9日間の中山道歩き旅をした10月前半は、マメができて痛めた足を癒すため、ぼんやりとした日々を過ごした。
コロナの感染が増えてきたことで敬遠していた岩盤浴にも久しぶりに足を運んだし、図書館にも通った。
月末には大阪で開いた元職場のOBたちとの同窓会に出席し、気の抜けない連中と飲むことができた。
そんな日々の中で、読書する時間はたっぷりと確保。
文字通り晴耕雨読ならぬ“晴読雨読”生活を楽しむことができた。
収穫は『ノモレ』。
アマゾン奥地の未開の部族をとの交流を描いたノンフィクションだが、今の世にあって文明とまったく接触することなく生きている人々がいたことに驚き。
世界は広い。
まだまだ知らないことが多いことを実感。
10月の読書メーター読んだ本の数:17
読んだページ数:4470
ナイス数:3543
女王陛下のユリシーズ号 (ハヤカワ文庫 NV 7)の
感想ずっと昔に挫折した、積年の宿題を読み終えた。
登場人物の多さ、巡洋艦の複雑な構造の名称がポンポン飛び出す前半は、ストーリーがまったく頭に入ってこず中断しそうになった。
しかし、後半になって俄然面白くなってきた。戦闘場面では、撃墜したドイツの雷撃機を「もはや機械ではない、引きちぎれて炎上する十字架」と訳す凄い迫力に圧倒され、最終章のユリシーズの孤高の姿には思わずホロリときた。
艦長の強いリーダーシップと取り巻く個性的な乗組員たちの描き方、そして何よりも心まで凍てつきそうな酷寒の海に、最後まで震わされた作品だった。
読了日:10月31日 著者:
アリステア・マクリーン
昭和なつかし博物学 (平凡社新書)の
感想2005年の発行だが図書館では閉架扱い。手に取ってみてその理由が分かる気がした。
「そういえばあったね」をフレーズに昭和の博物品をリストアップ。
ウグイスの糞、ゾウのうんこ、医用蛭、ヒヨコすくい、放生、絹糸草、ニタリ貝、菊人形、ウミほうずき…。ずらりと並ぶのは補欠選手ばかりだが、著者は動物生態学の権威とあってそれぞれのウンチクは凄い。“懐かしい”かどうかは別として、雑学をため込むには面白い本だった。
女性のシンボルそっくりのニタリ貝の標本をその昔祖父さんが土産で買ってきて、箪笥の奥に隠してあったのを思い出した。
読了日:10月29日 著者:
周達生
サーチライトと誘蛾灯 (ミステリ・フロンティア)の
感想このところ小説離れが進んでいるが、虫好きの私にとって“無視”できない作品なので手に取ることにした。
昆虫をプロットにした短編ミステリであるが、希少種のスギタ二ルリシジミを登場させたり、ナナフシから出る寄生虫の話など虫に対するこだわりはそれなりに感じる。
平野肇の『昆虫巡査』シリーズや鳥飼否宇の『昆虫探偵』とどうしても比較してしまうが、虫好きを唸らせるには遠く及ばない。救いはひょうひょうとした主人公・魞沢泉か。
泡坂妻夫の影響を強く受けているようだが、ワンポイントではなく、もっともっと虫が絡んでくれたら嬉しい。
読了日:10月28日 著者:
櫻田 智也
片手の郵便配達人の
感想第二次大戦中のドイツ国民の死者は、兵士、一般国民を合わせて525万人。ヒトラーのファシズムに翻弄された敗戦国としての代償はあまりにも大きかった。
主人公は前線で片腕を失くして帰還した17歳の郵便配達夫。ドイツの敗戦までの10ヵ月の生活をたんたんと綴っているが、そこには「黒い手紙」と呼ばれる死亡通知書を配達しなければならない苦悩や、ナチを否定しながらもヒトラーユーゲントの子供たちを見守る冷めた感情も見え隠れする。
最後の結末はなんとも無常。フィクションとはいえドイツ側の視点から戦争の冷酷さを訴えた作品である。
読了日:10月27日 著者:
グードルン・パウゼヴァング
剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑むの
感想山を始めた頃に読んだ新田次郎著『剱岳点の記』で、頂上に古代仏具の錫杖と鉄剣が残置されていたことを知り、それ以来ずっと気になっていた。
本書は平安期に剱岳が開山されたという仮説を自らの足で実証し、真実に迫っていく努力作だ。
