが溢れています。 これまでの数少ない経験で私にも同様なことがありました。 歩きお遍路を志してから、この手の本をいくつか読みましたが、本作は数ある歩き遍路のルポとしても秀逸なでき栄えだと思います。 帰還したら自分が体験したことを反芻しながら、たくさんのお遍路本を手に取ってみたくなりました。  メインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
最近になって、訃報が相次ぎ、人の死が身近なものになったと思えるこの頃です。 ショックだったのは、元会社の同僚。 同じ年なので、尚更です。 退職してから同僚たちと会うこともなく、疎遠をいいことにひたすら隠遁生活を続けている私なので、人の生き死にも分かりません。 訃報を知らせてくれる人もなく、ずいぶん経ってから風の便りに、元上司や同僚が亡くなったことを聞いています。 退職してからほんの3年でこれですから、これから5年、10年と経てば、サラリーマン時代のことなどもう忘却の彼方でしょうね。 といいながらも、ひょんなことから今年は会社のOB会地方支部の幹事を任されてしまい、重い腰を上げることになってしまいました。 もっとも、会社との関係を断ち斬りたいなら、退職時にOB会に入らなければよかったんですが、どこかに人恋しさがあったんでしょうか。 連休明けには打ち合わせがあり、名簿整理や懇親会の準備などで、おのずと会員の動向も分かることになるかもしれません。 幹事などできればやりたくないし、なるべくなら接点を持ちたくないと思っていましたが、まぁ、仕方がありません。 さて、2週間ほどお遍路に出ていた4月の読書は5冊で終わりました。 収穫は昆虫図鑑。 『学研の図鑑LIVE新版昆虫』を購入。 小学生から大人まで楽しむことができる図鑑ですが、少年の頃、夢中になって頁をめくったあの感動を味わっています。 不思議なもので、60才を過ぎても森の中でカブトムシやクワガタを採っている夢を見るくらいなので、虫を追っかけていた少年時代の思い出は、心の奥底や脳裏にずっと刷り込まれているのではないかと思っています。 4月の読書メーター読んだ本の数:5 読んだページ数:1373 ナイス数:212 [カラー版] 昆虫学者、奇跡の図鑑を作る (幻冬舎新書)の 感想「3才から大人までが楽しめる」「一切妥協がない図鑑を作る」生体を白バックでという明確なコンセプトをもって始まった図鑑づくりの日々を、それこそ心がときめくような文章で綴ってくれた。 これを読めば、出来上がった図鑑を買わないわけにはいかない。『学研の図鑑 LIVE新版昆虫』は、おっしゃるとおり素晴らしい出来栄え。 昆虫図鑑を毎日眺めて、いつの日にか採集してみたいと胸をときめかせた少年時代のセピア色の思い出が瞬時によみがえった。 これを作り上げた、著者を始めとした昆虫に魅せられた人たちの努力に賞賛の拍手を送りたい。 読了日:04月30日 著者: 丸山 宗利 昆虫 新版 (学研の図鑑LIVE(ライブ))の 感想丸山宗利著『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』つながりで購入し、毎日のように眺めている。何よりも生体を白バックで撮影するというコンセプトが素晴らしい。 なるほど、今にも動き出しそうな虫たちの姿にくぎづけになる。昆虫図鑑のほとんどが標本を撮影し並べているのに対して、確かにこんな図鑑はなかったと思う。 収録された2800種は普通種ばかりでなく新種も取り上げられており、日本には実に多様な昆虫が存在していることに驚く。 かつて、昆虫少年だった私にとって、これは夢のような図鑑。小学生から研究者まで楽しむことができる大作である。 読了日:04月30日 著者: 随筆集 一私小説書きの独語 (単行本)の 感想あとがきで書いている通り、ゴッタ煮鍋風の随筆集。著者の違った側面も見ることができるので、ファンとしては嬉しい内容だ。 芥川賞受賞後の全国を飛び回るスケジュールをこなす忙しさには驚き。人気作家になるとこうなんだ、と改めて驚いた。 映画版の「苦役列車」を思う存分批判しつつも、原作者として温かい目で見ている部分もあり、意外な優しい一面も感じた。 傾倒する藤澤清三はともかくとして、少年時代からの横溝正史への偏愛ぶりは筋金入り。 なかでも金田一シリーズの映画解説は簡潔な文章で読みごたえがあった。 読了日:04月07日 著者: 西村 賢太 ヒトラーの毒見役 (マグノリアブックス)の 感想やや冗長で読みづらくも感じたが、辛抱強く読了した。 全体を通して抑揚に欠けるが、淡々と流れる映画を観るようで、シリアスな内容に反して、同時に心地よさも味わうことができた。 ヒトラーの毒見役という稀有な体験を通して、ナチスに加担したという罪意識を持ち続け、死の間際に生き証人として事実を公表したモデルの女性の勇気は賞賛に値する。 ホロコーストの被害者ばかりがクローズアップされるなかで、ヒトラー独裁政権に翻弄されたドイツ人女性もいたという事実。 彼女もまたナチスの被害者といっても良いと思う。 読了日:04月06日 著者: ロッセラ・ポストリノ,Rosella Postorino 極限メシ!: あの人が生き抜くために食べたもの (ポプラ新書)の 感想6人の体験が取り上げられているが、極限の中で食べたものに対してクローズアップされていないのは残念。 入手法や調理法、味など、もっと深く踏み込んだ内容にして欲しかった。 特に角幡唯介や服部文祥といったサバイバル実践者の食へのこだわりや体験は、せっかくの題材に対して突っ込みが不十分。 内容は6人の体験や生き方のルポが中心となっており、タイトルの極限メシとはズレている。対談で角田光代を取り上げたこともとってつけたよう。極限メシとはつながらない。 本書の意図がどこにあるのか、今一つ分からない中途半端な内容であった。 読了日:04月01日 著者: 西牟田 靖読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
ブログでの読書記録の更新をサボっていた。 2月は2冊、3月は4冊にとどまった。 私の読書は、それほど繊細でもないのに、リズムにのらなければ、すぐに習慣が途絶えてしまう。 読まなくても、生活にはなんら支障はない。 本無しでは生きていけないような、偏執狂的な根っからの読書家ではないゆえんだろう。 私が参加している【読書メーター】には、そんな読書家がわんさかいる。 この人はいったいどんな読み方をしているのだろうか? ほんとうに読んでいるのだろうか? だとしたら、とんでもない速読か。 …と疑いたくなるような、毎日、5冊も10冊も感想をアップしてくる人がいる。 一字一句活字を追う私のスタイルからは、ありえない所業。 難解な哲学書や怪奇書のみに固執している人や、料理や鉄道といった特定のカテゴリに特化した人など様々な読書家で賑わっている。 このサークルの中にいると、私などごく普通の本好きでしかないし、またこれを見て密かに「自分はまとも」だと、安心したりもする。 読書は、単なる娯楽ではなく、生活の一部として体内時計に組み込まれてこそ、習慣が成立する。 それゆえ今夜の献立に悩むように、読む作業にも意外に労力を使うのだ。 活字をただ目で追っているだけでは、内容はまったく頭に入ってこない。 忘れっぽい頭を整理し、備忘録の意味もあって、30年来に渡って簡単な感想を書いて読書記録をつけているのは、“考える”という普遍的な作業を読書を通して実行しているに過ぎない。 先月は14日間の四国遍路に出ていたとはいえ、どこかで生活リズムが狂っていたように思う。 帰宅してからも、足の怪我から細菌が入るという予期せぬ病に襲われ、その間はゴロゴロと臥せっているだけで、本を開くこともなく過ぎてしまった。 健康と規則正しい生活リズムがあってこそ、私の読書があるように思う。 今月からは、好きな本を好きなだけ読む、そんな生活を取り戻したいと思う。 3月の読書メーター読んだ本の数:4 読んだページ数:1373 ナイス数:179 羆嵐 (新潮文庫)の 感想木村盛武著『慟哭の谷』を先に読んでいてよかった。 ノンフィクションとして、北海道三毛別で起きた、史上最悪のヒグマ襲撃事件のあらましを綴った予備知識があったからこそ、小説となった本作を映像を見るような臨場感をもって読み進めることができたと思う。 著者は、人食い熊を仕留めた「サバサキの兄」こと山本兵吉氏を本書では銀四郎という熊打ち名人として描いているが、これがめっぽうカッコいい。 たった一人で熊と対決するその孤高の姿に、マタギの真の強さと逞しさを見た思いがする。 読了日:03月31日 著者: 吉村 昭 自転しながら公転するの 感想プロローグとエピローグを読み返した。素晴らしい構成力と上手さに唸る。 貫一、都のシーソーゲームのような恋の行方は、昭和のラブコメ『めぞん一刻』の五代と響子のすれ違いドラマを見ているよう。 オーソドックスなパターンのようにも思ったが、そこは屈折した人間模様を描くのが得意な著者の本領発揮か。 すっきりとはいかせずに、読者を主人公・都の胸中に巻き込む計算づくの構成、最後には拍手をさせてくれる手腕はさすが。 まったく、惜しい才能を失くしたと思う。 読了日:03月31日 著者: 山本 文緒 さあ、巡礼だ―転機としての四国八十八カ所の 感想この春、四国遍路に出発する前に半分読み、帰ってから残りを読んだ。 著者と同様に、野宿しながら歩き遍路を体験した身としては、歩いてお遍路をするという体力的な厳しさ、その日のねぐらの心配など雑念に振り回される日常が手に取るように理解できた。 八十八ヶ所を結願したあとの著者の思いは、これで終わりにしたくないという、金剛杖を奉納しない態度に表れているが、反面、終わってしまったことの虚さもあったようだ。 文章がくどく、冗長で、脱線する部分も多く感じたが、数少ない歩き遍路の体験記としては、充分読ませてくれた作品だった。 読了日:03月31日 著者: 加賀山 耕一 無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記の 感想死と向きう遺作となった作品だけに、清々しいほど素直な文章で書かれている。 闘病記とは、病気と闘い打ち勝つための力強さが溢れている日記だと思っているが、魂の灯りが少しづつ消えていく治る見込みがない日記には、どうしても暗さと閉塞感がつきまとう。 自らの死を受け止め、心の平穏を追い求めた著者の作家魂と夫婦愛に敬服。 読了日:03月23日 著者: 山本 文緒読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
