明日から四国お遍路を再開します。 今年3月から始めた区切り打ちの3回目で、今回は愛媛県の内子から歩き、久万高原にある44番大宝寺からのスタートとなります。 体調に問題なければ、2週間後の結願を目指す予定です。 さて、このところ夢中になって読んでいた遍路本。 森哲志著『男は遍路に立ち向かえ』(長崎出版2009年)ですが、正直言って、最後まで読まなきゃよかったと後悔しています。 前回中断した43番明石寺までのくだりで止めて、帰還してから最後までを読むべきだったと。 それほど、88番大窪寺で結願を果たす著者の描写が感動的でした。 果たして自分も、同じような感動を味わうことができるのだろうか。その瞬間はいかがなものか。 楽しみは、最後まで取っておくべきでした。 著者は元新聞記者だけあって文章も簡潔で読みやすいです。 息子ほど年が離れた若者たちや、「お接待」の文化を絶やさない一期一会の四国の人々との交流は、遍路ならではの素晴らしさが溢れています。 これまでの数少ない経験で私にも同様なことがありました。 歩きお遍路を志してから、この手の本をいくつか読みましたが、本作は数ある歩き遍路のルポとしても秀逸なでき栄えだと思います。 帰還したら自分が体験したことを反芻しながら、たくさんのお遍路本を手に取ってみたくなりました。  メインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
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最近になって、訃報が相次ぎ、人の死が身近なものになったと思えるこの頃です。 ショックだったのは、元会社の同僚。 同じ年なので、尚更です。 退職してから同僚たちと会うこともなく、疎遠をいいことにひたすら隠遁生活を続けている私なので、人の生き死にも分かりません。 訃報を知らせてくれる人もなく、ずいぶん経ってから風の便りに、元上司や同僚が亡くなったことを聞いています。 退職してからほんの3年でこれですから、これから5年、10年と経てば、サラリーマン時代のことなどもう忘却の彼方でしょうね。 といいながらも、ひょんなことから今年は会社のOB会地方支部の幹事を任されてしまい、重い腰を上げることになってしまいました。 もっとも、会社との関係を断ち斬りたいなら、退職時にOB会に入らなければよかったんですが、どこかに人恋しさがあったんでしょうか。 連休明けには打ち合わせがあり、名簿整理や懇親会の準備などで、おのずと会員の動向も分かることになるかもしれません。 幹事などできればやりたくないし、なるべくなら接点を持ちたくないと思っていましたが、まぁ、仕方がありません。 さて、2週間ほどお遍路に出ていた4月の読書は5冊で終わりました。 収穫は昆虫図鑑。 『学研の図鑑LIVE新版昆虫』を購入。 小学生から大人まで楽しむことができる図鑑ですが、少年の頃、夢中になって頁をめくったあの感動を味わっています。 不思議なもので、60才を過ぎても森の中でカブトムシやクワガタを採っている夢を見るくらいなので、虫を追っかけていた少年時代の思い出は、心の奥底や脳裏にずっと刷り込まれているのではないかと思っています。 4月の読書メーター読んだ本の数:5 読んだページ数:1373 ナイス数:212 [カラー版] 昆虫学者、奇跡の図鑑を作る (幻冬舎新書)の 感想「3才から大人までが楽しめる」「一切妥協がない図鑑を作る」生体を白バックでという明確なコンセプトをもって始まった図鑑づくりの日々を、それこそ心がときめくような文章で綴ってくれた。 これを読めば、出来上がった図鑑を買わないわけにはいかない。『学研の図鑑 LIVE新版昆虫』は、おっしゃるとおり素晴らしい出来栄え。 昆虫図鑑を毎日眺めて、いつの日にか採集してみたいと胸をときめかせた少年時代のセピア色の思い出が瞬時によみがえった。 これを作り上げた、著者を始めとした昆虫に魅せられた人たちの努力に賞賛の拍手を送りたい。 読了日:04月30日 著者: 丸山 宗利 昆虫 新版 (学研の図鑑LIVE(ライブ))の 感想丸山宗利著『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』つながりで購入し、毎日のように眺めている。何よりも生体を白バックで撮影するというコンセプトが素晴らしい。 なるほど、今にも動き出しそうな虫たちの姿にくぎづけになる。昆虫図鑑のほとんどが標本を撮影し並べているのに対して、確かにこんな図鑑はなかったと思う。 収録された2800種は普通種ばかりでなく新種も取り上げられており、日本には実に多様な昆虫が存在していることに驚く。 かつて、昆虫少年だった私にとって、これは夢のような図鑑。小学生から研究者まで楽しむことができる大作である。 読了日:04月30日 著者: 随筆集 一私小説書きの独語 (単行本)の 感想あとがきで書いている通り、ゴッタ煮鍋風の随筆集。著者の違った側面も見ることができるので、ファンとしては嬉しい内容だ。 芥川賞受賞後の全国を飛び回るスケジュールをこなす忙しさには驚き。人気作家になるとこうなんだ、と改めて驚いた。 映画版の「苦役列車」を思う存分批判しつつも、原作者として温かい目で見ている部分もあり、意外な優しい一面も感じた。 傾倒する藤澤清三はともかくとして、少年時代からの横溝正史への偏愛ぶりは筋金入り。 なかでも金田一シリーズの映画解説は簡潔な文章で読みごたえがあった。 読了日:04月07日 著者: 西村 賢太 ヒトラーの毒見役 (マグノリアブックス)の 感想やや冗長で読みづらくも感じたが、辛抱強く読了した。 全体を通して抑揚に欠けるが、淡々と流れる映画を観るようで、シリアスな内容に反して、同時に心地よさも味わうことができた。 ヒトラーの毒見役という稀有な体験を通して、ナチスに加担したという罪意識を持ち続け、死の間際に生き証人として事実を公表したモデルの女性の勇気は賞賛に値する。 ホロコーストの被害者ばかりがクローズアップされるなかで、ヒトラー独裁政権に翻弄されたドイツ人女性もいたという事実。 彼女もまたナチスの被害者といっても良いと思う。 読了日:04月06日 著者: ロッセラ・ポストリノ,Rosella Postorino 極限メシ!: あの人が生き抜くために食べたもの (ポプラ新書)の 感想6人の体験が取り上げられているが、極限の中で食べたものに対してクローズアップされていないのは残念。 入手法や調理法、味など、もっと深く踏み込んだ内容にして欲しかった。 特に角幡唯介や服部文祥といったサバイバル実践者の食へのこだわりや体験は、せっかくの題材に対して突っ込みが不十分。 内容は6人の体験や生き方のルポが中心となっており、タイトルの極限メシとはズレている。対談で角田光代を取り上げたこともとってつけたよう。極限メシとはつながらない。 本書の意図がどこにあるのか、今一つ分からない中途半端な内容であった。 読了日:04月01日 著者: 西牟田 靖読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
ブログでの読書記録の更新をサボっていた。 2月は2冊、3月は4冊にとどまった。 私の読書は、それほど繊細でもないのに、リズムにのらなければ、すぐに習慣が途絶えてしまう。 読まなくても、生活にはなんら支障はない。 本無しでは生きていけないような、偏執狂的な根っからの読書家ではないゆえんだろう。 私が参加している【読書メーター】には、そんな読書家がわんさかいる。 この人はいったいどんな読み方をしているのだろうか? ほんとうに読んでいるのだろうか? だとしたら、とんでもない速読か。 …と疑いたくなるような、毎日、5冊も10冊も感想をアップしてくる人がいる。 一字一句活字を追う私のスタイルからは、ありえない所業。 難解な哲学書や怪奇書のみに固執している人や、料理や鉄道といった特定のカテゴリに特化した人など様々な読書家で賑わっている。 このサークルの中にいると、私などごく普通の本好きでしかないし、またこれを見て密かに「自分はまとも」だと、安心したりもする。 読書は、単なる娯楽ではなく、生活の一部として体内時計に組み込まれてこそ、習慣が成立する。 それゆえ今夜の献立に悩むように、読む作業にも意外に労力を使うのだ。 活字をただ目で追っているだけでは、内容はまったく頭に入ってこない。 忘れっぽい頭を整理し、備忘録の意味もあって、30年来に渡って簡単な感想を書いて読書記録をつけているのは、“考える”という普遍的な作業を読書を通して実行しているに過ぎない。 先月は14日間の四国遍路に出ていたとはいえ、どこかで生活リズムが狂っていたように思う。 帰宅してからも、足の怪我から細菌が入るという予期せぬ病に襲われ、その間はゴロゴロと臥せっているだけで、本を開くこともなく過ぎてしまった。 健康と規則正しい生活リズムがあってこそ、私の読書があるように思う。 今月からは、好きな本を好きなだけ読む、そんな生活を取り戻したいと思う。 3月の読書メーター読んだ本の数:4 読んだページ数:1373 ナイス数:179 羆嵐 (新潮文庫)の 感想木村盛武著『慟哭の谷』を先に読んでいてよかった。 ノンフィクションとして、北海道三毛別で起きた、史上最悪のヒグマ襲撃事件のあらましを綴った予備知識があったからこそ、小説となった本作を映像を見るような臨場感をもって読み進めることができたと思う。 著者は、人食い熊を仕留めた「サバサキの兄」こと山本兵吉氏を本書では銀四郎という熊打ち名人として描いているが、これがめっぽうカッコいい。 たった一人で熊と対決するその孤高の姿に、マタギの真の強さと逞しさを見た思いがする。 読了日:03月31日 著者: 吉村 昭 自転しながら公転するの 感想プロローグとエピローグを読み返した。素晴らしい構成力と上手さに唸る。 貫一、都のシーソーゲームのような恋の行方は、昭和のラブコメ『めぞん一刻』の五代と響子のすれ違いドラマを見ているよう。 オーソドックスなパターンのようにも思ったが、そこは屈折した人間模様を描くのが得意な著者の本領発揮か。 すっきりとはいかせずに、読者を主人公・都の胸中に巻き込む計算づくの構成、最後には拍手をさせてくれる手腕はさすが。 まったく、惜しい才能を失くしたと思う。 読了日:03月31日 著者: 山本 文緒 さあ、巡礼だ―転機としての四国八十八カ所の 感想この春、四国遍路に出発する前に半分読み、帰ってから残りを読んだ。 著者と同様に、野宿しながら歩き遍路を体験した身としては、歩いてお遍路をするという体力的な厳しさ、その日のねぐらの心配など雑念に振り回される日常が手に取るように理解できた。 八十八ヶ所を結願したあとの著者の思いは、これで終わりにしたくないという、金剛杖を奉納しない態度に表れているが、反面、終わってしまったことの虚さもあったようだ。 文章がくどく、冗長で、脱線する部分も多く感じたが、数少ない歩き遍路の体験記としては、充分読ませてくれた作品だった。 読了日:03月31日 著者: 加賀山 耕一 無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記の 感想死と向きう遺作となった作品だけに、清々しいほど素直な文章で書かれている。 闘病記とは、病気と闘い打ち勝つための力強さが溢れている日記だと思っているが、魂の灯りが少しづつ消えていく治る見込みがない日記には、どうしても暗さと閉塞感がつきまとう。 自らの死を受け止め、心の平穏を追い求めた著者の作家魂と夫婦愛に敬服。 読了日:03月23日 著者: 山本 文緒読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
寒い、寒いと嘆きながら、 何もせず、ゴロゴロと過ごした1月、読んだ本の数が20冊超え。 久しぶりに読書にどっぷりとはまることができました。 集中的に読んだ三五館シンシャの仕事シリーズは、市井に生きる人々のけなげな仕事ぶりを、哀愁をおひたタッチで淡々と描いており、目の付け所に感心。 この出版社は社長兼編集者が一人で立ち上げて出版しており、『交通誘導員ヨレヨレ日記』がベストセラーとなり、人気シリーズとなっている。 今月からは、本棚に眠っている大量の積読本を崩そうと思っています。 むこう3年分くらいは、本を買わなくても、図書館で借りなくても良いくらいの分量があります。 と言いながらも、気になる本があると、ついつい飛びついちゃいますがね。 1月の読書メーター読んだ本の数:21 読んだページ数:5155 ナイス数:932 中国・ロシアに侵される日本領土の 感想本書でルポされた尖閣諸島、北方四島、竹島、沖ノ鳥島の位置を正確に言える日本人はどれくらいいるだろうか? おそらくほんの一握りさえいないかもしれない。 著者は、平和に慣れ過ぎた日本人には「領土」と「国境」に対する意識が低いと指摘する。教育によって“ショー・ザ・フラッグ”が徹底された中国、ロシア、韓国は実効支配による領土の占領を正当化し、それを何もできないまま指をくわえて見ている我が国の現状がある。 防衛予算を増大したところで、占領された領土を取り戻し、守ることは平和ボケした弱腰外交では期待できそうもない。 そんな今だからこそ、脅かされている「領土」と「国境」への理解を深める意識改革の必要性を感じる。 かつて、鰹節加工で栄えた尖閣諸島は、今では上陸もできない無人島となっているが、毎日のように中国船舶の領海侵入が起こっているのは周知の事実。 今では報道もされていないし、このまま上陸されて中国国旗を掲げられてからではすでに遅しだ。 ロシアのウクライナ侵入を目の当たりに観ているからそこ、領土問題を正確に知り、後世に残さないように解決すべく努力が必要だと痛感した。 本書は、そんな当たり前のことを教えてくれたと思う。 読了日:01月29日 著者: 山本 皓一 サンカの真実 三角寛の虚構 (文春新書)の 感想普通社会とは全く異質の慣習、信仰、独特の文字と掟、隠語を使う秘密結社のような集団…三角寛が作り上げたサンカ像である。 三角の著作からサンカを知った私は、礫川全次氏や本作品の著者の本を読まなければ、そのまま信じていたはずだ。 活字の力はつくづく怖いと思う。 虚構に塗り固められた誤った事実を、百科事典に記載されるほど、後世にまで影響を与えた三角の罪(あえて、言う)は限りなく重い。 無籍、無宿、文盲の山の漂流民・サンカは、かつての我が国に間違いなく存在していたが、今ではその影を追うことすらできない。 名誉欲に駆られ、虚構の世界に棲んだ三角の生きざまは、同情の余地がないほど哀れである。 「神の手」と呼ばれた旧石器捏造のFにしかり、人間のもつ欲はあまりにも深い。 読了日:01月28日 著者: 筒井 功 老いも死も、初めてだから面白い (祥伝社新書)の 感想本日付の朝刊で、著名人との交流秘話を収録した『孤独という生き方』という本を上梓したことを知った。 86才になる著者は「老い」をテーマにした作品が目立つようになったが、仕事への意欲は益々旺盛である。死をもって“人生の締め切り”と比喩する表現も粋な言葉。 想い出話の新刊は、締め切りに向かう人生のラストステージなのだろうか。 本書も“老い”を美化するフレーズが多く、それが素直に共感できず、鼻につく。 「老い」とは、いやなものではなく、若い時にはない、味わい深いものなのだろうか? 私にはまだ、そこまでの境地に至られない。 読了日:01月27日 著者: 下重 暁子 アラフォーウーバーイーツ配達員ヘロヘロ日記の 感想柳の下のドジョウを狙ったか、出版社が違うとこうなるのか。 悲喜こもごもとした仕事ぶりを哀切を交えた人生模様として感動的に描く、三五シンシャのシリーズを読み慣れているので、装丁や編集、イラスト、どれもノリが軽くて薄っぺらい。 ウーバーイーツのシステムや配達での出来事などはフリーライターだけあって文章は読みやすく面白いが、片手間、副業、メタボ対策といった仕事を始めた動機も軽いだけに、生活への切迫感はない。 執筆のネタが目的なのだから仕方がないか。ウーバーイーツは大都市圏だからそこ成り立つ商売。改めて確認した。 読了日:01月27日 著者: 渡辺 雅史 タクシードライバーぐるぐる日記――朝7時から都内を周回中、営収5万円まで帰庫できませんの 感想大きな事故もなく15年勤め上げた仕事ぶりに、アッパレ!をあげたい。 かつて、横山やすしが“かごかき雲助”と卑下した、タクシードライバーのイメージはまだあるのだろうか?今は大卒の新卒者の入社も多くなっているというから、業界全体の努力もあってのことだろう。 本書を読むとタクシードライバーになるための試験やルール、なってからの仕事の厳しさが良く理解できた。常にお客様の目線に立った接客を心がけ、ストィックに日々の仕事をこなしてきた著者の真面目さが目に浮かんだ。 文章も読みやすく、知らない世界の話にぐいぐい引き込まれた。 読了日:01月26日 著者: 内田正治 出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記の 感想読み続けていた海外ミステリシリーズで、翻訳者が代わったときは、明らかに文章のトーンが変化したのを感じた。 しかし、慣れてしまうとそれも気にならなくなったので、私の中では位置づけは高くない。 翻訳者を見て本を買うこともないが、それでも素晴らしい訳に出会うと、その力量に素直に感心する。 それほどクオリティが高い職業だというのに、専任で食べていける人がわずかというのは、出版業界のブラックさによるのか。 翻訳の楽しさ、苦しさよりも、多くを割いている出版社との印税を巡るいざこざや、裁判沙汰の下りが、読むに堪えなかった。 読了日:01月23日 著者: 宮崎 伸治 恐竜まみれ :発掘現場は今日も命がけの 感想中学~大学時代、化石採集に夢中になり、全国のフィールドを駆け回った。 本書にも出てくる福井県でアンモナイトを探し、でかいハンマーを担いで北海道の沢を遡った。 いつの日にか恐竜化石に出会えることを夢見ていた。もう40年以上前の私の体験だ。 日本の恐竜研究の第一人者である著者の原点も福井のアンモナイトであったことを知り、得も言われぬ親近感を持って読むことができた。 ほんの数ミリの骨片がむかわ竜の全身骨格発見につながる記述など、ワクワク感が止まらないし、冒頭のアラスカでのグリズリーとの遭遇やゴビ砂漠での嵐、自然との闘いの中での発掘は上質な冒険譚を読むように酔いしれた。 研究者になるという少年の頃の夢を実現し、発掘現場で汗まみれになりながら地道な研究の積み重ねをいとわない、初志貫徹する姿に輝きをみることができた。 化石採集や発掘調査の未経験者でも心の躍動を覚えることができる一冊と思う。 読了日:01月22日 著者: 小林 快次 コールセンターもしもし日記の 感想「暴言、恫喝と、テンション上がりまくって狂暴になっていく相手に、この仕事がほとほと嫌になる」サラリーマン時代、お客様相談窓口をしていた同僚の言葉だ。 顔が見えない電話だからこそ、そうした因子を持った人は本性をむき出しにする。 言葉の暴力は、いつまでも心の奥底に刻み込まれ、決して忘れることがない。 本書で取り上げている出来事の多くが、コールセンターでのクレームやトラブルの応対。楽しい記述はみじんもない。 心の病気が再発しないのが不思議なくらいだ。派遣社員という境遇も辛いが、忍耐を強いる仕事環境に問題がありそうだ。 読了日:01月19日 著者: 吉川 徹 女流作家の 感想ブックオフの棚にずらりと並ぶ西村京太郎の作品。対して、山村美紗は一冊も見当たらない。 かつてミステリーの女王と呼ばれてもすでに忘れ去られた作家である。 花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた』を読まなかったら、おそらく手にすることもなかった二人の作品だ。 好奇心に駆られた野次馬根性でこうして手に取っている。 先に読んだ『華の棺』より遡ること5年前に書かれた本書の内容は似通っているが、全編を通して矢木=著者の、夏子=美紗への恋慕が未練がましく綴られている。 夏子をめぐる松木=松本清張への嫉妬も含めて、そこには好きな女に振り回される頼りなく、情けない男の滑稽さが見て取れる。 矢木のキャラをあえてこうしたのは計算づくだろうか。そうでなければ、思いっきりズレている。 「山村美紗さんに本書を捧げる」と記し、口絵に二人で旅した沖縄での32才の美紗の写真を載せ、それに合わせた文中での不倫描写。この、意味ありげな演出をする神経も、下衆の私にはお笑いにしかならない。 まだ書き足らなかったのか。『華の棺』で彼女への未練は昇華したのだろうか。 読了日:01月17日 著者: 西村 京太郎 交通誘導員ヨレヨレ日記――当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちますの 感想この仕事、自分にできるだろうか?…その都度、我が身に当てはめてシリーズを読んでいる。 結論から言って、どの仕事もできそうもない。 