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8月の読書

気象庁が今年の梅雨明け日の見直しを検討しています。

どうやら“勇み足”だったようです。
まったくお笑いですね。

それでなくても、最近の目まぐるしく変わる天気の予報はハズレまくっています。
雨雲レーダーを参考に刻一刻と変わる予報を確認していますが、それすらハズレっぱなし。

それにしても、この夏の天気の不順なことよ。
8月は雨が降らなかったのがほんの数日。
毎日のように、降ったり止んだり…晴れたり、曇ったり。
今月もこのままいくと同様な、まだまだ長雨が続くみたいです。

願わくは、カラッとした秋晴れが見たい。

さて、8月の読書。
収穫はなんと言ってもルーシー・アドリントン著『アウシュヴィッツのお針子』。
これに尽きます。

戦後80年近く経っても、新たな事実が出てくるナチスの戦争犯罪。
その業の深さに、決して晴れることがない深い闇を見た思いです。

8月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:3280
ナイス数:528

87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし感想
巻末の写真を見て、その若さに驚く。
しゃんとした背筋は、私の老父と同じ87歳にはとても見えない。
iPadを操り、YouTubeで日々の暮らしぶりを発信する。若いはずだ。
頁を開くまでは、古びた団地でひっそりと暮らす孤独なお年寄りの姿をイメージしていたが、最後まで読んで、凛としたその生き方に深く感動した自分がいた。
こんな風に年を取りたいと思わずにいられなかった。
55年に亘って住んでいる団地は著者にとって体の一部であり、共に人生を刻んだ同志なんだろうか。
今を愉しみ「この部屋で死ぬ」と言い切れる気概に心を打たれた。
読了日:08月27日 著者:多良 美智子

老後レス社会 死ぬまで働かないと生活できない時代 (祥伝社新書)老後レス社会 死ぬまで働かないと生活できない時代 (祥伝社新書)感想
早期退職し、今年から始まった年金暮らし。日がな一日好きな本を読んで過ごしている…こんな自分は、本当に恵まれていると思う。
本書には、死ぬまで働かないと生きていけない高齢者や、将来の予備軍ともいえる非正規雇用にあえぐロスジェネ世代、職場で居場所がない定年間近の人々の悲痛な声が綴られている。
なんでこんな国になってしまったんだろうと考えつつ、自分は単に運が良かっただけだと思ったりもする。
本来、祝福され喜ぶべき長寿化が、不安をもたらし、本人、家族にとっても生きていくうえでの人生最大のリスクになっていく。
社会保障制度の砦である年金の危機的不安を招いたのも、わが国が人口問題への取り組みを怠ってきたからに他ならない。
金権にまみれた政府や弱い野党が本腰を入れてこのツケを払うことができるのか。
「一億総活躍」のスローガンを掲げ、死ぬまで働くことが唯一の解決策という情けない政策を推進する国力に、未来を見いだせない暗闇を感じた。
老年人口が最多となり日本社会が最大の危機に直面する2040年代、それを生きるわが子、わが孫の世代があまりにも不憫である。
読了日:08月27日 著者:朝日新聞特別取材班

自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫 M シ 17-1)自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫 M シ 17-1)感想
謎解きのストーリーは古典的だが、最先端のメディアをちりばめたプロセスがいにも現代的で、その印象を覆している。
スマホやPCを使った友達アプリやSNS、画像編集といったデジタルコンテンツが盛り沢山。ITに弱い世代の読者層はとっつきにくいかもしれない。
それにしてもイギリスの高校生は早熟。クルマも運転するし、飲酒、ドラッグなんでもありだ。
一方で、EPQ資格という自由研究が学校教育の一環として推進されている背景は先進的で、旧態依然の日本も参考にしたいところ。
謎解きが進むに連れ、成長していく主人公の姿も心地よかった。
読了日:08月25日 著者:ホリー・ジャクソン

被差別部落の民俗と芸能 日本民衆文化の原郷 (文春文庫)被差別部落の民俗と芸能 日本民衆文化の原郷 (文春文庫)感想
生業と居住環境に関わる厳しい差別が原点にある部落問題の中で、人間としての生が輝く側面、それが伝統的な民俗である民衆文化だ。
我が国の至宝ともいえる最高の芸術の域まで高めた歌舞伎や人形浄瑠璃も、その原点には差別されてきた人々の生業からなっている。
本書で紹介されたデコ舞わしや鵜飼も然り。田畑や漁業権を持たぬ搾取されてきた人々の生きていく糧として生まれ、伝統に発展したものである。
著者は差別と抑圧に闘った歴史を“豊饒の闇”と書く。その的を得た表現に感嘆。
幼き頃の正月の風物詩だった獅子舞の姿を、もはや見ることはない。
読了日:08月20日 著者:沖浦 和光

アンネ・フランクの密告者 最新の調査技術が解明する78年目の真実 (「THE BETRAYAL OF ANNE FRANK」邦訳版)アンネ・フランクの密告者 最新の調査技術が解明する78年目の真実 (「THE BETRAYAL OF ANNE FRANK」邦訳版)感想
一字一句読み込むスタイルなので、470頁の大冊はしんどかった。
その割に「やっぱりなぁ…」で終わってしまった結論が歯がゆい。
アンネ・フランクの隠れ家を密告したのは誰なのか…という謎を現代の専門家チームによって多方面から調査し、核心に迫っていくプロセスは執念の見せ場ともいえるが、証人のほとんどが没し、事件が風化している現状ではその努力を確証につなげることができず憶測に留まってしまう。
これが歯がゆいのだ。78年前の真実の解明に辿り着けることができるのは、これからもこの先もまったくの偶然でしかないだろうと思う。
読了日:08月16日 著者:ローズマリー サリヴァン

昆虫学者はやめられない: 裏山の奇人、徘徊の記昆虫学者はやめられない: 裏山の奇人、徘徊の記感想
昆虫のみならず、カラス、ヘビ、リス、クモ等のウンチクが詰まり、生物全般の知識と守備範囲の広さに驚く。
著者が単なる昆虫学者で収まらないのが、“南方熊楠の再来”と言われるゆえんか。
本書をもって、昆虫学が新種の発見と分類だけにとどまらず、一種ごとの生態の解明という気が遠くなるような地道な研究の上に成り立っていることを知ることができたのは収穫。
昆虫少年だった私にとって、流れる汗をいとわず、捕虫網を振り回して里山を駆け回った幼い頃の遠い夏の日を、郷愁を感じつつ思い出すことができた。
読了日:08月12日 著者:小松 貴

マイホーム山谷マイホーム山谷感想
東京を旅すると山谷のドヤによく泊まる。
受付では「ここは普通の宿と違うからね」と言われる。3帖一間で風呂、トイレ共用。連泊してもシーツ替えなし。
何と言っても宿代は安いし、慣れてしまえばそれなりに快適である。貧乏ツーリストに人気があるのもうなずける。
山谷で路上生活者を見かけないのはドヤの存在が大きいと思う。
ホスピス「きぼうのいえ」は社会的弱者が集まる山谷の象徴である。民間人である山本夫妻がそれを立ち上げ、運営のシステムを構築したことは称賛の何物でもない。
なぜ国は動かず民間なのか。この国の福祉行政のふがいなさを改めて実感する。
弱者を助けたいという純粋で高い志が、弱者との接触が深まるたびに自らの精神を病んでいく山本氏の姿が哀れというほかない。
同志であった妻も同様。本書によって山谷がもつ“業”と深い闇を見た気がした。
読了日:08月08日 著者:末並 俊司

すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集感想
前著『掃除婦のための手引書』の興奮と感動が冷めやまないうちに手に取った。
期待を裏切らない濃密に詰まったパッケージに今回もノックアウト。こんな文章が書ける才能が、腹が立つほど妬ましい。
訳者あとがきに著者の魅力について触れている。
情景を最短距離で刻み付ける筆致、ときに大胆に跳躍する比喩、歌いうねるリズム、ぴしゃりと断ち斬るような結句…まさに同感。
それにあえて付け足すなら、「併せ持つ危険な中毒性」。
一度読んだらその魅力に囚われてしまうルシア・ベルリンを解毒するには、余程の対抗馬が必要となるだろう。
読了日:08月06日 著者:ルシア・ベルリン

定年入門定年入門感想
60歳で定年後、再雇用された会社を辞めて2年が経った。
今更『定年入門』ではないが、この作品に出てくる人々がどんな生活を送っているのか興味を持って読んだ。
総じて言えるのは、皆一様に趣味に、自己啓発に、ボランティアに、仕事に、アクティブに生きていること。
私のようなのんべんだらりと日々を消化している輩はいない。
【きょういく=今日行く】と【きょうよう=今日用】といったスケジュールを埋める作業は私には重苦しい。
これでは定年前と何ら変わらないじゃないか。
それが嫌で会社を辞めることを指折り数えて待っていたのだから。

読了日:08月03日 著者:高橋秀実

アウシュヴィッツのお針子アウシュヴィッツのお針子感想
ホロコーストの記憶が風化していくなかにあって、新たな事実を掘り起こした労作である。
今のところ今年度最高のノンフィクションと自薦したい。
人間の尊厳ともいえる衣食住を奪ったアウシュヴィッツの収容所生活の中で、生き延びるためにナチス親衛隊の妻たちを着飾る衣服を作る、縞模様のボロ着をまとった囚人たち。
理不尽なそのギャップに怒りが沸騰する。
解放後にボロ服を脱ぎ、服を変えたことで「また人間になった」という言葉は計り知れないほど重い。
また、解放後の“死の行進”の始終が、多くの証言のもとに記されていることも特筆できる。
読了日:08月01日 著者:ルーシー・アドリントン


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[ 2022/09/01 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

7月の読書

13日間の徒歩の旅から帰宅して、体調を回復するためにゴロゴロしていた7月後半。
何もすることがないので、映画と読書でひたすら自宅にこもっていた。

こんなのんべんだらりとした生活は、定年前に思い描いた理想だったはず。
しかし、何日も続くと飽きてしまう。
何かしなければいけないなぁ…という気持ちがムクムクともたげてくる。

さぁ、そろそろ動くとしますか。

さて、7月の読書の収穫はというと、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』。

これにつきますね。

軽快なアメリカンポップの、ノリ。
それでいて心臓をわしづかみされそうな、キレ。

この作家、思わぬ発見でした。

7月の読書メーター
読んだ本の数:7
読んだページ数:1814
ナイス数:332

ソ連兵へ差し出された娘たち (単行本)ソ連兵へ差し出された娘たち (単行本)感想
ソ連兵の暴虐ぶりを憎む前に、なすすべもなく坂道を転がるように不幸へと進んだ愚かな背景に腹が立たずにいられなかった。
被害者女性から「男が始めた戦争」と言わしめる端的な表現に、古来から続く男尊女卑のもと虐げられてきた女性たちの声を聴いた気がした。
人柱となる強姦を「接待」という言葉に置き換えた歪曲した卑劣な表現は、裏取引の事実を隠そうとする男たちの犯罪である。
奇しくも岐阜県の黒川開拓団は私の自宅からほど近い地域から送出されており、この事実を余すことなく実名で記した著者の信念と、証言者たちの勇気に真実を見た。
読了日:07月23日 著者:平井 美帆

怪虫ざんまい 昆虫学者は今日も挙動不審怪虫ざんまい 昆虫学者は今日も挙動不審感想
たかがムシの話というなかれ…これほどまでに昆虫の世界を掘り下げて、超マニアックかつ魅力的に語った作品はないのでは。少年の頃、胸をときめかせて読んだファーブル昆虫記を思い出してしまった。
著者は研究者以上に虫屋なので、新種の発見にかける情熱もマニアなら思いっきり共感ができる。
地下水にいる特殊な種を探して、井戸ポンプを連日くみ上げるその労力は常人には理解しがたいが、その苦労が報われるあとがきを読むと、彼らのような研究者がいたからこそ、謎が解き明かされ世界が広がると思わずにいられない。
軽快な文章にも惹き込まれた。
読了日:07月22日 著者:小松 貴

天使突抜367天使突抜367感想
【てんしつきぬけ】と読む。京都には難読や変わった地名が多いが、これもその一つ。
本書は大正から昭和初期に建った長屋をひょんなことから買った著者が、気ごころ知れた仲間たちとリノベーションする過程を綴っている。
興味深いのは、建具や電気器具一つにもこだわった家づくり。大量の着物コレクションを収蔵する箪笥にもセンスの良さと、歴史の重みを感じた。これを見ると古き良きものが現代と融合する京都の魅力を改めて感じずにはいられない。
欲を言うと、間取りや室内の画像がもっとあれば、家づくりのイメージがさらに伝わったと思う。
読了日:07月21日 著者:通崎 睦美

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集感想
心の躍動を覚える文章に出会いたい…これがために長らく読書に勤しんでいる。この作品には、読書好きの魂を揺さぶる魅力的かつ不思議な力がある。
ポップなジョークやユーモア、そして緩急をつけた比喩やストレートな表現に、類まれな才能を見た思いだ。
大好きなC.ブコウスキーを初めて読んだ時の衝撃とドキドキ感の再来をもって読了することができたのは、ここ数年来の収穫である。著者は生涯に76の短編を書いたという。
死後10数年も一連の作品が埋もれていたことは信じがたいが、それを世に出した訳者の、切れ味するどい訳も評価したい。
読了日:07月21日 著者:ルシア・ベルリン

瓦礫の死角瓦礫の死角感想
『蠕動で渉れ、汚泥の川を』の続編にあたる表題作は、勤めていたレストランを追い出された後の、堕落した日々を描いている。
後年に亘って支配続ける救いようがない自己中で懐疑的人格が、17歳にしてパワーを増しているのが垣間見える。
そんな生活の中でも文学へ惹かれていく過程が不思議この上ない。私小説家としての著者を形成する早熟なエピソードである。
収穫は同時収録された『崩折れるにはまだ早い』。師と仰ぐ藤澤清造の晩年を描くが、最後まで読んでそれが分かった秀作。こうした作風にチャレンジしたことが、ファンとして嬉しい。
読了日:07月20日 著者:西村 賢太

百花百花感想
百合子の過去や棄てられた泉の生活実態など、作中では触れられていないのでいくつかの謎と不満は残るが、中盤から後半にかけてキーワードとなる『半分の花火』の記憶の意味を解き明かしてくれたことが救い。
認知症は罹る本人も家族も、辛くやりきれない。百合子が在宅介護になることもなく施設に入れたのはラッキーだと思う。
これがないとどろどろした介護現場の描写が続き、作品の狙いがあらぬ方向に行ったかもしれない。
表面的な親子関係が百合子の認知症により溶解し、修復されるベースまで発展していくが、それもほんの一瞬のこと。見事。
読了日:07月14日 著者:川村 元気

52ヘルツのクジラたち (単行本)52ヘルツのクジラたち (単行本)感想
淀みなく流れる文章と、巧みな構成力に舌を巻いた。
主人公の貴瑚やアンさん、愛といった多様なキャラクターが登場するが、誰もが心に傷を持って懸命に生きており、その閉塞感がとても辛く感じた。
人がうごめく世界にあっても、誰にも相手にされない孤独ほど辛いものはなく、その叫びが届かないのが真の孤独かもしれない。
原野にたった一人残された孤独とは違う、心の虚無感と一人ぼっちの恐ろしさを描き切った努力作だと思う。
それだけに前半の閉塞感から最後の解放感に至る筆運びは見事というほかない。
読了日:07月12日 著者:町田 そのこ

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[ 2022/08/03 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

6月の読書

前半は旧東海道を歩き、後半からの日本縦断徒歩の旅に向けての出発準備のため読書に集中できなかった6月は、4冊の低スコアで終了。

収穫作品は特になしです。

縦断の旅も終了し、体のメンテナンスと合わせて、今月は読書を楽しもうと思います。

まずは、溢れかえった積読本を崩さねば。

6月の読書メーター
読んだ本の数:4
読んだページ数:1171
ナイス数:248

日本縦断徒歩の旅―夫婦で歩いた118日日本縦断徒歩の旅―夫婦で歩いた118日感想
ゴミのポイ捨てなど環境問題を訴えながら日本列島を徒歩で縦断した還暦夫婦の記録。
巻末には同様な旅を目指す人たちへのアドバイスとして、旅の目的をはっきりさせることが大事としている。
そこが曖昧だと途中で自己矛盾に陥ったり、孤独感にさいなまれるとある。
私も一昨年に徒歩で日本縦断をしたが、目的はただ一つ、九州最南端の佐多岬に到達することだった。何も大義名分や付属の目的がなくても、やり遂げたいという強い意志があれば、結果はついてくると思う。
『列島徒歩縦断中』という幟はいかがなものか。売名行為と取られても仕方ない。
読了日:06月22日 著者:金澤 良彦

変な家変な家感想
図書館で半年待って、1時間弱で読了。長男が建てる注文住宅の間取作りを手伝っている我が身としては、タイトルからして大いに興味がある内容…と思いきや、中身は薄っぺらで陳腐なホラー。
まったくの肩透かしだった。
間取りをモチーフとするミステリ仕掛けは着眼点も良いが、謎解きのプロセスには深みが全くないし、前半早々に殺人事件に結びつける強引なやり方は短絡的すぎるのでは?
代々の因縁がらみの動機解明もお粗末すぎで、児童向けの三文ミステリを読んだ気分。
読了日:06月21日 著者:雨穴

鳥のいない空―シンドラーに救われた少女鳥のいない空―シンドラーに救われた少女感想
ホロコーストの惨劇はユダヤ人の上流階級といえども容赦なく襲い掛かっている。
純真無垢な少女が迫害や虐殺の場面を見て体験していくうちに、それが日常的な一コマとして生活の中に組み込まれしまい、マヒしてしていく過程が恐ろしい。
モノクロで映画化された『シンドラーのリスト』のなかで、唯一カラーで出てくる赤い服の少女の場面があるが、本文の中で表現として暗示している部分もいくつかあるのが興味深い。
破滅へと向かうホロコーストの色のない世界に、赤い色は唯一の光明なのか。その意味深さを考えてみたが、結局分からずじまいに読了。
読了日:06月21日 著者:ステラ ミュラー‐マデイ

ルポ路上生活ルポ路上生活感想
前著『ルポ西成』でも感じたが、ホームレス社会への潜入という短期間での体当たり的な体験で、どこまで本質が分かるのか?という否定的な疑問を持ちながら頁をめくった。
私はひねているので、しょせん底辺の現場労働者やホームレスでもない著者が、二番煎じを狙って興味本位で覗いた世界の話だろうと思っていた。
しかし、本書は良い意味で期待を裏切ってくれた。行政の盲点を突いた生活保護の不正受給、裏のねらいが見え隠れする宗教団体の炊き出しの実態や上前をはねる手配師たち。
まさに体験しなければ見えてこない現実がそこにあった。
読了日:06月02日 著者:國友 公司


読書メーター


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[ 2022/07/13 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

5月の読書

今年になって読書量が大幅に減っています。
集中することができないのが大きな理由です。

無職の定年オヤジといえども、なにかとせわしなく動いているからでしょうか。
まぁ、他にすることがなくなったら、また読み始めるでしょうね。

印象に残ったのは、『14歳のアウシュヴィッツ』。
ホロコーストの生還者の手記ですが、とても14歳が書いたと思えないくらいの文章力に驚きました。
『アンネの日記』に比較されるようですが、こちらも多くの人々に読み継がれてもいいのでは。

さて、今月の読書は…今のところ、1冊のみ。

まだ低調です。

5月の読書メーター
読んだ本の数:5
読んだページ数:1597
ナイス数:217

遺言未満、遺言未満、感想
シーナさんも76才。
講演会に何度も足を運ぶくらいのずっと昔からのファンなので、著者が世界各地を駆け回り、エネルギッシュに活動していた頃が懐かしい。いかに頑健な著者にも老いは確実にやってきたようだ。
本書に綴られたのは著者の死生観よりもどちらかというと世界各地の葬送の実態に頁数を割き、漠然とした死への思いから海への散骨といった【理想の最期】を語っている。
前著『ぼくがいま、死について思うこと』と併読してみて、誰もが経験するであろう死に向き合うことへの覚悟を、ほんの少しだが読み取れた気がした。
読了日:05月31日 著者:椎名 誠