寒い、寒いと嘆きながら、 何もせず、ゴロゴロと過ごした1月、読んだ本の数が20冊超え。 久しぶりに読書にどっぷりとはまることができました。 集中的に読んだ三五館シンシャの仕事シリーズは、市井に生きる人々のけなげな仕事ぶりを、哀愁をおひたタッチで淡々と描いており、目の付け所に感心。 この出版社は社長兼編集者が一人で立ち上げて出版しており、『交通誘導員ヨレヨレ日記』がベストセラーとなり、人気シリーズとなっている。 今月からは、本棚に眠っている大量の積読本を崩そうと思っています。 むこう3年分くらいは、本を買わなくても、図書館で借りなくても良いくらいの分量があります。 と言いながらも、気になる本があると、ついつい飛びついちゃいますがね。 1月の読書メーター読んだ本の数:21 読んだページ数:5155 ナイス数:932 中国・ロシアに侵される日本領土の 感想本書でルポされた尖閣諸島、北方四島、竹島、沖ノ鳥島の位置を正確に言える日本人はどれくらいいるだろうか? おそらくほんの一握りさえいないかもしれない。 著者は、平和に慣れ過ぎた日本人には「領土」と「国境」に対する意識が低いと指摘する。教育によって“ショー・ザ・フラッグ”が徹底された中国、ロシア、韓国は実効支配による領土の占領を正当化し、それを何もできないまま指をくわえて見ている我が国の現状がある。 防衛予算を増大したところで、占領された領土を取り戻し、守ることは平和ボケした弱腰外交では期待できそうもない。 そんな今だからこそ、脅かされている「領土」と「国境」への理解を深める意識改革の必要性を感じる。 かつて、鰹節加工で栄えた尖閣諸島は、今では上陸もできない無人島となっているが、毎日のように中国船舶の領海侵入が起こっているのは周知の事実。 今では報道もされていないし、このまま上陸されて中国国旗を掲げられてからではすでに遅しだ。 ロシアのウクライナ侵入を目の当たりに観ているからそこ、領土問題を正確に知り、後世に残さないように解決すべく努力が必要だと痛感した。 本書は、そんな当たり前のことを教えてくれたと思う。 読了日:01月29日 著者: 山本 皓一 サンカの真実 三角寛の虚構 (文春新書)の 感想普通社会とは全く異質の慣習、信仰、独特の文字と掟、隠語を使う秘密結社のような集団…三角寛が作り上げたサンカ像である。 三角の著作からサンカを知った私は、礫川全次氏や本作品の著者の本を読まなければ、そのまま信じていたはずだ。 活字の力はつくづく怖いと思う。 虚構に塗り固められた誤った事実を、百科事典に記載されるほど、後世にまで影響を与えた三角の罪(あえて、言う)は限りなく重い。 無籍、無宿、文盲の山の漂流民・サンカは、かつての我が国に間違いなく存在していたが、今ではその影を追うことすらできない。 名誉欲に駆られ、虚構の世界に棲んだ三角の生きざまは、同情の余地がないほど哀れである。 「神の手」と呼ばれた旧石器捏造のFにしかり、人間のもつ欲はあまりにも深い。 読了日:01月28日 著者: 筒井 功 老いも死も、初めてだから面白い (祥伝社新書)の 感想本日付の朝刊で、著名人との交流秘話を収録した『孤独という生き方』という本を上梓したことを知った。 86才になる著者は「老い」をテーマにした作品が目立つようになったが、仕事への意欲は益々旺盛である。死をもって“人生の締め切り”と比喩する表現も粋な言葉。 想い出話の新刊は、締め切りに向かう人生のラストステージなのだろうか。 本書も“老い”を美化するフレーズが多く、それが素直に共感できず、鼻につく。 「老い」とは、いやなものではなく、若い時にはない、味わい深いものなのだろうか? 私にはまだ、そこまでの境地に至られない。 読了日:01月27日 著者: 下重 暁子 アラフォーウーバーイーツ配達員ヘロヘロ日記の 感想柳の下のドジョウを狙ったか、出版社が違うとこうなるのか。 悲喜こもごもとした仕事ぶりを哀切を交えた人生模様として感動的に描く、三五シンシャのシリーズを読み慣れているので、装丁や編集、イラスト、どれもノリが軽くて薄っぺらい。 ウーバーイーツのシステムや配達での出来事などはフリーライターだけあって文章は読みやすく面白いが、片手間、副業、メタボ対策といった仕事を始めた動機も軽いだけに、生活への切迫感はない。 執筆のネタが目的なのだから仕方がないか。ウーバーイーツは大都市圏だからそこ成り立つ商売。改めて確認した。 読了日:01月27日 著者: 渡辺 雅史 タクシードライバーぐるぐる日記――朝7時から都内を周回中、営収5万円まで帰庫できませんの 感想大きな事故もなく15年勤め上げた仕事ぶりに、アッパレ!をあげたい。 かつて、横山やすしが“かごかき雲助”と卑下した、タクシードライバーのイメージはまだあるのだろうか?今は大卒の新卒者の入社も多くなっているというから、業界全体の努力もあってのことだろう。 本書を読むとタクシードライバーになるための試験やルール、なってからの仕事の厳しさが良く理解できた。常にお客様の目線に立った接客を心がけ、ストィックに日々の仕事をこなしてきた著者の真面目さが目に浮かんだ。 文章も読みやすく、知らない世界の話にぐいぐい引き込まれた。 読了日:01月26日 著者: 内田正治 出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記の 感想読み続けていた海外ミステリシリーズで、翻訳者が代わったときは、明らかに文章のトーンが変化したのを感じた。 しかし、慣れてしまうとそれも気にならなくなったので、私の中では位置づけは高くない。 翻訳者を見て本を買うこともないが、それでも素晴らしい訳に出会うと、その力量に素直に感心する。 それほどクオリティが高い職業だというのに、専任で食べていける人がわずかというのは、出版業界のブラックさによるのか。 翻訳の楽しさ、苦しさよりも、多くを割いている出版社との印税を巡るいざこざや、裁判沙汰の下りが、読むに堪えなかった。 読了日:01月23日 著者: 宮崎 伸治 恐竜まみれ :発掘現場は今日も命がけの 感想中学~大学時代、化石採集に夢中になり、全国のフィールドを駆け回った。 本書にも出てくる福井県でアンモナイトを探し、でかいハンマーを担いで北海道の沢を遡った。 いつの日にか恐竜化石に出会えることを夢見ていた。もう40年以上前の私の体験だ。 日本の恐竜研究の第一人者である著者の原点も福井のアンモナイトであったことを知り、得も言われぬ親近感を持って読むことができた。 ほんの数ミリの骨片がむかわ竜の全身骨格発見につながる記述など、ワクワク感が止まらないし、冒頭のアラスカでのグリズリーとの遭遇やゴビ砂漠での嵐、自然との闘いの中での発掘は上質な冒険譚を読むように酔いしれた。 研究者になるという少年の頃の夢を実現し、発掘現場で汗まみれになりながら地道な研究の積み重ねをいとわない、初志貫徹する姿に輝きをみることができた。 化石採集や発掘調査の未経験者でも心の躍動を覚えることができる一冊と思う。 読了日:01月22日 著者: 小林 快次 コールセンターもしもし日記の 感想「暴言、恫喝と、テンション上がりまくって狂暴になっていく相手に、この仕事がほとほと嫌になる」サラリーマン時代、お客様相談窓口をしていた同僚の言葉だ。 顔が見えない電話だからこそ、そうした因子を持った人は本性をむき出しにする。 言葉の暴力は、いつまでも心の奥底に刻み込まれ、決して忘れることがない。 本書で取り上げている出来事の多くが、コールセンターでのクレームやトラブルの応対。楽しい記述はみじんもない。 心の病気が再発しないのが不思議なくらいだ。派遣社員という境遇も辛いが、忍耐を強いる仕事環境に問題がありそうだ。 読了日:01月19日 著者: 吉川 徹 女流作家の 感想ブックオフの棚にずらりと並ぶ西村京太郎の作品。対して、山村美紗は一冊も見当たらない。 かつてミステリーの女王と呼ばれてもすでに忘れ去られた作家である。 花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた』を読まなかったら、おそらく手にすることもなかった二人の作品だ。 好奇心に駆られた野次馬根性でこうして手に取っている。 先に読んだ『華の棺』より遡ること5年前に書かれた本書の内容は似通っているが、全編を通して矢木=著者の、夏子=美紗への恋慕が未練がましく綴られている。 夏子をめぐる松木=松本清張への嫉妬も含めて、そこには好きな女に振り回される頼りなく、情けない男の滑稽さが見て取れる。 矢木のキャラをあえてこうしたのは計算づくだろうか。そうでなければ、思いっきりズレている。 「山村美紗さんに本書を捧げる」と記し、口絵に二人で旅した沖縄での32才の美紗の写真を載せ、それに合わせた文中での不倫描写。この、意味ありげな演出をする神経も、下衆の私にはお笑いにしかならない。 まだ書き足らなかったのか。『華の棺』で彼女への未練は昇華したのだろうか。 読了日:01月17日 著者: 西村 京太郎 交通誘導員ヨレヨレ日記――当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちますの 感想この仕事、自分にできるだろうか?…その都度、我が身に当てはめてシリーズを読んでいる。 結論から言って、どの仕事もできそうもない。 交通誘導員についていえば、3K職場という理由以上に、コミュニケーション能力や判断力の必要性、ひいては人の命を守るという重責には、とてもじゃないが自信がない。 リタイヤして2年、いまだに何もせずにのんびりと暮らす軟弱者には、言うに及ばずだろう。 