交通誘導員についていえば、3K職場という理由以上に、コミュニケーション能力や判断力の必要性、ひいては人の命を守るという重責には、とてもじゃないが自信がない。 リタイヤして2年、いまだに何もせずにのんびりと暮らす軟弱者には、言うに及ばずだろう。 昨年、中山道の歩き旅で、交通量が多い歩道もない片交の現場で先に進めず躊躇したことがあった。私より年配の誘導員が、対向車を止めて、100メートル先の工事終了区間まで誘導して一緒に歩いてくれた。まさに地獄に仏だった。 知らない世界の仕事の厳しさを、ありのままにその日常を記した著者の筆力にも感嘆したが、どこか険がある奥さんの言葉にもひるまず、聞き流してしまう熟年夫婦の危うい関係にもハラハラしてしまった。 読了日:01月16日 著者: 柏耕一 蟻地獄/枯野の宿 (新潮文庫 つ 16-5)の 感想1958年~66年までの初期作品は、貸本で少年たちに人気があった宇宙や時代劇モノが並ぶ。 絵のタッチも白戸三平や手塚治虫に似通っており、かなり影響を受けていたようだ。 しかし70年代になり一転してタッチは変わり、哀愁と寂寥感が漂うシュールな絵になっている。 この頃から自分のスタイルを確立したのだろうか。 旅館の女中との逢瀬を描いた73年に発表された『懐かしいひと』は、74年の『義男の青春』の続編にあたるが、面白いのは『懐かしいひと』のほうが先に出されていること。これも計算づくか。 だとしたら、やはり只者ではない。 読了日:01月15日 著者: つげ 義春 乙女の読書道の 感想本の雑誌の連載も読んでいたが、こうして一冊にまとまると、SF愛にかける偏読ぶりに改めて驚く。 キノコや人体デッサンの本も挟まれているので、この辺りは偏りを意識してか。 そして、父の作品をちゃっかりと紹介するのも忘れない。父親想いが垣間見れる。 紹介されている作品の中で読んだのは『女盗賊プーラン』のみ。ジャンルの傾向はまったく違えど、紙の本を愛する熱量は大いに共感した。 巻末の池澤夏樹との父娘対談がまた良い。同じく、娘を持つ身なので、本の話題で盛り上がる関係が実に羨ましく思う。 これこそ活字中毒冥利に尽きよう。 読了日:01月14日 著者: 池澤 春菜 華の棺の 感想花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた』を読み、好奇心に駆られて手に取った。 西村京太郎は初読みだが、昭和の残り香を感じる雰囲気はまだしも、緻密さを感じない粗削りの文章と句点だらけのぶつ切り文体に辟易。 著者の作風はこうなのかと、まずは思った。 夏子=山村美紗を取り巻く登場人物や作品名も察しがつき、これまでのイメージが変わってしまいそうで、良い気持ちはしない。 古代史論争を繰り広げた松本清張と高木彬光。清張の『日本の黒い霧』や『清張通史』、高木彬光『邪馬台国の秘密』。 かつて夢中で読んだことを思い出す。そして山村美紗の『小説長谷川一夫』。 歿後10年経ち、小説の名を借りてここまで晒したのは何故だろうか。それは同志としての使命感なのだろうか。 矢木の名を借りて屈折した心中を吐露するのは、未練がましい愛情表現とも感じる。 何より、美紗の夫である巍氏の存在を離婚の一言で消してしまったことが、鼻持ちならない。 古代史論争の部分も冗長だし、男を手玉に取る夏子の態度とその裏側にある心情が今一つ伝わらず、死をもって強引に幕引きさせたような後味の悪さを感じる作品だった。 読了日:01月13日 著者: 西村 京太郎 メーター検針員テゲテゲ日記――1件40円、本日250件、10年勤めてクビになりましたの 感想このシリーズ、手に取ったのは6作目。著者はいずれも執筆経験者で、本作品も作家希望の人。 どんな内容にせよ、自分の本を出せたという夢が叶ってまずは良かったと思う。 メーター検針員の仕事は傍から見たらラクそうに見えたが、そこは野外を相手の仕事。これでもか!と辛い現場の経験が綴られていく。 人と接する仕事だけに、独居老人の寂しい実態も書いているが、虐待された犬のことまで触れるあたりは、観察眼もあり、単なる仕事のルポのみで終わっていないところに好感が持てた。 「慎ましい生活で十分」という著者の生きざまにも大いに共感した。 読了日:01月11日 著者: 川島 徹 派遣添乗員ヘトヘト日記――当年66歳、本日も“日雇い派遣"で旅に出ますの 感想これまでの人生で、ツアーや社員旅行で添乗員と何度も接しているはずなのに、彼らの印象が残っていないのはなぜだろう? これを読むと、その意味が少し理解できた気がする。 著者曰く究極のサービス業というだけあって、黒子に徹して、無事にツアーを終了させてこそ当たり前。できなければ仕事の真価が問われるということだ。 個性よりもマネジメント能力がすべて。印象が残らなかったということは、裏を返せば、彼らはよい仕事をしたということだろう。 いかんせん、クレームの矛先は添乗員に向いてしまう。 因果な商売だが、それがサービス業である。 読了日:01月09日 著者: 梅村達 京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男の 感想山村美紗と西村京太郎、そして美紗の夫である巍氏の不可思議な関係が知りたくて手に取った。 単なる覗き見趣味の何物でもないが、年間15作も書き、何本もの連載を持ち、一日20時間も一心不乱に机に向かう作家としての山村美紗の執念に圧倒され、下世話な男女関係などどうでもよくなってしまった。 「賞なし作家」のコンプレックスを隠し、売れる作品の量産化にこだわり、時流に乗ったことで人気作家になっていく山村美紗の心情も分からぬではない。 山村美紗の代表作、名作といわれる作品はあるのだろうか。西村京太郎も含めて、私は一冊も読んだことがない。 著者が文壇のタブーに挑戦し、ノンフィクションとして本書を上梓したことは評価に値する。 生前の西村京太郎に取材できれば、より内容に深みが増したと思うが、全員が物故した今、真実はすべて闇の中である。 読了日:01月07日 著者: 花房 観音 非正規介護職員ヨボヨボ日記――当年60歳、排泄も入浴もお世話させていただきますの 感想このシリーズを手に取るのは四作目。感心するのは書き手の文章の巧さ。 この作品の真山氏も、小説部門で地方の文学賞を獲ったというだけあって、筆力はなかなかのもの。 入居者同士の自慢話を描いた項は、まるで漫才を見ているようで思わず笑ってしまう。 介護が暗く過酷な現場と思ってしまう先入観を払拭するのは大変だが、あえて明るく描いた著者のねらいを見た気がする。 社会福祉を学んでもその職に就くことなくリタイヤした私には、福祉を語る資格は毛頭ないが、ここで働く人々に処遇改善ともっと光を与えなければ、文明国家とはいえないだろう。 読了日:01月05日 著者: 真山 剛 ケアマネジャーはらはら日記の 感想70才近くになっても働く意欲を失わない、この人のバイタリティーに脱帽。 仕事の苛烈さは想像通りだが、それ以上に職場の人間関係の煩わしさに読み手として感情移入した。 パワハラはどんな現場でも起こりうるが、コイツはいただけない。 最後通牒ともいえる証拠メモを突き付ける場面は痛快。まさに遠山の金さんのようですっきりした。 嫌な職場に居続けることほど辛いことはないのだからこれでいい。 内容はケアマネの仕事云々よりも、よくある半生記のような気がしないでもない。 福祉現場の現実か、これで年収450万はまったく見合わない。 読了日:01月05日 著者: 岸山真理子 マンション管理員オロオロ日記――当年72歳、夫婦で住み込み、24時間苦情承りますの 感想定年後の職探しでハローワークで紹介されたのが、この仕事。先にリタイヤした先輩たちもやっているし、イメージとしては、年寄りにピッタリの楽な仕事と思っていたが、これを読んで、自分には無理だと痛感。 気が短い人には向かない仕事のようだ。 それにしても、管理人を下僕のように扱う住人たちの高慢チキさ。無理難題のクレーム。読んでいて腹が立ってくる。 年寄りにストレスは禁物だが、この状況下で、仕事への喜びを魅いだせるというのか。 最後の一文に、充実感とやりがいがあったと書かれていることに救われた。 このご夫婦を、素直に尊敬。 読了日:01月05日 著者: 南野 苑生 潜入・ゴミ屋敷-孤立社会が生む新しい病 (中公新書ラクレ, 733)の 感想先に、村田らむ著『ゴミ屋敷奮闘記』を読んだので、潜入ルポというパターンには新鮮味がなかった。 村田氏のルポに登場するのは、ゴミ屋敷の住人自らが金を払って掃除をしてもらうという、往々にして身辺に“だらしがない”人のルポ。 反面、本書に出てくるのは、『ためこみ症』という病気によりゴミ屋敷となり、ひいては死に至ってしまうという事実。 その背景には孤立社会と呼んでもいい、我が国の病んでいる構造が影響しているように思えるが、つきつめれば、孤立する人それぞれの理由が大きい。 すべてを社会のせいにするには無理があると思えた。 読了日:01月05日 著者: 笹井 恵里子 老人をなめるな (幻冬舎新書 667)の 感想今年、前期高齢者の仲間入りをする私としては、どうにも気になって、老後に関するこの手の本をつまんでいる。 著者の作品は好きなので欠かさず読んできたが、最近の傾向としては、いかにも高齢者の代表のように主張したり、反面、年寄りが虐げられているような卑屈感が漂う記述が鼻につくようになってきた。そろそろ著者の本ともお別れか。 ただ、「親の介護を子供がして当然、ではない」は賛同。 国の福祉行政に関わるこの問題。少子化問題を含めて、おそまつ過ぎる施策の現状を一刻も早く改善しなければ、“一億総介護国家”となってしまうだろう。 読了日:01月05日 著者: 下重暁子読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
年が明けてからダラダラと過ごしてしまい、気づくと一週間が経っていました。 何もしなくても時間は過ぎていきます(笑)。 そろそろ旅の計画を立て、それに向けてのトレーニングを開始したいと考えています。 早く暖かくなることを願うばかりですね。 さて、昨年の読書はいつになく低空飛行で終わってしまいました。 読んだ数は81冊。 ページ数にすると23055ページ。 『ベルリンに一人死す』(ハンス・ファラダ著)のような生涯ベストになりそうな本との出会いもあったので、読んだ冊数は少なくても、それなりに充実した読書体験ができたと思います。 今年も心の琴線に触れるような本との出会いがあればしうことありません。 では、先月12月のまとめです。 12月の読書メーター読んだ本の数:8 読んだページ数:2453 ナイス数:391 ドリフターズとその時代 (文春新書 1364)の 感想『全員集合』が始まった1969年から土曜8時のその時間が楽しみで、リアルタイムでテレビにかじりついていた小学生時代。 そこから受けたインパクトは計り知れず、番組を観ていなければ学校での話題にはついていけなかったほどだ。 もちろん荒井注の離脱や志村けんのデビューも知っているし、『全員集合』打ち切りによるドリフの終焉までの過程も観てきたつもりだ。 たけしやさんまの第二世代の漫才ブームが去り、第三世代といわれるお笑い芸人が雨後のタケノコのように跋扈する今は、お笑いにまったく関心がなくなってしまったが、なぜドリフのコントにあれほど魅せられたのだろうか。 同時代にはコント55号やクレイジーキャッツもいたし、似たようなコミックバンドはたくさんあったのに、ドリフターズの印象が、メンバーひとり一人の表情まで“刷り込み”のごとく強く残っている。それをずっと不思議に思っていた。 本書を読んで、その答えが少し分かったような気がする。視聴率50%は伊達ではない。それは大衆の行動心理をも動かす影響力を持つ。大仰にいえば、メディアと絶妙に融合したグループのポリシーとメンバーの個性が、忘れられない記憶として心の奥底に刻まれてしまったということなのかもしれない。 だとしたら、まるで洗脳されたようでもあり、恐ろしい。荒井、いかりや、志村、中本が鬼籍に入った今、ドリフターズは個人の記憶から、更に国民の記憶として永遠に刻まれるだろう。 読了日:12月27日 著者: 笹山 敬輔 青線 売春の記憶を刻む旅 (集英社文庫)の 感想飛田新地、渡鹿野島、沖縄吉原など全国に散らばる代表的な青線地帯を取り上げており、その成立と繁栄の歴史を詳しく調査し、娼婦へのインタビューや体を張った突撃的なルポなど、消え去りゆく風俗の今を伝えた労作。 また、阿部定や福田和子、大久保清といった犯罪者たちの生い立ちと生涯を、青線の因果関係と絡めていく視点も本書の肉付けとして厚みを増している。 風俗満載の薄っぺらなルポと思い興味本位で手に取ったが、さにあらず。現代日本の縮図ともいえる売春の記憶を、真摯に、するどく切り取る内容に、良い意味で期待を裏切ってくれた。 読了日:12月24日 著者: 八木澤 高明 涙の谷―私の逃亡、十四年と十一カ月十日の 感想獄中で書いた360枚の書き下ろし手記。印税の800万円は被害者遺族に寄付されている。 文章は拙いが、第三章の「逃亡」は迫真に満ちている。逃亡犯として以上に、訳ありな女が一人で生きていくことの世間の厳しさを実感せずにいられない。 身を隠す先は水商売や風俗業。著書『青線~売春の記憶を刻む旅』で福田和子を取り上げた八木澤高明は、和子と青線の関係をえぐっているが、これを読むとその生い立ちから逃亡犯として捕まるまで、まるで見えない糸に導かれるように、裏街道と言うべき全国の青線地帯を渡り歩いているのが分かる。 男運がないばかりか、“類は友を呼ぶ“のごとく、周りに群がるあくどい者たち。 過去のトラウマから自首ができない理由も理解できるが、時効を狙う逃亡が長引くにつれ、それがかえって悪運を積み重ねていくことのもどかしさは愚かとしていいようがない。 まさに、不幸を絵にかいたような涙と流転の人生の果てに、一筋の光は射したのだろうか。無期懲役となり、身をすり減らす逃亡生活から解放されたとき、被害者を弔うためにほんの少しでも穏やかな日々を得たと思いたい。 しかし哀しいかな、2005年に獄死する、ドラマチックでしたたかな人生であった。 読了日:12月22日 著者: 福田 和子 弘兼憲史流 「新老人」のススメの 感想男の老後の指南書ともいうべき著者の本をいくつも読んでいるが、この作品も然り、内容は似たり寄ったりで目新しさはない。 そんな中で少し参考になったのは、~適当に息を抜く「まあ、いいか」の精神で~の項。 早期リタイヤし、心身ともにサラリーマンのしがらみから解放されたのは2年前。しかし、日々の暮らしの中でも小さなストレスはついてくる。 我が身に当てはめると、肩の力を抜く「まあ、いいか」の言葉が分かっていてもぐさりとくる。 巻末の北方謙三氏との対談も面白い。男はいくつになっても色気が必要、枯れてはいけない…なるほど。 読了日:12月19日 著者: 弘兼憲史 ねじ式 (1) (小学館文庫 つA 1)の 感想忘れた頃に読み返す作品集がこれ。好きな作品は『チーコ』。 1968年の『ガロ』3月号に掲載された小編だが、小学生の時、町の本屋で立ち読みして、それ以来ずっと印象に残っている。 かぐや姫の名曲『神田川』の四畳半ひと間の世界を彷彿とさせる設定に、文鳥を通してのささやかな幸せの日々が、たとえようもなく哀愁を帯びる。 スケッチされたチーコが空に舞い上がるシーンは何度見ても胸がキュンとなる。 これぞ、つげ義春の世界だと思う。小学生の心をも鷲掴みにし、感動させる著者は、やはり只者じゃない。 読了日:12月19日 著者: つげ 義春 おいしいごはんが食べられますようにの 感想煮え切らない二谷と、煮え切らないまま淡々と続いていく芦川さんとの関係が、食べ物という線でかろうじてつながっている不思議なストーリーに、妙に感心。 これだけたくさんの料理やスイーツが出てきても、二谷の醒めた視線の先にあるので、どれも美味そうに見えなかったが、なぜかカップ麺の描写が食欲をそそった。 それにしても人間は身勝手な動物である。得てして、職場の人間模様はこんなものだろう。人の心の中は分かるはずもなく、まして、自分の本心も他人には決して分からないものだろうとつくづく思った。 まさに、愚かなばかし合いである。 読了日:12月19日 著者: 高瀬 隼子 義男の青春・別離 (新潮文庫)の 感想ませたガキだったので、ランドセルを背負った小学生時代から『ガロ』を町の本屋で立ち読みしていた。 その頃から50年以上もファンを続けているお気に入りが、つげ義春。本書に収録された作品は70年代から終作となった87年の『別離』まで。 夢日記をもとにした活動前期に多いシュールな作品は少ないが、それでも『外のふくらみ』や『窓の手』といった気色の悪い作品が並ぶ。お気に入りは『別離』。 心神喪失状態にあった頃の執筆だけに、閉塞感と苦悩が迫る。 この作品をもって長い休筆状態になってしまったことが、ファンとしてあまりにも寂しい。 読了日:12月16日 著者: つげ 義春 踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代の 感想1997年に誰にも看取られることなく逝った一条さゆり。 その見事な生きざまに『アッパレ!』をあげたい。 引退後の彼女がなぜそこまで釜ヶ崎にこだわったのか。激動の時代と明暗の人生を経験しながら流転の果てにたどりついた釜ヶ崎は、彼女にとって安息の地だったのだろうか。 虚言と無垢が同居する破天荒な芸人、天性の踊子としての魅力の裏には、不器用な生き方しかできない優しい女性の姿がある。 そのすべてが彼女の伝説に花を添えたように思える。 奇しくもデビューした1958年は私の生まれた年だ。できることならその舞台を観てみたかった。 読了日:12月15日 著者: 小倉 孝保読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
11時過ぎに寝床に入っても、気になって何度もスマホで試合状況をチェックし、寝付かれぬまま試合終了までうだうだと過ごしてしまった。 完全に寝不足ですね。 それにしてもこの負けは痛かった。 ワールドカップの度ににわかサッカーファンになる私ですが、悔しい試合でした。 今日からはきれいさっぱりサッカーのことは忘れてしまおう。 さて、11月の読書はあいかわらずの低空飛行。 4冊で終わりました。 少ない中にも収穫が一冊ありました。 『グランマ・ゲイトウッドのロングトレイル』です。 3300㎞に及ぶアパラチアン・トレイルを5ヶ月間かけて完全トレースした67才のおばあちゃんの話ですが、これは私のような歩き旅大好き人間にはバイブルになりそうな作品。 なんで長距離を歩くのか…という答えは、「ただ、歩きたいから」。 良いじゃないですか、コレ。 歩くことにヘンなこじつけや、こだわり、哲学はいらない。 歩きたいから、歩く。 風の吹くまま、気の向くまま。 ついでに人生も。 うーん、私もこれでいこう(笑)。 11月の読書メーター読んだ本の数:4 読んだページ数:885 ナイス数:227 内なるゲットーの 感想ホロコースト、ショアー、ジェノサイド、フルバン…意味合いは微妙に違うが、どれもナチスがユダヤ人に果たした最終的解決の言葉である。 アルゼンチンに亡命した主人公のビセンテが、遠く離れた祖国ポーランドのユダヤ人虐待を知るにつれ、精神的に追い詰められ、心が蝕まれていく様子は、直接的な被害はないとしても、これもまたホロコーストの犠牲者といえる。 祖国に残した母親や家族の無事を思う気持ちを、逃げることができないゲットーや収容所に重ねて、苦悩し続ける主人公の閉塞感が、やるせなく、辛く、後味が悪かった。 読了日:11月30日 著者: サンティアゴ・ H・アミゴレナ 住宅営業マンぺこぺこ日記――「今月2件5000万! 」死にもの狂いでノルマこなしますの 感想舞台となっているタマゴホームは、おそらく誰もが知ってるタ〇ホームだ。 何を隠そう我が自宅はここで新築した。裏の裏まで詳しく描かれた営業担当とのやり取りは、今思えば当てはまることが多くある。 ローコストゆえ値引きをしないのは当たり前と思っていたが、裏話を読むと、「しまった」と今更ながら思ってまう。 一人で何役もこなすハードワークの営業姿勢に、業界のブラックさとサラリーマンの悲哀を感じるが、家族のために仕事に邁進していく姿には共感を覚えた。 人間模様も然り、余命いくばくもない少女のために一肌脱ぐ話には、ホロリときた。 読了日:11月14日 著者: 屋敷康蔵 グランマ・ゲイトウッドのロングトレイルの 感想しまった、これは購入すべき本。 何度でも読み返したい、手元に置きたい一冊だ。今更ながらに図書館で借りたことを後悔している。 1955年に3300㎞に及ぶアパラチアン・トレイルを5ヶ月間かけて完全トレースした67才のおばあちゃんの話であるが、なんとその後も、計3回踏破したというからとんでもない。 わずかな生活用具と食料を入れた手製の袋を肩に担ぐサンタクロースのようなスタイルで、未整備の道をトレッキングする様子は現代では突拍子もないスタイルにも思える。 記者の質問に「ただ歩きたいから」と答え、黙々と歩き続ける生きざまには深い感動を覚えた。一口に3300㎞を歩くといっても、ゴールまでやり遂げたいという強い信念と、体力、いくばくかのお金と、家族の理解がないと達成するのは難しい。 私も2020~22年に徒歩で106日間かけて日本列島を縦断し、2900㎞の距離を歩いたので、グランマ・エマが経験した距離感や、旅の苦労や喜びをほんの少しだが共感できる。 純粋に歩くことに向き合い、今をもってしても世界のアルキニストの金字塔的目標となっているグランマ・エマ。 その生きざまを余すことなく書いてくれた著者に感謝したい。 読了日:11月12日 著者: ベン・モンゴメリ 神さまの貨物の 感想文体はファンタジーや童話の体裁を取るようにみえるが、内容はノンフィクションばりに実に生々しい。 そこには、収容所へ移送する汽車やガス室、丸刈りにされる頭、囚人番号が彫られた腕といったホロコーストならではの死へと向かう残忍な事実が埋め込まれている。 反面、赤ん坊の描写は生の象徴でこれ以上ないほど癒される。 これはほんとうにあった話なのか…最終章で繰り返し、繰り返し語られる“ほんとうに”の言葉の意味は、風化しつつあるホロコーストとユダヤ人の悲劇の歴史を、目を背けずに知ってもらいたいという著者の願いと受け止めた。 読了日:11月07日 著者: 読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