([お]5-1)食堂かたつむり (ポプラ文庫)([お]5-1)食堂かたつむり (ポプラ文庫)感想
ヨダレが出てきそうな料理の数々。美味そうな匂いまで漂ってきそうな、調理の場面がまた良い。
想像力が掻き立てられるとはこのことか。
『ライオンのおやつ』でもそうだが、著者の料理へのこだわりが半端じゃないのを感じる。これが料理の持つ力だろうか。そして、全編を通して流れる人への優しさに溢れた表現力。
都会でも田舎でも同じだと思うが、ともすれば荒んでしまう現代のギスギスした人気関係と孤立感を、一時でも忘れさせてくれる。何かに夢中になれる集中力と謙虚で思いやりの心があれば、世の中まんざら悪くないと改めて思えた一冊だった。
読了日:05月27日 著者:小川 糸

つげ義春コレクション 紅い花/やなぎ屋主人 (ちくま文庫)つげ義春コレクション 紅い花/やなぎ屋主人 (ちくま文庫)感想
ずっと昔から何度も読み返しているが、『リアリズムの宿』が一番印象に残る。
ふらりと立ち寄った青森鯵ヶ沢の漁港、古びた民宿。このロケーションだけでも何ともいえない寂寥感が漂う。
特に、寒風が吹く中、生活に疲れた表情の宿の母ちゃんが、イカを入れた鍋を両手に持ってうつむきながら歩いていく背中が身震いするほどのリアリティ。
死神が不幸を運んできたような悲壮感が充満する世界。
やはり、つげ義春は只者じゃない。
読了日:05月25日 著者:つげ 義春

14歳のアウシュヴィッツ ─ 収容所を生き延びた少女の手記14歳のアウシュヴィッツ ─ 収容所を生き延びた少女の手記感想
死と隣り合わせの状況にありながら、比喩を駆使したブラックユーモアと、純真な少女らしさが溢れたストレートな表現が対照的。
出版に当たり加筆修正はあったと思うが、これを14歳の少女がほんとうに書いたのかと疑いたくなるような、熟達した文章力を感じる。
収容所内で体験した悲惨な出来事は思春期の喜びと楽しさを奪い、その後の人生に計り知れない影響を与えたのは疑いようもない。
日記を綴ることのこだわりは単に書くことが好きなだけでなく、死を前にした遺書のような、残すことへの使命感を感じずにはいられない。読み継がれて欲しい。
読了日:05月25日 著者:アナ ノヴァク

谷崎潤一郎伝―堂々たる人生谷崎潤一郎伝―堂々たる人生感想
谷崎の生から死まで、丸裸にしたような力作。
複雑な家族関係と女性遍歴が谷崎文学の底流を形作るネタとなり、肥やしになったことを改めて実感した。
谷崎文学を特徴づけるマゾヒズム、フェティズム嗜好がどのように生まれ、成長し、開花したのかを文学的見地からも掘り下げて欲しかったところだが、さらりと読んでしまえば、谷崎潤一郎は、面倒で偏屈なただの女好きのオヤジにしか映らないところもある意味人間味あふれて興味深い。
未公開の書簡もまだ残っているというから、著者の谷崎研究がさらに発展することを期待したい。
読了日:05月09日 著者:小谷野 敦


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[ 2022/06/08 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

4月の読書

無職で毎日が日曜の定年オヤジなのに、本を読む時間もなく、一日が過ぎていきます。
このところ長男の家づくりに首を突っ込んでいるので、自由設計をいいことに間取りを考えては住宅メーカーと打ち合わせをすることを繰り返しています。
そのうちブログにも書こうと思いますが、これがなかなか楽しい。

家は“三回建てないと満足できる家はできない”という格言がありますが、一生に三度も建てる人はほとんどいないですね。
今の自宅を建て代える時に家づくりの楽しさを経験しましたが、完成してからこうしておけばよかったなぁ…という点もいくつかあり、次に建てるならこうしたい…という思いもありました。

身重の嫁を抱える忙しい長男から協力して欲しいという申し出で、自分の家でもないのに土地探しから始まって、一緒に家づくりをやっています。
まぁ、間取が決まるまでですが。

…ということで、家づくりにうつつを抜かして、読書の時間が削られた4月は6冊で終わってしまいました。

さて、その中での収穫は、鈴木忠平著『嫌われた監督』。
中日ドラゴンズの監督時代の落合を追ったルポですが、番記者だからこそ描けたなかなかの力作です。
勝利にこだわる冷徹な強さのなかに、思いやりと優しさを感じる落合の人間像を魅力的に綴っていますが、最後まで読んでも良く分からない人だという印象が残りました。
ともあれ、後にも先にも落合の8年間は、ドラゴンズにとって黄金時代だったと言えますね。

4月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:1675
ナイス数:266

日本殺人巡礼日本殺人巡礼感想
麻原彰晃、金嬉老、永山則夫、林眞須美、小平義雄、関根元…記憶に残る凶悪事件の殺人者たち。内容は風化しつつある殺人者の残像と事件の痕跡を訪ねる旅である。
出自はもとより貧困や差別、土地の因縁や暗い歴史的背景をこじつけともいえる強引な解釈で犯罪要因につなげている。
一例を上げると、『つけびの村』で有名な現代版八つ墓村事件を起こした保見光成の先祖の出身地が竹細工で生計を立てる集落であったことから、漂流民サンカではなかったかという推測をする。
竹細工・革=被差別民という一方的な決めつけと思い込みに思わず引いてしまった。
読了日:04月27日 著者:八木澤 高明

芝公園六角堂跡芝公園六角堂跡感想
歿後弟子を自認し、師と崇める藤澤清造の残影に吸い寄せられる展開を見せる表題作は、読みごたえがある。
お気に入りのミュージシャンのライブで熱に浮かれた後、師の終焉の地に立つギャップに、やるせない寂寥感を感じた。
著者はこの作品を駄作であると、収録された後作で何度も書いているが、謙遜のなにものでもない。
これまで北町貫多の性格破綻者ぶりをさんざん読まされてきた身にとって、初めて著者の本筋が見えたような気がした。
『十二月に泣く』の師の墓標を前にしての泣き笑い~最後まで読んでその感情が伝わってきた。見事というほかない。
読了日:04月22日 著者:西村 賢太

旧石器遺跡捏造事件旧石器遺跡捏造事件感想
この事件を追った本をいくつか読んだが、当事者のF(本書では実名)と考古学仲間として仕事をしてきた著者が書いた内容だけに、真実に迫るものを感じた。
半面、長年に亘るFの捏造を見抜けなかった点についての反省が薄く、自己保身による言い訳が見苦しく思えた。
縄文時代の石器をなぜ前期旧石器であると信じてしまうのか、著者の専門家としての見識とレベルに疑問を感じるが、すべての根源は事件を引き起こしたFによるものであり、多方面に波及した影響と責任はとてつもなく重い。
病気を理由にいまだに口を閉ざすF。すべては闇に葬られるのか。
読了日:04月17日 著者:岡村 道雄

間取りのすごい新常識 (美しい住まいと家づくりシリーズ)間取りのすごい新常識 (美しい住まいと家づくりシリーズ)感想
雨穴著『変な家』がヒットしたこともあり、いま、間取りがちょっとしたブームのようだ。
自由設計の注文住宅だからこそできる間取り作成だが、幸運なことに人生三度目の楽しさを味わっている。
今回は息子の家づくりをかって出た。といっても素人なので、この本を参考にしたわけだが、結論からいって、並んだリストは奇抜すぎて参考にならない。というか固定概念にとらわれすぎて柔軟性がないから受け入れられないかもしれない。
動線についても何かを重視すれば、何かが崩れる…結局は、オーソドックスな定番の間取りに収まりそうな予感。

読了日:04月12日 著者:

海外メディアは見た 不思議の国ニッポン (講談社現代新書)海外メディアは見た 不思議の国ニッポン (講談社現代新書)感想
頁数を割いている天皇制問題以外は、取り上げるほどの目新しいテーマではないと感じた。
中でも少子高齢化に端を発し、その裏表ともいえる地方の過疎化や空洞化、孤独死と遺品整理ビジネス隆盛は日本に限らず外国でも起こりえる現実ではないだろうか。
海外メディアから見た日本特有の不思議な?可笑しな?日本論としては物足らないが、ジェンダー問題、とりわけ女性の社会進出や、若者の投票率の低さが示す政治への無関心さについては、諸外国と比較するまでもなく民意の低さを示している。
改善努力を感じさせない場当たり的な政府政権の責任は重い。
読了日:04月12日 著者:

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book)嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book)感想
名古屋人で根っからのドラファンの私にとって、落合が率いた8年間は栄光の歴史だと断言できる。
後にも先にも中日ドラゴンズにこれほど強い時代はなかった。
川崎の開幕投手や完全試合目前の山井の交代劇、優勝をかけた荒木のヘッドスライディング、最終戦での逆転優勝…その光景がいまだに目に焼き付いているし、これからも忘れることはないだろう。
「心は技術で補える。心が弱いのは、技術が足りないからだ」。冷徹で孤高な求道者、落合博満ならではの名言である。
“嫌われた監督”…いいではないか。闘将落合にこれほどの誉め言葉は見当たらない。
読了日:04月10日 著者:鈴木 忠平


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[ 2022/05/07 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

3月の読書

先月は自作HP『琺瑯看板探検隊が行く』のリニューアル作業と、長男の新築計画での土地探しに時間を割いたこともあり、読書は遅々として進まず。
読書習慣はいったんストップすると、元に戻すのも時間がかかります。
コンスタントに月間15~20冊くらい読めるようにしなければ、溢れかえった積読本の山は崩れそうもありません。

さて、先月読んだ本の中で光ったのが、對馬達雄著『ヒトラーの脱走兵~裏切りか抵抗か、ドイツ最後のタブー』。
奇しくもウクライナ戦争の真っ最中。
ロシア兵の脱走兵は後を絶たないと報道されています。
ナチスドイツの脱走兵に対する制裁は死刑。
これこそ人道無視の何物でもありません。

戦争の愚かさを今更ながらに感じます。

3月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2117
ナイス数:375

ヒトラーの脱走兵-裏切りか抵抗か、ドイツ最後のタブー (中公新書)ヒトラーの脱走兵-裏切りか抵抗か、ドイツ最後のタブー (中公新書)感想
ナチスが行った不条理の蛮行に、脱走兵に対しての断罪がある。
裏切者と罵られ、軍法会議にかけられた多くの兵士が死刑判決を受けている。その数3万人。
本書では脱走兵の最後の生き証人といわれた一兵卒バウマン氏の生涯を追いながら、ナチスが行った不当な実態を暴き、名誉回復をかけた闘いを綴っている。
脱走者の多くが反ナチの人々であったが、戦後も差別は続き、年金も受けられないという辛酸を舐めている。犯罪者ではなく、ナチス軍司法の犠牲者と位置付け、復権活動が認められたのは氏らの努力である。
それを知ることができた力作に感謝。

読了日:03月24日 著者:對馬 達雄

下手に居丈高 (文芸書)下手に居丈高 (文芸書)感想
2012年11月から『アサ芸』誌上に68回にわたって連載されたエッセイ。
くだけた内容なのでサクサク読めるが、そこは硬派な私小説家。エッセイといえども文章の巧さが光る内容。
興味深いのは読書家としての姿を小出しに見せているところ。明治大正期の私小説に固執している旨を書きながらも、山本周五郎や松本清張、山田花子の漫画論にも及んでいる。
『ビールグラス』と題するエッセイには、四個目となる晩酌用のグラスを下ろすタイミングは還暦近くになると言いつつも、それより先に自らの生が確実に朽ちていることを予言している。
読了日:03月23日 著者:西村 賢太

棺に跨がる棺に跨がる感想
2012年から『文學界』に掲載された“秋恵もの”の連作。ちょっとしたことで逆ギレする貫多の変質的かつ粘着質の性格の悪さはいささかも衰えない。
カレーをキーワードに秋恵との諍いから出奔までを連作でつなぐ構成力は見事。
歿後弟子として自任する藤澤清造の墓を再建する下りは何回も出てくる。その傍らに自らの生前墓を建てるが、表題作の『棺に跨がる』では、自分の没年月日と享年が刻字されるのは、うんと近い将来かもしれないと書いている。
遠からず死を予感していたのだろうか。あまりにも早い生涯に、涙を誘わずにはいられない。
読了日:03月22日 著者:西村 賢太

夜更けの川に落葉は流れて夜更けの川に落葉は流れて感想
著者没後、未読の作品を読み漁っている。あまりにも早い逝去は残念だが、才能がある人ほど人生短しということだろうか。願わくはもっと読みたかった。
三篇が収められた本書の中で腹を抱えて笑ったのが『青痰麺』。ブラックユーモアを通り越した著者ならではのねちっこい性格の悪さがモロに出ている。文字通りの性格破綻者。芥川賞を獲り、時の人になってもこの体たらくはブレていない。
作品に溢れる不条理と怒り、己の弱さ、それでいてちょっとばかしの優しさが見え隠れする。
これほどの作品を書ける作家を失くしたことが、今更ながらに悔やまれる。
読了日:03月18日 著者:西村 賢太

漂流老人ホームレス社会漂流老人ホームレス社会感想
何らかの理由でホームレスにまで堕ち、更に行き場がない深淵まで陥ちていく現実が本書では語られている。これはもう国害であると言わざるを得ない。
憲法25条はもはや幻なのだろうか。生活保護すら受けることができず、「健康で文化的な最低限度の生活」は、ボーダーラインから外れた人々に適用すらされない現実を多くの人が知るべきである。
終電とともに駅のシャッターが下り、公園のベンチは寝転ぶことができない作り…いつからこんな国になってしまったんだろう。人々が安心して生きていく場を平等に保証することが国の役目であると強く思う。
読了日:03月16日 著者:森川すいめい

超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる感想
近所付き合いを筆頭に人との関りが希薄になった世の中。年間孤独死3万人という衝撃的な数値はそれを物語る。
この中には死後数ヶ月、数年が経過してから見つかるケースもある。
本書では、家族関係の崩壊⇒セルフネグレクト⇒ゴミ屋敷⇒孤独死という流れを典型例として紹介しているが、実際には孤独死のプロセスや背景は千差万別である。
そんな世相を反映してビジネスチャンスとばかりに業績を伸ばしているのが特殊清掃の世界。人の弱みに付け込むぼったくり業界と思っていたが、いやはや、この本で取り上げられた業者の清いこと。参った。
読了日:03月12日 著者:菅野 久美子

漂流者は何を食べていたか (新潮選書)漂流者は何を食べていたか (新潮選書)感想
漂流記を読むだいご味は、何を食べて生き延びたのか…これにつきる。
紹介された本は少ないが、その疑問にこたえるべく著者がポイントを絞って書いてくれた。シイラやウミガメ、アザラシ、海鳥の捕獲から料理法、水の確保から病気の対策など、そこにはサバイバルを超えた生き抜くための体験が綴られており、興味深く読めた。
埋もれていた漂流記の傑作、須川邦彦著『無人島に生きる十六人』を発掘し、世に出してくれた著者の功績は大きい。
読了日:03月09日 著者:椎名 誠

他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ感想
胸がすくような、明快なエンパシー論。コロナ禍に直面した今だからこそ、個人が身につける能力としてのエンパシーの重要性がよく分かった。
利己主義に走ることなく、常に意識することで身にけるべきスキルだと思いたい。
「他者の靴を履く」という的を得たタイトルにも感心したが、誰かの靴を履くためには自分の靴を脱ぎ、人が変わるときには古い自分が溶ける必要がある…という、言葉がもつ“溶かす力”に気づかせてくれた深い洞察力に参った。
読む順序を間違えたが、前著『ぼくはイエローで…』は未読なので、手に取ってみたくなった。
読了日:03月04日 著者:ブレイディ みかこ

行商列車:〈カンカン部隊〉を追いかけて行商列車:〈カンカン部隊〉を追いかけて感想
カバーの【鮮魚】のプレートを付けた近鉄の行商専用列車をずっと以前に見かけたことがある。
(何だろう、この電車)…ぼんやりと思っていた謎がこの作品で説けた。
重いカンカンを背負った女性たちの一群は、20世紀の終焉と共に姿を消していった風物詩。かつてのローカル線の車両や駅舎の待合には、たくさんの荷物を傍らに置いたそんな女性たちをよく見かけた。
行商の成り立ちは魚を食べる文化と重なり、日本の食文化を支えた風俗である。過酷な労働である行商に身を投じ、たくましく生きた女性たちの最後の姿を追った著者の努力に拍手を送りたい。
読了日:03月03日 著者:山本 志乃


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[ 2022/04/08 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

2月の読書

ちょっとしたトラブルに巻き込まれ、読書に集中できなかった2月。
低調なままひと月を過ごしてしまった。

収穫はディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』。
全米で500万部を売り上げたというベストセラー。
気分が沈んでいるネガティブな日々のなかに、読書の楽しさという束の間を味わせてくれた作品だった。

2月の読書メーター
読んだ本の数:5
読んだページ数:1583
ナイス数:302

歴史修正主義-ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで (中公新書, 2664)歴史修正主義-ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで (中公新書, 2664)感想
真実の歴史を知っているのは、その場に居合わせた当事者のみである。文字通りの生き証人だが、歴史家を名乗る外野の人々が、自分の主張に都合の良い事実だけを並べる自らの利益と歪曲した利己主義によって、真実が否定されてしまう。ホロコースト否定論はその極たるものであるが、南京事件や慰安婦、桜やキムチの起源に例えるまでもなくそうした事象は転がっている。歴史修正主義を生み出す社会の側についても考える必要性と、背後にある政治的意図や経済的利害を読み取る力も必要である。一筋縄ではいかないが、正しい歴史教育のありかたを感じた。
読了日:02月24日 著者:武井 彩佳

ザリガニの鳴くところザリガニの鳴くところ感想
重量感のある読書を堪能した。生物学者の著者ならではの自然や鳥、生物たちの描写は秀逸。物語の重要な要素としても鍵を握っており、その心地よさが読書の楽しさを倍増させてくれた。それにしても本作に描かれた1960年代のアメリカの差別は想像以上だ。人種ばかりでなく、貧困や住む土地など、普通の人々と違うことがあらゆる差別となって現れていたようだ。先日観たスピルバーク版の『ウエストサイドストーリー』も、NYのスラムを舞台に、プエルトリコ移民と貧乏白人たちの差別を根っこにした物語だった。差別がない世界を切に望みたい。

読了日:02月19日 著者:ディーリア・オーエンズ

ヒトラー独裁下のジャーナリストたち (朝日選書)ヒトラー独裁下のジャーナリストたち (朝日選書)感想
ナチスのプロパガンダ戦略の片棒を担いでしまったジャーナリズムの統制は、ヒトラー独裁国家主義の象徴的な負の遺産である。認識を新たにしたのは、ドイツジャーナリズムの崩壊がナチス台頭以前から起こっていたということ。そこにはナチズムの過小評価による隙があったという。言論の自由を奪われた新聞の廃刊は、多くの有能なジャーナリストを国外に逃亡させ、ある者は収容所で命を絶つ。自由主義の終焉が狂信的な一人の独裁者によって起こされた歴史は、偶然ではなく必然であった。今の世にもそんな国家が存在している事実はあまりにも恐ろしい。
読了日:02月15日 著者:ノルベルト フライ,ヨハネス シュミッツ

娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件感想
読み進むにつれ腹立たしさと後味の悪さが込み上げてきた。14歳の少女を死に追いやった加害少年たち、校長、教頭、担任教師(通称:デート教師)。必殺仕事人がいれば、間違いなくコイツらは闇に葬られる標的である。中学校と旭川教委の隠ぺい体質も文春の取材によって明らかになっていくが、都合の良い選抜者からなる第三者委員会設置に煙に巻かれ、この先の追及が中断しているのは残念。更に、少年法に守られた加害者たち。インタビューの突っ込みも生ぬるい。みじんの反省もなく責任転嫁し、薄ら笑いを浮かべる親子。嫌なものを読んでしまった。
読了日:02月07日 著者:文春オンライン特集班