昨年、中山道の歩き旅で、交通量が多い歩道もない片交の現場で先に進めず躊躇したことがあった。私より年配の誘導員が、対向車を止めて、100メートル先の工事終了区間まで誘導して一緒に歩いてくれた。まさに地獄に仏だった。 知らない世界の仕事の厳しさを、ありのままにその日常を記した著者の筆力にも感嘆したが、どこか険がある奥さんの言葉にもひるまず、聞き流してしまう熟年夫婦の危うい関係にもハラハラしてしまった。 読了日:01月16日 著者: 柏耕一 蟻地獄/枯野の宿 (新潮文庫 つ 16-5)の 感想1958年~66年までの初期作品は、貸本で少年たちに人気があった宇宙や時代劇モノが並ぶ。 絵のタッチも白戸三平や手塚治虫に似通っており、かなり影響を受けていたようだ。 しかし70年代になり一転してタッチは変わり、哀愁と寂寥感が漂うシュールな絵になっている。 この頃から自分のスタイルを確立したのだろうか。 旅館の女中との逢瀬を描いた73年に発表された『懐かしいひと』は、74年の『義男の青春』の続編にあたるが、面白いのは『懐かしいひと』のほうが先に出されていること。これも計算づくか。 だとしたら、やはり只者ではない。 読了日:01月15日 著者: つげ 義春 乙女の読書道の 感想本の雑誌の連載も読んでいたが、こうして一冊にまとまると、SF愛にかける偏読ぶりに改めて驚く。 キノコや人体デッサンの本も挟まれているので、この辺りは偏りを意識してか。 そして、父の作品をちゃっかりと紹介するのも忘れない。父親想いが垣間見れる。 紹介されている作品の中で読んだのは『女盗賊プーラン』のみ。ジャンルの傾向はまったく違えど、紙の本を愛する熱量は大いに共感した。 巻末の池澤夏樹との父娘対談がまた良い。同じく、娘を持つ身なので、本の話題で盛り上がる関係が実に羨ましく思う。 これこそ活字中毒冥利に尽きよう。 読了日:01月14日 著者: 池澤 春菜 華の棺の 感想花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた』を読み、好奇心に駆られて手に取った。 西村京太郎は初読みだが、昭和の残り香を感じる雰囲気はまだしも、緻密さを感じない粗削りの文章と句点だらけのぶつ切り文体に辟易。 著者の作風はこうなのかと、まずは思った。 夏子=山村美紗を取り巻く登場人物や作品名も察しがつき、これまでのイメージが変わってしまいそうで、良い気持ちはしない。 古代史論争を繰り広げた松本清張と高木彬光。清張の『日本の黒い霧』や『清張通史』、高木彬光『邪馬台国の秘密』。 かつて夢中で読んだことを思い出す。そして山村美紗の『小説長谷川一夫』。 歿後10年経ち、小説の名を借りてここまで晒したのは何故だろうか。それは同志としての使命感なのだろうか。 矢木の名を借りて屈折した心中を吐露するのは、未練がましい愛情表現とも感じる。 何より、美紗の夫である巍氏の存在を離婚の一言で消してしまったことが、鼻持ちならない。 古代史論争の部分も冗長だし、男を手玉に取る夏子の態度とその裏側にある心情が今一つ伝わらず、死をもって強引に幕引きさせたような後味の悪さを感じる作品だった。 読了日:01月13日 著者: 西村 京太郎 メーター検針員テゲテゲ日記――1件40円、本日250件、10年勤めてクビになりましたの 感想このシリーズ、手に取ったのは6作目。著者はいずれも執筆経験者で、本作品も作家希望の人。 どんな内容にせよ、自分の本を出せたという夢が叶ってまずは良かったと思う。 メーター検針員の仕事は傍から見たらラクそうに見えたが、そこは野外を相手の仕事。これでもか!と辛い現場の経験が綴られていく。 人と接する仕事だけに、独居老人の寂しい実態も書いているが、虐待された犬のことまで触れるあたりは、観察眼もあり、単なる仕事のルポのみで終わっていないところに好感が持てた。 「慎ましい生活で十分」という著者の生きざまにも大いに共感した。 読了日:01月11日 著者: 川島 徹 派遣添乗員ヘトヘト日記――当年66歳、本日も“日雇い派遣"で旅に出ますの 感想これまでの人生で、ツアーや社員旅行で添乗員と何度も接しているはずなのに、彼らの印象が残っていないのはなぜだろう? これを読むと、その意味が少し理解できた気がする。 著者曰く究極のサービス業というだけあって、黒子に徹して、無事にツアーを終了させてこそ当たり前。できなければ仕事の真価が問われるということだ。 個性よりもマネジメント能力がすべて。印象が残らなかったということは、裏を返せば、彼らはよい仕事をしたということだろう。 いかんせん、クレームの矛先は添乗員に向いてしまう。 因果な商売だが、それがサービス業である。 読了日:01月09日 著者: 梅村達 京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男の 感想山村美紗と西村京太郎、そして美紗の夫である巍氏の不可思議な関係が知りたくて手に取った。 単なる覗き見趣味の何物でもないが、年間15作も書き、何本もの連載を持ち、一日20時間も一心不乱に机に向かう作家としての山村美紗の執念に圧倒され、下世話な男女関係などどうでもよくなってしまった。 「賞なし作家」のコンプレックスを隠し、売れる作品の量産化にこだわり、時流に乗ったことで人気作家になっていく山村美紗の心情も分からぬではない。 山村美紗の代表作、名作といわれる作品はあるのだろうか。西村京太郎も含めて、私は一冊も読んだことがない。 著者が文壇のタブーに挑戦し、ノンフィクションとして本書を上梓したことは評価に値する。 生前の西村京太郎に取材できれば、より内容に深みが増したと思うが、全員が物故した今、真実はすべて闇の中である。 読了日:01月07日 著者: 花房 観音 非正規介護職員ヨボヨボ日記――当年60歳、排泄も入浴もお世話させていただきますの 感想このシリーズを手に取るのは四作目。感心するのは書き手の文章の巧さ。 この作品の真山氏も、小説部門で地方の文学賞を獲ったというだけあって、筆力はなかなかのもの。 入居者同士の自慢話を描いた項は、まるで漫才を見ているようで思わず笑ってしまう。 介護が暗く過酷な現場と思ってしまう先入観を払拭するのは大変だが、あえて明るく描いた著者のねらいを見た気がする。 社会福祉を学んでもその職に就くことなくリタイヤした私には、福祉を語る資格は毛頭ないが、ここで働く人々に処遇改善ともっと光を与えなければ、文明国家とはいえないだろう。 読了日:01月05日 著者: 真山 剛 ケアマネジャーはらはら日記の 感想70才近くになっても働く意欲を失わない、この人のバイタリティーに脱帽。 仕事の苛烈さは想像通りだが、それ以上に職場の人間関係の煩わしさに読み手として感情移入した。 パワハラはどんな現場でも起こりうるが、コイツはいただけない。 最後通牒ともいえる証拠メモを突き付ける場面は痛快。まさに遠山の金さんのようですっきりした。 嫌な職場に居続けることほど辛いことはないのだからこれでいい。 内容はケアマネの仕事云々よりも、よくある半生記のような気がしないでもない。 福祉現場の現実か、これで年収450万はまったく見合わない。 読了日:01月05日 著者: 岸山真理子 マンション管理員オロオロ日記――当年72歳、夫婦で住み込み、24時間苦情承りますの 感想定年後の職探しでハローワークで紹介されたのが、この仕事。先にリタイヤした先輩たちもやっているし、イメージとしては、年寄りにピッタリの楽な仕事と思っていたが、これを読んで、自分には無理だと痛感。 気が短い人には向かない仕事のようだ。 それにしても、管理人を下僕のように扱う住人たちの高慢チキさ。無理難題のクレーム。読んでいて腹が立ってくる。 年寄りにストレスは禁物だが、この状況下で、仕事への喜びを魅いだせるというのか。 最後の一文に、充実感とやりがいがあったと書かれていることに救われた。 このご夫婦を、素直に尊敬。 読了日:01月05日 著者: 南野 苑生 潜入・ゴミ屋敷-孤立社会が生む新しい病 (中公新書ラクレ, 733)の 感想先に、村田らむ著『ゴミ屋敷奮闘記』を読んだので、潜入ルポというパターンには新鮮味がなかった。 村田氏のルポに登場するのは、ゴミ屋敷の住人自らが金を払って掃除をしてもらうという、往々にして身辺に“だらしがない”人のルポ。 反面、本書に出てくるのは、『ためこみ症』という病気によりゴミ屋敷となり、ひいては死に至ってしまうという事実。 その背景には孤立社会と呼んでもいい、我が国の病んでいる構造が影響しているように思えるが、つきつめれば、孤立する人それぞれの理由が大きい。 すべてを社会のせいにするには無理があると思えた。 読了日:01月05日 著者: 笹井 恵里子 老人をなめるな (幻冬舎新書 667)の 感想今年、前期高齢者の仲間入りをする私としては、どうにも気になって、老後に関するこの手の本をつまんでいる。 著者の作品は好きなので欠かさず読んできたが、最近の傾向としては、いかにも高齢者の代表のように主張したり、反面、年寄りが虐げられているような卑屈感が漂う記述が鼻につくようになってきた。そろそろ著者の本ともお別れか。 ただ、「親の介護を子供がして当然、ではない」は賛同。 国の福祉行政に関わるこの問題。少子化問題を含めて、おそまつ過ぎる施策の現状を一刻も早く改善しなければ、“一億総介護国家”となってしまうだろう。 読了日:01月05日 著者: 下重暁子読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