夏からずっと低空飛行が続いている、読書生活。 もはや、晴耕雨読の生活どころか、本を読むことの楽しさも忘れかけている。 文字通り、バタバタと動いていた10月、本を読むゆとりさえなかったように思います。 長男の新築計画に首を突っ込んだばかりに、私が見つけてきた外構業者の着工ドタキャンに遭って、消費者相談センターやら、新たな業者との交渉など、我が身以外の所で起こったトラブルに奔走。 そんな中、混乱した頭をすっきりさせるために旧東海道を歩いたりもしたが、件のトラブルはいまだに収束にあらず。 まぁ、時が解決してくれるのをじっと待つしかありませんね。 何年後かには、きっと笑い話になることを信じて。 さて、そんな中にも少ない読書のなかで、生涯ベストになるのではないかと予感させる本に出合いました。 ハンス・フォラダ著『ベルリンに一人死す』です。 詳しくは、感想に書きましたが、琴線に触れる本との出会いは一期一会。 この年になって、そんな作品に出会えたことに感謝です。 10月の読書メーター読んだ本の数:3 読んだページ数:1246 ナイス数:207 ベルリンに一人死すの 感想生涯ベストになりそうな予感がする。 二段組607頁の大作にも関わらず、眠ることさえ忘れるほど作品の世界に没頭した。 ナチス隆盛下のベルリンで、国家社会主義に抵抗する労働者夫妻の実話をもとに描かれたというが、特筆すべきは戦後すぐの1946年に上梓された作品であるということ。 ナチの残党やネオナチも多くいたであろう混乱の敗戦下で、抵抗運動に奔走した人々は、この作品をどう受け止めたのだろうか興味が湧く。 政府を批判した285通の葉書と手紙のいきさつは、当時の市民の記憶にわずかでも残っていた時期ではないか。 それを思うと本書出版の意義が新生ドイツ復興の勢いに重なっていく。 拷問に屈せず最期まで信念を貫くクウァンゲル夫妻の生き方には、意志の強さ以上に人間としての尊厳を重んじ、崇高に生き抜く清々しさを感じた。 間違っていることを、「間違っている」と言える勇気は真の強さを持っていたからこそだろう。 独裁者を頂点とし、密告者が暗躍し、言論の自由が束縛される全体主義国家は、現代においても多く存在し、世界地図を塗りかえるようにその勢力を伸ばしている。 混迷を極めるこんな世の中だからこそ、この作品は多くの人々に読み継がれて欲しい。 読了日:10月23日 著者: ハンス・ファラダ 運命ではなくの 感想強制収容所で過ごした実体験を、後年になって私小説化したハンガリーのノーベル賞作家の作品。 囚人として収容されるまでの過程には悲壮感や卑屈感はなく、まるで遠足に行くように、気づいたときにはアウシュヴィッツ行の汽車に押し込められていたという、あっけない描写。 そこにはユダヤ人であることすら、なんの疑問も持たぬ純粋な14歳の少年心が見え隠れしている。 しかし、いくつかの収容所を移送されながら、食糧難や病苦にあえぎ貪欲に生きる日々を重ねる過程では、過酷な生活を淡々と描いていくなかに、少年らしからぬ醒めた視点や思考が現れてくる。 解放後に祖国に戻ったとき、新聞記者に“地獄”に例えられた収容所生活を同意せずに、その一言で片づけたくない複雑なイデオロギーを主人公を通して言わしめている。 社会主義体制下のハンガリーだからこそ言いたかった、著者の心の叫びかもしれない。 読了日:10月14日 著者: イムレ ケルテース アウシュヴィッツを越えて―少女アナの物語の 感想ホロコーストを生き抜いたユダヤ人少女の回想録だが、全編を通して実録をもとにした生々しい記述に溢れている。 興味深いのは、ナチス侵攻以前のポーランドの中流階級で育った主人公姉妹の生活。 そこには中流階級といえども使用人を何人も抱えた、艶やかなブルジョアの暮らしが見えてくる。 平和で輝いていた少女時代が一変し、ワルシャワゲットーからアウシュヴィッツへと、まるで奈落の底に落ちていくような、不幸を絵に描いたむごたらしさの明と暗のギャップに息を飲む。 一方でお嬢様らしからぬ、過酷な収容所生活をしたたかに生き抜く強さも、持って生まれてた強運として映る。 ヨーロッパでは戦後、ホロコーストを経験した人々の手記が何百も出版されたというが、本作を遺すことができたのは、著者が“歴史に選ばれし人”だったからこそであろう。 本書はゲットーとアウシュヴィッツの章で多くを割いているが、死の行進を経て解放された後の記述がさらりと書かれているのが、少し残念な気がした。 読了日:10月07日 著者: アナ ハイルマン読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
9月は久しぶりに10冊超えの本を読んだ。 これから秋が深まっていくにつれ、好きな本を好きなだけ読む生活ができたらうれしいけど、読書を継続的に続けるのも実際にはなかなかしんどい。 年と共に減退している集中力に尽きるかもしれません。 一昨日、このところ暇つぶしに遊んでいるボウリングをやってつくづく思いました。 1ゲーム目のアベレージは138。 おぉ、いいぞ! …と気をよくしたのもつかの間、2ゲーム目は92、3ゲーム目は102という低スコアに沈みました。 体力もそうですが、たかだか玉を転がすゲームにも集中力がなければダメですね。 ボウリングは技術以上に集中力というプレッシャーが大きく左右する心理ゲームだと思います。 さて、9月の読書の収穫は、イタリア人作家のパオロ・コニェッティ著『フォンターネ 山小屋の生活』でしょうか。 全編を通して漂うほんわかした包容力がある文体に惹かれました。 心を平常心に戻し、癒してくれるのも、読書の効能といっていいかもしれません。 9月の読書メーター読んだ本の数:12 読んだページ数:2557 ナイス数:498 ニホンオオカミは生きているの 感想宗像充著『ニホンオオカミは消えたか?』つながりで手に取った。 表紙にあるニホンオオカミ?と思える写真を撮ったばかりに、孤軍奮闘する著者の姿が気の毒に思えて仕方がなかった。 専門家でさえ肯定派、否定派がいる世界で、在野の研究者として存在を立証する難しさは想像以上である。 突き詰めれば、やはり生け捕りしかないのか。 「日本の国から二ホンオオカミを消してしまったのは、オオカミ学者を自称する動物学者ではないのか」…と、皮肉ともとれる著者の言葉が心に響く。 ロマンで終わらず、実在を証明する日が訪れることを切に願いたい。 読了日:09月27日 著者: 西田 智 四つの小さなパン切れの 感想ホロコーストから生還した人々の手記は数多あるが、本書は後世に語り継がれる名著といえるのではないだろうか。 ハンガリー系ユダヤ人の数少ない証言であるということも興味を引く。 二部構成のうち、前半の「時のみちすじ」ではアウシュヴィッツに強制収容されてから解放までを追っていくが、恐怖に凍りつく体験を、断片をつなぎ合わせるような淡々とした切り口や、映像を見るようなリアルな表現も駆使して書かれている。 後半の「闇から喜びへ」は詩作を含めた心象風景で体験を綴っており、人間の尊厳を無視したナチスの蛮行に対しての不条理を訴えながらも、前向きに生きることの意義を紡いでいる。 救われるのは、自分をショアの犠牲者ではなく、自分自身のなかで和解した証人だと感じている、と言い切るところ。 著者の真の強さと、魂の昇華を見た思いだ。 読了日:09月25日 著者: マグダ・オランデール=ラフォン 誰もいない文学館の 感想数多いる作家と比べて読書量の少なさを冒頭で謙遜しているが、読み進むにつれ、それが思いっきり的外れだと分かる。 大正~昭和初期の近代文学の知識の奥深さや、古書業界に精通した見識は、著者が単なる物書きでないことを証明している。 恐るべきは、小学5年から横溝正史に狂い、『宝石』を読み、15~16歳でマイナーな作家群を読破していく早熟さ。 師と仰ぐ、藤澤清造つながりでの物故作家の発掘と研究は、私小説を書く以上に夢中になれる活動であったと見て取れる。 無頼派を通して逝ってしまったが、死してなお、稀有な才能は輝きを失わない。 読了日:09月23日 著者: 西村賢太 イレーナ・センドラー―ホロコーストの子ども達の母の 感想ナチス占領下のポーランドで、人道的見地からユダヤ人迫害に抵抗し、地下組織による支援を行った非ユダヤ人は多くいたという。 ワルシャワゲットーから強制収容所へ移送される子供たちを救出し、逃亡の手助けをしたその数2500人。本書の主人公イレーナ・センドラーたちの活動は、かのオスカー・シンドラーのはるか上をいく。 こうした快挙が歴史に埋もれていたことはもどかしいが、近年になり、ホロコーストの犠牲者ばかりでなく、支援活動に奔走した正義の人々に光が当たったことが素晴らしい。 ルビもふられているので児童書として推薦できる。 読了日:09月23日 著者: 平井 美帆 ニホンオオカミは消えたか?の 感想本書に何度も登場する『オオカミ追跡十八年』(斐太猪之介1970)は、中学になった年になけなしの小遣いで初めて買った本。 あれから50年以上、ずっとニホンオオカミが気になっていた。毎年のように目撃証言があるなかで、権威的な絶滅宣言をひっくり返すのは、もはや生け捕りしかないだろうか。 秩父野犬と称された写真の主は素人目にもどこからみてもオオカミであるが、写真では決定打とはならず、絶滅宣言の権威は揺るがない。 外来種のタイリクオオカミを入れて生態系を守る議論よりも、在来種のニホンオオカミの存在を証明する方が先決であると思う。 二ホンカワウソにしかり、著者を始め絶滅動物の捜索に人生をかけた在野の人々の努力が報われる日が来ることを願いたい。 読了日:09月20日 著者: 宗像 充 時が止まった部屋:遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなしの 感想孤独死の現場をミニチュアで再現することに、どんな意味があるのか?最後まで読んで、その答えが見えてきた。 生々しい現場をあえて模型で表現し展示することで多くの人に見てもらうことが可能になり、今や社会問題となっている孤独死の現実を世に問うことが、著者のねらいである。 模型といえども作中に出てくる孤独死の現場を見ると、一人で死んでいくことの寂しさははかり知れない。 人間関係が希薄になっている世の中であるからこそ、著者の活動の意義を感じる。 反して、遺品整理の現場に群がる縁もゆかりもないハイエナどもには強い憤りを感じた。 読了日:09月16日 著者: 小島 美羽 昭和三十年代、露地裏パラダイスの 感想キレのある小気味よい文章に惹かれた。 想い出で綴る、男勝りの母親の気風の良さがまた良い。古き良き時代の江戸っ子の粋がある。 下町情緒が色濃く残る深川で生まれた著者は私より少し年長だが、同じ昭和30年代を経験した世代として、親近感を抱かずにはいられない。 記憶の奥底にあった懐かしの風景が次々によみがえってくるのだ。米屋の店先に並んだプラッシーを指を咥えて見ていたあの頃。同じ経験をした著者とはまさしくビンゴ。 貧しくても幸せだったセピア色の風景はどんなに思い出しても帰ってこないが、この作品に出会えてよかったと思う。 読了日:09月16日 著者: 長谷 美惠 「ゴミ屋敷奮闘記」の 感想夜逃げ同然で出て行った隣家が空き家になって早一年。庭先に散乱する放置されたゴミの山も草に埋もれている。 悪臭が鼻を突き、ネコが巣くう状況を自治会に訴え、市役所の職員までが調査に出動することになったが、持ち主と連絡がつかないということでそのままだ。 ゴミ屋敷は近隣住民にとっても迷惑この上ない存在である。本書を読むと、身勝手でだらしないゴミ屋敷住人たちの実態が見えてくる。 理由はそれぞれだが、金を払えば掃除をしてもらえるという根性が許せない。 取材目的のアルバイトとはいえ、ゴミの山で奮闘する著者の苦労が不憫に思えた。 読了日:09月15日 著者: 村田らむ 「ナパーム弾の少女」五〇年の物語の 感想戦争の悲惨さを切り撮った表紙の写真は、これまで幾度も目にしてきた。 ベトナム戦争を終結に導いたきっかけの一つになったともいわれており、重度の火傷を負った被写体の全裸の少女(キム・フック)とともに数奇な運命をたどっていく。 一枚の写真がもつ影響力に翻弄されながらもそれを武器にして、平和を訴える活動に身を投じたキム・フックはまさに“選ばれし人”である。 言論の自由が閉ざされた社会主義体制下のベトナム、キューバから決死の亡命を経て自由の身となっていく過程は、ミステリ小説ばりのドラマチックな展開。 驚かずにはいられない。 読了日:09月13日 著者: 藤 えりか アンネ・フランクはひとりじゃなかった――アムステルダムの小さな広場 1933-1945の 感想アムステルダムの一等地に建設されたメルウェーデ広場を中心とする集合住宅群には、ドイツを追われたユダヤ人の富裕層が移住しコミュニティを形成していたという。 本書はアンネ・フランクを始め、一部の恵まれたユダヤ人たちの安息の場として、それを象徴するメルウェーデ広場を取り巻く人間模様と迫害の実態を時系列に描いている。 やがて移送されていく収容所と、自由と幸福の象徴であった広場とのギャップが、登場する人々の波乱の人生と重ね合わせ、読み応えがある。 広場に住まうユダヤ人住人と広場とは縁がない困窮するユダヤ人難民やオランダ人社会とは、貧富の差から生じる妬みや確執もあった。 その差別意識から密告、迫害の波が加速していく過程は、緊迫した状況においてユダヤ民族の結束が必ずしも固くなかったことを物語っている。 ナチス占領下のオランダのユダヤ人が置かれた状況について注目されたのは『アンネの日記』の存在によることが大きが、フランク一家の隠れ家を密告した人物は以前謎のままだ。先に読んだ『アンネ・フランクの密告者』を始め、ここにきてアンネ・フランクを取り巻く一連の作品が次々に出版されているのはなぜだろうか? 証言者が没し風化の波には逆らえないが、真実の歴史を知るうえで大いに歓迎したい。 読了日:09月06日 著者: リアン・フェルフーフェン マイ遺品セレクションの 感想著者とは同い年で、昔からのファン。世にコレクターはたくさんいるが、誰も興味をもたないようなヘンなものを偏執狂的に集めまくるのは、もはや癖を超えて病気の範疇。 私はその感性こそが著者の魅力であり、世界観に共感している。 冒頭にも書いているが、著者が死んだらコレクションたちはどうなるのだろうか? これはコレクター共通の悩みだろう。 著者の場合は、本書も含めて多くの著作やイベントで紹介されているので、たとえコレクションが処分されても、記録として残っていく。 それもある意味“遺品整理”であり、生きた証だろうか。 読了日:09月05日 著者: みうら じゅん フォンターネ 山小屋の生活 (新潮クレスト・ブックス)の 感想包容力のある文体をじっくりと味わうために、一編一編を慈しむように読んだ。 山を描いた作品は、その背景によっては尖った岩峰のように荒々しくもなるし、心を癒しの世界に導いてくれる力にもなる。 著者の一年に亘る山小屋での生活は、時として自然の厳しさを体現し、逆にその大らかな懐がもつ力は壊れかけた心を修復していく。 孤独を求めながらも人恋しさをごまかせない、自分に素直になっていく山小屋での四季。 それを見事に描き切った著者の筆力に拍手を送りたい。 ちなみに原題の『フォンターネ』とはイタリヤ語で『源泉』『給水所』の意味。 読了日:09月02日 著者: パオロ・コニェッティ読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
気象庁が今年の梅雨明け日の見直しを検討しています。 どうやら“勇み足”だったようです。 まったくお笑いですね。 それでなくても、最近の目まぐるしく変わる天気の予報はハズレまくっています。 雨雲レーダーを参考に刻一刻と変わる予報を確認していますが、それすらハズレっぱなし。 それにしても、この夏の天気の不順なことよ。 8月は雨が降らなかったのがほんの数日。 毎日のように、降ったり止んだり…晴れたり、曇ったり。 今月もこのままいくと同様な、まだまだ長雨が続くみたいです。 願わくは、カラッとした秋晴れが見たい。 さて、8月の読書。 収穫はなんと言ってもルーシー・アドリントン著『アウシュヴィッツのお針子』。 これに尽きます。 戦後80年近く経っても、新たな事実が出てくるナチスの戦争犯罪。 その業の深さに、決して晴れることがない深い闇を見た思いです。 8月の読書メーター読んだ本の数:10 読んだページ数:3280 ナイス数:528 87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らしの 感想巻末の写真を見て、その若さに驚く。 しゃんとした背筋は、私の老父と同じ87歳にはとても見えない。 iPadを操り、YouTubeで日々の暮らしぶりを発信する。若いはずだ。 頁を開くまでは、古びた団地でひっそりと暮らす孤独なお年寄りの姿をイメージしていたが、最後まで読んで、凛としたその生き方に深く感動した自分がいた。 こんな風に年を取りたいと思わずにいられなかった。 55年に亘って住んでいる団地は著者にとって体の一部であり、共に人生を刻んだ同志なんだろうか。 今を愉しみ「この部屋で死ぬ」と言い切れる気概に心を打たれた。 読了日:08月27日 著者: 多良 美智子 老後レス社会 死ぬまで働かないと生活できない時代 (祥伝社新書)の 感想早期退職し、今年から始まった年金暮らし。日がな一日好きな本を読んで過ごしている…こんな自分は、本当に恵まれていると思う。 本書には、死ぬまで働かないと生きていけない高齢者や、将来の予備軍ともいえる非正規雇用にあえぐロスジェネ世代、職場で居場所がない定年間近の人々の悲痛な声が綴られている。 なんでこんな国になってしまったんだろうと考えつつ、自分は単に運が良かっただけだと思ったりもする。 本来、祝福され喜ぶべき長寿化が、不安をもたらし、本人、家族にとっても生きていくうえでの人生最大のリスクになっていく。 社会保障制度の砦である年金の危機的不安を招いたのも、わが国が人口問題への取り組みを怠ってきたからに他ならない。 金権にまみれた政府や弱い野党が本腰を入れてこのツケを払うことができるのか。 「一億総活躍」のスローガンを掲げ、死ぬまで働くことが唯一の解決策という情けない政策を推進する国力に、未来を見いだせない暗闇を感じた。 老年人口が最多となり日本社会が最大の危機に直面する2040年代、それを生きるわが子、わが孫の世代があまりにも不憫である。 読了日:08月27日 著者: 朝日新聞特別取材班 自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫 M シ 17-1)の 感想謎解きのストーリーは古典的だが、最先端のメディアをちりばめたプロセスがいにも現代的で、その印象を覆している。 スマホやPCを使った友達アプリやSNS、画像編集といったデジタルコンテンツが盛り沢山。ITに弱い世代の読者層はとっつきにくいかもしれない。 それにしてもイギリスの高校生は早熟。クルマも運転するし、飲酒、ドラッグなんでもありだ。 一方で、EPQ資格という自由研究が学校教育の一環として推進されている背景は先進的で、旧態依然の日本も参考にしたいところ。 謎解きが進むに連れ、成長していく主人公の姿も心地よかった。 読了日:08月25日 著者: ホリー・ジャクソン 被差別部落の民俗と芸能 日本民衆文化の原郷 (文春文庫)の 感想生業と居住環境に関わる厳しい差別が原点にある部落問題の中で、人間としての生が輝く側面、それが伝統的な民俗である民衆文化だ。 