大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた (幻冬舎新書)大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた (幻冬舎新書)感想
京都人の著者の大阪に対する思い入れは感じるが、最後までその立ち位置が分からなかった。あとがきで大阪の品が悪い部分をとりあげ、面白おかしく揶揄するのはやめてもらいたいといいつつ、文中ではその部分をしつこく取り上げているのはなぜか。そもそもタイトルからして「おもろいおばはん」はこうしてつくられた…なのだから。私の亡母は大阪出身だったが、周りの人たちも含めて“おもろいおばはん”はいなかったと思う。大阪のイメージを下衆な方向に固定化してしまったメディアの責任は重い。ついでに、平仮名多用の文章も読み難くかった。
読了日:02月04日 著者:井上 章一


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[ 2022/03/10 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

1月の読書

年明けから、親族間のちょっとしたイザコザに巻き込まれてアタフタしていましたが、ようやく落ち着きそうな兆し。

平穏に生きていくことはなかなか難しい、と感じたこのところでした。

というわけで、読書に集中することもできず、1月は8冊の低スコアで終わりました。

収穫は上原善広『四国辺土』。
“草遍路”と呼ばれる、遍路を生業としているプロの人々を追っかけたルポですが、なかなかの異色作でした。信仰心もない私ですが、近い将来歩き遍路をしてみたいと思っています。私の場合は遍路によって何かを悟るわけでもなく、おそらくスタンプラリーのような感覚で回ることになるかと思っています。
何しろ、歩くことが目標なので…。

そして、もう一冊は西村賢太『蠕動で渉れ、汚泥の川を』。
デビュー作以来ずっと追っかけてきた作家ですが、残念なことについ数日前に急逝されました。才能がある人はやはり短命か。彼の作品をもっとたくさん読みたかったのが率直な気持ちです。
つくづく残念に思います。

1月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:2677
ナイス数:694

うちの父が運転をやめませんうちの父が運転をやめません感想
私の老父も85歳の時に免許を返納させた。何度もクルマを擦るようになり、家族が一丸となって説得し続け、半ば強引に返納させたのだ。
あれから2年経ったのに、父はいまだに免許がなくなったことを後悔している。そればかりか外に出なくなってしまい足腰が弱ってしまった。老父にとって、クルマはスティタスの象徴だったのかもしれないと今更ながらに思えてくる。
本書では過疎化する田舎の現状も描いているが、スーパーばかりか診療所さえない地域も多くある。
クルマがなければどうにもならない、地方の空洞化と格差はとどまることをしらない。
読了日:01月29日 著者:垣谷 美雨

四国辺土 幻の草遍路と路地巡礼四国辺土 幻の草遍路と路地巡礼感想
いつかはチャレンジしたい歩き遍路。これまでお遍路の関連本を多く読んできたが、これは異色作である。
四国の遍路道沿いにちらばる路地を巡りながら、部落差別の歴史と実態を拾い集めていくのは被差別部落出身の著者ならでは。一方で遍路を生業にしている草遍路と呼ばれるプロの人々に目を向け、自らも野宿と托鉢を経験しながらその厳しさを実感していくのは著者の強い意志があってのこと。
歩き遍路は結願によって達成感や虚栄心を満たすことはできるが、本質的には何も変わらない。しかし、退路を断って人生をかけた草遍路にこそ、人は確実に浄化され昇華されると結ぶ。
2020年に北海道から鹿児島まで日本列島を徒歩で縦断した自分には、歩き旅の次の目標としての四国遍路を軽く考えていた。人それぞれだろうが、遍路に出ることに理由がいるのか。信仰心も薄い自分にはその資格はないのだろうか。
読んでいて遍路の奥深さと意味深さに、益々分からなくなってしまった。
読了日:01月26日 著者:上原 善広

蠕動で渉れ、汚泥の川を蠕動で渉れ、汚泥の川を感想
数少ない私小説の書き手として、デビュー以来ずっと追っかけている作家。今回も期待を裏切らない出来栄えに一気読み。
『苦役列車』後の17歳になった貫多の日常を描いているが、怠惰でハチャメチャな生活の中にも、17歳だからこその一瞬の輝きを切り撮った、青春グラフィティが浮かぶ。
陽がささない裸電球一つの三畳間で悶々と過ごす貫多のなかに、悲壮感を越えたある種の瑞々しさを感じるのは、若さゆえか、それとも早熟な才能の片鱗を感じるからだろうか。
読み進むにつれ、花村萬月『百万遍』シリーズの主人公、維朔と重ね合わせてしまった。
読了日:01月23日 著者:西村 賢太

少年と犬少年と犬感想
動物を描いたジャンルの小説は思いっきり苦手。涙腺が緩んでしまうことが分かっているのに、手に取ってしまったことを今更後悔しても遅い。
迷い犬・多聞が絡む6篇のチェーンストーリーはどれもたまらなく切ない。それでいてちょっとのことでは感動しない還暦を過ぎた私の醒めた心にまで響き、何より童心に返らせてくれるから罪である。
ジャック・ロンドン『野性の呼び声』を彷彿とさせる犬との交流に愛情と思いやりが見て取れる。
血なまぐさい内容に辟易して、『雪月夜』あたりから著者の作品を敬遠してきたが、これを機会にまた読みたくなった。
読了日:01月21日 著者:馳 星周

ヨコハマメリー:かつて白化粧の老娼婦がいたヨコハマメリー:かつて白化粧の老娼婦がいた感想
少年の日に見た異形の老娼婦ヨコハマメリーの残像を追って、自らが監督するドキュメンタリー映画を完成させるまでの苦労話である。
残念なのは著者がそこまでメリーさんにのめり込む動機が今一つ伝わってこないのと、横浜の歴史や風俗、証言者の個人史について割いた部分が冗長すぎる。
横浜を去り故郷に戻ったメリーさんとの面会はクライマックスともいえる部分だが、ボタンの掛け違いのような接触で終わっている。むしろこの部分は必要なかったかもしれない。
横浜の街に受容され、ノスタルジーとともに風物的な存在であったメリーさんの都市伝説が、老人ホームで余生を過ごす実像に変わったことで、その落差の大きさに白けてしまった感は否めない。
なぜ異形の姿を貫いたのか?なぜ横浜を離れなかったのか?メリーさんを取り巻く人々からの証言はそのヒントにはなれど、彼女の口から出てきたものはない。その疑問を探るべく、今度は映画も観たくなった。
読了日:01月20日 著者:中村高寛

ライオンのおやつライオンのおやつ感想
ストーリーに没頭し、素直に読み切ることができた。映画のスクリーンに浮かぶ場面のように、一コマづつを始終思い浮かべて読めたのは、心地よい文章力と高い構成力の賜もの。
ホスピスがもつどんよりとした暗いイメージをみじんも感じさせずに、それぞれの死の場面をも明るく切り取り描いたのは著者の計算あってのことだろう。雫を取り巻く陽気な人々と犬との交流、ヨダレが出そうなおやつのレシピには、そこが最期を看取る終の棲家の日常であることすら忘れさせてくれた。
暗く重いテーマの設定にもかかわらず、読後感爽やかな出来栄えに拍手したい。
読了日:01月19日 著者:小川 糸

ワンダフル・ライフワンダフル・ライフ感想
献本プレゼントに当選したサイン本。ぜいたくな気分を味わいつつじっくりと読んだ。
社会福祉を専攻したのにその道に進まなかった私には、福祉を語る自信はないのでそこには触れずにレビューする。もつれた細い糸が一本の太い糸に寄り合わさっていく巧みな構成力に、まずは脱帽。
キーワードの「素晴らしき哉、人生」の言葉の重みと意味が、圧巻の怒涛の結末で昇華する。自分の人生の分岐点を振り返り何度も【if】を当てはめたが、今の私には必要のない言葉となったことがうれしい。
良書に巡り合えてそんな気持ちを確認できれば、それだけで十分。
読了日:01月07日 著者:丸山 正樹

新 青春の門 第九部 漂流篇新 青春の門 第九部 漂流篇感想

このシリーズとのつき合いも早や48年。
還暦を過ぎた私の青春はいつの間にか遠くに過ぎ去ったのに、主人公の伊吹信介はまだ26歳。それを思うだけで可笑しさがこみあげてくる。これぞ長編大河の醍醐味である。
「トリスを飲んでハワイへ行こう」が流行っていた1961年。シベリアと東京を舞台に物語は進む。酷寒の地に流れ着いて動かない信介に比べ、本作では織江の躍動が生き生きと描かれていく。
これまで信介の影のような存在だった織江に光が当てられ、蛹から蝶へ変わるときが近づいてきたことを感じさせる。
『織江の唄』はその突破口になりそうな予感があり、同時に『青春の門』は、少女時代から追ってきた織江の物語でもあることに今更ながらに気づいた。
それに反して、信介はまだ青い。どこまでその純粋さを保てるのか、大人の男になり切れない信介と、まるで双生児のような山岸のキャラ。二人の成長ぶりが楽しみな、次篇が待ち遠しい。
読了日:01月05日 著者:五木 寛之


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[ 2022/02/07 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

12月の読書&2021年ベストテン

昨年読んだ本の数は132冊。
実に20年ぶりの100冊超えだった。

コロナ禍に翻弄されて、外出もせずに自宅にこもっていたので、本を読んで暇をつぶしていたからだろう。

年末に帰省した長女が本棚を眺めて、ごっそりと本を持って帰ったのがうれしく、部屋に溢れた本も少しは役に立ったみたいだ。

さて、昨年読んだ本の中からマイベスト10を発表してみましょうか。

1位 『アメリカンビレッジの夜——基地の町・沖縄に生きる女たち』 アケミ・ジョンソン
2位 『土偶を読む――130年間解かれなかった縄文神話の謎』 竹倉 史人
3位 『ヒロシマを暴いた男 米国人ジャーナリスト、国家権力への挑戦』 レスリー・M・M・ブルーム,高山 祥子訳
4位 『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』 石井 妙子
5位 『レストラン「ドイツ亭」』 アネッテ・ヘス
6位 『片手の郵便配達人』 グードルン・パウゼヴァング
7位 『ノモレ』 国分 拓
8位 『アウシュヴィッツの図書係』 アントニオ・G・イトゥルベ
9位 『踊る熊たち:冷戦後の体制転換にもがく人々』 ヴィトルト・シャブウォフスキ
10位『野の春 ――流転の海 第九部』  宮本 輝

ノンフィクションが中心となりましたが、新刊も織り交ぜて読むことができました。

【12月の読書】

12月の読書メーター
読んだ本の数:20
読んだページ数:5684
ナイス数:1658

そして、バトンは渡されたそして、バトンは渡された感想
このところ血なまぐさいノンフィクションを読み続けていたので、その反動もあってか、心地よい温かさに包みこまれた気持ちになった。
2021年大晦日、大トリを飾るにふさわしい作品であった。何と言っても、優子を温かく見守り愛情を注ぐ、バトンを渡された大人たちがほのぼのとして良い。
血のつながらない優子と暮らすことで、“明日が二つ”になったと言わしめる、梨花や森宮の人間性はどこからくるのか。
実の親でも翻弄される子育てを前向きに楽しみ、悲壮感もなく優子が素直に育っていく過程には、改めて家族関係の本質を見た思いがした。
読了日:12月31日 著者:瀬尾まいこ

ディファイアンス ヒトラーと闘った3兄弟ディファイアンス ヒトラーと闘った3兄弟感想
本書より先に上梓されたピーター・ダフィ『ビエルスキ・ブラザース』に内容は酷似している。
共通の資料や生存者の証言をもとに同一テーマで書かれたので仕方がない面もあるが、まったく同じフレーズが出てくるとちょっとばかし興ざめ。
本書は同名映画の原作になっているが、ユダヤ難民たちの森での暮らしぶりやコミュニティの秩序維持については前著よりも詳しい。逆に、ロシア軍による解放後の顛末や兄弟たちのその後の半生の記述は前著が勝っている。
比較しながら2冊を読み、映画を観るという、何とも贅沢な読書体験をさせてもらったことに感謝。
読了日:12月30日 著者:ネハマ テック

那覇の市場で古本屋―ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々那覇の市場で古本屋―ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々感想
数年前に沖縄を旅した時、偶然立ち寄ったのが著者があるじをしている『市場の古本屋ウララ』さん。国際通りからほど近い公設市場の中に、その小さな店はあった。
沖縄には出版社も多く、棚を彩る郷土本の品揃えに驚き、上から下まで目を泳がせた。並べる本には店主の志向が強く反映されると思うが、狭くてもしっかりとしたポリシーを主張している魅力を感じた。
本書は、書店員から転身して古本屋を始めるいきさつと、ゆっくりと時が流れる何気ない日々を、肩の力を抜いた飾り気のない言葉で綴っている。ほんとうに本が好きな人なんだと嬉しくなった。
読了日:12月28日 著者:宇田智子

ビエルスキ・ブラザーズ―無名の三兄弟が演じた奇跡のユダヤ人救出劇ビエルスキ・ブラザーズ―無名の三兄弟が演じた奇跡のユダヤ人救出劇感想
ホロコーストの嵐が吹き荒れるナチス占領下のベラルーシでユダヤ人パルチザンを組織し、1200人もの同胞の命を救った三兄弟のノンフィクション。
「10人のドイツ兵を殺すよりも一人のユダヤ人の老婆を救う」という兄弟の最年長者のトゥヴィアの強い信念はロシア軍による解放まで貫かれている。
2年半にも及ぶ深い森の中でのキャンプ生活は、ドイツ軍の追撃をかわしながらの移動と食料調達の苦難にさいなまれていくが、コミュニティを維持運営した兄弟の統率力と手腕はまさに奇跡といってもいい。
本書では兄弟の光の部分だけでなく、彼らの性格的な端緒や残虐な行為の陰の部分も記録をもとに書き留めている。決して聖人君子や英雄ではなく、一人の人間としての正義感をしっかりと描いているところに著者の誠実性を感じる。
戦後にこの救出劇の全貌が明らかになり、第二のシンドラーと喧伝されたことは本書によるところが大きい。
数年前に史実をもとに映画化された『ディファイアンス』を観たが、内容がかなり歪曲されている印象があったので、ネハマ・テックの同名の原作本も併せて読みつつ、再度視聴してみたくなった。
読了日:12月27日 著者:ピーター ダフィ

死体格差 異状死17万人の衝撃死体格差 異状死17万人の衝撃感想
年間17万人の異状死に対して、わずか11%という解剖率。先進国にあっては最低レベルの数値である。
警察が異状死体の犯罪性の有無を判定するという客観性を無視した体制、法医学者の不足、低予算による自治体の死因究明機関の設備不備が解剖率の低さとして表れている。
そもそも異状死体を司法解剖にするか否かの判断を法医学者でもない警察医がすること自体に問題がありそうだ。これによって多くの犯罪死が見過ごされてきたのは想像に難くない。
後妻業の女と呼ばれた青酸カリ連続殺人事件を起こした筧千佐子には周辺に11名の不審死が分かっているが、司法解剖されたのはわずか3人。残りは病死で処理されている。これでは遺族は泣き寝入りせざるを得ない。裁判の行方を左右する以上、法医学的見地による客観的証拠を揃えるのは不可欠である。
欧米のようなコロナー(検視官)制度の導入が必要ではないだろうか。また、単身老人世帯の増加と比例した孤独死、コロナ感染症による在宅死を死因究明制度の遅れという理由でうやむやにしてはならない。
本書は臨床医療大国の我が国にあって、大幅に遅れている法医学現場の闇を暴き問題提起している。一刻も早い体制の構築を望みたい。
読了日:12月25日 著者:山田 敏弘

あなたのゼイ肉、落とします (双葉文庫)あなたのゼイ肉、落とします (双葉文庫)感想
前作『あなたの人生~』を読んだのがいけなかったか、十萬里と小萬里が同一人物のようにダブってしまい、最後までその印象が消えなかった。
もっともこの二人は姉妹なので、似せたキャラに設定したのも、何らかの意図によるものだろうか。1話目は、ちょっとキレがないなぁ…と思って読み始めたが、さすがに垣谷作品、気づいたときには速いテンポと面白さに引き込まれ、いつものように一気読みだった。
何気ない日常生活に潜む家族関係に亀裂が入りそうな危ない要素を抉りだし、あたかもゼイ肉を落とすように温かい目で修復する手腕はさすがである。
読了日:12月23日 著者:垣谷 美雨

木の実の呼び名事典 (散歩で見かける)木の実の呼び名事典 (散歩で見かける)感想
植物画制作の資料として読んだ。代表的なアイテムが並んでいるが、今が盛りのナンテンやクロガネモチ、マンリョウの実はどれも同じように見え、その形状だけでは判断できないのが面白い。
本書には紹介されていないが、私が描いているつる性植物のアオツヅラフジは小さなぶどうのような実をつけるが有毒。食べられるエビヅルの実とそっくりなので、間違って食べてひどい目に遭った人がいるかもしれない。
画像は採集したての標本を写したものなので立体感に欠けるが、植物の自然状態の画像が添えられ全体像が把握できるのが救い。手元に置きたい一冊。
読了日:12月21日 著者:亀田 龍吉

最後のイタコ最後のイタコ感想
1980年代には300人はいたといわれるイタコ、現在活動しているのは10人以下という。
最後のイタコと呼ばれる著者は、「絶滅危惧種」と言い放つ。高齢化の波に逆らえない以上に、厳しい修行による伝承を受け継ぐ後継者が少ないことがその理由である。
イタコや瞽女は盲目の女性がつける仕事として古くからあったが、師匠について学び、技を継承するのは同じである。イタコの源流は古来からのシャーマン信仰にあるのか、その性格は宗教家とは明らかに違う。口寄せにより死者と対峙する神秘を信じるのも信じないも己次第である。
本書では東北地方に伝わる「オシラ様遊ばせ」というイタコによって行われる神事についても紹介されているが、恐山=イタコの口寄せというだけの認識から、占いやお払いといった民間に根付いたイタコの仕事に関しても知ることができたのは収穫。
数年前に恐山を訪ねたが、その荒涼とした風景にたじろぎ、言葉を失ったことを覚えている。
18歳でイタコの世界に飛び込んだ著者は、まさしく“選ばれた人”に違いない。
読了日:12月21日 著者:松田 広子

踊る熊たち:冷戦後の体制転換にもがく人々踊る熊たち:冷戦後の体制転換にもがく人々感想

熊使いのロマたちから引取られた踊る熊たち。歯を抜かれ、鼻鎖をされ、アルコール漬けにされた熊たちは、楽器の伴奏に合わせて後ろ足で立って踊り、小金を稼ぐ。
共産主義体制の終焉とともに熊たちは自由の身になるが、人間の匂いや声に敏感に反応し、ほとんどの熊が再び踊り出す。突然与えられた自由に対処できない哀しさがそこにはある。
後半ではソ連崩壊後の旧共産主義諸国で、自由を受け入れられず右往左往する経済的弱者の人々を描く。真の自由とは何か?自由の価値観を問いかけ、つかみ取ることの難しさを踊る熊に重ねた渾身のルポである。
読了日:12月20日 著者:ヴィトルト・シャブウォフスキ

あなたの人生、片づけます (双葉文庫)あなたの人生、片づけます (双葉文庫)感想
昭和世代ならモノを捨てるのが苦手な人が多いのでは? かくいう私もそう。捨てるのも下手だが、それ以上に溜め込むのが得意。
6年間の単身赴任生活を引き払うとき、キッチンの引き出しにはコンビニやホカ弁で貰った割りばしやお手拭きがぎっしりとあり、引っ越しの手伝いに来たカミさんが驚いていた。
私の場合は単なるズボラのなにものでもないが、この作品に出てくるのは心の悩みを抱えた人々。モノが捨てれない、掃除ができないというのはどうやらその原因が心の不安定さにあるようだ。
それにしても十萬里さんの活躍、お見事という他にない。
読了日:12月17日 著者:垣谷 美雨