年が明けてからダラダラと過ごしてしまい、気づくと一週間が経っていました。 何もしなくても時間は過ぎていきます(笑)。 そろそろ旅の計画を立て、それに向けてのトレーニングを開始したいと考えています。 早く暖かくなることを願うばかりですね。 さて、昨年の読書はいつになく低空飛行で終わってしまいました。 読んだ数は81冊。 ページ数にすると23055ページ。 『ベルリンに一人死す』(ハンス・ファラダ著)のような生涯ベストになりそうな本との出会いもあったので、読んだ冊数は少なくても、それなりに充実した読書体験ができたと思います。 今年も心の琴線に触れるような本との出会いがあればしうことありません。 では、先月12月のまとめです。 12月の読書メーター読んだ本の数:8 読んだページ数:2453 ナイス数:391 ドリフターズとその時代 (文春新書 1364)の 感想『全員集合』が始まった1969年から土曜8時のその時間が楽しみで、リアルタイムでテレビにかじりついていた小学生時代。 そこから受けたインパクトは計り知れず、番組を観ていなければ学校での話題にはついていけなかったほどだ。 もちろん荒井注の離脱や志村けんのデビューも知っているし、『全員集合』打ち切りによるドリフの終焉までの過程も観てきたつもりだ。 たけしやさんまの第二世代の漫才ブームが去り、第三世代といわれるお笑い芸人が雨後のタケノコのように跋扈する今は、お笑いにまったく関心がなくなってしまったが、なぜドリフのコントにあれほど魅せられたのだろうか。 同時代にはコント55号やクレイジーキャッツもいたし、似たようなコミックバンドはたくさんあったのに、ドリフターズの印象が、メンバーひとり一人の表情まで“刷り込み”のごとく強く残っている。それをずっと不思議に思っていた。 本書を読んで、その答えが少し分かったような気がする。視聴率50%は伊達ではない。それは大衆の行動心理をも動かす影響力を持つ。大仰にいえば、メディアと絶妙に融合したグループのポリシーとメンバーの個性が、忘れられない記憶として心の奥底に刻まれてしまったということなのかもしれない。 だとしたら、まるで洗脳されたようでもあり、恐ろしい。荒井、いかりや、志村、中本が鬼籍に入った今、ドリフターズは個人の記憶から、更に国民の記憶として永遠に刻まれるだろう。 読了日:12月27日 著者: 笹山 敬輔 青線 売春の記憶を刻む旅 (集英社文庫)の 感想飛田新地、渡鹿野島、沖縄吉原など全国に散らばる代表的な青線地帯を取り上げており、その成立と繁栄の歴史を詳しく調査し、娼婦へのインタビューや体を張った突撃的なルポなど、消え去りゆく風俗の今を伝えた労作。 また、阿部定や福田和子、大久保清といった犯罪者たちの生い立ちと生涯を、青線の因果関係と絡めていく視点も本書の肉付けとして厚みを増している。 風俗満載の薄っぺらなルポと思い興味本位で手に取ったが、さにあらず。現代日本の縮図ともいえる売春の記憶を、真摯に、するどく切り取る内容に、良い意味で期待を裏切ってくれた。 読了日:12月24日 著者: 八木澤 高明 涙の谷―私の逃亡、十四年と十一カ月十日の 感想獄中で書いた360枚の書き下ろし手記。印税の800万円は被害者遺族に寄付されている。 文章は拙いが、第三章の「逃亡」は迫真に満ちている。逃亡犯として以上に、訳ありな女が一人で生きていくことの世間の厳しさを実感せずにいられない。 身を隠す先は水商売や風俗業。著書『青線~売春の記憶を刻む旅』で福田和子を取り上げた八木澤高明は、和子と青線の関係をえぐっているが、これを読むとその生い立ちから逃亡犯として捕まるまで、まるで見えない糸に導かれるように、裏街道と言うべき全国の青線地帯を渡り歩いているのが分かる。 男運がないばかりか、“類は友を呼ぶ“のごとく、周りに群がるあくどい者たち。 過去のトラウマから自首ができない理由も理解できるが、時効を狙う逃亡が長引くにつれ、それがかえって悪運を積み重ねていくことのもどかしさは愚かとしていいようがない。 まさに、不幸を絵にかいたような涙と流転の人生の果てに、一筋の光は射したのだろうか。無期懲役となり、身をすり減らす逃亡生活から解放されたとき、被害者を弔うためにほんの少しでも穏やかな日々を得たと思いたい。 しかし哀しいかな、2005年に獄死する、ドラマチックでしたたかな人生であった。 読了日:12月22日 著者: 福田 和子 弘兼憲史流 「新老人」のススメの 感想男の老後の指南書ともいうべき著者の本をいくつも読んでいるが、この作品も然り、内容は似たり寄ったりで目新しさはない。 そんな中で少し参考になったのは、~適当に息を抜く「まあ、いいか」の精神で~の項。 早期リタイヤし、心身ともにサラリーマンのしがらみから解放されたのは2年前。しかし、日々の暮らしの中でも小さなストレスはついてくる。 我が身に当てはめると、肩の力を抜く「まあ、いいか」の言葉が分かっていてもぐさりとくる。 巻末の北方謙三氏との対談も面白い。男はいくつになっても色気が必要、枯れてはいけない…なるほど。 読了日:12月19日 著者: 弘兼憲史 ねじ式 (1) (小学館文庫 つA 1)の 感想忘れた頃に読み返す作品集がこれ。好きな作品は『チーコ』。 1968年の『ガロ』3月号に掲載された小編だが、小学生の時、町の本屋で立ち読みして、それ以来ずっと印象に残っている。 かぐや姫の名曲『神田川』の四畳半ひと間の世界を彷彿とさせる設定に、文鳥を通してのささやかな幸せの日々が、たとえようもなく哀愁を帯びる。 スケッチされたチーコが空に舞い上がるシーンは何度見ても胸がキュンとなる。 これぞ、つげ義春の世界だと思う。小学生の心をも鷲掴みにし、感動させる著者は、やはり只者じゃない。 読了日:12月19日 著者: つげ 義春 おいしいごはんが食べられますようにの 感想煮え切らない二谷と、煮え切らないまま淡々と続いていく芦川さんとの関係が、食べ物という線でかろうじてつながっている不思議なストーリーに、妙に感心。 これだけたくさんの料理やスイーツが出てきても、二谷の醒めた視線の先にあるので、どれも美味そうに見えなかったが、なぜかカップ麺の描写が食欲をそそった。 それにしても人間は身勝手な動物である。得てして、職場の人間模様はこんなものだろう。人の心の中は分かるはずもなく、まして、自分の本心も他人には決して分からないものだろうとつくづく思った。 まさに、愚かなばかし合いである。 読了日:12月19日 著者: 高瀬 隼子 義男の青春・別離 (新潮文庫)の 感想ませたガキだったので、ランドセルを背負った小学生時代から『ガロ』を町の本屋で立ち読みしていた。 その頃から50年以上もファンを続けているお気に入りが、つげ義春。本書に収録された作品は70年代から終作となった87年の『別離』まで。 夢日記をもとにした活動前期に多いシュールな作品は少ないが、それでも『外のふくらみ』や『窓の手』といった気色の悪い作品が並ぶ。お気に入りは『別離』。 心神喪失状態にあった頃の執筆だけに、閉塞感と苦悩が迫る。 この作品をもって長い休筆状態になってしまったことが、ファンとしてあまりにも寂しい。 読了日:12月16日 著者: つげ 義春 踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代の 感想1997年に誰にも看取られることなく逝った一条さゆり。 その見事な生きざまに『アッパレ!』をあげたい。 引退後の彼女がなぜそこまで釜ヶ崎にこだわったのか。激動の時代と明暗の人生を経験しながら流転の果てにたどりついた釜ヶ崎は、彼女にとって安息の地だったのだろうか。 虚言と無垢が同居する破天荒な芸人、天性の踊子としての魅力の裏には、不器用な生き方しかできない優しい女性の姿がある。 そのすべてが彼女の伝説に花を添えたように思える。 奇しくもデビューした1958年は私の生まれた年だ。できることならその舞台を観てみたかった。 読了日:12月15日 著者: 小倉 孝保読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
11時過ぎに寝床に入っても、気になって何度もスマホで試合状況をチェックし、寝付かれぬまま試合終了までうだうだと過ごしてしまった。 完全に寝不足ですね。 それにしてもこの負けは痛かった。 ワールドカップの度ににわかサッカーファンになる私ですが、悔しい試合でした。 今日からはきれいさっぱりサッカーのことは忘れてしまおう。 さて、11月の読書はあいかわらずの低空飛行。 4冊で終わりました。 少ない中にも収穫が一冊ありました。 『グランマ・ゲイトウッドのロングトレイル』です。 3300㎞に及ぶアパラチアン・トレイルを5ヶ月間かけて完全トレースした67才のおばあちゃんの話ですが、これは私のような歩き旅大好き人間にはバイブルになりそうな作品。 なんで長距離を歩くのか…という答えは、「ただ、歩きたいから」。 良いじゃないですか、コレ。 歩くことにヘンなこじつけや、こだわり、哲学はいらない。 歩きたいから、歩く。 風の吹くまま、気の向くまま。 ついでに人生も。 うーん、私もこれでいこう(笑)。 11月の読書メーター読んだ本の数:4 読んだページ数:885 ナイス数:227 内なるゲットーの 感想ホロコースト、ショアー、ジェノサイド、フルバン…意味合いは微妙に違うが、どれもナチスがユダヤ人に果たした最終的解決の言葉である。 アルゼンチンに亡命した主人公のビセンテが、遠く離れた祖国ポーランドのユダヤ人虐待を知るにつれ、精神的に追い詰められ、心が蝕まれていく様子は、直接的な被害はないとしても、これもまたホロコーストの犠牲者といえる。 祖国に残した母親や家族の無事を思う気持ちを、逃げることができないゲットーや収容所に重ねて、苦悩し続ける主人公の閉塞感が、やるせなく、辛く、後味が悪かった。 読了日:11月30日 著者: サンティアゴ・ H・アミゴレナ 住宅営業マンぺこぺこ日記――「今月2件5000万! 」死にもの狂いでノルマこなしますの 感想舞台となっているタマゴホームは、おそらく誰もが知ってるタ〇ホームだ。 何を隠そう我が自宅はここで新築した。裏の裏まで詳しく描かれた営業担当とのやり取りは、今思えば当てはまることが多くある。 ローコストゆえ値引きをしないのは当たり前と思っていたが、裏話を読むと、「しまった」と今更ながら思ってまう。 一人で何役もこなすハードワークの営業姿勢に、業界のブラックさとサラリーマンの悲哀を感じるが、家族のために仕事に邁進していく姿には共感を覚えた。 人間模様も然り、余命いくばくもない少女のために一肌脱ぐ話には、ホロリときた。 