我が国の至宝ともいえる最高の芸術の域まで高めた歌舞伎や人形浄瑠璃も、その原点には差別されてきた人々の生業からなっている。 本書で紹介されたデコ舞わしや鵜飼も然り。田畑や漁業権を持たぬ搾取されてきた人々の生きていく糧として生まれ、伝統に発展したものである。 著者は差別と抑圧に闘った歴史を“豊饒の闇”と書く。その的を得た表現に感嘆。 幼き頃の正月の風物詩だった獅子舞の姿を、もはや見ることはない。 読了日:08月20日 著者: 沖浦 和光 アンネ・フランクの密告者 最新の調査技術が解明する78年目の真実 (「THE BETRAYAL OF ANNE FRANK」邦訳版)の 感想一字一句読み込むスタイルなので、470頁の大冊はしんどかった。 その割に「やっぱりなぁ…」で終わってしまった結論が歯がゆい。 アンネ・フランクの隠れ家を密告したのは誰なのか…という謎を現代の専門家チームによって多方面から調査し、核心に迫っていくプロセスは執念の見せ場ともいえるが、証人のほとんどが没し、事件が風化している現状ではその努力を確証につなげることができず憶測に留まってしまう。 これが歯がゆいのだ。78年前の真実の解明に辿り着けることができるのは、これからもこの先もまったくの偶然でしかないだろうと思う。 読了日:08月16日 著者: ローズマリー サリヴァン 昆虫学者はやめられない: 裏山の奇人、徘徊の記の 感想昆虫のみならず、カラス、ヘビ、リス、クモ等のウンチクが詰まり、生物全般の知識と守備範囲の広さに驚く。 著者が単なる昆虫学者で収まらないのが、“南方熊楠の再来”と言われるゆえんか。 本書をもって、昆虫学が新種の発見と分類だけにとどまらず、一種ごとの生態の解明という気が遠くなるような地道な研究の上に成り立っていることを知ることができたのは収穫。 昆虫少年だった私にとって、流れる汗をいとわず、捕虫網を振り回して里山を駆け回った幼い頃の遠い夏の日を、郷愁を感じつつ思い出すことができた。 読了日:08月12日 著者: 小松 貴 マイホーム山谷の 感想東京を旅すると山谷のドヤによく泊まる。 受付では「ここは普通の宿と違うからね」と言われる。3帖一間で風呂、トイレ共用。連泊してもシーツ替えなし。 何と言っても宿代は安いし、慣れてしまえばそれなりに快適である。貧乏ツーリストに人気があるのもうなずける。 山谷で路上生活者を見かけないのはドヤの存在が大きいと思う。 ホスピス「きぼうのいえ」は社会的弱者が集まる山谷の象徴である。民間人である山本夫妻がそれを立ち上げ、運営のシステムを構築したことは称賛の何物でもない。 なぜ国は動かず民間なのか。この国の福祉行政のふがいなさを改めて実感する。 弱者を助けたいという純粋で高い志が、弱者との接触が深まるたびに自らの精神を病んでいく山本氏の姿が哀れというほかない。 同志であった妻も同様。本書によって山谷がもつ“業”と深い闇を見た気がした。 読了日:08月08日 著者: 末並 俊司 すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集の 感想前著『掃除婦のための手引書』の興奮と感動が冷めやまないうちに手に取った。 期待を裏切らない濃密に詰まったパッケージに今回もノックアウト。こんな文章が書ける才能が、腹が立つほど妬ましい。 訳者あとがきに著者の魅力について触れている。 情景を最短距離で刻み付ける筆致、ときに大胆に跳躍する比喩、歌いうねるリズム、ぴしゃりと断ち斬るような結句…まさに同感。 それにあえて付け足すなら、「併せ持つ危険な中毒性」。 一度読んだらその魅力に囚われてしまうルシア・ベルリンを解毒するには、余程の対抗馬が必要となるだろう。 読了日:08月06日 著者: ルシア・ベルリン 定年入門の 感想60歳で定年後、再雇用された会社を辞めて2年が経った。 今更『定年入門』ではないが、この作品に出てくる人々がどんな生活を送っているのか興味を持って読んだ。 総じて言えるのは、皆一様に趣味に、自己啓発に、ボランティアに、仕事に、アクティブに生きていること。 私のようなのんべんだらりと日々を消化している輩はいない。 【きょういく=今日行く】と【きょうよう=今日用】といったスケジュールを埋める作業は私には重苦しい。 これでは定年前と何ら変わらないじゃないか。 それが嫌で会社を辞めることを指折り数えて待っていたのだから。 読了日:08月03日 著者: 高橋秀実 アウシュヴィッツのお針子の 感想ホロコーストの記憶が風化していくなかにあって、新たな事実を掘り起こした労作である。 今のところ今年度最高のノンフィクションと自薦したい。 人間の尊厳ともいえる衣食住を奪ったアウシュヴィッツの収容所生活の中で、生き延びるためにナチス親衛隊の妻たちを着飾る衣服を作る、縞模様のボロ着をまとった囚人たち。 理不尽なそのギャップに怒りが沸騰する。 解放後にボロ服を脱ぎ、服を変えたことで「また人間になった」という言葉は計り知れないほど重い。 また、解放後の“死の行進”の始終が、多くの証言のもとに記されていることも特筆できる。 読了日:08月01日 著者: ルーシー・アドリントン読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪   
13日間の徒歩の旅から帰宅して、体調を回復するためにゴロゴロしていた7月後半。 何もすることがないので、映画と読書でひたすら自宅にこもっていた。 こんなのんべんだらりとした生活は、定年前に思い描いた理想だったはず。 しかし、何日も続くと飽きてしまう。 何かしなければいけないなぁ…という気持ちがムクムクともたげてくる。 さぁ、そろそろ動くとしますか。 さて、7月の読書の収穫はというと、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』。 これにつきますね。 軽快なアメリカンポップの、ノリ。 それでいて心臓をわしづかみされそうな、キレ。 この作家、思わぬ発見でした。 7月の読書メーター読んだ本の数:7 読んだページ数:1814 ナイス数:332 ソ連兵へ差し出された娘たち (単行本)の 感想ソ連兵の暴虐ぶりを憎む前に、なすすべもなく坂道を転がるように不幸へと進んだ愚かな背景に腹が立たずにいられなかった。 被害者女性から「男が始めた戦争」と言わしめる端的な表現に、古来から続く男尊女卑のもと虐げられてきた女性たちの声を聴いた気がした。 人柱となる強姦を「接待」という言葉に置き換えた歪曲した卑劣な表現は、裏取引の事実を隠そうとする男たちの犯罪である。 奇しくも岐阜県の黒川開拓団は私の自宅からほど近い地域から送出されており、この事実を余すことなく実名で記した著者の信念と、証言者たちの勇気に真実を見た。 読了日:07月23日 著者: 平井 美帆 怪虫ざんまい 昆虫学者は今日も挙動不審の 感想たかがムシの話というなかれ…これほどまでに昆虫の世界を掘り下げて、超マニアックかつ魅力的に語った作品はないのでは。少年の頃、胸をときめかせて読んだファーブル昆虫記を思い出してしまった。 著者は研究者以上に虫屋なので、新種の発見にかける情熱もマニアなら思いっきり共感ができる。 地下水にいる特殊な種を探して、井戸ポンプを連日くみ上げるその労力は常人には理解しがたいが、その苦労が報われるあとがきを読むと、彼らのような研究者がいたからこそ、謎が解き明かされ世界が広がると思わずにいられない。 軽快な文章にも惹き込まれた。 読了日:07月22日 著者: 小松 貴 天使突抜367の 感想【てんしつきぬけ】と読む。京都には難読や変わった地名が多いが、これもその一つ。 本書は大正から昭和初期に建った長屋をひょんなことから買った著者が、気ごころ知れた仲間たちとリノベーションする過程を綴っている。 興味深いのは、建具や電気器具一つにもこだわった家づくり。大量の着物コレクションを収蔵する箪笥にもセンスの良さと、歴史の重みを感じた。これを見ると古き良きものが現代と融合する京都の魅力を改めて感じずにはいられない。 欲を言うと、間取りや室内の画像がもっとあれば、家づくりのイメージがさらに伝わったと思う。 読了日:07月21日 著者: 通崎 睦美 掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集の 感想心の躍動を覚える文章に出会いたい…これがために長らく読書に勤しんでいる。この作品には、読書好きの魂を揺さぶる魅力的かつ不思議な力がある。 ポップなジョークやユーモア、そして緩急をつけた比喩やストレートな表現に、類まれな才能を見た思いだ。 大好きなC.ブコウスキーを初めて読んだ時の衝撃とドキドキ感の再来をもって読了することができたのは、ここ数年来の収穫である。著者は生涯に76の短編を書いたという。 死後10数年も一連の作品が埋もれていたことは信じがたいが、それを世に出した訳者の、切れ味するどい訳も評価したい。 読了日:07月21日 著者: ルシア・ベルリン 瓦礫の死角の 感想『蠕動で渉れ、汚泥の川を』の続編にあたる表題作は、勤めていたレストランを追い出された後の、堕落した日々を描いている。 後年に亘って支配続ける救いようがない自己中で懐疑的人格が、17歳にしてパワーを増しているのが垣間見える。 そんな生活の中でも文学へ惹かれていく過程が不思議この上ない。私小説家としての著者を形成する早熟なエピソードである。 収穫は同時収録された『崩折れるにはまだ早い』。師と仰ぐ藤澤清造の晩年を描くが、最後まで読んでそれが分かった秀作。こうした作風にチャレンジしたことが、ファンとして嬉しい。 読了日:07月20日 著者: 西村 賢太 百花の 感想百合子の過去や棄てられた泉の生活実態など、作中では触れられていないのでいくつかの謎と不満は残るが、中盤から後半にかけてキーワードとなる『半分の花火』の記憶の意味を解き明かしてくれたことが救い。 認知症は罹る本人も家族も、辛くやりきれない。百合子が在宅介護になることもなく施設に入れたのはラッキーだと思う。 これがないとどろどろした介護現場の描写が続き、作品の狙いがあらぬ方向に行ったかもしれない。 表面的な親子関係が百合子の認知症により溶解し、修復されるベースまで発展していくが、それもほんの一瞬のこと。見事。 読了日:07月14日 著者: 川村 元気 52ヘルツのクジラたち (単行本)の 感想淀みなく流れる文章と、巧みな構成力に舌を巻いた。 主人公の貴瑚やアンさん、愛といった多様なキャラクターが登場するが、誰もが心に傷を持って懸命に生きており、その閉塞感がとても辛く感じた。 人がうごめく世界にあっても、誰にも相手にされない孤独ほど辛いものはなく、その叫びが届かないのが真の孤独かもしれない。 原野にたった一人残された孤独とは違う、心の虚無感と一人ぼっちの恐ろしさを描き切った努力作だと思う。 それだけに前半の閉塞感から最後の解放感に至る筆運びは見事というほかない。 読了日:07月12日 著者: 町田 そのこ読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
前半は旧東海道を歩き、後半からの日本縦断徒歩の旅に向けての出発準備のため読書に集中できなかった6月は、4冊の低スコアで終了。 収穫作品は特になしです。 縦断の旅も終了し、体のメンテナンスと合わせて、今月は読書を楽しもうと思います。 まずは、溢れかえった積読本を崩さねば。 6月の読書メーター読んだ本の数:4 読んだページ数:1171 ナイス数:248 日本縦断徒歩の旅―夫婦で歩いた118日の 感想ゴミのポイ捨てなど環境問題を訴えながら日本列島を徒歩で縦断した還暦夫婦の記録。 巻末には同様な旅を目指す人たちへのアドバイスとして、旅の目的をはっきりさせることが大事としている。 そこが曖昧だと途中で自己矛盾に陥ったり、孤独感にさいなまれるとある。 私も一昨年に徒歩で日本縦断をしたが、目的はただ一つ、九州最南端の佐多岬に到達することだった。何も大義名分や付属の目的がなくても、やり遂げたいという強い意志があれば、結果はついてくると思う。 『列島徒歩縦断中』という幟はいかがなものか。売名行為と取られても仕方ない。 読了日:06月22日 著者: 金澤 良彦 変な家の 感想図書館で半年待って、1時間弱で読了。長男が建てる注文住宅の間取作りを手伝っている我が身としては、タイトルからして大いに興味がある内容…と思いきや、中身は薄っぺらで陳腐なホラー。 まったくの肩透かしだった。 間取りをモチーフとするミステリ仕掛けは着眼点も良いが、謎解きのプロセスには深みが全くないし、前半早々に殺人事件に結びつける強引なやり方は短絡的すぎるのでは? 代々の因縁がらみの動機解明もお粗末すぎで、児童向けの三文ミステリを読んだ気分。 読了日:06月21日 著者: 雨穴 鳥のいない空―シンドラーに救われた少女の 感想ホロコーストの惨劇はユダヤ人の上流階級といえども容赦なく襲い掛かっている。 純真無垢な少女が迫害や虐殺の場面を見て体験していくうちに、それが日常的な一コマとして生活の中に組み込まれしまい、マヒしてしていく過程が恐ろしい。 モノクロで映画化された『シンドラーのリスト』のなかで、唯一カラーで出てくる赤い服の少女の場面があるが、本文の中で表現として暗示している部分もいくつかあるのが興味深い。 破滅へと向かうホロコーストの色のない世界に、赤い色は唯一の光明なのか。その意味深さを考えてみたが、結局分からずじまいに読了。 読了日:06月21日 著者: ステラ ミュラー‐マデイ ルポ路上生活の 感想前著『ルポ西成』でも感じたが、ホームレス社会への潜入という短期間での体当たり的な体験で、どこまで本質が分かるのか?という否定的な疑問を持ちながら頁をめくった。 私はひねているので、しょせん底辺の現場労働者やホームレスでもない著者が、二番煎じを狙って興味本位で覗いた世界の話だろうと思っていた。 しかし、本書は良い意味で期待を裏切ってくれた。行政の盲点を突いた生活保護の不正受給、裏のねらいが見え隠れする宗教団体の炊き出しの実態や上前をはねる手配師たち。 まさに体験しなければ見えてこない現実がそこにあった。 読了日:06月02日 著者: 國友 公司読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
今年になって読書量が大幅に減っています。 集中することができないのが大きな理由です。 無職の定年オヤジといえども、なにかとせわしなく動いているからでしょうか。 まぁ、他にすることがなくなったら、また読み始めるでしょうね。 印象に残ったのは、『14歳のアウシュヴィッツ』。 ホロコーストの生還者の手記ですが、とても14歳が書いたと思えないくらいの文章力に驚きました。 『アンネの日記』に比較されるようですが、こちらも多くの人々に読み継がれてもいいのでは。 さて、今月の読書は…今のところ、1冊のみ。 まだ低調です。 5月の読書メーター読んだ本の数:5 読んだページ数:1597 ナイス数:217 遺言未満、の 感想シーナさんも76才。 講演会に何度も足を運ぶくらいのずっと昔からのファンなので、著者が世界各地を駆け回り、エネルギッシュに活動していた頃が懐かしい。いかに頑健な著者にも老いは確実にやってきたようだ。 本書に綴られたのは著者の死生観よりもどちらかというと世界各地の葬送の実態に頁数を割き、漠然とした死への思いから海への散骨といった【理想の最期】を語っている。 前著『ぼくがいま、死について思うこと』と併読してみて、誰もが経験するであろう死に向き合うことへの覚悟を、ほんの少しだが読み取れた気がした。 読了日:05月31日 著者: 椎名 誠 ([お]5-1)食堂かたつむり (ポプラ文庫)の 感想ヨダレが出てきそうな料理の数々。美味そうな匂いまで漂ってきそうな、調理の場面がまた良い。 想像力が掻き立てられるとはこのことか。 『ライオンのおやつ』でもそうだが、著者の料理へのこだわりが半端じゃないのを感じる。これが料理の持つ力だろうか。そして、全編を通して流れる人への優しさに溢れた表現力。 都会でも田舎でも同じだと思うが、ともすれば荒んでしまう現代のギスギスした人気関係と孤立感を、一時でも忘れさせてくれる。何かに夢中になれる集中力と謙虚で思いやりの心があれば、世の中まんざら悪くないと改めて思えた一冊だった。 読了日:05月27日 著者: 小川 糸 つげ義春コレクション 紅い花/やなぎ屋主人 (ちくま文庫)の 感想ずっと昔から何度も読み返しているが、『リアリズムの宿』が一番印象に残る。 ふらりと立ち寄った青森鯵ヶ沢の漁港、古びた民宿。このロケーションだけでも何ともいえない寂寥感が漂う。 特に、寒風が吹く中、生活に疲れた表情の宿の母ちゃんが、イカを入れた鍋を両手に持ってうつむきながら歩いていく背中が身震いするほどのリアリティ。 死神が不幸を運んできたような悲壮感が充満する世界。 やはり、つげ義春は只者じゃない。 読了日:05月25日 著者: つげ 義春 14歳のアウシュヴィッツ ─ 収容所を生き延びた少女の手記の 感想死と隣り合わせの状況にありながら、比喩を駆使したブラックユーモアと、純真な少女らしさが溢れたストレートな表現が対照的。 出版に当たり加筆修正はあったと思うが、これを14歳の少女がほんとうに書いたのかと疑いたくなるような、熟達した文章力を感じる。 収容所内で体験した悲惨な出来事は思春期の喜びと楽しさを奪い、その後の人生に計り知れない影響を与えたのは疑いようもない。 日記を綴ることのこだわりは単に書くことが好きなだけでなく、死を前にした遺書のような、残すことへの使命感を感じずにはいられない。読み継がれて欲しい。 読了日:05月25日 著者: アナ ノヴァク 谷崎潤一郎伝―堂々たる人生の 感想谷崎の生から死まで、丸裸にしたような力作。 複雑な家族関係と女性遍歴が谷崎文学の底流を形作るネタとなり、肥やしになったことを改めて実感した。 谷崎文学を特徴づけるマゾヒズム、フェティズム嗜好がどのように生まれ、成長し、開花したのかを文学的見地からも掘り下げて欲しかったところだが、さらりと読んでしまえば、谷崎潤一郎は、面倒で偏屈なただの女好きのオヤジにしか映らないところもある意味人間味あふれて興味深い。 未公開の書簡もまだ残っているというから、著者の谷崎研究がさらに発展することを期待したい。 読了日:05月09日 著者: 小谷野 敦読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