人間の土地へ人間の土地へ感想
アラブの春から10年、終わりが見えない内戦状態が続くシリア。国内外の難民の数は1300万人にも上っている。
アサド政権に反対する民主化運動が大国による武力支援や兵器販売といった政治・経済利権に巻き込まれ、その結果が国の崩壊である。
内戦前のゆっくりと時が流れる砂漠の体験から、あえて悲惨な状況に身をもって飛び込んでいく著者の行動力には、未知を求めるクライマー魂と日本女性の芯の強さがみえる。難民となったシリア人の伴侶が、内戦によって失ったものは豊かな感情だと語っていることが印象深い。
K2を登頂したトップクライマーだった著者が山の世界から離れてしまったのは残念だが、過酷なビバークでみた生と死の分岐点で実感した命の価値観は、シリアの砂漠から地平線を越え、まだ見ぬ未踏の世界に続いていくと思いたい。
読了日:12月15日 著者:小松 由佳

土葬の村 (講談社現代新書)土葬の村 (講談社現代新書)感想
土葬はすでに消滅した風習であると思っていたが、まずはその認識を改めなければならない。
ほぼ100%の世界一の火葬率を誇る日本にあって、ほんの数年前まで近畿地方の村では行われており、その弔いの実態は地方色ある奇異な風習として受け継がれていた。
納棺や野辺送りの作法にも濃密な土俗信仰が背景に見てとれるが、なかでも四十九日に墓をあばく「お棺割り」という風習には戦慄を覚えた。
大がかりで面倒さゆえ、多くの人々の協力を必要とする“おごそかな儀式”土葬は住民どおしの連帯感があってこそだが、近所づき合いや人間関係が希薄な今日では実現できない。
後継者不足で廃れゆく村祭りにしかり、家族葬を筆頭とした葬送スタイルの変化とともに土葬が消える運命にあるのはもはや明白である。
しかし、市民グループの「土葬の会」ができたことで、弔いの選択肢として新しい潮流が生まれたことは、土に還ることを願う人々とって一筋の光明になるかもしれない。
読了日:12月13日 著者:高橋 繁行

アウシュヴィッツの歯科医アウシュヴィッツの歯科医感想
強制収容所でのホロコーストの実態については多く出版されているので目新しさはないが、特筆すべきことは、死の行進から始まるドイツの敗戦と連合軍による解放後までの騒乱の模様が、著者の体験をもとに詳しく描かれていることにある。
アウシュヴィッツで歯科医をしながら生き延びていく過程よりも、こちらのほうが数段生々しい。
そこには歴史の闇に葬られていた客船カップ・アルコナ号の沈没の真実や、新天地を求めて翻弄されていく生還後の著者の姿が貴重な証言として綴られている。
また鉄壁の印象があった収容所のイメージを覆してくれたのが、民間人の非ユダヤ人女性との恋愛。収容所内での囚人どうしのそれはこれまでも多く取り上げられているが、監視の目が緩かったのか、フェンスの外側での逢瀬には驚いた。
脱走を援助し匿ってくれる人がいる状況のなかで、生きるために収容所に残る決心をした著者にはじれったさを感じたが、その選択の是非は結果的に運が良かったという言葉以外見つかりそうもない。
読了日:12月12日 著者:ベンジャミン・ジェイコブス

落ち葉の呼び名事典 散歩で見かける落ち葉の呼び名事典 散歩で見かける感想
五十の手習いで始めた植物画(ボタニカル・アート)。その参考資料として購入。
冬の訪れとともに光合成できなくなった落葉樹や常緑樹は、紅葉が深まり役目を終えて散っていく。ふだん何気なく見ている自然の摂理だが、そこにあるのは一枚の落ち葉の物語だ。
例えばアカシデの葉。元気いっぱいの瑞々しい緑から、黄色→橙→赤→虫食いの褐色…と変化を追った画像に、走馬灯に映るはかない一生を見るかのようだ。
紅葉が終わり落葉が始まるちょうどこの時期、スケッチブックを片手に里山に分け入り、静けさを満喫しながら絵筆をにぎってみたくなった。
読了日:12月10日 著者:亀田 龍吉

夫の墓には入りません (中公文庫)夫の墓には入りません (中公文庫)感想
この作品、サクサクと読めるが侮ってはいけない。
どこにでもいる夫婦や家族が抱える不安定な内面の傷口を、えぐるように突っ込んでくる。頁をめくる手が速くなるのは、心理描写と構成力のうまさ故か。
夫の死後明らかになっていく事実や本音が言えない嫁ぎ先の関係に苦しむ主人公に、手を差し伸べるのは両親。ここぞとばかりに立ち上がる父親の存在感が抜群である。
世のふがいないオヤジたちをあざ笑うかのような頼もしい父権回復の姿に心の中で拍手をした。
しかし理由はあれど、夫が急死しても悲しまない妻の心情には共感できず、イライラが募った。
読了日:12月10日 著者:垣谷 美雨

そこに僕らは居合わせたそこに僕らは居合わせた感想
ナチズムは広義でファシズムに分類されている。
独裁的な権力をもって反抗の弾圧や暴力があったにも関わらず、それはユダヤ人や非ドイツ国民、共産主義者に対してであり、国民の多くはヒトラーを崇め、その国家主義を熱狂的に支持した。
当時の子供たちがプロパガンダや学校教育で気づかぬうちに洗脳されていく過程は恐ろしく、覚醒するまでの苦悩とその後の人生を思うと、彼らも被害者であった。
日常生活の中にさりげなく入り込んだ邪悪な狂気や閉塞感を証言し続ける著者の姿勢には、ドイツが犯した過ちに翻弄された自らの悔いが見え、胸が痛んだ。
読了日:12月08日 著者:グードルン・パウゼヴァング

北斎になりすました女 葛飾応為伝北斎になりすました女 葛飾応為伝感想
朝井まかて『眩』を読んでから、ずっと気になっていた葛飾応為。
本書を含め多くのメディアに取り上げられたこともあり、今では押しも押されぬ人気絵師である。天国の彼女は知る由もないだろう。
北斎の背中を見て精進し、光と影を操る自身のスタイルを完成させたにも関わらず、北斎の死後も生活のために北斎の落款を入れて描き続けた半生は苦悩に満ちたものだったのか。
応為が生きた時代が、女性の絵師が評価されない背景と重なっていなければ、その生涯は違ったものになっていたかもしれない。以前、小布施の北斎館で北斎最晩年の作といわれる『富士越龍』と『菊』を観たが、本書を開くまで応為作の可能性が示唆されていることを露ほど知らなかった。今後の新たな発見と研究に期待したいところだ。
本書を研究書ではなく応為ブームに乗った伝記として読んだが、作品のカラー図番が少ないのは残念。せめて代表作の『三曲合奏図』は掲載して欲しかった。北斎と応為のタッチの違いは、文字ではなかなか伝わらない。
せっかくの意欲的な検証を、生かさないのはもったいない。
読了日:12月07日 著者:檀 乃歩也

三千円の使いかた (単行本)三千円の使いかた (単行本)感想
家族小説にありがちな、ののほんとした心地よさに惑わされそうになったが、いたってシビアな内容であった。
カネをめぐる話はどう扱ってもリアルでネガティブになってしまう。大多数の庶民にとって、それが生きていくことに直結しているからだ。同じ商品を買うなら、一円でも安い方を選ぶ。これは主婦感覚ではなく、生活者としての本能といってもいい。
毎日100円の積み重ねでも貯蓄をするということには案外強い意志がいる。
娘の婚約者の借金問題には同じ父親としての立場から感情移入してしまったが、そこまで寛大になれないのが正直なところだ。
読了日:12月06日 著者:原田 ひ香

土偶を読む――130年間解かれなかった縄文神話の謎土偶を読む――130年間解かれなかった縄文神話の謎感想
“目からウロコが落ちる”とは、こういうことをいうのか。説得力がある痛快な論説に魅入ってしまった。
土偶のモチーフを植物や貝類の姿から模倣したと確信する柔軟な思考は、考古学者じゃないからこその発想である。女性崇拝だの、呪術に使われたヒトガタといった謎多き土偶の定説がまかり通っていたのは、考古学界の頑固で保守的な古い体質を象徴していると言えなくもない。
それを思うと遮光器土偶=宇宙人説のほうがよほど突飛で面白い。サトイモと重ねた画像には目が点になってしまった。学問は自由な発想で展開してこそ、真の値打ちがある。
読了日:12月05日 著者:竹倉 史人

越えていく人——南米、日系の若者たちをたずねて越えていく人——南米、日系の若者たちをたずねて感想
海外移民の背景は、人口増加に対して食い扶持を減らす苦肉の策として、国が出稼ぎ労働者の海外渡航を推進したことにあり、そのまま貧困の歴史と重なる。
経済成長を遂げた今の日本で、かつて移民として渡った南米の国々から日系人の出稼ぎ労働者を受け入れているのは皮肉の何物でもない。
沖縄県をルーツにもつ日系3世、4世の若者たちのルポには彼の地に同化し根を張っている姿がある。日本人移住地のようなコミュニティも存在するが、それは少数派のようだ。
増える日系人口と国境を越えしたたかに生きる彼らに、日本民族の逞しさをみた思いがした。
読了日:12月04日 著者:神里 雄大


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[ 2022/01/03 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

11月の読書

今年も残りひと月。
早いものです。

すぐそこまで冬の足音が来ている中、名残りの紅葉を見てきました。
目が覚めるような彩に、幸せな気持ちになりました。

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さて、11月の読書ですが、小説離れが一段と進んだようで、ノンフィクション中心となりました。
読書冊数は久々の20冊超え。図書館利用で新刊を読めたのも良かった。
収穫は『アメリカンビレッジの夜』。沖縄の哀しい歴史と今を女性視点で鋭く論じた、今年のマイベスト1です。

11月の読書メーター
読んだ本の数:21
読んだページ数:6480
ナイス数:2113

定年オヤジ改造計画定年オヤジ改造計画感想
不勉強なのでこの本で初めて『夫源病』を知った。そういえば私が早期リタイアしたとき、カミさんがよくその言葉を発していた。
定年オヤジ、家でゴロゴロ、家事をしない、結婚しない娘。育児もカミさんに押しつけていたっけ…まさにビンゴ、今の私そのものである。
つい先日も子供を産んでも働きたいという長男夫婦に“三歳児神話”をぶちまけてしまった。まるで私の明日を占うかのような展開に、心臓をわしづかみされたような焦りを感じながら読んだ。
悠々自適の老後の裏には棘があるのか。暇と孤独だけが友達というのは何としても避けなければ…。
読了日:11月30日 著者:垣谷美雨

アメリカンビレッジの夜——基地の町・沖縄に生きる女たちアメリカンビレッジの夜——基地の町・沖縄に生きる女たち感想
ここは日本であって、日本じゃないのか…沖縄を旅した先日、やんばるの森に忽然と現れた米軍の戦闘訓練センターに驚いた。
沖縄に暮らす女性たちを軸に、沖縄が抱える数多の問題を歴史と現実からするどくえぐった努力作である。特に米軍基地の問題については、過去から頻発している性暴力事件を検証しながら日米関係のはざまに生きる沖縄の行く末に警鐘を鳴らしている。
最後まで読んで、日系4世の著者が基地反対の強い信念のもとにこれを書き上げたことを知った。
日本人ではなく、文中ではあえて沖縄人と表現した意味合いを理解しなければならない。
読了日:11月29日 著者:アケミ・ジョンソン

家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像感想
多くの事件ルポを読んできたが、ここまで犯人と向き合ってその実像を追ったルポは稀である。
著者は3年に及ぶ取材で、膨大な手紙のやりとりから始まり、複数の面会、最後は犯行時の遺留品まで譲渡されるという、ありがた迷惑ともいえる関係まで築いている。
しかしこれをもってしても「刑務所に入りたいから人を殺した」という不可解な人間性には迫れていない。掌で転がされ、煙に巻かれているようにしか見えないのだ。
犯人・小島一朗にとっての刑務所とは、生存権を認められる“安穏な家族空間”なのだろうか。犯罪者心理の闇はあまりにも深く暗い。
読了日:11月26日 著者:インベ カヲリ★

潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景感想

凄まじい生き方の、男の人生を見た思いだ。
ダイバーの吉田浩文氏は震災後すぐに津波被害者の遺体引き上げ作業を行った人物である。
仙台港に沈んだ自殺者や遭難者の遺体引き上げを手伝うちに、いつしか本業を圧迫し、倒産の憂き目に遭う。遺族から捜索費用を回収することができず負債が膨らんだことによるが、そんな苦境をものともせずに暗い海底に向かっていく。
津波被害者の捜索でヘドロの海に潜る姿は、もはや使命感を超越している。
この勇気と意地はどこからくるのか。粗い文章に不満は残るが、海に生きる真の男の強さを知った一冊であった。
【追記】会社の転勤で震災後の仙台に単身赴任し、6年を過ごした。その間、花を植える作業のボランティアで訪れたのがこの作品の舞台になっている宮城県名取市の閖上浜。当時はむき出しになった家屋のコンクリートの基礎やガレキがまだいたるところに残っており、そこに町があったことを物語っていた。今となっては懐かしいが、災害の無常さを実感せずにはいられなかった。
読了日:11月24日 著者:矢田 海里

本棚三昧本棚三昧感想
“人の魂、本棚に宿る” “人の本棚はとっても不思議”…いずれも似たような本の受け売りだが、当たっているように思う。
大げさに言えば、本棚を見ればその人の個性はもちろんのこと、人生の履歴までも垣間見えてしまう。本も個人情報とするならば、背表紙を通して無防備に溢れかえっているのだ。
私がこの本を手に取ったのは、覗き見趣味の何物でもない。その人をもっと知りたいという気持ちもあるが、それ以上に並んでいる本ばかりでなく、さりげなく鎮座しているフィギュアや雑貨、ポートレートまで目で追うのが楽しい。
これはやはり悪趣味だろうか。
高田純次がビニールひもで縛った本の束を持っている写真は、古本屋から仕入れた直後か、それとも処分しようとしているのか、解説がないので分からない。こういうのは読者サービスに欠け、配慮が足らないのでは。
本の雑誌社『絶景本棚』とどうしても比較してしまうが、全景のアングルがあったほうが、私のような下衆な覗き見趣味をより満足させてくれたと思う。
読了日:11月23日 著者:

失踪者失踪者感想

“速攻登山”のごとく、前作『生還者』に続いて一気に読了。
掴み、伏線、ディテール、そして読後余韻を残す完成度は前作を凌ぐできである。
真山と樋口の出会いからの流れは、時系列ではなく前後が交錯するのでやや分かり難く感じるが、満腹になるくらい登攀シーンを描いてくれたので、山好きとしてはそれだけで嬉しい。
実力派の現役クライマー中島健郎氏のアドバイスを受けたというだけあって、垂直の氷壁にプロテクションのアイススクリューをクルクルと回して埋め込む姿まで見えてくる圧倒的な臨場感だ。
気になったのは樋口の山行歴。
ヒマラヤに挑むくらいの大きな目標をもったクライマーなら、多くの場合は実力に合わせてルートの難易度を上げる山行をしていくと思うが、時系列でみると、冬山縦走では白馬岳~槍ヶ岳~奥穂高岳の単独縦走の後、真山と組んだ中崎尾根~槍ヶ岳なっており、難易度はぐっと下がってしまう。
また岩登りでは谷川岳衝立岩単独登攀(夏季)の後は、同じく真山と登る八ヶ岳横岳西壁中山尾根(冬季)になっており、これも同様。中山尾根は冬季岩稜登攀の初級ルートである。
比較すると樋口が大学時代に行った冬季の西穂高岳~奥穂高岳の単独縦走の方が一般ルートとはいえはるかに厳しい。二人でザイルを組んだ山行の方が難易度が下がってしまうのはいかがなものか…。
できることなら二人で登るルートはもっと難易度が高いモチーフにして欲しかったというのが本音である。
どうしても山のことになるとムキになってしまうが、他意はないのでご勘弁を。
いずれにしても、山の世界を存分に楽しませてくれた著者に感謝したい。
読了日:11月22日 著者:下村 敦史

生還者生還者感想
森村誠一、梓林太郎、太田蘭三に代表される山に殺人事件を持ち込む山岳ミステリは、中高年の登山ブームが始まる以前から量産され、笹本稜平に至っても大筋は似たような内容なのでここ数年は敬遠していた。
しかし、新たな書き手が現れたということを知り、手にしたのがこの作品。
ストーリーの構成や顛末は別として、気に入ったのが登山シーンのディテール。
アイスクライミングや冬山でのロープワーク、ギヤの操作は確かな技術を学習して描かれている。更にビーコンの操作も詳しく、雪崩捜索訓練の模様も。
また、沢登りの描写では底に水抜き穴がある沢登り専用ザックのことまで触れる念の入れようだ。それもそのはず巻末の参考文献には登山技術ガイドがずらりと並んでいる(私が執筆している編著もあった)。
御在所岳奥又ルンぜのアイスクライミングシーンが出てきたときには、心の中で思わず拍手。その昔、何度か登ったことがあるルートなのだ。
登場人物の登山家たちが冬の白馬岳や三ッ峠、七ツ釜といった入門的なルートから舞台がいきなりヒマラヤのカンチェンジュンガというのはものすごい飛躍なので苦笑しかないが、できればそこにチャレンジする過程として国内の剣や穂高あたりの冬壁の登攀くらい挟んでくれたら嬉しかった。
ともあれ、山岳小説の書き手としては合格点。次作『失踪者』も読みたくなった。
読了日:11月21日 著者:下村 敦史

ナチの子どもたち:第三帝国指導者の父のもとに生まれてナチの子どもたち:第三帝国指導者の父のもとに生まれて感想
国家社会主義の理想を忠実に掲げ、ニュルンベルク裁判で揃って無実を訴えたナチ戦犯たちは、残虐行為が平然と行われた現場にいながら家庭ではどこにでもいるよき父親を演じたという。
人間性を感じないこのギャップの神髄はどこにあるのか。ナチ戦犯ばかりでなく、記憶に残る稀代の殺人者にも父親の顔があったことを思うと、人が持つ底知れぬ闇の深さを感じずにはいられない。
おおよそ想像はついたが、ナチの子どもたちの戦後は苦難と失意の歴史であった。ユダヤ教への改宗、姓との訣別、隠棲、自殺…多くが差別に苦しみ父親を憎んで成長していくがグドルーン・ヒムラーについては父親に心酔し、姓に誇りをもち、ナチ戦犯の逃走を支援し、更にはネオナチたちと極右運動を煽動している。
自分たちの責任を後世に残さないことへの呵責からか、それとも自分を正当化するためのエゴイズムか、自死したヒトラーは偶然にも子孫を残さず、ゲッペルスは妻と6人の子どもたちと心中した。
哀しいかな、歴史が続く限りナチ犯罪の記憶が消え、係累たちの今後に霧が晴れることは決してないだろう。ドイツが犯した罪は、限りなく大きい。
読了日:11月19日 著者:タニア クラスニアンスキ

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)感想
非行と障害が密接な関係にあることを教えてくれた一冊。
医療少年院に送致された少年の多くが、幼少時からの知的障害と認知機能障害をもっているという事実には驚く。多様化、低年齢化している犯罪と機能障害の関連性をさらに解き明かしていく必要性を感じるが、まずは大人たちが機能障害をただしく理解することが先決ではないだろうか。
私の身近にも認知機能障害の子供の育児に日々奮闘している人がいる。キレイごとかもしれないが、非行や犯罪に手を染めないように導いていくのは、行政や教育機関ではなく周りの大人たちの責務であると思いたい。
読了日:11月17日 著者:宮口 幸治

魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣感想

GDPを世界第二位に押し上げた高度成長の裏に、環境破壊と公害問題があったことは今ならだれもが知っている。
1970年代初めに水俣病訴訟が苛烈し国民の関心事にならなければ、公害の悪について学校で習うこともなかっただろう。
本書は水俣病と外国人写真家という、結びつくこともない次元がまったく違う二つの視点を追っていくが、紆余曲折のプロセスの中で見事に融合し、写真集『MINAMATA』に結実していくストーリーである。
難航する水俣病訴訟には、外貨を稼ぐ大企業を擁護せざるを得ない当時の国力の弱さが見て取れるし、社員を単なる使い捨ての労働力として扱う陰険な実態を浮き彫りにしている。
ユージン・スミスのジャーナリストとしての信念と正義感、そして飽くなき追及心と表現力は、最期の仕事と捉えた水俣に向き合うことで完結したのだろうか。
『ライフ』誌への投稿掲載によって公害問題の深刻さと不条理の実態が発信されたことにより、人類に警鐘を鳴らす一端を担ったことはジャーナリズムの影響力の大きさゆえんである。
しかし、優柔不断で人間性が欠如しているかに見えるユージンの投稿が信念に基づく行為だったのか、影響が想定外の産物だったのかは分からないが、妻アイリーンとの二人三脚がなければ成しえることができなかったに違いない。
映画『MINAMATA』を観なければ本書を手に取ることはなかったが、水俣を象徴する写真『入浴する母と智子』はずっと以前から知っていただけに、映画では何よりもその撮影秘話が、美しい映像として語られたことに目を奪われた。
併せて、本書によって水俣への印象が増したことに感謝したい。
読了日:11月16日 著者:石井 妙子