読了日:11月14日 著者: 屋敷康蔵 グランマ・ゲイトウッドのロングトレイルの 感想しまった、これは購入すべき本。 何度でも読み返したい、手元に置きたい一冊だ。今更ながらに図書館で借りたことを後悔している。 1955年に3300㎞に及ぶアパラチアン・トレイルを5ヶ月間かけて完全トレースした67才のおばあちゃんの話であるが、なんとその後も、計3回踏破したというからとんでもない。 わずかな生活用具と食料を入れた手製の袋を肩に担ぐサンタクロースのようなスタイルで、未整備の道をトレッキングする様子は現代では突拍子もないスタイルにも思える。 記者の質問に「ただ歩きたいから」と答え、黙々と歩き続ける生きざまには深い感動を覚えた。一口に3300㎞を歩くといっても、ゴールまでやり遂げたいという強い信念と、体力、いくばくかのお金と、家族の理解がないと達成するのは難しい。 私も2020~22年に徒歩で106日間かけて日本列島を縦断し、2900㎞の距離を歩いたので、グランマ・エマが経験した距離感や、旅の苦労や喜びをほんの少しだが共感できる。 純粋に歩くことに向き合い、今をもってしても世界のアルキニストの金字塔的目標となっているグランマ・エマ。 その生きざまを余すことなく書いてくれた著者に感謝したい。 読了日:11月12日 著者: ベン・モンゴメリ 神さまの貨物の 感想文体はファンタジーや童話の体裁を取るようにみえるが、内容はノンフィクションばりに実に生々しい。 そこには、収容所へ移送する汽車やガス室、丸刈りにされる頭、囚人番号が彫られた腕といったホロコーストならではの死へと向かう残忍な事実が埋め込まれている。 反面、赤ん坊の描写は生の象徴でこれ以上ないほど癒される。 これはほんとうにあった話なのか…最終章で繰り返し、繰り返し語られる“ほんとうに”の言葉の意味は、風化しつつあるホロコーストとユダヤ人の悲劇の歴史を、目を背けずに知ってもらいたいという著者の願いと受け止めた。 読了日:11月07日 著者: 読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
夏からずっと低空飛行が続いている、読書生活。 もはや、晴耕雨読の生活どころか、本を読むことの楽しさも忘れかけている。 文字通り、バタバタと動いていた10月、本を読むゆとりさえなかったように思います。 長男の新築計画に首を突っ込んだばかりに、私が見つけてきた外構業者の着工ドタキャンに遭って、消費者相談センターやら、新たな業者との交渉など、我が身以外の所で起こったトラブルに奔走。 そんな中、混乱した頭をすっきりさせるために旧東海道を歩いたりもしたが、件のトラブルはいまだに収束にあらず。 まぁ、時が解決してくれるのをじっと待つしかありませんね。 何年後かには、きっと笑い話になることを信じて。 さて、そんな中にも少ない読書のなかで、生涯ベストになるのではないかと予感させる本に出合いました。 ハンス・フォラダ著『ベルリンに一人死す』です。 詳しくは、感想に書きましたが、琴線に触れる本との出会いは一期一会。 この年になって、そんな作品に出会えたことに感謝です。 10月の読書メーター読んだ本の数:3 読んだページ数:1246 ナイス数:207 ベルリンに一人死すの 感想生涯ベストになりそうな予感がする。 二段組607頁の大作にも関わらず、眠ることさえ忘れるほど作品の世界に没頭した。 ナチス隆盛下のベルリンで、国家社会主義に抵抗する労働者夫妻の実話をもとに描かれたというが、特筆すべきは戦後すぐの1946年に上梓された作品であるということ。 ナチの残党やネオナチも多くいたであろう混乱の敗戦下で、抵抗運動に奔走した人々は、この作品をどう受け止めたのだろうか興味が湧く。 政府を批判した285通の葉書と手紙のいきさつは、当時の市民の記憶にわずかでも残っていた時期ではないか。 それを思うと本書出版の意義が新生ドイツ復興の勢いに重なっていく。 拷問に屈せず最期まで信念を貫くクウァンゲル夫妻の生き方には、意志の強さ以上に人間としての尊厳を重んじ、崇高に生き抜く清々しさを感じた。 間違っていることを、「間違っている」と言える勇気は真の強さを持っていたからこそだろう。 独裁者を頂点とし、密告者が暗躍し、言論の自由が束縛される全体主義国家は、現代においても多く存在し、世界地図を塗りかえるようにその勢力を伸ばしている。 混迷を極めるこんな世の中だからこそ、この作品は多くの人々に読み継がれて欲しい。 読了日:10月23日 著者: ハンス・ファラダ 運命ではなくの 感想強制収容所で過ごした実体験を、後年になって私小説化したハンガリーのノーベル賞作家の作品。 囚人として収容されるまでの過程には悲壮感や卑屈感はなく、まるで遠足に行くように、気づいたときにはアウシュヴィッツ行の汽車に押し込められていたという、あっけない描写。 そこにはユダヤ人であることすら、なんの疑問も持たぬ純粋な14歳の少年心が見え隠れしている。 しかし、いくつかの収容所を移送されながら、食糧難や病苦にあえぎ貪欲に生きる日々を重ねる過程では、過酷な生活を淡々と描いていくなかに、少年らしからぬ醒めた視点や思考が現れてくる。 解放後に祖国に戻ったとき、新聞記者に“地獄”に例えられた収容所生活を同意せずに、その一言で片づけたくない複雑なイデオロギーを主人公を通して言わしめている。 社会主義体制下のハンガリーだからこそ言いたかった、著者の心の叫びかもしれない。 読了日:10月14日 著者: イムレ ケルテース アウシュヴィッツを越えて―少女アナの物語の 感想ホロコーストを生き抜いたユダヤ人少女の回想録だが、全編を通して実録をもとにした生々しい記述に溢れている。 興味深いのは、ナチス侵攻以前のポーランドの中流階級で育った主人公姉妹の生活。 そこには中流階級といえども使用人を何人も抱えた、艶やかなブルジョアの暮らしが見えてくる。 平和で輝いていた少女時代が一変し、ワルシャワゲットーからアウシュヴィッツへと、まるで奈落の底に落ちていくような、不幸を絵に描いたむごたらしさの明と暗のギャップに息を飲む。 一方でお嬢様らしからぬ、過酷な収容所生活をしたたかに生き抜く強さも、持って生まれてた強運として映る。 ヨーロッパでは戦後、ホロコーストを経験した人々の手記が何百も出版されたというが、本作を遺すことができたのは、著者が“歴史に選ばれし人”だったからこそであろう。 本書はゲットーとアウシュヴィッツの章で多くを割いているが、死の行進を経て解放された後の記述がさらりと書かれているのが、少し残念な気がした。 読了日:10月07日 著者: アナ ハイルマン読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
9月は久しぶりに10冊超えの本を読んだ。 これから秋が深まっていくにつれ、好きな本を好きなだけ読む生活ができたらうれしいけど、読書を継続的に続けるのも実際にはなかなかしんどい。 年と共に減退している集中力に尽きるかもしれません。 一昨日、このところ暇つぶしに遊んでいるボウリングをやってつくづく思いました。 1ゲーム目のアベレージは138。 おぉ、いいぞ! …と気をよくしたのもつかの間、2ゲーム目は92、3ゲーム目は102という低スコアに沈みました。 体力もそうですが、たかだか玉を転がすゲームにも集中力がなければダメですね。 ボウリングは技術以上に集中力というプレッシャーが大きく左右する心理ゲームだと思います。 さて、9月の読書の収穫は、イタリア人作家のパオロ・コニェッティ著『フォンターネ 山小屋の生活』でしょうか。 全編を通して漂うほんわかした包容力がある文体に惹かれました。 心を平常心に戻し、癒してくれるのも、読書の効能といっていいかもしれません。 9月の読書メーター読んだ本の数:12 読んだページ数:2557 ナイス数:498 ニホンオオカミは生きているの 感想宗像充著『ニホンオオカミは消えたか?』つながりで手に取った。 表紙にあるニホンオオカミ?と思える写真を撮ったばかりに、孤軍奮闘する著者の姿が気の毒に思えて仕方がなかった。 専門家でさえ肯定派、否定派がいる世界で、在野の研究者として存在を立証する難しさは想像以上である。 突き詰めれば、やはり生け捕りしかないのか。 「日本の国から二ホンオオカミを消してしまったのは、オオカミ学者を自称する動物学者ではないのか」…と、皮肉ともとれる著者の言葉が心に響く。 ロマンで終わらず、実在を証明する日が訪れることを切に願いたい。 読了日:09月27日 著者: 西田 智 四つの小さなパン切れの 感想ホロコーストから生還した人々の手記は数多あるが、本書は後世に語り継がれる名著といえるのではないだろうか。 ハンガリー系ユダヤ人の数少ない証言であるということも興味を引く。 二部構成のうち、前半の「時のみちすじ」ではアウシュヴィッツに強制収容されてから解放までを追っていくが、恐怖に凍りつく体験を、断片をつなぎ合わせるような淡々とした切り口や、映像を見るようなリアルな表現も駆使して書かれている。 後半の「闇から喜びへ」は詩作を含めた心象風景で体験を綴っており、人間の尊厳を無視したナチスの蛮行に対しての不条理を訴えながらも、前向きに生きることの意義を紡いでいる。 救われるのは、自分をショアの犠牲者ではなく、自分自身のなかで和解した証人だと感じている、と言い切るところ。 著者の真の強さと、魂の昇華を見た思いだ。 読了日:09月25日 著者: マグダ・オランデール=ラフォン 誰もいない文学館の 感想数多いる作家と比べて読書量の少なさを冒頭で謙遜しているが、読み進むにつれ、それが思いっきり的外れだと分かる。 大正~昭和初期の近代文学の知識の奥深さや、古書業界に精通した見識は、著者が単なる物書きでないことを証明している。 恐るべきは、小学5年から横溝正史に狂い、『宝石』を読み、15~16歳でマイナーな作家群を読破していく早熟さ。 師と仰ぐ、藤澤清造つながりでの物故作家の発掘と研究は、私小説を書く以上に夢中になれる活動であったと見て取れる。 無頼派を通して逝ってしまったが、死してなお、稀有な才能は輝きを失わない。 