無職で毎日が日曜の定年オヤジなのに、本を読む時間もなく、一日が過ぎていきます。 このところ長男の家づくりに首を突っ込んでいるので、自由設計をいいことに間取りを考えては住宅メーカーと打ち合わせをすることを繰り返しています。 そのうちブログにも書こうと思いますが、これがなかなか楽しい。 家は“三回建てないと満足できる家はできない”という格言がありますが、一生に三度も建てる人はほとんどいないですね。 今の自宅を建て代える時に家づくりの楽しさを経験しましたが、完成してからこうしておけばよかったなぁ…という点もいくつかあり、次に建てるならこうしたい…という思いもありました。 身重の嫁を抱える忙しい長男から協力して欲しいという申し出で、自分の家でもないのに土地探しから始まって、一緒に家づくりをやっています。 まぁ、間取が決まるまでですが。 …ということで、家づくりにうつつを抜かして、読書の時間が削られた4月は6冊で終わってしまいました。 さて、その中での収穫は、鈴木忠平著『嫌われた監督』。 中日ドラゴンズの監督時代の落合を追ったルポですが、番記者だからこそ描けたなかなかの力作です。 勝利にこだわる冷徹な強さのなかに、思いやりと優しさを感じる落合の人間像を魅力的に綴っていますが、最後まで読んでも良く分からない人だという印象が残りました。 ともあれ、後にも先にも落合の8年間は、ドラゴンズにとって黄金時代だったと言えますね。 4月の読書メーター読んだ本の数:6 読んだページ数:1675 ナイス数:266 日本殺人巡礼の 感想麻原彰晃、金嬉老、永山則夫、林眞須美、小平義雄、関根元…記憶に残る凶悪事件の殺人者たち。内容は風化しつつある殺人者の残像と事件の痕跡を訪ねる旅である。 出自はもとより貧困や差別、土地の因縁や暗い歴史的背景をこじつけともいえる強引な解釈で犯罪要因につなげている。 一例を上げると、『つけびの村』で有名な現代版八つ墓村事件を起こした保見光成の先祖の出身地が竹細工で生計を立てる集落であったことから、漂流民サンカではなかったかという推測をする。 竹細工・革=被差別民という一方的な決めつけと思い込みに思わず引いてしまった。 読了日:04月27日 著者: 八木澤 高明 芝公園六角堂跡の 感想歿後弟子を自認し、師と崇める藤澤清造の残影に吸い寄せられる展開を見せる表題作は、読みごたえがある。 お気に入りのミュージシャンのライブで熱に浮かれた後、師の終焉の地に立つギャップに、やるせない寂寥感を感じた。 著者はこの作品を駄作であると、収録された後作で何度も書いているが、謙遜のなにものでもない。 これまで北町貫多の性格破綻者ぶりをさんざん読まされてきた身にとって、初めて著者の本筋が見えたような気がした。 『十二月に泣く』の師の墓標を前にしての泣き笑い~最後まで読んでその感情が伝わってきた。見事というほかない。 読了日:04月22日 著者: 西村 賢太 旧石器遺跡捏造事件の 感想この事件を追った本をいくつか読んだが、当事者のF(本書では実名)と考古学仲間として仕事をしてきた著者が書いた内容だけに、真実に迫るものを感じた。 半面、長年に亘るFの捏造を見抜けなかった点についての反省が薄く、自己保身による言い訳が見苦しく思えた。 縄文時代の石器をなぜ前期旧石器であると信じてしまうのか、著者の専門家としての見識とレベルに疑問を感じるが、すべての根源は事件を引き起こしたFによるものであり、多方面に波及した影響と責任はとてつもなく重い。 病気を理由にいまだに口を閉ざすF。すべては闇に葬られるのか。 読了日:04月17日 著者: 岡村 道雄 間取りのすごい新常識 (美しい住まいと家づくりシリーズ)の 感想雨穴著『変な家』がヒットしたこともあり、いま、間取りがちょっとしたブームのようだ。 自由設計の注文住宅だからこそできる間取り作成だが、幸運なことに人生三度目の楽しさを味わっている。 今回は息子の家づくりをかって出た。といっても素人なので、この本を参考にしたわけだが、結論からいって、並んだリストは奇抜すぎて参考にならない。というか固定概念にとらわれすぎて柔軟性がないから受け入れられないかもしれない。 動線についても何かを重視すれば、何かが崩れる…結局は、オーソドックスな定番の間取りに収まりそうな予感。 読了日:04月12日 著者: 海外メディアは見た 不思議の国ニッポン (講談社現代新書)の 感想頁数を割いている天皇制問題以外は、取り上げるほどの目新しいテーマではないと感じた。 中でも少子高齢化に端を発し、その裏表ともいえる地方の過疎化や空洞化、孤独死と遺品整理ビジネス隆盛は日本に限らず外国でも起こりえる現実ではないだろうか。 海外メディアから見た日本特有の不思議な?可笑しな?日本論としては物足らないが、ジェンダー問題、とりわけ女性の社会進出や、若者の投票率の低さが示す政治への無関心さについては、諸外国と比較するまでもなく民意の低さを示している。 改善努力を感じさせない場当たり的な政府政権の責任は重い。 読了日:04月12日 著者: 嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book)の 感想名古屋人で根っからのドラファンの私にとって、落合が率いた8年間は栄光の歴史だと断言できる。 後にも先にも中日ドラゴンズにこれほど強い時代はなかった。 川崎の開幕投手や完全試合目前の山井の交代劇、優勝をかけた荒木のヘッドスライディング、最終戦での逆転優勝…その光景がいまだに目に焼き付いているし、これからも忘れることはないだろう。 「心は技術で補える。心が弱いのは、技術が足りないからだ」。冷徹で孤高な求道者、落合博満ならではの名言である。 “嫌われた監督”…いいではないか。闘将落合にこれほどの誉め言葉は見当たらない。 読了日:04月10日 著者: 鈴木 忠平読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
先月は自作HP『琺瑯看板探検隊が行く』のリニューアル作業と、長男の新築計画での土地探しに時間を割いたこともあり、読書は遅々として進まず。 読書習慣はいったんストップすると、元に戻すのも時間がかかります。 コンスタントに月間15~20冊くらい読めるようにしなければ、溢れかえった積読本の山は崩れそうもありません。 さて、先月読んだ本の中で光ったのが、對馬達雄著『ヒトラーの脱走兵~裏切りか抵抗か、ドイツ最後のタブー』。 奇しくもウクライナ戦争の真っ最中。 ロシア兵の脱走兵は後を絶たないと報道されています。 ナチスドイツの脱走兵に対する制裁は死刑。 これこそ人道無視の何物でもありません。 戦争の愚かさを今更ながらに感じます。 3月の読書メーター読んだ本の数:9 読んだページ数:2117 ナイス数:375 ヒトラーの脱走兵-裏切りか抵抗か、ドイツ最後のタブー (中公新書)の 感想ナチスが行った不条理の蛮行に、脱走兵に対しての断罪がある。 裏切者と罵られ、軍法会議にかけられた多くの兵士が死刑判決を受けている。その数3万人。 本書では脱走兵の最後の生き証人といわれた一兵卒バウマン氏の生涯を追いながら、ナチスが行った不当な実態を暴き、名誉回復をかけた闘いを綴っている。 脱走者の多くが反ナチの人々であったが、戦後も差別は続き、年金も受けられないという辛酸を舐めている。犯罪者ではなく、ナチス軍司法の犠牲者と位置付け、復権活動が認められたのは氏らの努力である。 それを知ることができた力作に感謝。 読了日:03月24日 著者: 對馬 達雄 下手に居丈高 (文芸書)の 感想2012年11月から『アサ芸』誌上に68回にわたって連載されたエッセイ。 くだけた内容なのでサクサク読めるが、そこは硬派な私小説家。エッセイといえども文章の巧さが光る内容。 興味深いのは読書家としての姿を小出しに見せているところ。明治大正期の私小説に固執している旨を書きながらも、山本周五郎や松本清張、山田花子の漫画論にも及んでいる。 『ビールグラス』と題するエッセイには、四個目となる晩酌用のグラスを下ろすタイミングは還暦近くになると言いつつも、それより先に自らの生が確実に朽ちていることを予言している。 読了日:03月23日 著者: 西村 賢太 棺に跨がるの 感想2012年から『文學界』に掲載された“秋恵もの”の連作。ちょっとしたことで逆ギレする貫多の変質的かつ粘着質の性格の悪さはいささかも衰えない。 カレーをキーワードに秋恵との諍いから出奔までを連作でつなぐ構成力は見事。 歿後弟子として自任する藤澤清造の墓を再建する下りは何回も出てくる。その傍らに自らの生前墓を建てるが、表題作の『棺に跨がる』では、自分の没年月日と享年が刻字されるのは、うんと近い将来かもしれないと書いている。 遠からず死を予感していたのだろうか。あまりにも早い生涯に、涙を誘わずにはいられない。 読了日:03月22日 著者: 西村 賢太 夜更けの川に落葉は流れての 感想著者没後、未読の作品を読み漁っている。あまりにも早い逝去は残念だが、才能がある人ほど人生短しということだろうか。願わくはもっと読みたかった。 三篇が収められた本書の中で腹を抱えて笑ったのが『青痰麺』。ブラックユーモアを通り越した著者ならではのねちっこい性格の悪さがモロに出ている。文字通りの性格破綻者。芥川賞を獲り、時の人になってもこの体たらくはブレていない。 作品に溢れる不条理と怒り、己の弱さ、それでいてちょっとばかしの優しさが見え隠れする。 これほどの作品を書ける作家を失くしたことが、今更ながらに悔やまれる。 読了日:03月18日 著者: 西村 賢太 漂流老人ホームレス社会の 感想何らかの理由でホームレスにまで堕ち、更に行き場がない深淵まで陥ちていく現実が本書では語られている。これはもう国害であると言わざるを得ない。 憲法25条はもはや幻なのだろうか。生活保護すら受けることができず、「健康で文化的な最低限度の生活」は、ボーダーラインから外れた人々に適用すらされない現実を多くの人が知るべきである。 終電とともに駅のシャッターが下り、公園のベンチは寝転ぶことができない作り…いつからこんな国になってしまったんだろう。人々が安心して生きていく場を平等に保証することが国の役目であると強く思う。 読了日:03月16日 著者: 森川すいめい 超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどるの 感想近所付き合いを筆頭に人との関りが希薄になった世の中。年間孤独死3万人という衝撃的な数値はそれを物語る。 この中には死後数ヶ月、数年が経過してから見つかるケースもある。 本書では、家族関係の崩壊⇒セルフネグレクト⇒ゴミ屋敷⇒孤独死という流れを典型例として紹介しているが、実際には孤独死のプロセスや背景は千差万別である。 そんな世相を反映してビジネスチャンスとばかりに業績を伸ばしているのが特殊清掃の世界。人の弱みに付け込むぼったくり業界と思っていたが、いやはや、この本で取り上げられた業者の清いこと。参った。 読了日:03月12日 著者: 菅野 久美子 漂流者は何を食べていたか (新潮選書)の 感想漂流記を読むだいご味は、何を食べて生き延びたのか…これにつきる。 紹介された本は少ないが、その疑問にこたえるべく著者がポイントを絞って書いてくれた。シイラやウミガメ、アザラシ、海鳥の捕獲から料理法、水の確保から病気の対策など、そこにはサバイバルを超えた生き抜くための体験が綴られており、興味深く読めた。 埋もれていた漂流記の傑作、須川邦彦著『無人島に生きる十六人』を発掘し、世に出してくれた著者の功績は大きい。 読了日:03月09日 著者: 椎名 誠 他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめの 感想胸がすくような、明快なエンパシー論。コロナ禍に直面した今だからこそ、個人が身につける能力としてのエンパシーの重要性がよく分かった。 利己主義に走ることなく、常に意識することで身にけるべきスキルだと思いたい。 「他者の靴を履く」という的を得たタイトルにも感心したが、誰かの靴を履くためには自分の靴を脱ぎ、人が変わるときには古い自分が溶ける必要がある…という、言葉がもつ“溶かす力”に気づかせてくれた深い洞察力に参った。 読む順序を間違えたが、前著『ぼくはイエローで…』は未読なので、手に取ってみたくなった。 読了日:03月04日 著者: ブレイディ みかこ 行商列車:〈カンカン部隊〉を追いかけての 感想カバーの【鮮魚】のプレートを付けた近鉄の行商専用列車をずっと以前に見かけたことがある。 (何だろう、この電車)…ぼんやりと思っていた謎がこの作品で説けた。 重いカンカンを背負った女性たちの一群は、20世紀の終焉と共に姿を消していった風物詩。かつてのローカル線の車両や駅舎の待合には、たくさんの荷物を傍らに置いたそんな女性たちをよく見かけた。 行商の成り立ちは魚を食べる文化と重なり、日本の食文化を支えた風俗である。過酷な労働である行商に身を投じ、たくましく生きた女性たちの最後の姿を追った著者の努力に拍手を送りたい。 読了日:03月03日 著者: 山本 志乃読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
ちょっとしたトラブルに巻き込まれ、読書に集中できなかった2月。 低調なままひと月を過ごしてしまった。 収穫はディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』。 全米で500万部を売り上げたというベストセラー。 気分が沈んでいるネガティブな日々のなかに、読書の楽しさという束の間を味わせてくれた作品だった。 2月の読書メーター読んだ本の数:5 読んだページ数:1583 ナイス数:302 歴史修正主義-ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで (中公新書, 2664)の 感想真実の歴史を知っているのは、その場に居合わせた当事者のみである。文字通りの生き証人だが、歴史家を名乗る外野の人々が、自分の主張に都合の良い事実だけを並べる自らの利益と歪曲した利己主義によって、真実が否定されてしまう。ホロコースト否定論はその極たるものであるが、南京事件や慰安婦、桜やキムチの起源に例えるまでもなくそうした事象は転がっている。歴史修正主義を生み出す社会の側についても考える必要性と、背後にある政治的意図や経済的利害を読み取る力も必要である。一筋縄ではいかないが、正しい歴史教育のありかたを感じた。 読了日:02月24日 著者: 武井 彩佳 ザリガニの鳴くところの 感想重量感のある読書を堪能した。生物学者の著者ならではの自然や鳥、生物たちの描写は秀逸。物語の重要な要素としても鍵を握っており、その心地よさが読書の楽しさを倍増させてくれた。それにしても本作に描かれた1960年代のアメリカの差別は想像以上だ。人種ばかりでなく、貧困や住む土地など、普通の人々と違うことがあらゆる差別となって現れていたようだ。先日観たスピルバーク版の『ウエストサイドストーリー』も、NYのスラムを舞台に、プエルトリコ移民と貧乏白人たちの差別を根っこにした物語だった。差別がない世界を切に望みたい。 読了日:02月19日 著者: ディーリア・オーエンズ ヒトラー独裁下のジャーナリストたち (朝日選書)の 感想ナチスのプロパガンダ戦略の片棒を担いでしまったジャーナリズムの統制は、ヒトラー独裁国家主義の象徴的な負の遺産である。認識を新たにしたのは、ドイツジャーナリズムの崩壊がナチス台頭以前から起こっていたということ。そこにはナチズムの過小評価による隙があったという。言論の自由を奪われた新聞の廃刊は、多くの有能なジャーナリストを国外に逃亡させ、ある者は収容所で命を絶つ。自由主義の終焉が狂信的な一人の独裁者によって起こされた歴史は、偶然ではなく必然であった。今の世にもそんな国家が存在している事実はあまりにも恐ろしい。 読了日:02月15日 著者: ノルベルト フライ,ヨハネス シュミッツ 娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件の 感想読み進むにつれ腹立たしさと後味の悪さが込み上げてきた。14歳の少女を死に追いやった加害少年たち、校長、教頭、担任教師(通称:デート教師)。必殺仕事人がいれば、間違いなくコイツらは闇に葬られる標的である。中学校と旭川教委の隠ぺい体質も文春の取材によって明らかになっていくが、都合の良い選抜者からなる第三者委員会設置に煙に巻かれ、この先の追及が中断しているのは残念。更に、少年法に守られた加害者たち。インタビューの突っ込みも生ぬるい。みじんの反省もなく責任転嫁し、薄ら笑いを浮かべる親子。嫌なものを読んでしまった。 読了日:02月07日 著者: 文春オンライン特集班 大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた (幻冬舎新書)の 感想京都人の著者の大阪に対する思い入れは感じるが、最後までその立ち位置が分からなかった。あとがきで大阪の品が悪い部分をとりあげ、面白おかしく揶揄するのはやめてもらいたいといいつつ、文中ではその部分をしつこく取り上げているのはなぜか。そもそもタイトルからして「おもろいおばはん」はこうしてつくられた…なのだから。私の亡母は大阪出身だったが、周りの人たちも含めて“おもろいおばはん”はいなかったと思う。大阪のイメージを下衆な方向に固定化してしまったメディアの責任は重い。ついでに、平仮名多用の文章も読み難くかった。 読了日:02月04日 著者: 井上 章一読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
年明けから、親族間のちょっとしたイザコザに巻き込まれてアタフタしていましたが、ようやく落ち着きそうな兆し。 平穏に生きていくことはなかなか難しい、と感じたこのところでした。 というわけで、読書に集中することもできず、1月は8冊の低スコアで終わりました。 収穫は上原善広『四国辺土』。 “草遍路”と呼ばれる、遍路を生業としているプロの人々を追っかけたルポですが、なかなかの異色作でした。信仰心もない私ですが、近い将来歩き遍路をしてみたいと思っています。私の場合は遍路によって何かを悟るわけでもなく、おそらくスタンプラリーのような感覚で回ることになるかと思っています。 何しろ、歩くことが目標なので…。 そして、もう一冊は西村賢太『蠕動で渉れ、汚泥の川を』。 デビュー作以来ずっと追っかけてきた作家ですが、残念なことについ数日前に急逝されました。才能がある人はやはり短命か。彼の作品をもっとたくさん読みたかったのが率直な気持ちです。 つくづく残念に思います。 1月の読書メーター読んだ本の数:8 読んだページ数:2677 ナイス数:694 うちの父が運転をやめませんの 感想私の老父も85歳の時に免許を返納させた。何度もクルマを擦るようになり、家族が一丸となって説得し続け、半ば強引に返納させたのだ。 あれから2年経ったのに、父はいまだに免許がなくなったことを後悔している。そればかりか外に出なくなってしまい足腰が弱ってしまった。老父にとって、クルマはスティタスの象徴だったのかもしれないと今更ながらに思えてくる。 本書では過疎化する田舎の現状も描いているが、スーパーばかりか診療所さえない地域も多くある。 クルマがなければどうにもならない、地方の空洞化と格差はとどまることをしらない。 読了日:01月29日 著者: 垣谷 美雨 四国辺土 幻の草遍路と路地巡礼の 感想いつかはチャレンジしたい歩き遍路。これまでお遍路の関連本を多く読んできたが、これは異色作である。 四国の遍路道沿いにちらばる路地を巡りながら、部落差別の歴史と実態を拾い集めていくのは被差別部落出身の著者ならでは。一方で遍路を生業にしている草遍路と呼ばれるプロの人々に目を向け、自らも野宿と托鉢を経験しながらその厳しさを実感していくのは著者の強い意志があってのこと。 歩き遍路は結願によって達成感や虚栄心を満たすことはできるが、本質的には何も変わらない。しかし、退路を断って人生をかけた草遍路にこそ、人は確実に浄化され昇華されると結ぶ。 2020年に北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断した自分には、歩き旅の次の目標としての四国遍路を軽く考えていた。人それぞれだろうが、遍路に出ることに理由がいるのか。信仰心も薄い自分にはその資格はないのだろうか。 読んでいて遍路の奥深さと意味深さに、益々分からなくなってしまった。 読了日:01月26日 著者: 上原 善広 蠕動で渉れ、汚泥の川をの 感想数少ない私小説の書き手として、デビュー以来ずっと追っかけている作家。今回も期待を裏切らない出来栄えに一気読み。 『苦役列車』後の17歳になった貫多の日常を描いているが、怠惰でハチャメチャな生活の中にも、17歳だからこその一瞬の輝きを切り撮った、青春グラフィティが浮かぶ。 陽がささない裸電球一つの三畳間で悶々と過ごす貫多のなかに、悲壮感を越えたある種の瑞々しさを感じるのは、若さゆえか、それとも早熟な才能の片鱗を感じるからだろうか。 読み進むにつれ、花村萬月『百万遍』シリーズの主人公、維朔と重ね合わせてしまった。 読了日:01月23日 著者: 西村 賢太 少年と犬の 感想動物を描いたジャンルの小説は思いっきり苦手。涙腺が緩んでしまうことが分かっているのに、手に取ってしまったことを今更後悔しても遅い。 迷い犬・多聞が絡む6篇のチェーンストーリーはどれもたまらなく切ない。それでいてちょっとのことでは感動しない還暦を過ぎた私の醒めた心にまで響き、何より童心に返らせてくれるから罪である。 ジャック・ロンドン『野性の呼び声』を彷彿とさせる犬との交流に愛情と思いやりが見て取れる。 血なまぐさい内容に辟易して、『雪月夜』あたりから著者の作品を敬遠してきたが、これを機会にまた読みたくなった。 読了日:01月21日 著者: 馳 星周 ヨコハマメリー:かつて白化粧の老娼婦がいたの 感想少年の日に見た異形の老娼婦ヨコハマメリーの残像を追って、自らが監督するドキュメンタリー映画を完成させるまでの苦労話である。 残念なのは著者がそこまでメリーさんにのめり込む動機が今一つ伝わってこないのと、横浜の歴史や風俗、証言者の個人史について割いた部分が冗長すぎる。 横浜を去り故郷に戻ったメリーさんとの面会はクライマックスともいえる部分だが、ボタンの掛け違いのような接触で終わっている。むしろこの部分は必要なかったかもしれない。 横浜の街に受容され、ノスタルジーとともに風物的な存在であったメリーさんの都市伝説が、老人ホームで余生を過ごす実像に変わったことで、その落差の大きさに白けてしまった感は否めない。 なぜ異形の姿を貫いたのか?なぜ横浜を離れなかったのか?メリーさんを取り巻く人々からの証言はそのヒントにはなれど、彼女の口から出てきたものはない。その疑問を探るべく、今度は映画も観たくなった。 読了日:01月20日 著者: 中村高寛 ライオンのおやつの 感想ストーリーに没頭し、素直に読み切ることができた。映画のスクリーンに浮かぶ場面のように、一コマづつを始終思い浮かべて読めたのは、心地よい文章力と高い構成力の賜もの。 ホスピスがもつどんよりとした暗いイメージをみじんも感じさせずに、それぞれの死の場面をも明るく切り取り描いたのは著者の計算あってのことだろう。雫を取り巻く陽気な人々と犬との交流、ヨダレが出そうなおやつのレシピには、そこが最期を看取る終の棲家の日常であることすら忘れさせてくれた。 暗く重いテーマの設定にもかかわらず、読後感爽やかな出来栄えに拍手したい。 読了日:01月19日 著者: 小川 糸 ワンダフル・ライフの 感想献本プレゼントに当選したサイン本。ぜいたくな気分を味わいつつじっくりと読んだ。 社会福祉を専攻したのにその道に進まなかった私には、福祉を語る自信はないのでそこには触れずにレビューする。もつれた細い糸が一本の太い糸に寄り合わさっていく巧みな構成力に、まずは脱帽。 キーワードの「素晴らしき哉、人生」の言葉の重みと意味が、圧巻の怒涛の結末で昇華する。自分の人生の分岐点を振り返り何度も【if】を当てはめたが、今の私には必要のない言葉となったことがうれしい。 良書に巡り合えてそんな気持ちを確認できれば、それだけで十分。 読了日:01月07日 著者: 丸山 正樹 新 青春の門 第九部 漂流篇の 感想このシリーズとのつき合いも早や48年。 還暦を過ぎた私の青春はいつの間にか遠くに過ぎ去ったのに、主人公の伊吹信介はまだ26歳。それを思うだけで可笑しさがこみあげてくる。これぞ長編大河の醍醐味である。 「トリスを飲んでハワイへ行こう」が流行っていた1961年。シベリアと東京を舞台に物語は進む。酷寒の地に流れ着いて動かない信介に比べ、本作では織江の躍動が生き生きと描かれていく。 これまで信介の影のような存在だった織江に光が当てられ、蛹から蝶へ変わるときが近づいてきたことを感じさせる。 『織江の唄』はその突破口になりそうな予感があり、同時に『青春の門』は、少女時代から追ってきた織江の物語でもあることに今更ながらに気づいた。 それに反して、信介はまだ青い。どこまでその純粋さを保てるのか、大人の男になり切れない信介と、まるで双生児のような山岸のキャラ。二人の成長ぶりが楽しみな、次篇が待ち遠しい。 読了日:01月05日 著者: 五木 寛之読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