ヒロシマを暴いた男 米国人ジャーナリスト、国家権力への挑戦ヒロシマを暴いた男 米国人ジャーナリスト、国家権力への挑戦感想
ジョン・ハーシー著『ヒロシマ』は読んでみたい一冊。
1946年に『ニューヨーカー』に電撃掲載された元記事は、ハチの巣をつつくほどの大騒ぎになった世界を揺るがす大スクープである。
ルポ出版の裏にはアメリカ政府による原爆の実態を隠ぺいする権力との闘いがあり、出版後には原爆投下の正当性を問う世論が国を覆う。
更に、原爆の破壊力と脅威を知ったソ連は原爆製造に拍車をかけ、核戦争時代の幕開けとなっていく皮肉な側面も。
一人のジャーナリストの信念によって人類全体の未来を案じて書かれたルポには、哀しい二面性を感じた。
全世界の国や人々の心を動かしていくペンの持つ力のプロセスに感動したが、反面、抑止力の名のもとに軍備拡大を助長する危険性を孕んでしまったことに驚いた。
広島への原爆投下は戦争を終わらせるための手段だったのか、製造過程の実験として使われたのか謎のままであるが、破滅へ突き進む一億玉砕の名のもと原爆投下を許した日本と、手を下したアメリカの罪はどちらも限りなく重いと言わざるを得ない。
本書は核問題の根源を考えさせてくれた作品であった。
読了日:11月14日 著者:レスリー・M・M・ブルーム,高山 祥子

レストラン「ドイツ亭」レストラン「ドイツ亭」感想
これが処女作というから驚きだ。完成度の高さと一気に読ませる構成力に舌を巻いた。
舞台は1963年のドイツ・フランクフルト。過去の過ちを直視し、克服することを選んだドイツが、自らナチスの犯罪を暴いたアウシュヴィッツ裁判が物語の背景となっている。
フィクションなので実名は出てこないが、裁判を主導したフリッツ・バウアー検事長の存在も見え隠れしている。
主人公の女性や家族、恋人、周辺の人々が引きずるホロコーストの因果に胸が締めつけられる。出口がない長いトンネルに足を踏み入れたような、暗く閉塞的な圧力を感じる作品だった。
読了日:11月12日 著者:アネッテ・ヘス

木村政彦 外伝木村政彦 外伝感想
昨年、鹿児島県佐多岬を目指す日本縦断の歩き旅で熊本県川尻町を通過した際、歩道橋に掲げられた『木村政彦生誕100年』の横断幕を目にし、心の中で手を合わせた。
『木村政彦はなぜ~』を読んでいなければこの不世出の柔道家のことを知る由もなかったが、木村の存在はいつしか私にとって“心のヒーロー”になっていたことに気づかされた。
木村を知ることができた前著はそれくらいインパクトのある作品だったようだ。外伝の本書では対談を軸に本には書けない木村の人となりまで切り込んでおり、私のもつ木村の魅力がさらに増幅するのを感じた。
木村の柔道人生で横道に逸れた時期にめぐり合わせた力道山との試合などどうでもよく思えてくる。生きていくために柔道一本で勝負できなかった木村の誤算(?)や悔しさ(?)が、戦後復興と高度経済成長に翻弄された時代のいやらしさに重なってくるからだ。
対談では木村フリークの吉田豪が語る木村武勇伝が面白く、その豪快さも常人の域を突き抜けていたことに、もはや拍手しかなかった。
読了日:11月11日 著者:増田俊也

たくましくて美しい 糞虫図鑑たくましくて美しい 糞虫図鑑感想
表紙の写真はルリセンチコガネ。マニアなら誰もが知っている垂涎モノ。輝く一粒の宝石のようなこの虫は奈良公園のシカの糞に集まる糞虫である。
1200頭のシカがいる奈良公園では毎日1トンの糞が生産され、糞虫たちがせっせとそれを食べて分解する食物連鎖がある。アフリカの草原でもニュージーランドの牧場でも同様。糞虫がいなければ動物の糞だらけになってしまうからその役割は大きい。
糞虫に魅せられた著者は、脱サラして奈良に糞虫専門の博物館を造るまでの熱の入れよう。美しく奇抜な虫たちの図鑑を眺めればその心意気が伝わると思う。
読了日:11月10日 著者:中村圭一

太陽のかけら ピオレドール・クライマー 谷口けいの青春の輝き太陽のかけら ピオレドール・クライマー 谷口けいの青春の輝き感想
辛気臭い遺稿集ではなく、明るい立志伝として読んでみた。
今から15年ほど前、社会人山岳会で沢登りや岩登りに明け暮れていた頃、 谷口けいというめっぽう強い女性クライマーがいることを仲間たちからよく聞いた。
山の世界は広いようで狭い。登山用品店や山屋の集会でも彼女の動向が話題に上ることがあった。
いつしか日本を代表する登山家になった彼女が大雪山系黒岳で遭難したという報道に接してから早6年が経った。
彼女のザイル仲間である著者が綴ったこの本には、太く短く人生を駆け抜けた個性あふれる女性の姿が余すことなく描かれている。
読了日:11月09日 著者:大石 明弘

老後の資金がありません (中公文庫)老後の資金がありません (中公文庫)感想
コミカルだが、笑えない。定年を迎え年金生活に突入する私にとっては他人ごとではないのだ。
年寄りにやさしくない今の社会、老後不安がカネと直結するのはやるせないが、これが現実だからしょうがない。
カネがなければ生きていくのもままならぬ。娘の結婚や親の介護、失業、年金詐欺など、この作品ではカネに翻弄されながらもおいそれとは壊れない主人公と家族の絆を描いているのが救いだ。
葬儀にかかるリアルな試算には、見栄を捨てることと、カネをかけない家族葬にすることを改めて学習できたことに感謝。老いた父にもう一度話しておこう。
【追記】天海祐希主演の同名映画を観てた。ストーリーは脱線し、ドタバタ劇で終わった。原作が面白かっただけにちょっと残念。 救いは天海祐希と松重豊のやりとり。良い夫婦を演じていたと思う。
読了日:11月08日 著者:垣谷美雨

ヤマケイ文庫 どくとるマンボウ青春の山ヤマケイ文庫 どくとるマンボウ青春の山感想
既読のエッセイが多いが、透明感溢れる瑞々しい文章は何度読んでも心が和む。
本土決戦を前にした松高時代の終戦間際、死を漠然と予感しながらも徳本峠を越え上高地を彷徨うやるせなさは、読む側にとっても万感の思いが交錯する。
『白きたおやかな峰』で描いたカラコルムディラン峰のエッセイはコックのメルバーンとの交流をユーモアで綴っており、一転して『どくとるマンボウ昆虫記』に収録された高山蝶や上高地の描写は清冽かつ抒情的。
著者がもつ二面性の魅力が出ている。松高時代の歌集『寂光』は初心な純真さと青春の陰が表現されており秀逸。
読了日:11月08日 著者:北 杜夫

わたしはナチスに盗まれた子ども:隠蔽された〈レーベンスボルン〉計画わたしはナチスに盗まれた子ども:隠蔽された〈レーベンスボルン〉計画感想

ユダヤ人を始めとした劣等人種と呼ばれる人々を皆殺しにしたホロコーストがコインの表面なら、純血アーリア人種を増産するレーベンスボルンは裏面。
対極をなすナチスの極悪非道の戦争犯罪である。本書は生後9ヶ月で旧ユーゴスラヴィアから拉致された著者が出自の謎を解き明かしていく衝撃のノンフィクションである。
その50年にも及ぶ過程でレーベンスボルン計画の実態とおぞましさ、それに翻弄された多くの人々の悲しみと怒りが露わになっていく。
親衛隊トップのヒムラーという一人の狂信者によって生み出された不幸は、あまりにも大きい。
読了日:11月04日 著者:イングリット・フォン・エールハーフェン,ティム・テイト

最後の読書 (新潮文庫)最後の読書 (新潮文庫)感想
そろそろ最終コーナーに差しかかった私には、他人事ではない。
残りの読書人生をどう送るか?これは悩み多き問題。
80歳を過ぎた著者は日々この悩みを抱きながらもワッセワッセと精力的に本を読みこなし、原稿を書く。まったく感服。
病床の鶴見俊輔は死の間際まで読むことにこだわり、紀田順一郎は蔵書を手放す無念さを嘆く。
目が衰えるまでにあとどれだけ読めるか。あれも読みたい、これも読みたい…私にとって五体に染みついた読書習慣はもはや衣類と一緒。決して脱ぐことはない。
知識欲を掻き立てる本がある限り、どんどん着ぶくれしてやろう。
読了日:11月03日 著者:津野 海太郎

にっぽん醤油蔵めぐり (かもめの本棚)にっぽん醤油蔵めぐり (かもめの本棚)感想
全国に1200あるといわれる醤油蔵は、酒蔵と並んでノスタルジーに浸ることができる空間だ。
醤油独特のすえた匂いとピンと張りつめた空気には冒してはならない神聖なものを感じる。
本書は醤油に魅せられた著者が45の蔵を厳選し、店主から醤油造りのこだわりを聞き出している。震災の津波で被災して再建した蔵の苦労や、夫婦二人で営む小さな蔵では代々受け継がれた伝統を守っていく姿勢に醤油づくりの心意気が伝わってくる。
私はホーロー看板の撮影が目的で醤油蔵を巡っているが、本書を参考に蔵の主人と話ができたら、楽しみも倍加すると思う。
読了日:11月02日 著者:高橋 万太郎

蝉かえる (ミステリ・フロンティア)蝉かえる (ミステリ・フロンティア)感想
神出鬼没で天然キャラの昆虫マニア・魞沢泉が活躍するシリーズ二作目。
素人然とした前作から明らかに“脱皮”した筆力に素直に驚いた。前作ではワンポイント程度の絡みしかなかった昆虫のプロットも「ホタル計画」や「サブサハラの蠅」ではストーリーの重要な要素として主役級に扱っているところが嬉しい。
少年期、学生時代と過去を小出しに遡ることで、謎多き魞沢泉の人間性を少しづつ見せているのは読者サービスだろうか。
単なるとぼけたキャラでは収まらない魞沢の魅力が緻密な構成で一層引き立つ、見事なチェーンストーリーに仕上げている。
読了日:11月01日 著者:櫻田 智也


読書メーター


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[ 2021/12/01 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

10月の読書

9日間の中山道歩き旅をした10月前半は、マメができて痛めた足を癒すため、ぼんやりとした日々を過ごした。
コロナの感染が増えてきたことで敬遠していた岩盤浴にも久しぶりに足を運んだし、図書館にも通った。

月末には大阪で開いた元職場のOBたちとの同窓会に出席し、気の抜けない連中と飲むことができた。

そんな日々の中で、読書する時間はたっぷりと確保。
文字通り晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活を楽しむことができた。

収穫は『ノモレ』。
アマゾン奥地の未開の部族をとの交流を描いたノンフィクションだが、今の世にあって文明とまったく接触することなく生きている人々がいたことに驚き。

世界は広い。
まだまだ知らないことが多いことを実感。


10月の読書メーター
読んだ本の数:17
読んだページ数:4470
ナイス数:3543

女王陛下のユリシーズ号 (ハヤカワ文庫 NV 7)女王陛下のユリシーズ号 (ハヤカワ文庫 NV 7)感想
ずっと昔に挫折した、積年の宿題を読み終えた。
登場人物の多さ、巡洋艦の複雑な構造の名称がポンポン飛び出す前半は、ストーリーがまったく頭に入ってこず中断しそうになった。
しかし、後半になって俄然面白くなってきた。戦闘場面では、撃墜したドイツの雷撃機を「もはや機械ではない、引きちぎれて炎上する十字架」と訳す凄い迫力に圧倒され、最終章のユリシーズの孤高の姿には思わずホロリときた。
艦長の強いリーダーシップと取り巻く個性的な乗組員たちの描き方、そして何よりも心まで凍てつきそうな酷寒の海に、最後まで震わされた作品だった。
読了日:10月31日 著者:アリステア・マクリーン

昭和なつかし博物学 (平凡社新書)昭和なつかし博物学 (平凡社新書)感想
2005年の発行だが図書館では閉架扱い。手に取ってみてその理由が分かる気がした。
「そういえばあったね」をフレーズに昭和の博物品をリストアップ。
ウグイスの糞、ゾウのうんこ、医用蛭、ヒヨコすくい、放生、絹糸草、ニタリ貝、菊人形、ウミほうずき…。ずらりと並ぶのは補欠選手ばかりだが、著者は動物生態学の権威とあってそれぞれのウンチクは凄い。“懐かしい”かどうかは別として、雑学をため込むには面白い本だった。
女性のシンボルそっくりのニタリ貝の標本をその昔祖父さんが土産で買ってきて、箪笥の奥に隠してあったのを思い出した。
読了日:10月29日 著者:周達生

サーチライトと誘蛾灯 (ミステリ・フロンティア)サーチライトと誘蛾灯 (ミステリ・フロンティア)感想
このところ小説離れが進んでいるが、虫好きの私にとって“無視”できない作品なので手に取ることにした。
昆虫をプロットにした短編ミステリであるが、希少種のスギタ二ルリシジミを登場させたり、ナナフシから出る寄生虫の話など虫に対するこだわりはそれなりに感じる。
平野肇の『昆虫巡査』シリーズや鳥飼否宇の『昆虫探偵』とどうしても比較してしまうが、虫好きを唸らせるには遠く及ばない。救いはひょうひょうとした主人公・魞沢泉か。
泡坂妻夫の影響を強く受けているようだが、ワンポイントではなく、もっともっと虫が絡んでくれたら嬉しい。
読了日:10月28日 著者:櫻田 智也

片手の郵便配達人片手の郵便配達人感想
第二次大戦中のドイツ国民の死者は、兵士、一般国民を合わせて525万人。ヒトラーのファシズムに翻弄された敗戦国としての代償はあまりにも大きかった。
主人公は前線で片腕を失くして帰還した17歳の郵便配達夫。ドイツの敗戦までの10ヵ月の生活をたんたんと綴っているが、そこには「黒い手紙」と呼ばれる死亡通知書を配達しなければならない苦悩や、ナチを否定しながらもヒトラーユーゲントの子供たちを見守る冷めた感情も見え隠れする。
最後の結末はなんとも無常。フィクションとはいえドイツ側の視点から戦争の冷酷さを訴えた作品である。
読了日:10月27日 著者:グードルン・パウゼヴァング

剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む感想
山を始めた頃に読んだ新田次郎著『剱岳点の記』で、頂上に古代仏具の錫杖と鉄剣が残置されていたことを知り、それ以来ずっと気になっていた。
本書は平安期に剱岳が開山されたという仮説を自らの足で実証し、真実に迫っていく努力作だ。
私自身クライミングをかじっていたので剱岳には一般ルートの別山尾根や早月尾根を始め、八ッ峰やチンネ、源次郎尾根や三の窓からのバリェーションルートなど全方位から登頂したが、平安期のファーストクライマーが登頂するとすれば、剣岳を麓から見ることができる馬場島からの早月尾根しかないと思っていた。
早月尾根は水場がないことを除けばそれほど危険な場所はない。著者が紙数を使ってこの結論に行きつくまでもなく、ここまでは剱岳に詳しい者ならおおよその推測がつくはずである。
では、いつ、誰が、どんな目的でという疑問について幅広く考察していくのが本書の背骨である。
探検家を自称するわりに登山技術はたよりないが、山麓に散在する遺跡や伝承地、修験者の足跡を追い仮説を固めていくプロセスに、著者の執念を見たように思う。
仮説の域から結論は出ないが、歴史を絡めた山岳ノンフィクションとしては面白い作品であった。
読了日:10月27日 著者:髙橋 大輔

ルポ ニッポン絶望工場 (講談社+α新書)ルポ ニッポン絶望工場 (講談社+α新書)感想
本書が上梓されてから5年が経ち、外国人留学生、実習生、移民を取り巻く現在の状況が、コロナ禍による長引く不況のあおりを受けさらに悪化していると推測する。
私が失業給付に通う本書にもあった岐阜県美濃加茂市に近いハローワークでは、窓口を訪れるブラジル人の失業者を多く目にする。
就労目的で来日する外国人にとって日本人が嫌がる仕事でさえありつけない閉塞的な状況が続けば、貧困から犯罪へ発展する負のスパイラルに陥る可能性を秘めている。
日本語学校の乱立もしかり。外国人を食い物にする政府の国家的な無施策と無展望が腹立たしい。
読了日:10月25日 著者:出井 康博

絵はがきにされた少年 (集英社文庫)絵はがきにされた少年 (集英社文庫)感想
本書が上梓されたのは2005年なので、著者が南アフリカで体験したアバルトヘイト撤廃後の混乱した世相が現在どうなっているのか気になった。
調べてみると、失業率や犯罪率は変わらず貧富格差はさらに悪化しているようである。
本書はかつて暗黒大陸と呼ばれたアフリカの負の側面を強調しながらも、多くの人々がアフリカに対して持つ「貧困」「援助」といった無知な先入観を改める必要性を説いている。
その象徴ともいえるピュリッツアー賞の【ハゲワシと少女】の撮影裏話に、何も知らぬまま写真を見て衝撃を受けた無知な自分が滑稽に思えてきた。
読了日:10月23日 著者:藤原 章生

オオカミの護符 (新潮文庫)オオカミの護符 (新潮文庫)感想
オオカミを象った一枚の護符から、古来より脈々と受け継がれてきた講と土着信仰の真実に迫った本書は、取材にかける著者の執念以上に、触れてはいけない疑問を解いてくれた傑作だと思う。
ずっと以前に両神山で沢登りをした帰途に立ち寄った神社で、オオカミの石像を見た記憶がよみがえったが、何で狛犬じゃないのかという疑問が氷解したことが嬉しい。
オオカミや山犬が眷属となっている神社は全国的にも多くあるようだが、山里の農村に深く根付き、人々の信仰対象となっていった事実を知ることができただけでも収穫であった。
読了日:10月22日 著者:小倉 美惠子

全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと感想
角田美代子、林真須美、木嶋佳苗、そして筧千佐子。
いずれも記憶に残る平成の毒婦たちだ。並べただけでどんな事件だったか結びつく。
なかでも後妻業の女として有名になった筧千佐子は青酸を使った連続殺人を犯した文字通りの“毒の女”。今年6月に最高裁で死刑が確定したが、筧の周りでは合わせて11名の不審死が分かっている。
いつもの取材パターンで筧との面会を続ける著者曰く、後妻業の“業”は彼女の心に棲みついた「ごう」であると書く。常人の理解を超越する殺人者の“業”の深さは、天性のものなのだろうか。それを思うと恐ろしくなった。
読了日:10月21日 著者:小野 一光

丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅 (岩波現代全書)丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅 (岩波現代全書)感想
本書はナチの協力者として烙印を押され丸刈りにされた女性たちの真実を探っている。
先に、フランス人女性とドイツ人兵士との間に生まれた子供の戦後史を綴った『ボッシュの子』を読み、その全体像が掴めた。
しかし、著者の意気込みに対して接触できた当事者はわずかに2人。高齢化と深い心の傷がそれを阻んだようだ。
ヨーロッパでの丸刈りの仕打ちは女性を辱める刑罰として歴史的にもポピュラーなものであったが、戦争終結後の解放時にそれが民衆によって爆発したのは不幸といってもいい。
登場した女性たちに純粋な恋物語があったことが救いである。
読了日:10月19日 著者:藤森 晶子