読了日:09月23日 著者: 西村賢太 イレーナ・センドラー―ホロコーストの子ども達の母の 感想ナチス占領下のポーランドで、人道的見地からユダヤ人迫害に抵抗し、地下組織による支援を行った非ユダヤ人は多くいたという。 ワルシャワゲットーから強制収容所へ移送される子供たちを救出し、逃亡の手助けをしたその数2500人。本書の主人公イレーナ・センドラーたちの活動は、かのオスカー・シンドラーのはるか上をいく。 こうした快挙が歴史に埋もれていたことはもどかしいが、近年になり、ホロコーストの犠牲者ばかりでなく、支援活動に奔走した正義の人々に光が当たったことが素晴らしい。 ルビもふられているので児童書として推薦できる。 読了日:09月23日 著者: 平井 美帆 ニホンオオカミは消えたか?の 感想本書に何度も登場する『オオカミ追跡十八年』(斐太猪之介1970)は、中学になった年になけなしの小遣いで初めて買った本。 あれから50年以上、ずっとニホンオオカミが気になっていた。毎年のように目撃証言があるなかで、権威的な絶滅宣言をひっくり返すのは、もはや生け捕りしかないだろうか。 秩父野犬と称された写真の主は素人目にもどこからみてもオオカミであるが、写真では決定打とはならず、絶滅宣言の権威は揺るがない。 外来種のタイリクオオカミを入れて生態系を守る議論よりも、在来種のニホンオオカミの存在を証明する方が先決であると思う。 二ホンカワウソにしかり、著者を始め絶滅動物の捜索に人生をかけた在野の人々の努力が報われる日が来ることを願いたい。 読了日:09月20日 著者: 宗像 充 時が止まった部屋:遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなしの 感想孤独死の現場をミニチュアで再現することに、どんな意味があるのか?最後まで読んで、その答えが見えてきた。 生々しい現場をあえて模型で表現し展示することで多くの人に見てもらうことが可能になり、今や社会問題となっている孤独死の現実を世に問うことが、著者のねらいである。 模型といえども作中に出てくる孤独死の現場を見ると、一人で死んでいくことの寂しさははかり知れない。 人間関係が希薄になっている世の中であるからこそ、著者の活動の意義を感じる。 反して、遺品整理の現場に群がる縁もゆかりもないハイエナどもには強い憤りを感じた。 読了日:09月16日 著者: 小島 美羽 昭和三十年代、露地裏パラダイスの 感想キレのある小気味よい文章に惹かれた。 想い出で綴る、男勝りの母親の気風の良さがまた良い。古き良き時代の江戸っ子の粋がある。 下町情緒が色濃く残る深川で生まれた著者は私より少し年長だが、同じ昭和30年代を経験した世代として、親近感を抱かずにはいられない。 記憶の奥底にあった懐かしの風景が次々によみがえってくるのだ。米屋の店先に並んだプラッシーを指を咥えて見ていたあの頃。同じ経験をした著者とはまさしくビンゴ。 貧しくても幸せだったセピア色の風景はどんなに思い出しても帰ってこないが、この作品に出会えてよかったと思う。 読了日:09月16日 著者: 長谷 美惠 「ゴミ屋敷奮闘記」の 感想夜逃げ同然で出て行った隣家が空き家になって早一年。庭先に散乱する放置されたゴミの山も草に埋もれている。 悪臭が鼻を突き、ネコが巣くう状況を自治会に訴え、市役所の職員までが調査に出動することになったが、持ち主と連絡がつかないということでそのままだ。 ゴミ屋敷は近隣住民にとっても迷惑この上ない存在である。本書を読むと、身勝手でだらしないゴミ屋敷住人たちの実態が見えてくる。 理由はそれぞれだが、金を払えば掃除をしてもらえるという根性が許せない。 取材目的のアルバイトとはいえ、ゴミの山で奮闘する著者の苦労が不憫に思えた。 読了日:09月15日 著者: 村田らむ 「ナパーム弾の少女」五〇年の物語の 感想戦争の悲惨さを切り撮った表紙の写真は、これまで幾度も目にしてきた。 ベトナム戦争を終結に導いたきっかけの一つになったともいわれており、重度の火傷を負った被写体の全裸の少女(キム・フック)とともに数奇な運命をたどっていく。 一枚の写真がもつ影響力に翻弄されながらもそれを武器にして、平和を訴える活動に身を投じたキム・フックはまさに“選ばれし人”である。 言論の自由が閉ざされた社会主義体制下のベトナム、キューバから決死の亡命を経て自由の身となっていく過程は、ミステリ小説ばりのドラマチックな展開。 驚かずにはいられない。 読了日:09月13日 著者: 藤 えりか アンネ・フランクはひとりじゃなかった――アムステルダムの小さな広場 1933-1945の 感想アムステルダムの一等地に建設されたメルウェーデ広場を中心とする集合住宅群には、ドイツを追われたユダヤ人の富裕層が移住しコミュニティを形成していたという。 本書はアンネ・フランクを始め、一部の恵まれたユダヤ人たちの安息の場として、それを象徴するメルウェーデ広場を取り巻く人間模様と迫害の実態を時系列に描いている。 やがて移送されていく収容所と、自由と幸福の象徴であった広場とのギャップが、登場する人々の波乱の人生と重ね合わせ、読み応えがある。 広場に住まうユダヤ人住人と広場とは縁がない困窮するユダヤ人難民やオランダ人社会とは、貧富の差から生じる妬みや確執もあった。 その差別意識から密告、迫害の波が加速していく過程は、緊迫した状況においてユダヤ民族の結束が必ずしも固くなかったことを物語っている。 ナチス占領下のオランダのユダヤ人が置かれた状況について注目されたのは『アンネの日記』の存在によることが大きが、フランク一家の隠れ家を密告した人物は以前謎のままだ。先に読んだ『アンネ・フランクの密告者』を始め、ここにきてアンネ・フランクを取り巻く一連の作品が次々に出版されているのはなぜだろうか? 証言者が没し風化の波には逆らえないが、真実の歴史を知るうえで大いに歓迎したい。 読了日:09月06日 著者: リアン・フェルフーフェン マイ遺品セレクションの 感想著者とは同い年で、昔からのファン。世にコレクターはたくさんいるが、誰も興味をもたないようなヘンなものを偏執狂的に集めまくるのは、もはや癖を超えて病気の範疇。 私はその感性こそが著者の魅力であり、世界観に共感している。 冒頭にも書いているが、著者が死んだらコレクションたちはどうなるのだろうか? これはコレクター共通の悩みだろう。 著者の場合は、本書も含めて多くの著作やイベントで紹介されているので、たとえコレクションが処分されても、記録として残っていく。 それもある意味“遺品整理”であり、生きた証だろうか。 読了日:09月05日 著者: みうら じゅん フォンターネ 山小屋の生活 (新潮クレスト・ブックス)の 感想包容力のある文体をじっくりと味わうために、一編一編を慈しむように読んだ。 山を描いた作品は、その背景によっては尖った岩峰のように荒々しくもなるし、心を癒しの世界に導いてくれる力にもなる。 著者の一年に亘る山小屋での生活は、時として自然の厳しさを体現し、逆にその大らかな懐がもつ力は壊れかけた心を修復していく。 孤独を求めながらも人恋しさをごまかせない、自分に素直になっていく山小屋での四季。 それを見事に描き切った著者の筆力に拍手を送りたい。 ちなみに原題の『フォンターネ』とはイタリヤ語で『源泉』『給水所』の意味。 読了日:09月02日 著者: パオロ・コニェッティ読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
気象庁が今年の梅雨明け日の見直しを検討しています。 どうやら“勇み足”だったようです。 まったくお笑いですね。 それでなくても、最近の目まぐるしく変わる天気の予報はハズレまくっています。 雨雲レーダーを参考に刻一刻と変わる予報を確認していますが、それすらハズレっぱなし。 それにしても、この夏の天気の不順なことよ。 8月は雨が降らなかったのがほんの数日。 毎日のように、降ったり止んだり…晴れたり、曇ったり。 今月もこのままいくと同様な、まだまだ長雨が続くみたいです。 願わくは、カラッとした秋晴れが見たい。 さて、8月の読書。 収穫はなんと言ってもルーシー・アドリントン著『アウシュヴィッツのお針子』。 これに尽きます。 戦後80年近く経っても、新たな事実が出てくるナチスの戦争犯罪。 その業の深さに、決して晴れることがない深い闇を見た思いです。 8月の読書メーター読んだ本の数:10 読んだページ数:3280 ナイス数:528 87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らしの 感想巻末の写真を見て、その若さに驚く。 しゃんとした背筋は、私の老父と同じ87歳にはとても見えない。 iPadを操り、YouTubeで日々の暮らしぶりを発信する。若いはずだ。 頁を開くまでは、古びた団地でひっそりと暮らす孤独なお年寄りの姿をイメージしていたが、最後まで読んで、凛としたその生き方に深く感動した自分がいた。 こんな風に年を取りたいと思わずにいられなかった。 55年に亘って住んでいる団地は著者にとって体の一部であり、共に人生を刻んだ同志なんだろうか。 今を愉しみ「この部屋で死ぬ」と言い切れる気概に心を打たれた。 読了日:08月27日 著者: 多良 美智子 老後レス社会 死ぬまで働かないと生活できない時代 (祥伝社新書)の 感想早期退職し、今年から始まった年金暮らし。日がな一日好きな本を読んで過ごしている…こんな自分は、本当に恵まれていると思う。 本書には、死ぬまで働かないと生きていけない高齢者や、将来の予備軍ともいえる非正規雇用にあえぐロスジェネ世代、職場で居場所がない定年間近の人々の悲痛な声が綴られている。 なんでこんな国になってしまったんだろうと考えつつ、自分は単に運が良かっただけだと思ったりもする。 本来、祝福され喜ぶべき長寿化が、不安をもたらし、本人、家族にとっても生きていくうえでの人生最大のリスクになっていく。 社会保障制度の砦である年金の危機的不安を招いたのも、わが国が人口問題への取り組みを怠ってきたからに他ならない。 