昨年読んだ本の数は132冊。 実に20年ぶりの100冊超えだった。 コロナ禍に翻弄されて、外出もせずに自宅にこもっていたので、本を読んで暇をつぶしていたからだろう。 年末に帰省した長女が本棚を眺めて、ごっそりと本を持って帰ったのがうれしく、部屋に溢れた本も少しは役に立ったみたいだ。 さて、昨年読んだ本の中からマイベスト10を発表してみましょうか。 1位 『アメリカンビレッジの夜——基地の町・沖縄に生きる女たち』 アケミ・ジョンソン 2位 『土偶を読む――130年間解かれなかった縄文神話の謎』 竹倉 史人 3位 『ヒロシマを暴いた男 米国人ジャーナリスト、国家権力への挑戦』 レスリー・M・M・ブルーム,高山 祥子訳 4位 『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』 石井 妙子 5位 『レストラン「ドイツ亭」』 アネッテ・ヘス 6位 『片手の郵便配達人』 グードルン・パウゼヴァング 7位 『ノモレ』 国分 拓 8位 『アウシュヴィッツの図書係』 アントニオ・G・イトゥルベ 9位 『踊る熊たち:冷戦後の体制転換にもがく人々』 ヴィトルト・シャブウォフスキ 10位『野の春 ――流転の海 第九部』 宮本 輝 ノンフィクションが中心となりましたが、新刊も織り交ぜて読むことができました。 【12月の読書】 12月の読書メーター読んだ本の数:20 読んだページ数:5684 ナイス数:1658 そして、バトンは渡されたの 感想このところ血なまぐさいノンフィクションを読み続けていたので、その反動もあってか、心地よい温かさに包みこまれた気持ちになった。 2021年大晦日、大トリを飾るにふさわしい作品であった。何と言っても、優子を温かく見守り愛情を注ぐ、バトンを渡された大人たちがほのぼのとして良い。 血のつながらない優子と暮らすことで、“明日が二つ”になったと言わしめる、梨花や森宮の人間性はどこからくるのか。 実の親でも翻弄される子育てを前向きに楽しみ、悲壮感もなく優子が素直に育っていく過程には、改めて家族関係の本質を見た思いがした。 読了日:12月31日 著者: 瀬尾まいこ ディファイアンス ヒトラーと闘った3兄弟の 感想本書より先に上梓されたピーター・ダフィ『ビエルスキ・ブラザース』に内容は酷似している。 共通の資料や生存者の証言をもとに同一テーマで書かれたので仕方がない面もあるが、まったく同じフレーズが出てくるとちょっとばかし興ざめ。 本書は同名映画の原作になっているが、ユダヤ難民たちの森での暮らしぶりやコミュニティの秩序維持については前著よりも詳しい。逆に、ロシア軍による解放後の顛末や兄弟たちのその後の半生の記述は前著が勝っている。 比較しながら2冊を読み、映画を観るという、何とも贅沢な読書体験をさせてもらったことに感謝。 読了日:12月30日 著者: ネハマ テック 那覇の市場で古本屋―ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々の 感想数年前に沖縄を旅した時、偶然立ち寄ったのが著者があるじをしている『市場の古本屋ウララ』さん。国際通りからほど近い公設市場の中に、その小さな店はあった。 沖縄には出版社も多く、棚を彩る郷土本の品揃えに驚き、上から下まで目を泳がせた。並べる本には店主の志向が強く反映されると思うが、狭くてもしっかりとしたポリシーを主張している魅力を感じた。 本書は、書店員から転身して古本屋を始めるいきさつと、ゆっくりと時が流れる何気ない日々を、肩の力を抜いた飾り気のない言葉で綴っている。ほんとうに本が好きな人なんだと嬉しくなった。 読了日:12月28日 著者: 宇田智子 ビエルスキ・ブラザーズ―無名の三兄弟が演じた奇跡のユダヤ人救出劇の 感想ホロコーストの嵐が吹き荒れるナチス占領下のベラルーシでユダヤ人パルチザンを組織し、1200人もの同胞の命を救った三兄弟のノンフィクション。 「10人のドイツ兵を殺すよりも一人のユダヤ人の老婆を救う」という兄弟の最年長者のトゥヴィアの強い信念はロシア軍による解放まで貫かれている。 2年半にも及ぶ深い森の中でのキャンプ生活は、ドイツ軍の追撃をかわしながらの移動と食料調達の苦難にさいなまれていくが、コミュニティを維持運営した兄弟の統率力と手腕はまさに奇跡といってもいい。 本書では兄弟の光の部分だけでなく、彼らの性格的な端緒や残虐な行為の陰の部分も記録をもとに書き留めている。決して聖人君子や英雄ではなく、一人の人間としての正義感をしっかりと描いているところに著者の誠実性を感じる。 戦後にこの救出劇の全貌が明らかになり、第二のシンドラーと喧伝されたことは本書によるところが大きい。 数年前に史実をもとに映画化された『ディファイアンス』を観たが、内容がかなり歪曲されている印象があったので、ネハマ・テックの同名の原作本も併せて読みつつ、再度視聴してみたくなった。 読了日:12月27日 著者: ピーター ダフィ 死体格差 異状死17万人の衝撃の 感想年間17万人の異状死に対して、わずか11%という解剖率。先進国にあっては最低レベルの数値である。 警察が異状死体の犯罪性の有無を判定するという客観性を無視した体制、法医学者の不足、低予算による自治体の死因究明機関の設備不備が解剖率の低さとして表れている。 そもそも異状死体を司法解剖にするか否かの判断を法医学者でもない警察医がすること自体に問題がありそうだ。これによって多くの犯罪死が見過ごされてきたのは想像に難くない。 後妻業の女と呼ばれた青酸カリ連続殺人事件を起こした筧千佐子には周辺に11名の不審死が分かっているが、司法解剖されたのはわずか3人。残りは病死で処理されている。これでは遺族は泣き寝入りせざるを得ない。裁判の行方を左右する以上、法医学的見地による客観的証拠を揃えるのは不可欠である。 欧米のようなコロナー(検視官)制度の導入が必要ではないだろうか。また、単身老人世帯の増加と比例した孤独死、コロナ感染症による在宅死を死因究明制度の遅れという理由でうやむやにしてはならない。 本書は臨床医療大国の我が国にあって、大幅に遅れている法医学現場の闇を暴き問題提起している。一刻も早い体制の構築を望みたい。 読了日:12月25日 著者: 山田 敏弘 あなたのゼイ肉、落とします (双葉文庫)の 感想前作『あなたの人生~』を読んだのがいけなかったか、十萬里と小萬里が同一人物のようにダブってしまい、最後までその印象が消えなかった。 もっともこの二人は姉妹なので、似せたキャラに設定したのも、何らかの意図によるものだろうか。1話目は、ちょっとキレがないなぁ…と思って読み始めたが、さすがに垣谷作品、気づいたときには速いテンポと面白さに引き込まれ、いつものように一気読みだった。 何気ない日常生活に潜む家族関係に亀裂が入りそうな危ない要素を抉りだし、あたかもゼイ肉を落とすように温かい目で修復する手腕はさすがである。 読了日:12月23日 著者: 垣谷 美雨 木の実の呼び名事典 (散歩で見かける)の 感想植物画制作の資料として読んだ。代表的なアイテムが並んでいるが、今が盛りのナンテンやクロガネモチ、マンリョウの実はどれも同じように見え、その形状だけでは判断できないのが面白い。 本書には紹介されていないが、私が描いているつる性植物のアオツヅラフジは小さなぶどうのような実をつけるが有毒。食べられるエビヅルの実とそっくりなので、間違って食べてひどい目に遭った人がいるかもしれない。 画像は採集したての標本を写したものなので立体感に欠けるが、植物の自然状態の画像が添えられ全体像が把握できるのが救い。手元に置きたい一冊。 読了日:12月21日 著者: 亀田 龍吉 最後のイタコの 感想1980年代には300人はいたといわれるイタコ、現在活動しているのは10人以下という。 最後のイタコと呼ばれる著者は、「絶滅危惧種」と言い放つ。高齢化の波に逆らえない以上に、厳しい修行による伝承を受け継ぐ後継者が少ないことがその理由である。 イタコや瞽女は盲目の女性がつける仕事として古くからあったが、師匠について学び、技を継承するのは同じである。イタコの源流は古来からのシャーマン信仰にあるのか、その性格は宗教家とは明らかに違う。口寄せにより死者と対峙する神秘を信じるのも信じないも己次第である。 本書では東北地方に伝わる「オシラ様遊ばせ」というイタコによって行われる神事についても紹介されているが、恐山=イタコの口寄せというだけの認識から、占いやお払いといった民間に根付いたイタコの仕事に関しても知ることができたのは収穫。 数年前に恐山を訪ねたが、その荒涼とした風景にたじろぎ、言葉を失ったことを覚えている。 18歳でイタコの世界に飛び込んだ著者は、まさしく“選ばれた人”に違いない。 読了日:12月21日 著者: 松田 広子 踊る熊たち:冷戦後の体制転換にもがく人々の 感想熊使いのロマたちから引取られた踊る熊たち。歯を抜かれ、鼻鎖をされ、アルコール漬けにされた熊たちは、楽器の伴奏に合わせて後ろ足で立って踊り、小金を稼ぐ。 共産主義体制の終焉とともに熊たちは自由の身になるが、人間の匂いや声に敏感に反応し、ほとんどの熊が再び踊り出す。突然与えられた自由に対処できない哀しさがそこにはある。 後半ではソ連崩壊後の旧共産主義諸国で、自由を受け入れられず右往左往する経済的弱者の人々を描く。真の自由とは何か?自由の価値観を問いかけ、つかみ取ることの難しさを踊る熊に重ねた渾身のルポである。 読了日:12月20日 著者: ヴィトルト・シャブウォフスキ あなたの人生、片づけます (双葉文庫)の 感想昭和世代ならモノを捨てるのが苦手な人が多いのでは? かくいう私もそう。捨てるのも下手だが、それ以上に溜め込むのが得意。 6年間の単身赴任生活を引き払うとき、キッチンの引き出しにはコンビニやホカ弁で貰った割りばしやお手拭きがぎっしりとあり、引っ越しの手伝いに来たカミさんが驚いていた。 私の場合は単なるズボラのなにものでもないが、この作品に出てくるのは心の悩みを抱えた人々。モノが捨てれない、掃除ができないというのはどうやらその原因が心の不安定さにあるようだ。 それにしても十萬里さんの活躍、お見事という他にない。 読了日:12月17日 著者: 垣谷 美雨 人間の土地への 感想アラブの春から10年、終わりが見えない内戦状態が続くシリア。国内外の難民の数は1300万人にも上っている。 アサド政権に反対する民主化運動が大国による武力支援や兵器販売といった政治・経済利権に巻き込まれ、その結果が国の崩壊である。 内戦前のゆっくりと時が流れる砂漠の体験から、あえて悲惨な状況に身をもって飛び込んでいく著者の行動力には、未知を求めるクライマー魂と日本女性の芯の強さがみえる。難民となったシリア人の伴侶が、内戦によって失ったものは豊かな感情だと語っていることが印象深い。 K2を登頂したトップクライマーだった著者が山の世界から離れてしまったのは残念だが、過酷なビバークでみた生と死の分岐点で実感した命の価値観は、シリアの砂漠から地平線を越え、まだ見ぬ未踏の世界に続いていくと思いたい。 読了日:12月15日 著者: 小松 由佳 土葬の村 (講談社現代新書)の 感想土葬はすでに消滅した風習であると思っていたが、まずはその認識を改めなければならない。 ほぼ100%の世界一の火葬率を誇る日本にあって、ほんの数年前まで近畿地方の村では行われており、その弔いの実態は地方色ある奇異な風習として受け継がれていた。 納棺や野辺送りの作法にも濃密な土俗信仰が背景に見てとれるが、なかでも四十九日に墓をあばく「お棺割り」という風習には戦慄を覚えた。 大がかりで面倒さゆえ、多くの人々の協力を必要とする“おごそかな儀式”土葬は住民どおしの連帯感があってこそだが、近所づき合いや人間関係が希薄な今日では実現できない。 後継者不足で廃れゆく村祭りにしかり、家族葬を筆頭とした葬送スタイルの変化とともに土葬が消える運命にあるのはもはや明白である。 しかし、市民グループの「土葬の会」ができたことで、弔いの選択肢として新しい潮流が生まれたことは、土に還ることを願う人々とって一筋の光明になるかもしれない。 読了日:12月13日 著者: 高橋 繁行 アウシュヴィッツの歯科医の 感想強制収容所でのホロコーストの実態については多く出版されているので目新しさはないが、特筆すべきことは、死の行進から始まるドイツの敗戦と連合軍による解放後までの騒乱の模様が、著者の体験をもとに詳しく描かれていることにある。 アウシュヴィッツで歯科医をしながら生き延びていく過程よりも、こちらのほうが数段生々しい。 そこには歴史の闇に葬られていた客船カップ・アルコナ号の沈没の真実や、新天地を求めて翻弄されていく生還後の著者の姿が貴重な証言として綴られている。 また鉄壁の印象があった収容所のイメージを覆してくれたのが、民間人の非ユダヤ人女性との恋愛。収容所内での囚人どうしのそれはこれまでも多く取り上げられているが、監視の目が緩かったのか、フェンスの外側での逢瀬には驚いた。 脱走を援助し匿ってくれる人がいる状況のなかで、生きるために収容所に残る決心をした著者にはじれったさを感じたが、その選択の是非は結果的に運が良かったという言葉以外見つかりそうもない。 読了日:12月12日 著者: ベンジャミン・ジェイコブス 落ち葉の呼び名事典 散歩で見かけるの 感想五十の手習いで始めた植物画(ボタニカル・アート)。その参考資料として購入。 冬の訪れとともに光合成できなくなった落葉樹や常緑樹は、紅葉が深まり役目を終えて散っていく。ふだん何気なく見ている自然の摂理だが、そこにあるのは一枚の落ち葉の物語だ。 例えばアカシデの葉。元気いっぱいの瑞々しい緑から、黄色→橙→赤→虫食いの褐色…と変化を追った画像に、走馬灯に映るはかない一生を見るかのようだ。 紅葉が終わり落葉が始まるちょうどこの時期、スケッチブックを片手に里山に分け入り、静けさを満喫しながら絵筆をにぎってみたくなった。 読了日:12月10日 著者: 亀田 龍吉 夫の墓には入りません (中公文庫)の 感想この作品、サクサクと読めるが侮ってはいけない。 どこにでもいる夫婦や家族が抱える不安定な内面の傷口を、えぐるように突っ込んでくる。頁をめくる手が速くなるのは、心理描写と構成力のうまさ故か。 夫の死後明らかになっていく事実や本音が言えない嫁ぎ先の関係に苦しむ主人公に、手を差し伸べるのは両親。ここぞとばかりに立ち上がる父親の存在感が抜群である。 世のふがいないオヤジたちをあざ笑うかのような頼もしい父権回復の姿に心の中で拍手をした。 しかし理由はあれど、夫が急死しても悲しまない妻の心情には共感できず、イライラが募った。 読了日:12月10日 著者: 垣谷 美雨 そこに僕らは居合わせたの 感想ナチズムは広義でファシズムに分類されている。 独裁的な権力をもって反抗の弾圧や暴力があったにも関わらず、それはユダヤ人や非ドイツ国民、共産主義者に対してであり、国民の多くはヒトラーを崇め、その国家主義を熱狂的に支持した。 当時の子供たちがプロパガンダや学校教育で気づかぬうちに洗脳されていく過程は恐ろしく、覚醒するまでの苦悩とその後の人生を思うと、彼らも被害者であった。 日常生活の中にさりげなく入り込んだ邪悪な狂気や閉塞感を証言し続ける著者の姿勢には、ドイツが犯した過ちに翻弄された自らの悔いが見え、胸が痛んだ。 読了日:12月08日 著者: グードルン・パウゼヴァング 北斎になりすました女 葛飾応為伝の 感想朝井まかて『眩』を読んでから、ずっと気になっていた葛飾応為。 本書を含め多くのメディアに取り上げられたこともあり、今では押しも押されぬ人気絵師である。天国の彼女は知る由もないだろう。 北斎の背中を見て精進し、光と影を操る自身のスタイルを完成させたにも関わらず、北斎の死後も生活のために北斎の落款を入れて描き続けた半生は苦悩に満ちたものだったのか。 応為が生きた時代が、女性の絵師が評価されない背景と重なっていなければ、その生涯は違ったものになっていたかもしれない。以前、小布施の北斎館で北斎最晩年の作といわれる『富士越龍』と『菊』を観たが、本書を開くまで応為作の可能性が示唆されていることを露ほど知らなかった。今後の新たな発見と研究に期待したいところだ。 本書を研究書ではなく応為ブームに乗った伝記として読んだが、作品のカラー図番が少ないのは残念。せめて代表作の『三曲合奏図』は掲載して欲しかった。北斎と応為のタッチの違いは、文字ではなかなか伝わらない。 せっかくの意欲的な検証を、生かさないのはもったいない。 読了日:12月07日 著者: 檀 乃歩也 三千円の使いかた (単行本)の 感想家族小説にありがちな、ののほんとした心地よさに惑わされそうになったが、いたってシビアな内容であった。 カネをめぐる話はどう扱ってもリアルでネガティブになってしまう。大多数の庶民にとって、それが生きていくことに直結しているからだ。同じ商品を買うなら、一円でも安い方を選ぶ。これは主婦感覚ではなく、生活者としての本能といってもいい。 毎日100円の積み重ねでも貯蓄をするということには案外強い意志がいる。 娘の婚約者の借金問題には同じ父親としての立場から感情移入してしまったが、そこまで寛大になれないのが正直なところだ。 読了日:12月06日 著者: 原田 ひ香 土偶を読む――130年間解かれなかった縄文神話の謎の 感想“目からウロコが落ちる”とは、こういうことをいうのか。説得力がある痛快な論説に魅入ってしまった。 土偶のモチーフを植物や貝類の姿から模倣したと確信する柔軟な思考は、考古学者じゃないからこその発想である。女性崇拝だの、呪術に使われたヒトガタといった謎多き土偶の定説がまかり通っていたのは、考古学界の頑固で保守的な古い体質を象徴していると言えなくもない。 それを思うと遮光器土偶=宇宙人説のほうがよほど突飛で面白い。サトイモと重ねた画像には目が点になってしまった。学問は自由な発想で展開してこそ、真の値打ちがある。 読了日:12月05日 著者: 竹倉 史人 越えていく人——南米、日系の若者たちをたずねての 感想海外移民の背景は、人口増加に対して食い扶持を減らす苦肉の策として、国が出稼ぎ労働者の海外渡航を推進したことにあり、そのまま貧困の歴史と重なる。 経済成長を遂げた今の日本で、かつて移民として渡った南米の国々から日系人の出稼ぎ労働者を受け入れているのは皮肉の何物でもない。 沖縄県をルーツにもつ日系3世、4世の若者たちのルポには彼の地に同化し根を張っている姿がある。日本人移住地のようなコミュニティも存在するが、それは少数派のようだ。 増える日系人口と国境を越えしたたかに生きる彼らに、日本民族の逞しさをみた思いがした。 読了日:12月04日 著者: 神里 雄大読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