生還者(サバイバー)たちの声を聴いて: テレジン、アウシュヴィッツを伝えた30年生還者(サバイバー)たちの声を聴いて: テレジン、アウシュヴィッツを伝えた30年感想
毎年のように出版されるナチス、ホロコースト関連の本は星の数ほどあり、その犯罪の広域性を象徴するかのように、茫洋たる海原に放り出されたごとく、どれだけ読んでも断片をつまんでいるにすぎない。
本書はアウシュヴィッツの中継点となった、子供たちを収容したテレジン収容所の生還者を追ったルポ。著者は子供たちが描いた絵を日本国内で展示する活動を行っているが、コロナ禍にあって活動の中断に追い込まれていることの焦りを述べている。
後半ではナチス高官たちの末裔の苦悩やアーリア人製造工場【レーベンスボルン】についても触れている。
読了日:10月18日 著者:野村 路子

ノモレノモレ感想
イゾラドとは文明社会と接触していない先住民のこと。2008年に世界のメディアが伝えた、アマゾンの奥地でセスナ機に向かって矢を放とうとする赤や黒でペインティングしたイゾラドの画像は衝撃的だった。
私はフェイクニュースだと思っていたが、その後NHKスペシャルでも放送され、今の世に外部社会と接触がないまま生活している部族がいることを知った。
タイトルの「ノモレ」は先住民イネ族の言葉で「友、仲間」のこと。本書は100年の時を越えて生き別れになったイゾラドとのか細い絆を、交流を通して紡いでいく壮大で哀しい物語である。
読了日:10月17日 著者:国分 拓

13億人のトイレ 下から見た経済大国インド (角川新書)13億人のトイレ 下から見た経済大国インド (角川新書)感想
IT大国として世界をけん引し経済大国の道を進むインド。
一方で5億人を超える【野外排泄人口】を擁している。
そのギャップの根底にはカーストを起因とする根強い身分差別があるという現実を知った。ダリットと呼ばれる最下層の人々のトイレ清掃業務が世襲により支えられており、生活の基盤となっているその報酬は驚くべき低賃金である。
モディ政権による衛生状態の改善政策とアピールは表面的な対策にとどまっているようである。
差別意識を変え人権を守る大ナタを振るう指導者が出ない限り、インドのトイレ事情の根本的解決はないように思う。
読了日:10月16日 著者:佐藤 大介

NHKスペシャル ルポ 車上生活 駐車場の片隅でNHKスペシャル ルポ 車上生活 駐車場の片隅で感想
昨年観た同番組が印象に残っていた。
本書でも何度も語られているが、車上生活者だからといって皆一様に不幸であるとは限らない。
貧困やDV、逃亡などおおよそ想像がつく苦しい背景以外に、自宅があっても車上生活が好きでそれを楽しんでいる人々も一定数いる。
車の中で暮らすこと=可哀そうなこと…と仮定し、大きな社会問題として訴えようとする意図から無理な番組作りが見え隠れしていたが、それに気づき軌道修正していくスタッフたちの真摯な姿勢が垣間見えたのが救いだ。
固定観念からとかく誇張しやすい問題を冷静に見つめることができた。
読了日:10月15日 著者:NHKスペシャル取材班

ミュージアムグッズのチカラミュージアムグッズのチカラ感想
ミュージアムグッズのコレクターがいるとは知らなかった。
紹介されているグッズはユニークなものばかりで、お土産としても重宝しそうだ。目黒寄生虫館のサナダムシTシャツはきっと大うけするのでは。
グッズばかりに目が行きがちだが、侮れないのは全国49ヶ所の一癖ありそうなマニアックなミュージアムの魅力をきちんと紹介していることにある。
ちなみに私は2つしか行ったことがないので、これからの旅の楽しみと目的が広がりそうだ。見学のエンドロールのごとくグッズの品定めが余韻に浸る楽しみになれば、この本の価値はさらに高まるだろう。
読了日:10月15日 著者:大澤夏美

喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~ (ワニブックスPLUS新書)喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~ (ワニブックスPLUS新書)感想
立花隆亡き今、稀代の本読みと私が認識しているのが紀田順一郎、松岡正剛、そして荒俣宏の三人。
荒俣氏は知の巨人であり、博覧強記といえる唯一の人だと思っている。本書は読書の魅力を分かりやすく語っているが、まるで講義を受けているような心地よさがある。
博物学の話から、自然に関心を持つことは知の出発点として理想形であるというフレーズには、心に響くものがあった。
【尻取りゲーム型読書法】は読書家のほとんどが知らないうちに実践し、身についけている習慣なのではないだろうか。知識欲と好奇心を満たす方法には読書に勝るものはない。
読了日:10月13日 著者:荒俣 宏

文豪ナビ 谷崎潤一郎 (新潮文庫)文豪ナビ 谷崎潤一郎 (新潮文庫)感想
初めて手にした文豪ナビ。他にも三島や川端、芥川、山本周五郎なども出ているようだ。谷崎のおすすめコースは、刺青→痴人の愛→春琴抄→卍…最後は細雪。
『細雪』以外はずっと昔に大方読んでいるが、すっかりストーリーを忘れている。
10分で読む要約で少しは思い出すことができた。これはなかなかスバラシイ企画。
桐野夏生のエッセイは谷崎愛に溢れており、ミステリ作家としてのするどい洞察力が見える。『春琴抄』の春琴と佐助の関係が純愛物語と断言しているところは引っかかるけど、まぁ見方はそれぞれなので、気にしないでおこう。
読了日:10月01日 著者:

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[ 2021/11/02 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

9月の読書

何だかバタバタしているうちに終わってしまった9月。
読書は進まず、8冊でした。

植物画講座のほうは鉛筆画の自由課題を提出し、つい先日戻ってきました。

結果は合格。
細かい指摘はありましたが、講師の方も大目に見てくれたのでしょう。
これで彩色に進むことができます。
これから秋が深まるにつれカエデやツタなどの広葉樹の葉っぱが色づくので、彩色画を描いてみたいと思っています。

とはいえ、体は一つ。
遊びに忙しいので、読書にしかり、絵にしかり、ウォーキングも、バイト探しも…すべてが中途半端に終わりそうです。

話が横道に逸れましたが、9月に読んだ本の中で、収穫は2つ。
『アウシュヴィッツの囚人写真家』と『ルリボシカミキリの青』。

どちらも目からウロコの面白本でした。

9月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:2249
ナイス数:614

ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで (文春文庫)ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで (文春文庫)感想
タイトルのルリボシカミキリと聞いて、その姿かたちを思い描くことができる人は相当の虫好き。
私的にはこの虫は日本産の最も美しい昆虫の中で、ヤマトタマムシ、ハンミョウに続いて3本の指に入ると思っている。福岡先生は少年の頃からの虫好きで、ルリボシカミキリの青い翅の美しさとその神秘的な吸引力に魅せられたことが科学の道に進むきっかけになったという。昆虫や生物学者でなくても、その思いはなんとなく分かる気がする。科学者にして文筆家の分かりやすく軽快な文章に触れるにつれ、科学の難しさからほんの少し解放された気になれた。
読了日:09月29日 著者:福岡 伸一

ぜったい好きになってやる! (ちくま文庫)ぜったい好きになってやる! (ちくま文庫)感想
著者とは同世代で、昔からのファン。世間では見向きもされない物に対して独特な感性で語る、その好奇心旺盛なひたむきさに共感している。変な看板、飛び出し坊や、銅像、顔出し看板などの路上観察系や伊豆の踊子、海女さん、怪獣などのグッズ系、そして奇祭やお城、仏像などあらゆるものに手を出している。ゆるキャラやマイブーム、とんまつり、カスハガの名付け親でもある。本業の文筆やイラストの仕事以外にもこれだけのものにたゆまぬ蒐集欲と観察眼をもった著者のバイタリティーに驚くほかない。時間を使うのが旨い人なんだろうと思う。
読了日:09月25日 著者:みうら じゅん

ホテルローヤル (集英社文庫)ホテルローヤル (集英社文庫)感想
哀しく切ないチェーンストーリー。最後まで読んで全体像がつかめる構成に、著者の旨さが光っている。直木賞受賞作としては異色のような気もするが、芥川賞でも良かったも。描かれているのはホテルローヤルの盛衰とそれを取り巻く人々。その底流にあるのは、窮屈な現状にもがき苦しみながらも一筋の光を求める姿。流されながらも健気に生きていく人間の、したたかさと哀しさを見た思いがした。
読了日:09月23日 著者:桜木 紫乃

大魔神の精神史 (角川oneテーマ21)大魔神の精神史 (角川oneテーマ21)感想
1966年の特撮映画『大魔神』シリーズ3部作を当時小学生だった私は映画館でリアルタイムで観ている。忘れた頃にビデオやDVDで見直しているが、鬼の形相に変わる仁王立ちする魔人像は何度見てもその迫力が強烈。ゴジラやガメラにないおどろおどろしい恐怖が支配した映像や音楽を、怖いもの見たさで忘れた頃にビデオやDVDで見直しているのは、子供心に強烈なインパクトとして刷り込まれたからに違いない。大魔神の正体=アラカツマの真実を暴き、計画から撮影、興行秘話まで全方位的に大魔神を論じてくれた本書はマニア泣かせの一冊である。
読了日:09月21日 著者:小野 俊太郎

裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)感想
県民所得、失業率、シングルマザー率、学力、大学進学率、こどもの貧困…ついでにいうとコロナワクチン接種率までワーストの沖縄。10代での出産、離婚、親の育児放棄、働かない夫のDVなど断ち切れない負の連鎖は子、孫の代まで続く。これは当事者だけの責任なんだろうか。そこにはそれを生み出す深刻な社会背景が存在することを教えてくれたのが本書である。障害児を育てるキャバ嬢が逆境にもめげず看護師として独り立ちしていくストーリーには一筋の光明が見えた気がした。それにしても、本書に登場する男たち、皆一様にだらしない。
読了日:09月16日 著者:上間陽子

日本の異国: 在日外国人の知られざる日常日本の異国: 在日外国人の知られざる日常感想
外国人と接することが少ない地方都市に住む自分としては、本書の内容には少なからず驚いた。東京近郊の例を多く上げているが、2017年時点で国内には250万人もの海外からの移住者がいるという。歴史的に難民受け入れに消極的だった日本にとって、クルド難民に対しての悲惨な対応については疑問が残る。日本を頼ってきた難民に対して、犯罪者でもないのに仮放免と入管収容所の行ったり来たりの仕打ちをいつまで続けさせるのか。収容所内でのネパール人女性の不審死は記憶に新しい。これでは国際社会で真の先進国になるには程遠いのではないか。
読了日:09月11日 著者:室橋 裕和

昭和30年代スケッチブック―失われた風景を求めて昭和30年代スケッチブック―失われた風景を求めて感想
昭和39年に小学校に入学した私は、昭和30年代を振り返ることができる最後の世代だと思う。戦中生まれの著者とは世代の隔たりは大きいが、トンボやヤンマを追った原っぱの思い出や蚊帳を吊って寝た夏の夜など同じ体験も重なる。おそらくそこに共通したのは高度成長期の昭和30年代は住環境がまだ発達途上にあった時代背景によるものではないかと思う。宅地造成が進み原っぱが消え、窓がサッシに変わったのは昭和40年代以降であった。今思えば、そうした変化にリアルタイムで立ち会うことができただけでも時代の証人として得をした気分である。
読了日:09月03日 著者:奥成 達

アウシュヴィッツの囚人写真家アウシュヴィッツの囚人写真家感想
本書は政治犯として逮捕されたアウシュヴィッツ強制収容所で写真家として働かされ、2012年に95歳で亡くなったヴィルヘルム・ブラッセ氏の証言をもとに書かれた。撮影した5万枚以上の写真には囚人やSSの肖像以外にも、ガス室に向かう人々の群れや人体実験をした医師のヨーゼフ・メンゲレに指示されたものも含まれている。解放時にブラッセが命がけで守った写真はナチスドイツの残虐行為を証明する証拠として、ホロコーストの悪夢を世界に喧伝する歴史資料として果たした役割は大きい。ブラッセの存在そのものが奇跡という他ないだろう。
読了日:09月02日 著者:ルーカ クリッパ,マウリツィオ オンニス


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[ 2021/10/01 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

生涯読書について~これまでに読んだ本の数

自分はこれまでにどんな本を何冊を読んできたのか?
ここ2ヵ月、そんなどーでもいい疑問にこたえるべく、調べていました。

作業は読書メーターというアプリを使って、読んだ本をひたすら登録します。
1987年からずっと読書記録をつけてきたので、今日までに読んだ本と読了日は分かっていますが、知りたいのはそれ以前に読んだ本がどれだけあるのかということ。

私の本格的な読書体験は、中学一年の時に早熟な同級生に借りた文庫本に始まります。
新潮文庫版の井上靖著『あすなろ物語』でしたが、それまでは児童書しか読んだことがなかったので、初めて手にした文庫本に驚いたのはいうまでもありません。
学生服のポケットから得意そうに出して見せる彼が、ずっと大人びた存在に見えたものです。
それ以来、次に何を読もうかと考えるのが楽しくて、文庫本の巻末リストを開いては読んだ本を線で消してニヤリとする毎日でした。

高校時代は学生服のポケットに忍ばせ、大学時代はジーンズの尻ポケットに、サラリーマン時代は通勤電車の吊革読書に夢中になり、出張カバンには重いのも厭わず2~3冊を入れ、本はいつも私の傍らに。

のらりくらりと本とつきあってあっという間に50年。
リタイヤした今は、憧れていた晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活となり、文字通り、目がつぶれるまで読んでいてもいい身分です。

さて、記録をつけていない1987年以前も含めて、これまで何冊読んできたのか?ということですが、今も本棚に並ぶ本とそれ以前に大量に処分した本、更に図書館で借りた本を思い出して、アプリに登録してみたのが次の結果です。

読んだ本…2743冊
積読本…366冊


50年で2743冊というのは、正直言って思ったほど少ない数字でした。
おそらく50冊や100冊くらいはモレがあるかもしれませんが、この程度では読書家と言えるほどではありません。

ついでに調べたのが、ジャンル別の読書冊数(ダブリ含む/コミック除く)。

日本文学・エッセイ…424
国内ミステリ(ホラー·SF含む)…375
時代小説/時代エッセイ…324
山岳小説/山岳エッセイ/冒険小説…189
教養/雑学/昭和レトロ…178
旅行記/冒険記/漂流記/鉄道旅…134
椎名 誠…134
民俗/風俗/事件…133
書評/読書/古本/ブックガイド…120
海外ミステリ…114
自然科学・サイエンス/図鑑…109
山岳ノンフィクション…107
海外文学…90
社会科学/ビジネス…74
人物/自伝/伝記…73
山岳ガイド/山行記録・大系/技術書…61
食物エッセイ/料理・酒/食文化…51
歴史…48
旧街道/町歩き/町並み…42
ナチス/ユダヤ…25
スポーツノンフィクション…7
詩集/歌集…3

これを見ると比率は小説6、ノンフィクション4くらいです。
近年は小説をあまり読まなくなりました。
ちなみに現在の蔵書数は1850冊でした。

これからも読書は続けますが、まずは366冊もある積読本を崩すことでしょうか。
中には30年も本棚の肥やしになっている可哀そうな本もあります。

しばらくは買うことを我慢して、積読を減らす。
これでいきたいと思います。

さてさて、では生涯で本は何冊読めるのか…とうことですが、遅読の私なので、目標を掲げてもあまり意味はないですが、年に100冊くらいのペースで読めれば満足ですね。
ちなみに“知の巨人”立花隆さんは20万冊を読んだそうです。
井上ひさしさんは15万冊。

多読、速読よりも、ゆっくりじっくりといろんな分野の本を味わうスタイルでいきたいと思います。

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※昭和40年代の文庫本。読んだ本に線引きをして喜ぶ中学生だった(笑)。

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[ 2021/09/04 ] 読書 | TB(0) | CM(2)

8月の読書

長雨とコロナにたたられた8月は、ひたすら家にこもる毎日でした。
することもないので、図書館に行っては本を借りていましたが、何度目かの緊急事態宣言のおかげで市の公共施設の使用が一時停止となったことにより、その楽しみすら奪われることに。
図書館の再開は9月の中旬以降ということですが、こんな状態がいつまで続くんでしょうかね。

先ほど飛び込んできた速報ニュースは、菅さんの総裁選出馬断念。
コロナ対策に集中したいというコメントでしたが、「今更何言ってんの?」と言いたい。
いつも死んだ魚の目をしたうつろな表情と、覇気のない物言い。
これまでの散々な後手にまわる駄策の数々に、国の先頭に立つリーダーシップの強さはみじんも感じなかった。
入院もできずに自宅で命を落とした人も数知れずいるなかで、国策の弱さと甘さを嫌というほど味合わせてもらった政権でした。

次はどこの政党でもいいけど、諸外国にも舐められない強いリーダーシップの人物が選ばれることを願いたいですね。

さて、うだうだと過ごしてしまった8月の読書は、久しぶりの20冊。
収穫は山本周五郎『ながい坂』。

人間、謙虚が大事ですね。
文豪が描く主人公の生き方に深い感銘を受けました。
…と言いながらも、↑のような総理の個人批判しててはいけないんでしょうが(笑)。

8月の読書メーター
読んだ本の数:20
読んだページ数:5013
ナイス数:2434

つけびの村  噂が5人を殺したのか?つけびの村  噂が5人を殺したのか?感想
山口県で起きた5人殺害放火事件の真相を追ったルポ。村八分状態になっていたという犯人が静かな限界集落で起こしたこの事件は『津山三十人殺し』を彷彿とさせるものがあり、私もその裁判の行方が気になっていた。獄中の妄想性障害の犯人への面会、関係者への執拗な聞き取りを含めて著者の取材力はなかなかのもの。取材で掴んだ、よそ者を受け付けない閉鎖的でうわさ話が好きな村民性や、オカルト的な神社の祟りにまで発展していく犯行の背景は少々短絡的でもあるが、当事者がほとんどいなくなった今となっては“死人に口なし”と言わざるを得ない。
読了日:08月31日 著者:高橋ユキ(タカハシユキ)

日本懐かし団地大全日本懐かし団地大全感想
昭和30年代生まれの私はこれまでに延べ25年くらいの団地生活をしたので、その利便性も含めて良いところ、悪いところは知っているつもりだ。著者の“団地愛”に溢れた本書を読むと、改めて高度成長期の国民の生活向上に貢献した役割の大きさに驚く。私が生まれた翌年に入居した団地は2DKで風呂もなかったが、抽選に当たった両親は大変喜んだという。結婚して2DK→3LDKの団地に住んだが、当時は早く抜け出したくて仕方がなかった。しかし憧れの一軒家を手に入れ子育てが終わった今、あの頃の団地生活の楽しさを懐かしく思い出している。
読了日:08月31日 著者:照井 啓太

僕が遍路になった理由(わけ)―野宿で行く四国霊場巡りの旅僕が遍路になった理由(わけ)―野宿で行く四国霊場巡りの旅感想
連合出版2000年12月初版。著者が大学4年生の夏休みに行った四国遍路の記録。寝袋も持たずに野宿で歩く遍路は若者らしくポジティブなチャレンジである。信仰心もなく覚えたての般若心経で88ヶ所の寺を回るなかで、多くの人々からなんでお遍路をしているのか、と問われても答えることができない。まるで遠足気分で歩いていく中でゴールを迎えるが、満願成就をすることが目的ではなく、一歩一歩の過程にこそ意味があったと気づく。最初は今どきの若者を地で行く鼻についた軽薄な文章だったが、最後には見違えるほど読ませてくれた。
読了日:08月30日 著者:早坂 隆

昭和少年少女ときめき図鑑 (らんぷの本)昭和少年少女ときめき図鑑 (らんぷの本)感想
河出書房新社2018年9月刊。北名古屋市の「歴史民俗資料館」に展示されている資料を解説した本。同館は数年前に訪ねたが、昭和の商店街が再現されており、蒐集されたコレクションも膨大で何度でも見学したくなる施設だった。昭和33年生まれの私にとってこの本に紹介されているものはどれも懐かしいが、中でも思いで深いのが粉末ジュース。渡辺のジュースの素はエノケンがテレビCMをしていた。春日井シトロンソーダも大好きで、舌が青くなるまでそのまま舐めたことも良い思い出である。もう一つは万年筆。中学入学祝いの定番だった。
読了日:08月29日 著者:市橋芳則,伊藤明良