金権にまみれた政府や弱い野党が本腰を入れてこのツケを払うことができるのか。 「一億総活躍」のスローガンを掲げ、死ぬまで働くことが唯一の解決策という情けない政策を推進する国力に、未来を見いだせない暗闇を感じた。 老年人口が最多となり日本社会が最大の危機に直面する2040年代、それを生きるわが子、わが孫の世代があまりにも不憫である。 読了日:08月27日 著者: 朝日新聞特別取材班 自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫 M シ 17-1)の 感想謎解きのストーリーは古典的だが、最先端のメディアをちりばめたプロセスがいにも現代的で、その印象を覆している。 スマホやPCを使った友達アプリやSNS、画像編集といったデジタルコンテンツが盛り沢山。ITに弱い世代の読者層はとっつきにくいかもしれない。 それにしてもイギリスの高校生は早熟。クルマも運転するし、飲酒、ドラッグなんでもありだ。 一方で、EPQ資格という自由研究が学校教育の一環として推進されている背景は先進的で、旧態依然の日本も参考にしたいところ。 謎解きが進むに連れ、成長していく主人公の姿も心地よかった。 読了日:08月25日 著者: ホリー・ジャクソン 被差別部落の民俗と芸能 日本民衆文化の原郷 (文春文庫)の 感想生業と居住環境に関わる厳しい差別が原点にある部落問題の中で、人間としての生が輝く側面、それが伝統的な民俗である民衆文化だ。 我が国の至宝ともいえる最高の芸術の域まで高めた歌舞伎や人形浄瑠璃も、その原点には差別されてきた人々の生業からなっている。 本書で紹介されたデコ舞わしや鵜飼も然り。田畑や漁業権を持たぬ搾取されてきた人々の生きていく糧として生まれ、伝統に発展したものである。 著者は差別と抑圧に闘った歴史を“豊饒の闇”と書く。その的を得た表現に感嘆。 幼き頃の正月の風物詩だった獅子舞の姿を、もはや見ることはない。 読了日:08月20日 著者: 沖浦 和光 アンネ・フランクの密告者 最新の調査技術が解明する78年目の真実 (「THE BETRAYAL OF ANNE FRANK」邦訳版)の 感想一字一句読み込むスタイルなので、470頁の大冊はしんどかった。 その割に「やっぱりなぁ…」で終わってしまった結論が歯がゆい。 アンネ・フランクの隠れ家を密告したのは誰なのか…という謎を現代の専門家チームによって多方面から調査し、核心に迫っていくプロセスは執念の見せ場ともいえるが、証人のほとんどが没し、事件が風化している現状ではその努力を確証につなげることができず憶測に留まってしまう。 これが歯がゆいのだ。78年前の真実の解明に辿り着けることができるのは、これからもこの先もまったくの偶然でしかないだろうと思う。 読了日:08月16日 著者: ローズマリー サリヴァン 昆虫学者はやめられない: 裏山の奇人、徘徊の記の 感想昆虫のみならず、カラス、ヘビ、リス、クモ等のウンチクが詰まり、生物全般の知識と守備範囲の広さに驚く。 著者が単なる昆虫学者で収まらないのが、“南方熊楠の再来”と言われるゆえんか。 本書をもって、昆虫学が新種の発見と分類だけにとどまらず、一種ごとの生態の解明という気が遠くなるような地道な研究の上に成り立っていることを知ることができたのは収穫。 昆虫少年だった私にとって、流れる汗をいとわず、捕虫網を振り回して里山を駆け回った幼い頃の遠い夏の日を、郷愁を感じつつ思い出すことができた。 読了日:08月12日 著者: 小松 貴 マイホーム山谷の 感想東京を旅すると山谷のドヤによく泊まる。 受付では「ここは普通の宿と違うからね」と言われる。3帖一間で風呂、トイレ共用。連泊してもシーツ替えなし。 何と言っても宿代は安いし、慣れてしまえばそれなりに快適である。貧乏ツーリストに人気があるのもうなずける。 山谷で路上生活者を見かけないのはドヤの存在が大きいと思う。 ホスピス「きぼうのいえ」は社会的弱者が集まる山谷の象徴である。民間人である山本夫妻がそれを立ち上げ、運営のシステムを構築したことは称賛の何物でもない。 なぜ国は動かず民間なのか。この国の福祉行政のふがいなさを改めて実感する。 弱者を助けたいという純粋で高い志が、弱者との接触が深まるたびに自らの精神を病んでいく山本氏の姿が哀れというほかない。 同志であった妻も同様。本書によって山谷がもつ“業”と深い闇を見た気がした。 読了日:08月08日 著者: 末並 俊司 すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集の 感想前著『掃除婦のための手引書』の興奮と感動が冷めやまないうちに手に取った。 期待を裏切らない濃密に詰まったパッケージに今回もノックアウト。こんな文章が書ける才能が、腹が立つほど妬ましい。 訳者あとがきに著者の魅力について触れている。 情景を最短距離で刻み付ける筆致、ときに大胆に跳躍する比喩、歌いうねるリズム、ぴしゃりと断ち斬るような結句…まさに同感。 それにあえて付け足すなら、「併せ持つ危険な中毒性」。 一度読んだらその魅力に囚われてしまうルシア・ベルリンを解毒するには、余程の対抗馬が必要となるだろう。 読了日:08月06日 著者: ルシア・ベルリン 定年入門の 感想60歳で定年後、再雇用された会社を辞めて2年が経った。 今更『定年入門』ではないが、この作品に出てくる人々がどんな生活を送っているのか興味を持って読んだ。 総じて言えるのは、皆一様に趣味に、自己啓発に、ボランティアに、仕事に、アクティブに生きていること。 私のようなのんべんだらりと日々を消化している輩はいない。 【きょういく=今日行く】と【きょうよう=今日用】といったスケジュールを埋める作業は私には重苦しい。 これでは定年前と何ら変わらないじゃないか。 それが嫌で会社を辞めることを指折り数えて待っていたのだから。 読了日:08月03日 著者: 高橋秀実 アウシュヴィッツのお針子の 感想ホロコーストの記憶が風化していくなかにあって、新たな事実を掘り起こした労作である。 今のところ今年度最高のノンフィクションと自薦したい。 人間の尊厳ともいえる衣食住を奪ったアウシュヴィッツの収容所生活の中で、生き延びるためにナチス親衛隊の妻たちを着飾る衣服を作る、縞模様のボロ着をまとった囚人たち。 理不尽なそのギャップに怒りが沸騰する。 解放後にボロ服を脱ぎ、服を変えたことで「また人間になった」という言葉は計り知れないほど重い。 また、解放後の“死の行進”の始終が、多くの証言のもとに記されていることも特筆できる。 読了日:08月01日 著者: ルーシー・アドリントン読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
13日間の徒歩の旅から帰宅して、体調を回復するためにゴロゴロしていた7月後半。 何もすることがないので、映画と読書でひたすら自宅にこもっていた。 こんなのんべんだらりとした生活は、定年前に思い描いた理想だったはず。 しかし、何日も続くと飽きてしまう。 何かしなければいけないなぁ…という気持ちがムクムクともたげてくる。 さぁ、そろそろ動くとしますか。 さて、7月の読書の収穫はというと、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』。 これにつきますね。 軽快なアメリカンポップの、ノリ。 それでいて心臓をわしづかみされそうな、キレ。 この作家、思わぬ発見でした。 7月の読書メーター読んだ本の数:7 読んだページ数:1814 ナイス数:332 ソ連兵へ差し出された娘たち (単行本)の 感想ソ連兵の暴虐ぶりを憎む前に、なすすべもなく坂道を転がるように不幸へと進んだ愚かな背景に腹が立たずにいられなかった。 被害者女性から「男が始めた戦争」と言わしめる端的な表現に、古来から続く男尊女卑のもと虐げられてきた女性たちの声を聴いた気がした。 人柱となる強姦を「接待」という言葉に置き換えた歪曲した卑劣な表現は、裏取引の事実を隠そうとする男たちの犯罪である。 奇しくも岐阜県の黒川開拓団は私の自宅からほど近い地域から送出されており、この事実を余すことなく実名で記した著者の信念と、証言者たちの勇気に真実を見た。 読了日:07月23日 著者: 平井 美帆 怪虫ざんまい 昆虫学者は今日も挙動不審の 感想たかがムシの話というなかれ…これほどまでに昆虫の世界を掘り下げて、超マニアックかつ魅力的に語った作品はないのでは。少年の頃、胸をときめかせて読んだファーブル昆虫記を思い出してしまった。 著者は研究者以上に虫屋なので、新種の発見にかける情熱もマニアなら思いっきり共感ができる。 地下水にいる特殊な種を探して、井戸ポンプを連日くみ上げるその労力は常人には理解しがたいが、その苦労が報われるあとがきを読むと、彼らのような研究者がいたからこそ、謎が解き明かされ世界が広がると思わずにいられない。 軽快な文章にも惹き込まれた。 読了日:07月22日 著者: 小松 貴 天使突抜367の 感想【てんしつきぬけ】と読む。京都には難読や変わった地名が多いが、これもその一つ。 本書は大正から昭和初期に建った長屋をひょんなことから買った著者が、気ごころ知れた仲間たちとリノベーションする過程を綴っている。 興味深いのは、建具や電気器具一つにもこだわった家づくり。大量の着物コレクションを収蔵する箪笥にもセンスの良さと、歴史の重みを感じた。これを見ると古き良きものが現代と融合する京都の魅力を改めて感じずにはいられない。 欲を言うと、間取りや室内の画像がもっとあれば、家づくりのイメージがさらに伝わったと思う。 読了日:07月21日 著者: 通崎 睦美 掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集の 感想心の躍動を覚える文章に出会いたい…これがために長らく読書に勤しんでいる。この作品には、読書好きの魂を揺さぶる魅力的かつ不思議な力がある。 ポップなジョークやユーモア、そして緩急をつけた比喩やストレートな表現に、類まれな才能を見た思いだ。 