今年も残りひと月。 早いものです。 すぐそこまで冬の足音が来ている中、名残りの紅葉を見てきました。 目が覚めるような彩に、幸せな気持ちになりました。  さて、11月の読書ですが、小説離れが一段と進んだようで、ノンフィクション中心となりました。 読書冊数は久々の20冊超え。図書館利用で新刊を読めたのも良かった。 収穫は『アメリカンビレッジの夜』。沖縄の哀しい歴史と今を女性視点で鋭く論じた、今年のマイベスト1です。 11月の読書メーター読んだ本の数:21 読んだページ数:6480 ナイス数:2113 定年オヤジ改造計画の 感想不勉強なのでこの本で初めて『夫源病』を知った。そういえば私が早期リタイアしたとき、カミさんがよくその言葉を発していた。 定年オヤジ、家でゴロゴロ、家事をしない、結婚しない娘。育児もカミさんに押しつけていたっけ…まさにビンゴ、今の私そのものである。 つい先日も子供を産んでも働きたいという長男夫婦に“三歳児神話”をぶちまけてしまった。まるで私の明日を占うかのような展開に、心臓をわしづかみされたような焦りを感じながら読んだ。 悠々自適の老後の裏には棘があるのか。暇と孤独だけが友達というのは何としても避けなければ…。 読了日:11月30日 著者: 垣谷美雨
アメリカンビレッジの夜——基地の町・沖縄に生きる女たちの 感想ここは日本であって、日本じゃないのか…沖縄を旅した先日、やんばるの森に忽然と現れた米軍の戦闘訓練センターに驚いた。 沖縄に暮らす女性たちを軸に、沖縄が抱える数多の問題を歴史と現実からするどくえぐった努力作である。特に米軍基地の問題については、過去から頻発している性暴力事件を検証しながら日米関係のはざまに生きる沖縄の行く末に警鐘を鳴らしている。 最後まで読んで、日系4世の著者が基地反対の強い信念のもとにこれを書き上げたことを知った。 日本人ではなく、文中ではあえて沖縄人と表現した意味合いを理解しなければならない。 読了日:11月29日 著者: アケミ・ジョンソン
家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像の 感想多くの事件ルポを読んできたが、ここまで犯人と向き合ってその実像を追ったルポは稀である。 著者は3年に及ぶ取材で、膨大な手紙のやりとりから始まり、複数の面会、最後は犯行時の遺留品まで譲渡されるという、ありがた迷惑ともいえる関係まで築いている。 しかしこれをもってしても「刑務所に入りたいから人を殺した」という不可解な人間性には迫れていない。掌で転がされ、煙に巻かれているようにしか見えないのだ。 犯人・小島一朗にとっての刑務所とは、生存権を認められる“安穏な家族空間”なのだろうか。犯罪者心理の闇はあまりにも深く暗い。 読了日:11月26日 著者: インベ カヲリ★
潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景の 感想凄まじい生き方の、男の人生を見た思いだ。 ダイバーの吉田浩文氏は震災後すぐに津波被害者の遺体引き上げ作業を行った人物である。 仙台港に沈んだ自殺者や遭難者の遺体引き上げを手伝うちに、いつしか本業を圧迫し、倒産の憂き目に遭う。遺族から捜索費用を回収することができず負債が膨らんだことによるが、そんな苦境をものともせずに暗い海底に向かっていく。 津波被害者の捜索でヘドロの海に潜る姿は、もはや使命感を超越している。 この勇気と意地はどこからくるのか。粗い文章に不満は残るが、海に生きる真の男の強さを知った一冊であった。 【追記】会社の転勤で震災後の仙台に単身赴任し、6年を過ごした。その間、花を植える作業のボランティアで訪れたのがこの作品の舞台になっている宮城県名取市の閖上浜。当時はむき出しになった家屋のコンクリートの基礎やガレキがまだいたるところに残っており、そこに町があったことを物語っていた。今となっては懐かしいが、災害の無常さを実感せずにはいられなかった。 読了日:11月24日 著者: 矢田 海里
本棚三昧の 感想“人の魂、本棚に宿る” “人の本棚はとっても不思議”…いずれも似たような本の受け売りだが、当たっているように思う。 大げさに言えば、本棚を見ればその人の個性はもちろんのこと、人生の履歴までも垣間見えてしまう。本も個人情報とするならば、背表紙を通して無防備に溢れかえっているのだ。 私がこの本を手に取ったのは、覗き見趣味の何物でもない。その人をもっと知りたいという気持ちもあるが、それ以上に並んでいる本ばかりでなく、さりげなく鎮座しているフィギュアや雑貨、ポートレートまで目で追うのが楽しい。 これはやはり悪趣味だろうか。 高田純次がビニールひもで縛った本の束を持っている写真は、古本屋から仕入れた直後か、それとも処分しようとしているのか、解説がないので分からない。こういうのは読者サービスに欠け、配慮が足らないのでは。 本の雑誌社『絶景本棚』とどうしても比較してしまうが、全景のアングルがあったほうが、私のような下衆な覗き見趣味をより満足させてくれたと思う。 読了日:11月23日 著者:
失踪者の 感想“速攻登山”のごとく、前作『生還者』に続いて一気に読了。 掴み、伏線、ディテール、そして読後余韻を残す完成度は前作を凌ぐできである。 真山と樋口の出会いからの流れは、時系列ではなく前後が交錯するのでやや分かり難く感じるが、満腹になるくらい登攀シーンを描いてくれたので、山好きとしてはそれだけで嬉しい。 実力派の現役クライマー中島健郎氏のアドバイスを受けたというだけあって、垂直の氷壁にプロテクションのアイススクリューをクルクルと回して埋め込む姿まで見えてくる圧倒的な臨場感だ。 気になったのは樋口の山行歴。 ヒマラヤに挑むくらいの大きな目標をもったクライマーなら、多くの場合は実力に合わせてルートの難易度を上げる山行をしていくと思うが、時系列でみると、冬山縦走では白馬岳~槍ヶ岳~奥穂高岳の単独縦走の後、真山と組んだ中崎尾根~槍ヶ岳なっており、難易度はぐっと下がってしまう。 また岩登りでは谷川岳衝立岩単独登攀(夏季)の後は、同じく真山と登る八ヶ岳横岳西壁中山尾根(冬季)になっており、これも同様。中山尾根は冬季岩稜登攀の初級ルートである。 比較すると樋口が大学時代に行った冬季の西穂高岳~奥穂高岳の単独縦走の方が一般ルートとはいえはるかに厳しい。二人でザイルを組んだ山行の方が難易度が下がってしまうのはいかがなものか…。 できることなら二人で登るルートはもっと難易度が高いモチーフにして欲しかったというのが本音である。 どうしても山のことになるとムキになってしまうが、他意はないのでご勘弁を。 いずれにしても、山の世界を存分に楽しませてくれた著者に感謝したい。 読了日:11月22日 著者: 下村 敦史
生還者の 感想森村誠一、梓林太郎、太田蘭三に代表される山に殺人事件を持ち込む山岳ミステリは、中高年の登山ブームが始まる以前から量産され、笹本稜平に至っても大筋は似たような内容なのでここ数年は敬遠していた。 しかし、新たな書き手が現れたということを知り、手にしたのがこの作品。 ストーリーの構成や顛末は別として、気に入ったのが登山シーンのディテール。 アイスクライミングや冬山でのロープワーク、ギヤの操作は確かな技術を学習して描かれている。更にビーコンの操作も詳しく、雪崩捜索訓練の模様も。 また、沢登りの描写では底に水抜き穴がある沢登り専用ザックのことまで触れる念の入れようだ。それもそのはず巻末の参考文献には登山技術ガイドがずらりと並んでいる(私が執筆している編著もあった)。 御在所岳奥又ルンぜのアイスクライミングシーンが出てきたときには、心の中で思わず拍手。その昔、何度か登ったことがあるルートなのだ。 登場人物の登山家たちが冬の白馬岳や三ッ峠、七ツ釜といった入門的なルートから舞台がいきなりヒマラヤのカンチェンジュンガというのはものすごい飛躍なので苦笑しかないが、できればそこにチャレンジする過程として国内の剣や穂高あたりの冬壁の登攀くらい挟んでくれたら嬉しかった。 ともあれ、山岳小説の書き手としては合格点。次作『失踪者』も読みたくなった。 読了日:11月21日 著者: 下村 敦史
ナチの子どもたち:第三帝国指導者の父のもとに生まれての 感想国家社会主義の理想を忠実に掲げ、ニュルンベルク裁判で揃って無実を訴えたナチ戦犯たちは、残虐行為が平然と行われた現場にいながら家庭ではどこにでもいるよき父親を演じたという。 人間性を感じないこのギャップの神髄はどこにあるのか。ナチ戦犯ばかりでなく、記憶に残る稀代の殺人者にも父親の顔があったことを思うと、人が持つ底知れぬ闇の深さを感じずにはいられない。 おおよそ想像はついたが、ナチの子どもたちの戦後は苦難と失意の歴史であった。ユダヤ教への改宗、姓との訣別、隠棲、自殺…多くが差別に苦しみ父親を憎んで成長していくがグドルーン・ヒムラーについては父親に心酔し、姓に誇りをもち、ナチ戦犯の逃走を支援し、更にはネオナチたちと極右運動を煽動している。 自分たちの責任を後世に残さないことへの呵責からか、それとも自分を正当化するためのエゴイズムか、自死したヒトラーは偶然にも子孫を残さず、ゲッペルスは妻と6人の子どもたちと心中した。 哀しいかな、歴史が続く限りナチ犯罪の記憶が消え、係累たちの今後に霧が晴れることは決してないだろう。ドイツが犯した罪は、限りなく大きい。 読了日:11月19日 著者: タニア クラスニアンスキ
ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)の 感想非行と障害が密接な関係にあることを教えてくれた一冊。 医療少年院に送致された少年の多くが、幼少時からの知的障害と認知機能障害をもっているという事実には驚く。多様化、低年齢化している犯罪と機能障害の関連性をさらに解き明かしていく必要性を感じるが、まずは大人たちが機能障害をただしく理解することが先決ではないだろうか。 私の身近にも認知機能障害の子供の育児に日々奮闘している人がいる。キレイごとかもしれないが、非行や犯罪に手を染めないように導いていくのは、行政や教育機関ではなく周りの大人たちの責務であると思いたい。 読了日:11月17日 著者: 宮口 幸治
魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣の 感想GDPを世界第二位に押し上げた高度成長の裏に、環境破壊と公害問題があったことは今ならだれもが知っている。 1970年代初めに水俣病訴訟が苛烈し国民の関心事にならなければ、公害の悪について学校で習うこともなかっただろう。 本書は水俣病と外国人写真家という、結びつくこともない次元がまったく違う二つの視点を追っていくが、紆余曲折のプロセスの中で見事に融合し、写真集『MINAMATA』に結実していくストーリーである。 難航する水俣病訴訟には、外貨を稼ぐ大企業を擁護せざるを得ない当時の国力の弱さが見て取れるし、社員を単なる使い捨ての労働力として扱う陰険な実態を浮き彫りにしている。 ユージン・スミスのジャーナリストとしての信念と正義感、そして飽くなき追及心と表現力は、最期の仕事と捉えた水俣に向き合うことで完結したのだろうか。 『ライフ』誌への投稿掲載によって公害問題の深刻さと不条理の実態が発信されたことにより、人類に警鐘を鳴らす一端を担ったことはジャーナリズムの影響力の大きさゆえんである。 しかし、優柔不断で人間性が欠如しているかに見えるユージンの投稿が信念に基づく行為だったのか、影響が想定外の産物だったのかは分からないが、妻アイリーンとの二人三脚がなければ成しえることができなかったに違いない。 映画『MINAMATA』を観なければ本書を手に取ることはなかったが、水俣を象徴する写真『入浴する母と智子』はずっと以前から知っていただけに、映画では何よりもその撮影秘話が、美しい映像として語られたことに目を奪われた。 併せて、本書によって水俣への印象が増したことに感謝したい。 読了日:11月16日 著者: 石井 妙子
ヒロシマを暴いた男 米国人ジャーナリスト、国家権力への挑戦の 感想ジョン・ハーシー著『ヒロシマ』は読んでみたい一冊。 1946年に『ニューヨーカー』に電撃掲載された元記事は、ハチの巣をつつくほどの大騒ぎになった世界を揺るがす大スクープである。 ルポ出版の裏にはアメリカ政府による原爆の実態を隠ぺいする権力との闘いがあり、出版後には原爆投下の正当性を問う世論が国を覆う。 更に、原爆の破壊力と脅威を知ったソ連は原爆製造に拍車をかけ、核戦争時代の幕開けとなっていく皮肉な側面も。 一人のジャーナリストの信念によって人類全体の未来を案じて書かれたルポには、哀しい二面性を感じた。 全世界の国や人々の心を動かしていくペンの持つ力のプロセスに感動したが、反面、抑止力の名のもとに軍備拡大を助長する危険性を孕んでしまったことに驚いた。 広島への原爆投下は戦争を終わらせるための手段だったのか、製造過程の実験として使われたのか謎のままであるが、破滅へ突き進む一億玉砕の名のもと原爆投下を許した日本と、手を下したアメリカの罪はどちらも限りなく重いと言わざるを得ない。 本書は核問題の根源を考えさせてくれた作品であった。 読了日:11月14日 著者: レスリー・M・M・ブルーム,高山 祥子
レストラン「ドイツ亭」の 感想これが処女作というから驚きだ。完成度の高さと一気に読ませる構成力に舌を巻いた。 舞台は1963年のドイツ・フランクフルト。過去の過ちを直視し、克服することを選んだドイツが、自らナチスの犯罪を暴いたアウシュヴィッツ裁判が物語の背景となっている。 フィクションなので実名は出てこないが、裁判を主導したフリッツ・バウアー検事長の存在も見え隠れしている。 主人公の女性や家族、恋人、周辺の人々が引きずるホロコーストの因果に胸が締めつけられる。出口がない長いトンネルに足を踏み入れたような、暗く閉塞的な圧力を感じる作品だった。 読了日:11月12日 著者: アネッテ・ヘス
木村政彦 外伝の 感想昨年、鹿児島県佐多岬を目指す日本縦断の歩き旅で熊本県川尻町を通過した際、歩道橋に掲げられた『木村政彦生誕100年』の横断幕を目にし、心の中で手を合わせた。 『木村政彦はなぜ~』を読んでいなければこの不世出の柔道家のことを知る由もなかったが、木村の存在はいつしか私にとって“心のヒーロー”になっていたことに気づかされた。 木村を知ることができた前著はそれくらいインパクトのある作品だったようだ。外伝の本書では対談を軸に本には書けない木村の人となりまで切り込んでおり、私のもつ木村の魅力がさらに増幅するのを感じた。 木村の柔道人生で横道に逸れた時期にめぐり合わせた力道山との試合などどうでもよく思えてくる。生きていくために柔道一本で勝負できなかった木村の誤算(?)や悔しさ(?)が、戦後復興と高度経済成長に翻弄された時代のいやらしさに重なってくるからだ。 対談では木村フリークの吉田豪が語る木村武勇伝が面白く、その豪快さも常人の域を突き抜けていたことに、もはや拍手しかなかった。 読了日:11月11日 著者: 増田俊也
たくましくて美しい 糞虫図鑑の 感想表紙の写真はルリセンチコガネ。マニアなら誰もが知っている垂涎モノ。輝く一粒の宝石のようなこの虫は奈良公園のシカの糞に集まる糞虫である。 1200頭のシカがいる奈良公園では毎日1トンの糞が生産され、糞虫たちがせっせとそれを食べて分解する食物連鎖がある。アフリカの草原でもニュージーランドの牧場でも同様。糞虫がいなければ動物の糞だらけになってしまうからその役割は大きい。 糞虫に魅せられた著者は、脱サラして奈良に糞虫専門の博物館を造るまでの熱の入れよう。美しく奇抜な虫たちの図鑑を眺めればその心意気が伝わると思う。 読了日:11月10日 著者: 中村圭一
太陽のかけら ピオレドール・クライマー 谷口けいの青春の輝きの 感想辛気臭い遺稿集ではなく、明るい立志伝として読んでみた。 今から15年ほど前、社会人山岳会で沢登りや岩登りに明け暮れていた頃、 谷口けいというめっぽう強い女性クライマーがいることを仲間たちからよく聞いた。 山の世界は広いようで狭い。登山用品店や山屋の集会でも彼女の動向が話題に上ることがあった。 いつしか日本を代表する登山家になった彼女が大雪山系黒岳で遭難したという報道に接してから早6年が経った。 彼女のザイル仲間である著者が綴ったこの本には、太く短く人生を駆け抜けた個性あふれる女性の姿が余すことなく描かれている。 読了日:11月09日 著者: 大石 明弘
老後の資金がありません (中公文庫)の 感想コミカルだが、笑えない。定年を迎え年金生活に突入する私にとっては他人ごとではないのだ。 年寄りにやさしくない今の社会、老後不安がカネと直結するのはやるせないが、これが現実だからしょうがない。 カネがなければ生きていくのもままならぬ。娘の結婚や親の介護、失業、年金詐欺など、この作品ではカネに翻弄されながらもおいそれとは壊れない主人公と家族の絆を描いているのが救いだ。 葬儀にかかるリアルな試算には、見栄を捨てることと、カネをかけない家族葬にすることを改めて学習できたことに感謝。老いた父にもう一度話しておこう。 【追記】天海祐希主演の同名映画を観てた。ストーリーは脱線し、ドタバタ劇で終わった。原作が面白かっただけにちょっと残念。 救いは天海祐希と松重豊のやりとり。良い夫婦を演じていたと思う。 読了日:11月08日 著者: 垣谷美雨
ヤマケイ文庫 どくとるマンボウ青春の山の 感想既読のエッセイが多いが、透明感溢れる瑞々しい文章は何度読んでも心が和む。 本土決戦を前にした松高時代の終戦間際、死を漠然と予感しながらも徳本峠を越え上高地を彷徨うやるせなさは、読む側にとっても万感の思いが交錯する。 『白きたおやかな峰』で描いたカラコルムディラン峰のエッセイはコックのメルバーンとの交流をユーモアで綴っており、一転して『どくとるマンボウ昆虫記』に収録された高山蝶や上高地の描写は清冽かつ抒情的。 著者がもつ二面性の魅力が出ている。松高時代の歌集『寂光』は初心な純真さと青春の陰が表現されており秀逸。 読了日:11月08日 著者: 北 杜夫
わたしはナチスに盗まれた子ども:隠蔽された〈レーベンスボルン〉計画の 感想ユダヤ人を始めとした劣等人種と呼ばれる人々を皆殺しにしたホロコーストがコインの表面なら、純血アーリア人種を増産するレーベンスボルンは裏面。 対極をなすナチスの極悪非道の戦争犯罪である。本書は生後9ヶ月で旧ユーゴスラヴィアから拉致された著者が出自の謎を解き明かしていく衝撃のノンフィクションである。 その50年にも及ぶ過程でレーベンスボルン計画の実態とおぞましさ、それに翻弄された多くの人々の悲しみと怒りが露わになっていく。 親衛隊トップのヒムラーという一人の狂信者によって生み出された不幸は、あまりにも大きい。 読了日:11月04日 著者: イングリット・フォン・エールハーフェン,ティム・テイト
最後の読書 (新潮文庫)の 感想そろそろ最終コーナーに差しかかった私には、他人事ではない。 残りの読書人生をどう送るか?これは悩み多き問題。 80歳を過ぎた著者は日々この悩みを抱きながらもワッセワッセと精力的に本を読みこなし、原稿を書く。まったく感服。 病床の鶴見俊輔は死の間際まで読むことにこだわり、紀田順一郎は蔵書を手放す無念さを嘆く。 目が衰えるまでにあとどれだけ読めるか。あれも読みたい、これも読みたい…私にとって五体に染みついた読書習慣はもはや衣類と一緒。決して脱ぐことはない。 知識欲を掻き立てる本がある限り、どんどん着ぶくれしてやろう。 読了日:11月03日 著者: 津野 海太郎
にっぽん醤油蔵めぐり (かもめの本棚)の 感想全国に1200あるといわれる醤油蔵は、酒蔵と並んでノスタルジーに浸ることができる空間だ。 醤油独特のすえた匂いとピンと張りつめた空気には冒してはならない神聖なものを感じる。 本書は醤油に魅せられた著者が45の蔵を厳選し、店主から醤油造りのこだわりを聞き出している。震災の津波で被災して再建した蔵の苦労や、夫婦二人で営む小さな蔵では代々受け継がれた伝統を守っていく姿勢に醤油づくりの心意気が伝わってくる。 私はホーロー看板の撮影が目的で醤油蔵を巡っているが、本書を参考に蔵の主人と話ができたら、楽しみも倍加すると思う。 読了日:11月02日 著者: 高橋 万太郎
蝉かえる (ミステリ・フロンティア)の 感想神出鬼没で天然キャラの昆虫マニア・魞沢泉が活躍するシリーズ二作目。 素人然とした前作から明らかに“脱皮”した筆力に素直に驚いた。前作ではワンポイント程度の絡みしかなかった昆虫のプロットも「ホタル計画」や「サブサハラの蠅」ではストーリーの重要な要素として主役級に扱っているところが嬉しい。 少年期、学生時代と過去を小出しに遡ることで、謎多き魞沢泉の人間性を少しづつ見せているのは読者サービスだろうか。 単なるとぼけたキャラでは収まらない魞沢の魅力が緻密な構成で一層引き立つ、見事なチェーンストーリーに仕上げている。 読了日:11月01日 著者: 櫻田 智也 読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