ホハレ峠;ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡ホハレ峠;ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡感想
岐阜県民なので徳山ダム着工から完成までのあらましについては大方知っていたが、最初はてっきりダム着工に対しての反対運動の話だと思って読み始めた。しかし、内容は旧徳山村の最奥の集落に住むおばあさんの半生とその家族を追った、30年にもわたる交流と取材に成された壮大なストーリーであった。隔絶された集落で濃密な家族関係を築いてきた人々が住み慣れた土地を離れる決断は悲壮そのものである。本書でも紹介されている映画『ふるさと』も併せて観たが、ダムに沈む前の美しい村の姿と、村を捨てる家族の最後の場面が涙を誘った。
読了日:08月28日 著者:大西 暢夫

ちゃぶ台の昭和 新装版 (らんぷの本)ちゃぶ台の昭和 新装版 (らんぷの本)感想
河出書房新社2018年新装版初版発行。戦前、戦中、戦後と食生活の変遷とそれにまつわる庶民の暮らしぶりをまとめている。ちゃぶ台は昭和30年代を境にダイニングテーブルへと変わっていくが、最近になって復活の傾向が見られるという。そこには単なる懐古趣味の郷愁ばかりではなく、サザエさんや寅さんにあるような家族のつながりを求める表れなのかもしれない。本書では一汁一菜の昭和の献立の作り方やごはん茶碗のデザインの変遷なども取り上げられており、給食によく出た鯨の竜田揚げやベーコンがもう一度食べたくなった。

読了日:08月27日 著者:小泉和子
尾畠春夫 魂の生き方尾畠春夫 魂の生き方感想
“スーパーボランティア”尾畠春夫さんから聞き取りを行い編集されたドキュメント。2018年に行方不明になった2歳児を救出して一躍時の人になったが、私が彼を知ったのはずっと以前で、仙台に赴任し東日本大震災のボランティアに参加した時である。また、NHKの番組で尾畠さんの日本列島徒歩縦断の放送を見たこともあり、私が昨年行った同じチャレンジにも少なからず影響を受けた。本書ではボランティアのこだわりと思いについて熱く語っているが、根底にあるのは自分の思うままに生きていくという「どこ吹く風」の精神であるといえそうだ。

読了日:08月26日 著者:尾畠春夫

遊廓へ ――女子ひとりで街歩き遊廓へ ――女子ひとりで街歩き感想
若い女性に遊郭は人気があるようだ。著者の“遊郭愛”は半端ではない。この本を読むとそう感じずにはいられない。遊郭を巡る旅をそれこそ全方位、全角度から楽しんでいることが分かる。遊郭特有のオシャレな建物はもちろん、モダンなタイル窓やステンドガラス、うす暗い路地から寂れた銭湯、スナック、猫がいる風景なんてのも。ページをめくる私もうれしくなってくる。場所が場所だけに女性ひとりの突撃探訪は苦労したと思うが、じゆうぶんお釣りがくるくらいの出来栄えになっていると思う。※蛇足ながら森永の牛乳箱は昭和初期ではないと思います。
読了日:08月25日 著者:花房 ゆい

『焼き場に立つ少年』は何処へ―ジョー・オダネル撮影『焼き場に立つ少年』調査報告『焼き場に立つ少年』は何処へ―ジョー・オダネル撮影『焼き場に立つ少年』調査報告感想
長崎原爆資料館でこの写真を初めて見た。それ以来ずっと脳裏にあり、NHKの番組での放送が重なったこともあり、少年は誰なのか、どこで撮影されたのか…という疑問が私の中で続いていた。本書は少なからずその疑問に答えてくれたが、それ以上に感動したのは写真を撮った元海兵隊員のオダネル氏の活動である。原爆投下を正当化するアメリカ世論のなかでの写真展や日本国内での講演、展示、出版等、まるで罪を償うような真に迫った動きがそこにあった。偶然にもこの写真が撮られ日の目を見たことは、図り知れないほど大きな意味を持っている。
読了日:08月24日 著者:吉岡 栄二郎

昭和遺産へ、巡礼1703景昭和遺産へ、巡礼1703景感想
掲載された写真は、喫茶店、商店街、遊園地、モーテル、食堂、観光地の売店、建物、食品市場…と実に多彩。説明文を読むまでもなく、そこに共通するのは、間違いなく時間が止まってしまったような【昭和】の姿だ。どこが昭和なのか?と問われても明確には答えられないが、しいて上げれば、私が生まれ、育ち、体にまとわりつくように経験してきた昭和時代の残像を、写真を通して瞬間的に捉えたからではないかと思う。かつて訪ねたことがある場所や風景もいくつかあり、懐かしさに胸が締めつけられる思いがした。
読了日:08月23日 著者:平山 雄

もう取り戻せない昭和の風景 東京編もう取り戻せない昭和の風景 東京編感想
掲載されたモノクロ写真は昭和30年代と50年代の風景が中心。昭和50年代の写真を見ると、都心にあるにも関わらず多くの木造家屋が残っていることに気づく。道行く人々や路地で遊ぶ子供たちの後ろには、小さな商店や食堂、古びた家屋が軒を連ねるセピア色に褪せた風景がある。年配の?ご婦人たちは結構な確率で着物姿だ。今ではほとんど見ることができない割烹着も。昭和の風景は、取り戻せない以上に、もはや思い出すことすらできないくらい遠い過去になってしまった。それもそのはず、昭和が終わりを告げて、早33年である。
読了日:08月23日 著者:布川 秀男

ながい坂 (下巻) (新潮文庫)ながい坂 (下巻) (新潮文庫)感想
下級武士という出自にコンプレックスを持ちながらも、自己鍛錬を怠らずに信じた道を突き進む主水正の孤高の姿は、丁稚奉公から人気作家になっていく著者の半生をそのまま投影したかのようだ。主水正の心の揺れや迷い、人間形成の過程は、三浦家の庭に植えたくぬぎ林の成長と四季折々の風景にも重ねられ、その構成は見事というほかない。一歩づつ登る長い坂に例えた人生は主水正のみならず、彼を取り巻く人々すべてに当てはまる。しかし、人生は短い。「私は背伸びをして、ながい坂を登ってきた」と言わしめた著者に、本心を見たような気がした。
読了日:08月22日 著者:山本 周五郎

ながい坂 (上巻) (新潮文庫)ながい坂 (上巻) (新潮文庫)感想
上下巻をようやく読了。徒士組の下級武士の子に生まれた主人公・小三郎(主水正)が、立身出世をしていく長い長い物語。簡単に言えばこれだけだが、そこには小三郎の人間形成と、彼を取り巻く人々の様々な人生が語られていく。焦る小三郎に対して塾教師の小出は「人の人生は長い、一足跳びにあがるより、一歩一歩しっかりと登ってゆくのも、結局は同じことだ」と諭す。才気あふれる藩主を始め、魅力的な人物たちに囲まれて困難に立ち向かい成長していく姿に、目が離せなくなっていく。※下巻に続く
読了日:08月22日 著者:山本 周五郎

ニッポンの奇祭 (講談社現代新書)ニッポンの奇祭 (講談社現代新書)感想
職業柄か、著者はカメラマンなので、写真を撮るためのアングルとか場所取りがうまくいかないといった記述がやたらと多く、祭りそのものの内容よりもそっちの目線が気になってしまった。レポした祭りは著者の故郷である諏訪御柱祭りを筆頭に長野県、東北、関東、沖縄と広範囲を取材しているが、奇祭かどうかはともかくとして、なぜその祭りを選んだのか、理由を含めて一貫性のなさを感じた。奇祭をレポしたものなら、みうらじゅん『とんまつり』や椎名誠『ニッポンありゃまぁお祭り紀行』の方がはるかに面白く読み応えがあった。
読了日:08月19日 著者:小林 紀晴

新書882ヒトラーとUFO (平凡社新書)新書882ヒトラーとUFO (平凡社新書)感想
タイトルに惹かれて手に取ったが、内容はドイツに今も伝わる都市伝説をまとめたもの。ヒトラーの生存説以上に面白いのが、ナチスのUFOに似た円盤型の飛行機説。設計図や模型が戦後のどさくさに盗難に遭ったというオチが面白い。それとフリーメーソンの真実を追ったルポ。世界に600万人、日本にも250人がいる団体にも関わらず、その活動や実態は表に出てこない。ナチス政権化のフリーメーソン陰謀論や、古くは坂本龍馬も会員だったのではないかと言われているが、それさえもよく分かっていないことがすでに都市伝説である。
読了日:08月18日 著者:篠田 航一

遺品は語る 遺品整理業者が教える「独居老人600万人」「無縁死3万人」時代に必ずやっておくべきこと (講談社+α新書)遺品は語る 遺品整理業者が教える「独居老人600万人」「無縁死3万人」時代に必ずやっておくべきこと (講談社+α新書)感想
どうも選本を誤ったようだ。タイトルからして、独居老人や孤独死の実態、その遺品についての生々しいルポだと思っていたが、さにあらず。内容は新ビジネスの遺品整理業を営む自社の宣伝ばかりで、見積もりから料金体系、遺品整理の方法、家の処分といった会社の事業説明カタログかマニュアルを読むようだった。我慢強く読んでみたが、得るものは少なかった。
読了日:08月15日 著者:赤澤 健一

人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー (幻冬舎新書)人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー (幻冬舎新書)感想
前半は取材のノウハウとプロセスを語っている。時間をかけて謙虚に、相手の感情を逆なでしないやり方が著者の常套のようだ。後半の死刑囚との対話では、危うく感情移入する場面もあり、心が通い合ったことでその人間性に触れた昂ぶりを描いている。半面、北九州監禁連続殺人事件の主犯・松永太については、精神的なストレスを感じるほどの恐怖心を抱いている。著者の一連の作品は、地道で執拗な裏取りと無鉄砲ともいえる飛び込み取材で執筆されたことを想像させるだけに、身の危険を感じてまで仕事をする意味合いが、今一つ伝わってこなかった。
読了日:08月14日 著者:小野 一光

昭和ノスタルジー解体: 「懐かしさ」はどう作られたのか昭和ノスタルジー解体: 「懐かしさ」はどう作られたのか感想
多少のこじつけ感はあるが、遡ること1974年が昭和ノスタルジーの系譜に当たるらしい。『三丁目の夕日』の連載が始まり、前年からのオイルショックに翻弄された年である。面白いのは、1970年代から始まったオタク文化と86年に登場したレトロの概念。いずれもマスメディアによる仕掛けが背景にあったようだ。私にとっての昭和ノスタルジーは自分が生まれた昭和30年代に尽きるが、それを知らない次世代にとっては単なる懐古趣味にしか映らないであろう。突き詰めれば、誰もがそれぞれの“懐かしき昭和“を持っている。それでいいのでは。
読了日:08月13日 著者:高野 光平

100万円で家を買い、週3日働く (光文社新書)100万円で家を買い、週3日働く (光文社新書)感想
社会学者の見田宗介氏が提唱した戦後の日本社会である、理想の時代、夢の時代、虚構の時代に続く現代社会を著者は【魔法の時代】と名付け、「第四の消費社会」であると書いている。スマホがあれば日常生活がほぼ事足りるバーチャル(魔法)に対して、人々はリアルを求める生活への多様化が進んでいくという。それがタイトルにあるような古民家再生や低コストのシェアハウス運営、昭和レトロの懐古趣味的な追及などに現れている。この本には様々な事例が取り上げられているが、それをけん引しているのは柔軟な思考を持った若者たちである。もっといえば、横文字職業の人々が多い。そのキーワドは“集まる”といってもいいだろうか。低収入で生きていくうえでも最低限の収入がなければ維持できない現実から見れば、シェアハウスにしろ、ニュータウンでの屋台やスナックにしろ、喫茶ランドリーや農村体験…そこには最低限のコミュニティと経済的流通がなければ成り立たない。“集まる”ことがままならないコロナ禍の今、「第四の消費社会」はどこに向かうのだろうか。

読了日:08月13日 著者:三浦展

決定版 コルチャック先生 (平凡社ライブラリー)決定版 コルチャック先生 (平凡社ライブラリー)感想
ホロコースト関連の作品でワルシャワ・ゲットーの実態を描いたものは多いが、食料が窮乏していく中での凄惨さを記録した1942年4月から8月までのコルチャックのゲットー日記は読むに堪えない。そうした中でユダヤ人を支援するポーランド人のナチ抵抗組織の善意もあり、ゴミ運搬車に隠したクリスマスプレゼントを子供たちに贈るエピソードはホロリとくる。ゲットーから収容所に移送される200名の子供たちとの最後の行進には、教育者としての責任感や慈愛を超越した、コルチャックの人間としての尊厳を見た思いがした。
読了日:08月04日 著者:近藤 二郎


読書メーター


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[ 2021/09/03 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

7月の読書

オリンピック観戦づけの毎日です。
外出するのは朝夕2回のウォーキングだけです。
まぁ、これだけ暑いと外に出る気もしませんが。

ウォーキングの夕方のコースは自宅近くの公園を歩きますが、雑木林の中を縫うように続く歩道です。
これが森林浴も兼ねて、なかなか気分がいい道なんですね。
それと面白いのは、クヌギやナラの樹液に集まる虫たち。
昨日はミヤマクワガタ、今日はカブトムシのオスと大きなシロスジカミキリを見つけました。
携帯をもってなかったのは残念でしたが、蚊に刺されるのもいとわず、童心に返ってじっくり観察しました。
このところのウォーキングの楽しみになっています。

さて、7月の読書ですが、スコアは10冊でした。
収穫はイザベラ・バードの『日本奥地紀行』。
ずっと以前から読まなきゃいけないと思って、そのまま積読状態になっていた本ですが、ようやく読了することができました。

7月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:2969
ナイス数:3015

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)感想
長年の積読本をようやく崩せた。明治初期の日本の農村や漁村の実態を知るには貴重な一冊。著者の冷徹な視線に写る日本人像が愚鈍、不潔、野蛮、矮小、猜疑心といった極端なマイナスイメージから、人々との交流のなかで礼儀正しさや美徳、家族愛などに触れて徐々に日本人の素晴らしさに気づいていく過程がなんとも痛快。更にアイヌ民族との生活体験は、彼らに流布されている偏見や差別を否定するまでに大きな役割を担っている。この時代において、蚤や蚊の襲撃にめげずに旺盛な好奇心と柔軟な思考をもって旅をした著者のバイタリティに脱帽である。
読了日:07月30日 著者:イザベラ バード

トペトロとの50年―ラバウル従軍後記 (中公文庫)トペトロとの50年―ラバウル従軍後記 (中公文庫)感想
マラリアに罹患したラバウルで、毎日バナナを運んでくれた原住民の少年トペトロと交流を描いた話は、著者の多くの作品に出てくるが、これは後日談ともいえる物語。成長したトペトロとの再会と死。そして著者が葬式を出してやるまでのストーリーが実に自然体でほのぼのとして良い話である。復員後に描いていた“奇人”のスケッチも面白いが、電車の中で観察した女性像は絵の旨さが際立っており、著者のただならぬ才能を感じる。鬼太郎たちのモデルとなったのは“トペトロ”たちという、こぼれ話は得した気分。
読了日:07月30日 著者:水木 しげる

新版 ナチズムとユダヤ人 アイヒマンの人間像 (角川新書)新版 ナチズムとユダヤ人 アイヒマンの人間像 (角川新書)感想
初版は1961年イスラエルにおいて、元ナチ親衛隊中佐アイヒマンの裁判を傍聴し、その記録をもとに1962年に上梓された。本書は2018年に著者のご子息である村松聡氏により改定がなされた内容となる。ホロコーストの生存者による証言は無残としかいいようがないが、論点となるのはアイヒマンがなぜユダヤ人の生物学的最終解決の先鋒になったかということである。そこにはヒトラーへの忠誠心以上に、強く働く出世欲があったといわれている。ドイツの敗戦が濃厚になっても虐殺を続けた背景にはそこはかとない狂気を感じずにはいられない。⇒
読了日:07月21日 著者:村松 剛

春琴抄 (新潮文庫)春琴抄 (新潮文庫)感想

高校生以来、実に40数年ぶりの再読。改めてこの短編の凄さに圧倒された。谷崎を読むうえでその根底を貫流しているマゾヒズム的幻影を理解して、初めてその作品群の端緒に触れることができた気がする。本作での春琴と佐助の関係は単なる主従ではなく、そこにはゆがんだ愛のカタチが見え隠れしている。火傷を負う前の春琴の美しい顔を永遠の残像とするために、自らの眼球を針でつく佐助の究極の自虐行為は、常人には理解できないマゾヒストとして精神的快楽の極致にあったとも解釈できる。10代ではこの作品は早かったと、今になって思っている。
読了日:07月16日 著者:谷崎 潤一郎

ソハの地下水道 (集英社文庫)ソハの地下水道 (集英社文庫)感想
舞台となったは旧ポーランド・ルヴフの町。ロシア軍によって解放されるまで、14ヵ月間にわたって絶悪な環境の下水道に隠れたユダヤ人の記録。最終的には10人が生き延びるが、その支援にはポーランド人ソハを中心とした人々の存在があったという。ナチによるユダヤ人虐待が進む中で、人道的見地により自らの危険を顧みることなく、ユダヤ人を匿ったり、逃亡の手助けをした人々は他にも多くいる。本書に限らず、様々な状況の中でのこうした記録が風化することなく、さらに多く出てくることを望みたい。

読了日:07月15日 著者:ロバート・マーシャル

五辧の椿 (新潮文庫)五辧の椿 (新潮文庫)感想
『日本婦道記』『さぶ』『赤ひげ診療譚『青べか物語』『おごさかな渇き』と読んできて6作目の山本作品であるが、そのどれもが同じ作者が描いたものと思えない新鮮さを覚えた。多くの引き出しをもち、新たな技法を操ることができる多彩な作家ならでの才能と思う。ただし、そこに共通しているのはすぐれた人間洞察力と小説に向き合う高い構成力である。本作の主人公【おしの】の変幻自在な描き方と、パズルのピースを一片の狂いもなくはめ込むストーリーは、まさに著者の真骨頂が発揮されている作品といえる。

読了日:07月11日 著者:山本 周五郎

ボッシュの子ボッシュの子感想
ずっと以前に観た戦争の記録番組で、髪を丸刈りにされる女性のショッキングな映像があり、その姿がいつまでも記憶の残像になっていた。ボッシュとはドイツ兵のことを言う侮蔑語であり、丸刈りにされた女性は、ナチス占領下のフランスでドイツ兵と恋に落ち、市民から迫害された人たちであった。著者は戦争の落とし子=ボッシュの子として貧困と差別の中で育ったが、やがて同様な運命を背負った仲間たちと全国的な友好活動に入っていく。20万人のボッシュの子は、ナチスが犯した罪の一端であるが、救いはそこにあった純粋な恋物語であると思いたい。
読了日:07月05日 著者:ジョジアーヌ・クリュゲール

おごそかな渇き (新潮文庫)おごそかな渇き (新潮文庫)感想
珠玉の短編集。絶筆となった表題作は、著者の宗教観と人間の真理を追究する倫理観が垣間見える作品。続きを読みたいが、今となってはそれも叶わない。『雨あがる』は映画を先に観ていたが、原作にはなく映画では肉付けされたラストの場面は、“あり”“なし”どちらも優劣つけがたく、物語の行く末を広げ、引き締めている。お気に入りは『かあちゃん』と『あだこ』。どちらも最後に泣かされた。
読了日:07月04日 著者:山本 周五郎

読書する人だけがたどり着ける場所 (SB新書)読書する人だけがたどり着ける場所 (SB新書)感想
「深みを感じとる力」…読書から得られるもの。私にとっては一番足りていない力かな。『カラマーゾフの兄弟』
は高校時代に途中で放り投げてから、手にすることなく45年が経った。死ぬまでに読みたい本として、目の上のたんこぶ状態。よぉし、今年こそリベンジしようじゃないか。
読了日:07月03日 著者:齋藤 孝