大好きなC.ブコウスキーを初めて読んだ時の衝撃とドキドキ感の再来をもって読了することができたのは、ここ数年来の収穫である。著者は生涯に76の短編を書いたという。 死後10数年も一連の作品が埋もれていたことは信じがたいが、それを世に出した訳者の、切れ味するどい訳も評価したい。 読了日:07月21日 著者: ルシア・ベルリン 瓦礫の死角の 感想『蠕動で渉れ、汚泥の川を』の続編にあたる表題作は、勤めていたレストランを追い出された後の、堕落した日々を描いている。 後年に亘って支配続ける救いようがない自己中で懐疑的人格が、17歳にしてパワーを増しているのが垣間見える。 そんな生活の中でも文学へ惹かれていく過程が不思議この上ない。私小説家としての著者を形成する早熟なエピソードである。 収穫は同時収録された『崩折れるにはまだ早い』。師と仰ぐ藤澤清造の晩年を描くが、最後まで読んでそれが分かった秀作。こうした作風にチャレンジしたことが、ファンとして嬉しい。 読了日:07月20日 著者: 西村 賢太 百花の 感想百合子の過去や棄てられた泉の生活実態など、作中では触れられていないのでいくつかの謎と不満は残るが、中盤から後半にかけてキーワードとなる『半分の花火』の記憶の意味を解き明かしてくれたことが救い。 認知症は罹る本人も家族も、辛くやりきれない。百合子が在宅介護になることもなく施設に入れたのはラッキーだと思う。 これがないとどろどろした介護現場の描写が続き、作品の狙いがあらぬ方向に行ったかもしれない。 表面的な親子関係が百合子の認知症により溶解し、修復されるベースまで発展していくが、それもほんの一瞬のこと。見事。 読了日:07月14日 著者: 川村 元気 52ヘルツのクジラたち (単行本)の 感想淀みなく流れる文章と、巧みな構成力に舌を巻いた。 主人公の貴瑚やアンさん、愛といった多様なキャラクターが登場するが、誰もが心に傷を持って懸命に生きており、その閉塞感がとても辛く感じた。 人がうごめく世界にあっても、誰にも相手にされない孤独ほど辛いものはなく、その叫びが届かないのが真の孤独かもしれない。 原野にたった一人残された孤独とは違う、心の虚無感と一人ぼっちの恐ろしさを描き切った努力作だと思う。 それだけに前半の閉塞感から最後の解放感に至る筆運びは見事というほかない。 読了日:07月12日 著者: 町田 そのこ読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
前半は旧東海道を歩き、後半からの日本縦断徒歩の旅に向けての出発準備のため読書に集中できなかった6月は、4冊の低スコアで終了。 収穫作品は特になしです。 縦断の旅も終了し、体のメンテナンスと合わせて、今月は読書を楽しもうと思います。 まずは、溢れかえった積読本を崩さねば。 6月の読書メーター読んだ本の数:4 読んだページ数:1171 ナイス数:248 日本縦断徒歩の旅―夫婦で歩いた118日の 感想ゴミのポイ捨てなど環境問題を訴えながら日本列島を徒歩で縦断した還暦夫婦の記録。 巻末には同様な旅を目指す人たちへのアドバイスとして、旅の目的をはっきりさせることが大事としている。 そこが曖昧だと途中で自己矛盾に陥ったり、孤独感にさいなまれるとある。 私も一昨年に徒歩で日本縦断をしたが、目的はただ一つ、九州最南端の佐多岬に到達することだった。何も大義名分や付属の目的がなくても、やり遂げたいという強い意志があれば、結果はついてくると思う。 『列島徒歩縦断中』という幟はいかがなものか。売名行為と取られても仕方ない。 読了日:06月22日 著者: 金澤 良彦 変な家の 感想図書館で半年待って、1時間弱で読了。長男が建てる注文住宅の間取作りを手伝っている我が身としては、タイトルからして大いに興味がある内容…と思いきや、中身は薄っぺらで陳腐なホラー。 まったくの肩透かしだった。 間取りをモチーフとするミステリ仕掛けは着眼点も良いが、謎解きのプロセスには深みが全くないし、前半早々に殺人事件に結びつける強引なやり方は短絡的すぎるのでは? 代々の因縁がらみの動機解明もお粗末すぎで、児童向けの三文ミステリを読んだ気分。 読了日:06月21日 著者: 雨穴 鳥のいない空―シンドラーに救われた少女の 感想ホロコーストの惨劇はユダヤ人の上流階級といえども容赦なく襲い掛かっている。 純真無垢な少女が迫害や虐殺の場面を見て体験していくうちに、それが日常的な一コマとして生活の中に組み込まれしまい、マヒしてしていく過程が恐ろしい。 モノクロで映画化された『シンドラーのリスト』のなかで、唯一カラーで出てくる赤い服の少女の場面があるが、本文の中で表現として暗示している部分もいくつかあるのが興味深い。 破滅へと向かうホロコーストの色のない世界に、赤い色は唯一の光明なのか。その意味深さを考えてみたが、結局分からずじまいに読了。 読了日:06月21日 著者: ステラ ミュラー‐マデイ ルポ路上生活の 感想前著『ルポ西成』でも感じたが、ホームレス社会への潜入という短期間での体当たり的な体験で、どこまで本質が分かるのか?という否定的な疑問を持ちながら頁をめくった。 私はひねているので、しょせん底辺の現場労働者やホームレスでもない著者が、二番煎じを狙って興味本位で覗いた世界の話だろうと思っていた。 しかし、本書は良い意味で期待を裏切ってくれた。行政の盲点を突いた生活保護の不正受給、裏のねらいが見え隠れする宗教団体の炊き出しの実態や上前をはねる手配師たち。 まさに体験しなければ見えてこない現実がそこにあった。 読了日:06月02日 著者: 國友 公司読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
今年になって読書量が大幅に減っています。 集中することができないのが大きな理由です。 無職の定年オヤジといえども、なにかとせわしなく動いているからでしょうか。 まぁ、他にすることがなくなったら、また読み始めるでしょうね。 印象に残ったのは、『14歳のアウシュヴィッツ』。 ホロコーストの生還者の手記ですが、とても14歳が書いたと思えないくらいの文章力に驚きました。 『アンネの日記』に比較されるようですが、こちらも多くの人々に読み継がれてもいいのでは。 さて、今月の読書は…今のところ、1冊のみ。 まだ低調です。 5月の読書メーター読んだ本の数:5 読んだページ数:1597 ナイス数:217 遺言未満、の 感想シーナさんも76才。 講演会に何度も足を運ぶくらいのずっと昔からのファンなので、著者が世界各地を駆け回り、エネルギッシュに活動していた頃が懐かしい。いかに頑健な著者にも老いは確実にやってきたようだ。 本書に綴られたのは著者の死生観よりもどちらかというと世界各地の葬送の実態に頁数を割き、漠然とした死への思いから海への散骨といった【理想の最期】を語っている。 前著『ぼくがいま、死について思うこと』と併読してみて、誰もが経験するであろう死に向き合うことへの覚悟を、ほんの少しだが読み取れた気がした。 読了日:05月31日 著者: 椎名 誠 ([お]5-1)食堂かたつむり (ポプラ文庫)の 感想ヨダレが出てきそうな料理の数々。美味そうな匂いまで漂ってきそうな、調理の場面がまた良い。 想像力が掻き立てられるとはこのことか。 『ライオンのおやつ』でもそうだが、著者の料理へのこだわりが半端じゃないのを感じる。これが料理の持つ力だろうか。そして、全編を通して流れる人への優しさに溢れた表現力。 都会でも田舎でも同じだと思うが、ともすれば荒んでしまう現代のギスギスした人気関係と孤立感を、一時でも忘れさせてくれる。何かに夢中になれる集中力と謙虚で思いやりの心があれば、世の中まんざら悪くないと改めて思えた一冊だった。 読了日:05月27日 著者: 小川 糸 つげ義春コレクション 紅い花/やなぎ屋主人 (ちくま文庫)の 感想ずっと昔から何度も読み返しているが、『リアリズムの宿』が一番印象に残る。 ふらりと立ち寄った青森鯵ヶ沢の漁港、古びた民宿。このロケーションだけでも何ともいえない寂寥感が漂う。 特に、寒風が吹く中、生活に疲れた表情の宿の母ちゃんが、イカを入れた鍋を両手に持ってうつむきながら歩いていく背中が身震いするほどのリアリティ。 死神が不幸を運んできたような悲壮感が充満する世界。 やはり、つげ義春は只者じゃない。 読了日:05月25日 著者: つげ 義春 14歳のアウシュヴィッツ ─ 収容所を生き延びた少女の手記の 感想死と隣り合わせの状況にありながら、比喩を駆使したブラックユーモアと、純真な少女らしさが溢れたストレートな表現が対照的。 出版に当たり加筆修正はあったと思うが、これを14歳の少女がほんとうに書いたのかと疑いたくなるような、熟達した文章力を感じる。 収容所内で体験した悲惨な出来事は思春期の喜びと楽しさを奪い、その後の人生に計り知れない影響を与えたのは疑いようもない。 日記を綴ることのこだわりは単に書くことが好きなだけでなく、死を前にした遺書のような、残すことへの使命感を感じずにはいられない。読み継がれて欲しい。 読了日:05月25日 著者: アナ ノヴァク 谷崎潤一郎伝―堂々たる人生の 感想谷崎の生から死まで、丸裸にしたような力作。 複雑な家族関係と女性遍歴が谷崎文学の底流を形作るネタとなり、肥やしになったことを改めて実感した。 谷崎文学を特徴づけるマゾヒズム、フェティズム嗜好がどのように生まれ、成長し、開花したのかを文学的見地からも掘り下げて欲しかったところだが、さらりと読んでしまえば、谷崎潤一郎は、面倒で偏屈なただの女好きのオヤジにしか映らないところもある意味人間味あふれて興味深い。 未公開の書簡もまだ残っているというから、著者の谷崎研究がさらに発展することを期待したい。 読了日:05月09日 著者: 小谷野 敦読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
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