9日間の中山道歩き旅をした10月前半は、マメができて痛めた足を癒すため、ぼんやりとした日々を過ごした。 コロナの感染が増えてきたことで敬遠していた岩盤浴にも久しぶりに足を運んだし、図書館にも通った。 月末には大阪で開いた元職場のOBたちとの同窓会に出席し、気の抜けない連中と飲むことができた。 そんな日々の中で、読書する時間はたっぷりと確保。 文字通り晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活を楽しむことができた。 収穫は『ノモレ』。 アマゾン奥地の未開の部族をとの交流を描いたノンフィクションだが、今の世にあって文明とまったく接触することなく生きている人々がいたことに驚き。 世界は広い。 まだまだ知らないことが多いことを実感。 10月の読書メーター読んだ本の数:17 読んだページ数:4470 ナイス数:3543 女王陛下のユリシーズ号 (ハヤカワ文庫 NV 7)の 感想ずっと昔に挫折した、積年の宿題を読み終えた。 登場人物の多さ、巡洋艦の複雑な構造の名称がポンポン飛び出す前半は、ストーリーがまったく頭に入ってこず中断しそうになった。 しかし、後半になって俄然面白くなってきた。戦闘場面では、撃墜したドイツの雷撃機を「もはや機械ではない、引きちぎれて炎上する十字架」と訳す凄い迫力に圧倒され、最終章のユリシーズの孤高の姿には思わずホロリときた。 艦長の強いリーダーシップと取り巻く個性的な乗組員たちの描き方、そして何よりも心まで凍てつきそうな酷寒の海に、最後まで震わされた作品だった。 読了日:10月31日 著者: アリステア・マクリーン
昭和なつかし博物学 (平凡社新書)の 感想2005年の発行だが図書館では閉架扱い。手に取ってみてその理由が分かる気がした。 「そういえばあったね」をフレーズに昭和の博物品をリストアップ。 ウグイスの糞、ゾウのうんこ、医用蛭、ヒヨコすくい、放生、絹糸草、ニタリ貝、菊人形、ウミほうずき…。ずらりと並ぶのは補欠選手ばかりだが、著者は動物生態学の権威とあってそれぞれのウンチクは凄い。“懐かしい”かどうかは別として、雑学をため込むには面白い本だった。 女性のシンボルそっくりのニタリ貝の標本をその昔祖父さんが土産で買ってきて、箪笥の奥に隠してあったのを思い出した。 読了日:10月29日 著者: 周達生
サーチライトと誘蛾灯 (ミステリ・フロンティア)の 感想このところ小説離れが進んでいるが、虫好きの私にとって“無視”できない作品なので手に取ることにした。 昆虫をプロットにした短編ミステリであるが、希少種のスギタ二ルリシジミを登場させたり、ナナフシから出る寄生虫の話など虫に対するこだわりはそれなりに感じる。 平野肇の『昆虫巡査』シリーズや鳥飼否宇の『昆虫探偵』とどうしても比較してしまうが、虫好きを唸らせるには遠く及ばない。救いはひょうひょうとした主人公・魞沢泉か。 泡坂妻夫の影響を強く受けているようだが、ワンポイントではなく、もっともっと虫が絡んでくれたら嬉しい。 読了日:10月28日 著者: 櫻田 智也
片手の郵便配達人の 感想第二次大戦中のドイツ国民の死者は、兵士、一般国民を合わせて525万人。ヒトラーのファシズムに翻弄された敗戦国としての代償はあまりにも大きかった。 主人公は前線で片腕を失くして帰還した17歳の郵便配達夫。ドイツの敗戦までの10ヵ月の生活をたんたんと綴っているが、そこには「黒い手紙」と呼ばれる死亡通知書を配達しなければならない苦悩や、ナチを否定しながらもヒトラーユーゲントの子供たちを見守る冷めた感情も見え隠れする。 最後の結末はなんとも無常。フィクションとはいえドイツ側の視点から戦争の冷酷さを訴えた作品である。 読了日:10月27日 著者: グードルン・パウゼヴァング
剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑むの 感想山を始めた頃に読んだ新田次郎著『剱岳点の記』で、頂上に古代仏具の錫杖と鉄剣が残置されていたことを知り、それ以来ずっと気になっていた。 本書は平安期に剱岳が開山されたという仮説を自らの足で実証し、真実に迫っていく努力作だ。 私自身クライミングをかじっていたので剱岳には一般ルートの別山尾根や早月尾根を始め、八ッ峰やチンネ、源次郎尾根や三の窓からのバリェーションルートなど全方位から登頂したが、平安期のファーストクライマーが登頂するとすれば、剣岳を麓から見ることができる馬場島からの早月尾根しかないと思っていた。 早月尾根は水場がないことを除けばそれほど危険な場所はない。著者が紙数を使ってこの結論に行きつくまでもなく、ここまでは剱岳に詳しい者ならおおよその推測がつくはずである。 では、いつ、誰が、どんな目的でという疑問について幅広く考察していくのが本書の背骨である。 探検家を自称するわりに登山技術はたよりないが、山麓に散在する遺跡や伝承地、修験者の足跡を追い仮説を固めていくプロセスに、著者の執念を見たように思う。 仮説の域から結論は出ないが、歴史を絡めた山岳ノンフィクションとしては面白い作品であった。 読了日:10月27日 著者: 髙橋 大輔
ルポ ニッポン絶望工場 (講談社+α新書)の 感想本書が上梓されてから5年が経ち、外国人留学生、実習生、移民を取り巻く現在の状況が、コロナ禍による長引く不況のあおりを受けさらに悪化していると推測する。 私が失業給付に通う本書にもあった岐阜県美濃加茂市に近いハローワークでは、窓口を訪れるブラジル人の失業者を多く目にする。 就労目的で来日する外国人にとって日本人が嫌がる仕事でさえありつけない閉塞的な状況が続けば、貧困から犯罪へ発展する負のスパイラルに陥る可能性を秘めている。 日本語学校の乱立もしかり。外国人を食い物にする政府の国家的な無施策と無展望が腹立たしい。 読了日:10月25日 著者: 出井 康博
絵はがきにされた少年 (集英社文庫)の 感想本書が上梓されたのは2005年なので、著者が南アフリカで体験したアバルトヘイト撤廃後の混乱した世相が現在どうなっているのか気になった。 調べてみると、失業率や犯罪率は変わらず貧富格差はさらに悪化しているようである。 本書はかつて暗黒大陸と呼ばれたアフリカの負の側面を強調しながらも、多くの人々がアフリカに対して持つ「貧困」「援助」といった無知な先入観を改める必要性を説いている。 その象徴ともいえるピュリッツアー賞の【ハゲワシと少女】の撮影裏話に、何も知らぬまま写真を見て衝撃を受けた無知な自分が滑稽に思えてきた。 読了日:10月23日 著者: 藤原 章生
オオカミの護符 (新潮文庫)の 感想オオカミを象った一枚の護符から、古来より脈々と受け継がれてきた講と土着信仰の真実に迫った本書は、取材にかける著者の執念以上に、触れてはいけない疑問を解いてくれた傑作だと思う。 ずっと以前に両神山で沢登りをした帰途に立ち寄った神社で、オオカミの石像を見た記憶がよみがえったが、何で狛犬じゃないのかという疑問が氷解したことが嬉しい。 オオカミや山犬が眷属となっている神社は全国的にも多くあるようだが、山里の農村に深く根付き、人々の信仰対象となっていった事実を知ることができただけでも収穫であった。 読了日:10月22日 著者: 小倉 美惠子
全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったことの 感想角田美代子、林真須美、木嶋佳苗、そして筧千佐子。 いずれも記憶に残る平成の毒婦たちだ。並べただけでどんな事件だったか結びつく。 なかでも後妻業の女として有名になった筧千佐子は青酸を使った連続殺人を犯した文字通りの“毒の女”。今年6月に最高裁で死刑が確定したが、筧の周りでは合わせて11名の不審死が分かっている。 いつもの取材パターンで筧との面会を続ける著者曰く、後妻業の“業”は彼女の心に棲みついた「ごう」であると書く。常人の理解を超越する殺人者の“業”の深さは、天性のものなのだろうか。それを思うと恐ろしくなった。 読了日:10月21日 著者: 小野 一光
丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅 (岩波現代全書)の 感想本書はナチの協力者として烙印を押され丸刈りにされた女性たちの真実を探っている。 先に、フランス人女性とドイツ人兵士との間に生まれた子供の戦後史を綴った『ボッシュの子』を読み、その全体像が掴めた。 しかし、著者の意気込みに対して接触できた当事者はわずかに2人。高齢化と深い心の傷がそれを阻んだようだ。 ヨーロッパでの丸刈りの仕打ちは女性を辱める刑罰として歴史的にもポピュラーなものであったが、戦争終結後の解放時にそれが民衆によって爆発したのは不幸といってもいい。 登場した女性たちに純粋な恋物語があったことが救いである。 読了日:10月19日 著者: 藤森 晶子
生還者(サバイバー)たちの声を聴いて: テレジン、アウシュヴィッツを伝えた30年の 感想毎年のように出版されるナチス、ホロコースト関連の本は星の数ほどあり、その犯罪の広域性を象徴するかのように、茫洋たる海原に放り出されたごとく、どれだけ読んでも断片をつまんでいるにすぎない。 本書はアウシュヴィッツの中継点となった、子供たちを収容したテレジン収容所の生還者を追ったルポ。著者は子供たちが描いた絵を日本国内で展示する活動を行っているが、コロナ禍にあって活動の中断に追い込まれていることの焦りを述べている。 後半ではナチス高官たちの末裔の苦悩やアーリア人製造工場【レーベンスボルン】についても触れている。 読了日:10月18日 著者: 野村 路子
ノモレの 感想イゾラドとは文明社会と接触していない先住民のこと。2008年に世界のメディアが伝えた、アマゾンの奥地でセスナ機に向かって矢を放とうとする赤や黒でペインティングしたイゾラドの画像は衝撃的だった。 私はフェイクニュースだと思っていたが、その後NHKスペシャルでも放送され、今の世に外部社会と接触がないまま生活している部族がいることを知った。 タイトルの「ノモレ」は先住民イネ族の言葉で「友、仲間」のこと。本書は100年の時を越えて生き別れになったイゾラドとのか細い絆を、交流を通して紡いでいく壮大で哀しい物語である。 読了日:10月17日 著者: 国分 拓
13億人のトイレ 下から見た経済大国インド (角川新書)の 感想IT大国として世界をけん引し経済大国の道を進むインド。 一方で5億人を超える【野外排泄人口】を擁している。 そのギャップの根底にはカーストを起因とする根強い身分差別があるという現実を知った。ダリットと呼ばれる最下層の人々のトイレ清掃業務が世襲により支えられており、生活の基盤となっているその報酬は驚くべき低賃金である。 モディ政権による衛生状態の改善政策とアピールは表面的な対策にとどまっているようである。 差別意識を変え人権を守る大ナタを振るう指導者が出ない限り、インドのトイレ事情の根本的解決はないように思う。 読了日:10月16日 著者: 佐藤 大介
NHKスペシャル ルポ 車上生活 駐車場の片隅での 感想昨年観た同番組が印象に残っていた。 本書でも何度も語られているが、車上生活者だからといって皆一様に不幸であるとは限らない。 貧困やDV、逃亡などおおよそ想像がつく苦しい背景以外に、自宅があっても車上生活が好きでそれを楽しんでいる人々も一定数いる。 車の中で暮らすこと=可哀そうなこと…と仮定し、大きな社会問題として訴えようとする意図から無理な番組作りが見え隠れしていたが、それに気づき軌道修正していくスタッフたちの真摯な姿勢が垣間見えたのが救いだ。 固定観念からとかく誇張しやすい問題を冷静に見つめることができた。 読了日:10月15日 著者: NHKスペシャル取材班
ミュージアムグッズのチカラの 感想ミュージアムグッズのコレクターがいるとは知らなかった。 紹介されているグッズはユニークなものばかりで、お土産としても重宝しそうだ。目黒寄生虫館のサナダムシTシャツはきっと大うけするのでは。 グッズばかりに目が行きがちだが、侮れないのは全国49ヶ所の一癖ありそうなマニアックなミュージアムの魅力をきちんと紹介していることにある。 ちなみに私は2つしか行ったことがないので、これからの旅の楽しみと目的が広がりそうだ。見学のエンドロールのごとくグッズの品定めが余韻に浸る楽しみになれば、この本の価値はさらに高まるだろう。 読了日:10月15日 著者: 大澤夏美
喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~ (ワニブックスPLUS新書)の 感想立花隆亡き今、稀代の本読みと私が認識しているのが紀田順一郎、松岡正剛、そして荒俣宏の三人。 荒俣氏は知の巨人であり、博覧強記といえる唯一の人だと思っている。本書は読書の魅力を分かりやすく語っているが、まるで講義を受けているような心地よさがある。 博物学の話から、自然に関心を持つことは知の出発点として理想形であるというフレーズには、心に響くものがあった。 【尻取りゲーム型読書法】は読書家のほとんどが知らないうちに実践し、身についけている習慣なのではないだろうか。知識欲と好奇心を満たす方法には読書に勝るものはない。 読了日:10月13日 著者: 荒俣 宏
文豪ナビ 谷崎潤一郎 (新潮文庫)の 感想初めて手にした文豪ナビ。他にも三島や川端、芥川、山本周五郎なども出ているようだ。谷崎のおすすめコースは、刺青→痴人の愛→春琴抄→卍…最後は細雪。 『細雪』以外はずっと昔に大方読んでいるが、すっかりストーリーを忘れている。 10分で読む要約で少しは思い出すことができた。これはなかなかスバラシイ企画。 桐野夏生のエッセイは谷崎愛に溢れており、ミステリ作家としてのするどい洞察力が見える。『春琴抄』の春琴と佐助の関係が純愛物語と断言しているところは引っかかるけど、まぁ見方はそれぞれなので、気にしないでおこう。 読了日:10月01日 著者: 読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
何だかバタバタしているうちに終わってしまった9月。 読書は進まず、8冊でした。 植物画講座のほうは鉛筆画の 自由課題を提出し、つい先日戻ってきました。 結果は合格。 細かい指摘はありましたが、講師の方も大目に見てくれたのでしょう。 これで彩色に進むことができます。 これから秋が深まるにつれカエデやツタなどの広葉樹の葉っぱが色づくので、彩色画を描いてみたいと思っています。 とはいえ、体は一つ。 遊びに忙しいので、読書にしかり、絵にしかり、ウォーキングも、バイト探しも…すべてが中途半端に終わりそうです。 話が横道に逸れましたが、9月に読んだ本の中で、収穫は2つ。 『アウシュヴィッツの囚人写真家』と『ルリボシカミキリの青』。 どちらも目からウロコの面白本でした。 9月の読書メーター読んだ本の数:8 読んだページ数:2249 ナイス数:614 ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで (文春文庫)の 感想タイトルのルリボシカミキリと聞いて、その姿かたちを思い描くことができる人は相当の虫好き。 私的にはこの虫は日本産の最も美しい昆虫の中で、ヤマトタマムシ、ハンミョウに続いて3本の指に入ると思っている。福岡先生は少年の頃からの虫好きで、ルリボシカミキリの青い翅の美しさとその神秘的な吸引力に魅せられたことが科学の道に進むきっかけになったという。昆虫や生物学者でなくても、その思いはなんとなく分かる気がする。科学者にして文筆家の分かりやすく軽快な文章に触れるにつれ、科学の難しさからほんの少し解放された気になれた。 読了日:09月29日 著者: 福岡 伸一
ぜったい好きになってやる! (ちくま文庫)の 感想著者とは同世代で、昔からのファン。世間では見向きもされない物に対して独特な感性で語る、その好奇心旺盛なひたむきさに共感している。変な看板、飛び出し坊や、銅像、顔出し看板などの路上観察系や伊豆の踊子、海女さん、怪獣などのグッズ系、そして奇祭やお城、仏像などあらゆるものに手を出している。ゆるキャラやマイブーム、とんまつり、カスハガの名付け親でもある。本業の文筆やイラストの仕事以外にもこれだけのものにたゆまぬ蒐集欲と観察眼をもった著者のバイタリティーに驚くほかない。時間を使うのが旨い人なんだろうと思う。 読了日:09月25日 著者: みうら じゅん
ホテルローヤル (集英社文庫)の 感想哀しく切ないチェーンストーリー。最後まで読んで全体像がつかめる構成に、著者の旨さが光っている。直木賞受賞作としては異色のような気もするが、芥川賞でも良かったも。描かれているのはホテルローヤルの盛衰とそれを取り巻く人々。その底流にあるのは、窮屈な現状にもがき苦しみながらも一筋の光を求める姿。流されながらも健気に生きていく人間の、したたかさと哀しさを見た思いがした。 読了日:09月23日 著者: 桜木 紫乃
大魔神の精神史 (角川oneテーマ21)の 感想1966年の特撮映画『大魔神』シリーズ3部作を当時小学生だった私は映画館でリアルタイムで観ている。忘れた頃にビデオやDVDで見直しているが、鬼の形相に変わる仁王立ちする魔人像は何度見てもその迫力が強烈。ゴジラやガメラにないおどろおどろしい恐怖が支配した映像や音楽を、怖いもの見たさで忘れた頃にビデオやDVDで見直しているのは、子供心に強烈なインパクトとして刷り込まれたからに違いない。大魔神の正体=アラカツマの真実を暴き、計画から撮影、興行秘話まで全方位的に大魔神を論じてくれた本書はマニア泣かせの一冊である。 読了日:09月21日 著者: 小野 俊太郎
裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)の 感想県民所得、失業率、シングルマザー率、学力、大学進学率、こどもの貧困…ついでにいうとコロナワクチン接種率までワーストの沖縄。10代での出産、離婚、親の育児放棄、働かない夫のDVなど断ち切れない負の連鎖は子、孫の代まで続く。これは当事者だけの責任なんだろうか。そこにはそれを生み出す深刻な社会背景が存在することを教えてくれたのが本書である。障害児を育てるキャバ嬢が逆境にもめげず看護師として独り立ちしていくストーリーには一筋の光明が見えた気がした。それにしても、本書に登場する男たち、皆一様にだらしない。 読了日:09月16日 著者: 上間陽子
日本の異国: 在日外国人の知られざる日常の 感想外国人と接することが少ない地方都市に住む自分としては、本書の内容には少なからず驚いた。東京近郊の例を多く上げているが、2017年時点で国内には250万人もの海外からの移住者がいるという。歴史的に難民受け入れに消極的だった日本にとって、クルド難民に対しての悲惨な対応については疑問が残る。日本を頼ってきた難民に対して、犯罪者でもないのに仮放免と入管収容所の行ったり来たりの仕打ちをいつまで続けさせるのか。収容所内でのネパール人女性の不審死は記憶に新しい。これでは国際社会で真の先進国になるには程遠いのではないか。 読了日:09月11日 著者: 室橋 裕和
昭和30年代スケッチブック―失われた風景を求めての 感想昭和39年に小学校に入学した私は、昭和30年代を振り返ることができる最後の世代だと思う。戦中生まれの著者とは世代の隔たりは大きいが、トンボやヤンマを追った原っぱの思い出や蚊帳を吊って寝た夏の夜など同じ体験も重なる。おそらくそこに共通したのは高度成長期の昭和30年代は住環境がまだ発達途上にあった時代背景によるものではないかと思う。宅地造成が進み原っぱが消え、窓がサッシに変わったのは昭和40年代以降であった。今思えば、そうした変化にリアルタイムで立ち会うことができただけでも時代の証人として得をした気分である。 読了日:09月03日 著者: 奥成 達
アウシュヴィッツの囚人写真家の 感想本書は政治犯として逮捕されたアウシュヴィッツ強制収容所で写真家として働かされ、2012年に95歳で亡くなったヴィルヘルム・ブラッセ氏の証言をもとに書かれた。撮影した5万枚以上の写真には囚人やSSの肖像以外にも、ガス室に向かう人々の群れや人体実験をした医師のヨーゼフ・メンゲレに指示されたものも含まれている。解放時にブラッセが命がけで守った写真はナチスドイツの残虐行為を証明する証拠として、ホロコーストの悪夢を世界に喧伝する歴史資料として果たした役割は大きい。ブラッセの存在そのものが奇跡という他ないだろう。 読了日:09月02日 著者: ルーカ クリッパ,マウリツィオ オンニス 読書メーターメインサイト『 琺瑯看板探検隊が行く』もどうぞご覧ください★ ↓♪ 良かったらポチッとお願いします ♪  
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