ヒトラーの側近たち (ちくま新書)ヒトラーの側近たち (ちくま新書)感想
ナチ党の誕生から自決まで、ヒトラーの生涯について概略は理解しているので、年表的な内容では物足らなかった。ワーグナー夫人やベルヒシュタイ夫人といった社交界のVIPがヒトラーの熱狂的なパトロンとなり、結党の初期段階で財政支援に大きく絡んでいたという。女性にモテる男としての意外性には驚いた。現実から遊離し、破滅に向かうヒトラーの狂信的な戦争ファナティシズムに側近やドイツ国民が心酔し、扇動されていく姿は異常であり、その代償がドイツ国民525万人、ユダヤ人600万人の犠牲者となったことはあまりにも大きい。
読了日:07月01日 著者:大澤 武男


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[ 2021/08/02 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

45年ぶりに読む、谷崎潤一郎著『春琴抄』

二回目のワクチン接種から4日が経過し、すっかり左肩の筋肉痛も消えました。
今にして思えば、接種翌日の体のだるさとちょっとした悪寒は、やはり副反応だったかもしれません。
どっちにしろ、あとは抗体ができるのを待つだけ。

全国的に拡大する感染まん延に対処するには、今のところ接種しかないのが現実です。
感染者が多い20代、30代の接種を早急に拡充する手を打つのが国としての責務であると思いますね。
本日、開会式が行われるオリンピックのゴタゴタといい、ワクチン対策の甘さといい、国はいったい何やってるんだといいたい。

…まぁ、あんまりカリカリしても血圧が上がるだけなので、ちょっと冷静になって本の話を。

春琴、ほんとうの名は鵙屋琴…で始まる谷崎潤一郎の不朽の名作『春琴抄』を再読しました。
45年前の高校生の頃、山口百恵と三浦友和コンビの同名映画が封切られており、それに感化されて手に取った小説です。
結局、映画は観ることもなく小説で我慢していましたが、今思うと観とけばよかったと後悔しきり。
古い作品なのでレンタルで探しても見つからず、こうなりゃ、アマゾンプライムで購入するしかないかなと思っています。

さて、『春琴抄』ですが、うぶだった高校生の時読んだ印象は、春琴に対する佐助の献身的で純粋な愛にいたく感動したことを覚えています。
その後、谷崎の代表作『痴人の愛』や『鍵』『瘋癲老人日記』を始めとした一連のマゾヒズム、フェティズム作品を、私自身の成長とともに何度も再読しましたが、いずれの作品も10代で読んだ時の印象とはまったく違うものになっています。

谷崎作品の奥深さとそこに広がる世界観は、やはり谷崎がただものではないということを再認識させられます。
10年長生きしていたら谷崎がノーベル賞を獲ったであろう、ということもうなづけます。

『春琴抄』もしかり。
わずか70ページの短編にも関わらず、改めてこの作品の凄さに圧倒されました。
谷崎を読むうえでその根底を貫流しているマゾヒズム的幻影を理解して、初めてその作品群の端緒に触れることができた気がします。
春琴と佐助の関係は単なる主従ではなく、そこにはゆがんだ愛のカタチが見え隠れしています。
火傷を負う前の春琴の美しい顔を永遠の残像とするために、自らの眼球を針でつく佐助の究極の自虐行為は、常人には理解できないマゾヒストとして精神的快楽の極致にあったとも解釈できます。

10代で手に取ったのは、まだ早かったと、今になって思います。
でも、10代で読んだからこそ、今の読書を楽しんでいるわけです。
10年後、20年後に読んだら、また印象が変わるかもしれませんが…。

十人十色の読み方がある。
真の名作とは、まさにこうした作品のことを言うんでしょうね。

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[ 2021/07/23 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

6月の読書

いつの間にか、7月。
一年の半分が過ぎてしまった。
梅雨入りが早かった今年はその分期間も長いのか、今日も降ったりやんだりのイヤな空模様です。

朝から名古屋市のワクチンサイトにアクセスし、入院中に2回目の接種が受けられなかった老父の予約を取りました。
1回目から6週間空いてしまったが、仕方がない。
やらないよりはマシだろうとの、判断です。

明日からカミさんの実家に帰省し、義母のワクチン接種に同行します。
ついでに畑の様子を見てくるつもりです。

老父にしろ義母にしろ、ワクチンを接種するにも一人ではままなりません。
いずれ自分にもそんなときがくるだろうと思いますが、それまでは誰にも迷惑をかけずに過ごせたらと思いますね。

さて、6月の読書です。
スコアは少し伸びて、10冊でした。
遅ればせながら、山本周五郎との出会いがあった月となりました。


6月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:2750
ナイス数:85

清張ミステリーと昭和三十年代 (文春新書)清張ミステリーと昭和三十年代 (文春新書)感想
昭和三十年代というタイトルに心の躍動を覚える。私が生まれた年代であり、間違いなくその世相を経験し育ってきた。
もっと知りたくてその時代の資料をあさるが、吉永小百合や石原裕次郎の日活映画、そして清張ミステリは、自分にとっては宝箱のような価値がある。
松本清張は高度成長に代表される昭和三十年代の潮流と社会の闇を巧みに切り取り、問題提起した作家である。50数年の時を経ても『砂の器』や『点と線』に代表される作品群はいささかも色あせていない。
蛇足ながら、三十年代には映画館が一万人に一館の割合であったことを改めて知った。
読了日:06月30日 著者:藤井 淑禎


青べか物語 (新潮文庫)青べか物語 (新潮文庫)感想
昭和初期の海べりの町の情景がまぶたに浮かぶ。
荒くれな男と女たちの生々しい姿を描き出すのは、周五郎ならではの筆致であり、『白い人たち』では、石灰工場で働く人々のすさまじい描写に度肝を抜いた。
連作全体を覆う哀愁を含んだセピア色の情景は、つげ義春の世界を連想してみたりもした。
港町を再び訪れた後年の旅で、関りを持った人々が誰一人自分のことを知らぬという、何よりも著者の存在を無に変えてしまったシュールな深みに、この作品の凄味を感じた。
読了日:06月29日 著者:山本 周五郎


青春18きっぷの旅―ゆっくり急いで日本縦断青春18きっぷの旅―ゆっくり急いで日本縦断感想
乗り鉄ならば青春18きっぷを使っての日本縦断を夢見たことがあるはず。
著者はJR全線完乗の後、2010年に知床斜里から枕崎までの3000㎞のチャレンジを行った。
ルールは5日間でのゴールを目指すというもので、事故、災害による遅延に遭いながらも5日後に本州最南端駅の枕崎に到着した。
このチャレンジは多くの人が達成しているが、残念ながら2021年3月のダイヤ改正と肥薩線の不通により不可能になった。
かくいう私もチャレンジを夢見る一人だが、今は著者の本を読んで、羨ましさをまぎらすばかりである。
読了日:06月26日 著者:浅野知二


赤ひげ診療譚 (新潮文庫)赤ひげ診療譚 (新潮文庫)感想
難読氏名の赤ひげの本名=新出去定(にいできよじよう)を最後まで覚えることができなかった(笑)。
無骨だが人情味溢れる強きヒーローの赤ひげは、周五郎のキャラクターの中でもいちばんかな。
黒澤映画『赤ひげ』で主役を演じた三船敏郎の陰がちらついたので、読了後にレンタル屋に走ったが、在庫なし。併せて映画も見たくなった。
ちなみに原作の上梓は昭和33年(1958)。奇しくも私が生まれた年の作品だった。
読了日:06月25日 著者:山本 周五郎


さぶ (新潮文庫)さぶ (新潮文庫)感想
還暦過ぎても人間として成長できていない自分に、ときおり嫌気がさす。
短気でまっすぐな栄二の生きざまに共感し、感情移入してしまう自分に気づいて、反省することしきりなのだ。
栄二を取り巻く周辺の人々は人間的にも“できている”人が多いが、極めつけはさぶだろう。
月のように純真無垢で謙虚なさぶは、陽が照たる栄二とは対極をなすが、そこには口に出さずともお互いが足りないところを求めあう、表裏一体の人間のあるべき姿が見えてくる。
表題を『さぶ』とした著者の意図が、ほんの少し見えた気がした。
読了日:06月21日 著者:山本 周五郎


メタモルフォシスメタモルフォシス感想
初、羽田圭介。タレント作家として見ていたので、これまで著者の作品に触れることはなかったが、芥川賞候補になった作品ということを知り、手に取った。
SMがテーマになっているが、中身は薄っぺらいポルノ小説ではなく、その世界の取材と学習に裏打ちされた内容。
表題作は、マゾヒストの最終的な到達点は自虐で得られるものではなく、第三者の手による究極の被虐であり、それが“殺されたい願望”になっていく過程は常人には理解しがたい。
ゲームで済めばよいが、SMは頭を使う生きざまなのか、求める快楽にも様々なカタチがあるようだ。
読了日:06月19日 著者:羽田 圭介


昨日 (ハヤカワepi文庫)昨日 (ハヤカワepi文庫)感想
母国語を使えない環境で過ごし、亡命者としての著者自らの体験が反映されている一方、『悪童日記』三部作で見せた、虚無で退廃的な空気感は、ここでも作品全体を覆っており健在。
社会の中心から逸脱し、疎外されてしまった人間の心理と不条理を描く手腕はさすがである。
読了日:06月14日 著者:アゴタ クリストフ


どくとるマンボウ人生ノオトどくとるマンボウ人生ノオト感想
ずいぶん昔に読んだことがあるエッセイも収録されていたが、骨折して入院した晩年の話が著者ならではの味わいがあり、楽しく読めた。
旧制松本高校での青春時代は著者のすべての原点になっているようで、その経験は多くの作品に描かれている。
無為に過ごした自分の青春時代と比較してもしょうがないが、羨ましいと思うばかりだ。
読了日:06月13日 著者:北 杜夫


小説日本婦道記 (新潮文庫)小説日本婦道記 (新潮文庫)感想
山本周五郎初期の短編集。石高の大小問わず、武家の婦女子の話す言葉が優しく丁寧で、美しく、なんとも心地よい。
今の時代ではついぞ接することがない会話に驚く。時代小説の魅力はこんなところにもあると思う。
どれも良いが、一押しは『松の花』。妻の死後、まるで知らなかった一面に気づく夫のどん臭さにも呆れるが、それを気づかせることなく献身的に夫や家を支えた妻の生きざまに、深く感動。涙腺が緩んだ。
読了日:06月10日 著者:山本 周五郎


ヒトラーに抵抗した人々 - 反ナチ市民の勇気とは何か (中公新書)ヒトラーに抵抗した人々 - 反ナチ市民の勇気とは何か (中公新書)感想
12年間のナチ政権下でヒトラー暗殺計画は多々あったが、いずれも失敗に終わっている。
レジスタンスの活動以外に注目すべきは、反ナチのドイツ人による抵抗活動である。
映画『ワルキューレ』で描かれた親衛隊将校や単独犯ゲオルク・エルザーによる時限爆弾未遂など、ヒトラーの暗殺に関わった事件があった。
また、一般市民によるユダヤ人の救済、逃亡の手助け等、人道と慈愛、国の未来を思うまっとうな意思をもった多くの人々の存在があったという。
国家犯罪のホロコーストを進め、祖国を滅亡に導いたヒトラーの罪はあまりにも大きい。
読了日:06月02日 著者:對馬 達雄


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[ 2021/07/01 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

浅野知二著『ゆっくり急いで日本縦断』を読む

乗り鉄ならば、青春18きっぷを使っての日本縦断を夢見たことがあると思います。

青春18きっぷは春、夏、冬の年3回発売されており、5枚つづりで10250円というきっぷです。
ルールはJRの普通、快速電車が乗り放題となりますが、特急や新幹線は使えません。
また、北海道の津軽海峡を渡る区間の奥津軽いまべつ~木古内間は、北海道新幹線オプション券と「青春18きっぷ」と組み合わせて利用することで、北海道新幹線や道南のローカル線「道南いさりび鉄道」に乗車でき、料金は1回分で、大人/子供同額の2490円となっています。

著者はJR全線完乗の後、青春18きっぷを使い、2010年に北海道知床斜里から鹿児島枕崎までの3000㎞のチャレンジを行いました。
ルールは5日間でのゴールを目指すというもので、事故、災害による遅延に遭いながらも5日後に本州最南端駅の枕崎に到着し、目的を達成しています。
36本の列車を乗り継ぎ、ひたすら南に向かう5日間の旅は、乗り鉄ならではの夢のようなぜいたくな時間だったと想像します。

青春18きっぷで日本を縦断するというチャレンジは多くの人が達成していますが、残念ながら2021年3月のダイヤ改正と肥薩線の不通により不可能になってしまいました。

かくいう私もいつの日にかチャレンジを夢見る一人でしたが、叶うことができないままになっています。
今は著者の本を読んで、羨ましさをまぎらわすばかりです。

ちなみに、現在の状況で計画を立てると以下(模範事例)のようになりますが、5日目に枕崎駅に到着することはできず、大分県の佐伯駅で終了となります。
枕崎駅を目指すとすれば、不通区間の肥薩線の開通とダイヤ改正を待つしかないようです。

◇1日目
稚内05:20-名寄08:46
名寄10:01-旭川11:28
旭川13:47-滝川14:38
滝川14:45-岩見沢15:24
岩見沢15:40-白石16:15
白石16:23-苫小牧17:24
苫小牧17:35-東室蘭18:43
東室蘭18:58-長万部20:21
長万部21:16-森22:30
森……泊

◇2日目
森05:32-五稜郭07:01
五稜郭09:07-木古内10:14(道南いさりび鉄道=北海道新幹線オプション券利用)
木古内13:01-奥津軽いまべつ13:35(はやぶさ28号=北海道新幹線オプション券利用)
津軽二股15:54-蟹田16:16
蟹田16:25-青森17:13
青森17:26-弘前18:12
弘前19:20-秋田22:01
秋田22:27-羽後本荘23:10
羽後本荘……泊

◇3日目
羽後本荘05:33-酒田06:39
酒田07:02-村上09:38
村上09:53-新潟11:05
新潟11:07-長岡12:21
長岡12:34-越後湯沢13:51
越後湯沢15:08-水上15:46
水上15:53-高崎16:56
高崎16:59-小田原20:25
小田原20:34-熱海20:57
熱海21:11-沼津21:32
沼津21:35-静岡22:31
静岡22:41-浜松23:53

◇4日目
浜松06:01-大垣08:07
大垣08:11-米原08:46
米原08:48-姫路11:18
姫路11:35-相生11:54
相生12:26-岡山13:37
岡山13:50-糸崎15:21
糸崎15:39-広島16:58
広島17:09-岩国18:01
岩国18:17→下関21:33
下関21:44→小倉21:58
小倉22:11-柳ヶ浦23:34
……柳ヶ浦泊

◇5日目
柳ヶ浦05:51-佐伯08:35

実は、今年チャレンジする予定の日本縦断徒歩の旅で、宗谷岬にゴールした後、稚内から青春18きっぷを使って日本縦断をしようと目論んでいます。
しかし、上記のように5日間での達成はできません。
不本意ですが、九州の不通区間は別途手段で抜けようかと思っています。

枕崎駅にゴールすることができれば最高ですが、18きっぷ終了期間の9月10日までにできなければアウト。
その場合は計画縮小で、自宅がある岐阜県までになるかもしれません。
いずれにしても、縦断徒歩の旅の出発日がすべての鍵を握りそうです。
遅くても盆明けにはスタートできることを願っています。

コロナよ、早く収まっておくれ。

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[ 2021/06/26 ] 読書 | TB(0) | CM(0)

山本周五郎著『さぶ』を読む

退職してから1年と3カ月。
月日が加速しながら流れていくことに、戸惑うばかりです。
この夏は、まずは日本列島徒歩縦断の宿題である北海道の旅を片付け、それから職探しの計画でした。
中途半端に過ごす毎日をコロナのせいにしてみたところで仕方がないですが、されどコロナ。
コイツが目の前にぶら下がっているので、なかなか一歩が踏み出せないでいます。

更に追い打ちをかけた老父の入院。
退院の目途は立ちましたが、しばらくは自宅療養と通院を続けながらも、心臓の治療のためにさらに大きな病院での転院を視野に入れなければならず、これも不安材料となっています。
離れて暮らしていても父の病状が気になって、まとわりついた靄のように、心は晴れません。

目指すは、すっきりとした気持ちでチャレンジを実行し、日々を充実して過ごしたい…いつになるか分かりませんが、そんな日が来ることを願っています。

さて、しょうもない話をうだうだと書いていてもキリがないので、読んだ本の感想を。

****************************************
山本周五郎晩年の名作『さぶ』。

還暦過ぎても人間として成長できていない自分に、ときおり嫌気がさす。
短気でまっすぐな主人公・栄二の生きざまに共感し、感情移入してしまう自分に気づいて、反省することしきりなのだ。
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月のように純真無垢で謙虚なさぶは、陽が照たる栄二とは対極をなすが、そこには口に出さずともお互いが足りないところを求めあう、表裏一体の人間のあるべき姿が見えてくる。
表題を『さぶ』とした著者の意図が、ほんの少しだが見えた気がした。

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[ 2021/06/22 ] 読書 | TB(0) | CM(2)

山本周五郎著『小説日本婦道記』を読む

昨年、抜歯した奥歯ですが、インプラントの予定で治療を進めてきましたが、糖尿病のリスクもあって、見送ることにしました。

そして、本日、歯科医院でブリッジを着けてもらい、長かった治療は終了です。
なんでも、血糖値が高いとインプラントがなじまず、術後の接着に支障が出るようです。
この説明は最初から受けていましたが、昨年の夏はまだ糖尿病と診断されてはおらず、迷わずインプラントを選んでいました。

インプラントの手術の目安はHbA1cが6.5未満を推奨。それ以上はリスクが伴う可能性があるとのこと。
6.5からは糖尿病と診断されるので、服薬によるコントロールで更に数値を下げていれば良いですが、服薬なしの現在6.5の私にとっては、リスクが高い状態といえます。

インプラントの治療を進めるために、抜歯した歯茎の骨の造成(10万円かかりました)までしたのに、結局は諦めることになってしまいました。
ちなみに、糖尿病の主治医からはインプラントはOKということでしたが、術後の不安を考えると、どうしても決断することができませんでした。

さて、ブリッジですが、取り付けたばかりなので違和感があり、冷たい水を飲むと沁みますが(神経があるので)、まぁ、そのうち慣れると思います。
ちなみに治療費は約2万円でした。
インプラントの場合は35万円なので、コロナが収まったら浮いたお金でカミさんと旅行にでも行こうと思います。


続いて本の話題を。

初、山本周五郎です。
食わず嫌いだったのか、これまで敬遠してきたのか、もっと早く読んでおけばよかったと反省しきりです。
私の中で時代小説といえば、池波正太郎、司馬遼太郎、藤沢周平に尽きますが、この一冊を手に取ったことで、これから茫洋の海へこぎ出すような、著者の魅力にはまってしまう予感がします。

『小説日本婦道記』は昭和17年から終戦後の昭和21年まで、『文藝春秋』と『夫人倶楽部』に31編が発表されました。
手に取ったのは選りすぐりの11編が掲載された新潮文庫版です。

この短編集は、昭和17年度の直木賞を辞退した曰く付きの作品としても有名で、著者を代表する初期の作品です。
武士道に対して婦道というものがあるのか分かりませんが、武家社会の中での婦女子の生き方には、筋が通った凛とした美しさを感じます。

石高の大小問わず、武家の婦女子の話す言葉が優しく丁寧で、美しく、なんとも心地よい。
今の時代ではついぞ接することがない会話に驚かずにはいられません。

時代小説の魅力はこんなところにもあると思います。
流れるような卓越した文章力も著者の魅力です。

11編、どれも良いですが、一押しは『松の花』。
妻の死後、まるで知らなかった一面に気づく夫のどん臭さにも呆れますが、それを気づかせることなく献身的に夫や家を支えた妻の生きざまに、深く感動。

涙腺が緩みました。

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[ 2021/06/11 ] 読書 | TB(0) | CM(2)