私自身クライミングをかじっていたので剱岳には一般ルートの別山尾根や早月尾根を始め、八ッ峰やチンネ、源次郎尾根や三の窓からのバリェーションルートなど全方位から登頂したが、平安期のファーストクライマーが登頂するとすれば、剣岳を麓から見ることができる馬場島からの早月尾根しかないと思っていた。
早月尾根は水場がないことを除けばそれほど危険な場所はない。著者が紙数を使ってこの結論に行きつくまでもなく、ここまでは剱岳に詳しい者ならおおよその推測がつくはずである。
では、いつ、誰が、どんな目的でという疑問について幅広く考察していくのが本書の背骨である。
探検家を自称するわりに登山技術はたよりないが、山麓に散在する遺跡や伝承地、修験者の足跡を追い仮説を固めていくプロセスに、著者の執念を見たように思う。
仮説の域から結論は出ないが、歴史を絡めた山岳ノンフィクションとしては面白い作品であった。
読了日:10月27日 著者:
髙橋 大輔
ルポ ニッポン絶望工場 (講談社+α新書)の
感想本書が上梓されてから5年が経ち、外国人留学生、実習生、移民を取り巻く現在の状況が、コロナ禍による長引く不況のあおりを受けさらに悪化していると推測する。
私が失業給付に通う本書にもあった岐阜県美濃加茂市に近いハローワークでは、窓口を訪れるブラジル人の失業者を多く目にする。
就労目的で来日する外国人にとって日本人が嫌がる仕事でさえありつけない閉塞的な状況が続けば、貧困から犯罪へ発展する負のスパイラルに陥る可能性を秘めている。
日本語学校の乱立もしかり。外国人を食い物にする政府の国家的な無施策と無展望が腹立たしい。
読了日:10月25日 著者:
出井 康博
絵はがきにされた少年 (集英社文庫)の
感想本書が上梓されたのは2005年なので、著者が南アフリカで体験したアバルトヘイト撤廃後の混乱した世相が現在どうなっているのか気になった。
調べてみると、失業率や犯罪率は変わらず貧富格差はさらに悪化しているようである。
本書はかつて暗黒大陸と呼ばれたアフリカの負の側面を強調しながらも、多くの人々がアフリカに対して持つ「貧困」「援助」といった無知な先入観を改める必要性を説いている。
その象徴ともいえるピュリッツアー賞の【ハゲワシと少女】の撮影裏話に、何も知らぬまま写真を見て衝撃を受けた無知な自分が滑稽に思えてきた。
読了日:10月23日 著者:
藤原 章生
オオカミの護符 (新潮文庫)の
感想オオカミを象った一枚の護符から、古来より脈々と受け継がれてきた講と土着信仰の真実に迫った本書は、取材にかける著者の執念以上に、触れてはいけない疑問を解いてくれた傑作だと思う。
ずっと以前に両神山で沢登りをした帰途に立ち寄った神社で、オオカミの石像を見た記憶がよみがえったが、何で狛犬じゃないのかという疑問が氷解したことが嬉しい。
オオカミや山犬が眷属となっている神社は全国的にも多くあるようだが、山里の農村に深く根付き、人々の信仰対象となっていった事実を知ることができただけでも収穫であった。
読了日:10月22日 著者:
小倉 美惠子
全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったことの
感想角田美代子、林真須美、木嶋佳苗、そして筧千佐子。
いずれも記憶に残る平成の毒婦たちだ。並べただけでどんな事件だったか結びつく。
なかでも後妻業の女として有名になった筧千佐子は青酸を使った連続殺人を犯した文字通りの“毒の女”。今年6月に最高裁で死刑が確定したが、筧の周りでは合わせて11名の不審死が分かっている。
いつもの取材パターンで筧との面会を続ける著者曰く、後妻業の“業”は彼女の心に棲みついた「ごう」であると書く。常人の理解を超越する殺人者の“業”の深さは、天性のものなのだろうか。それを思うと恐ろしくなった。
読了日:10月21日 著者:
小野 一光
丸刈りにされた女たち――「ドイツ兵の恋人」の戦後を辿る旅 (岩波現代全書)の
感想本書はナチの協力者として烙印を押され丸刈りにされた女性たちの真実を探っている。
先に、フランス人女性とドイツ人兵士との間に生まれた子供の戦後史を綴った『ボッシュの子』を読み、その全体像が掴めた。
しかし、著者の意気込みに対して接触できた当事者はわずかに2人。高齢化と深い心の傷がそれを阻んだようだ。
ヨーロッパでの丸刈りの仕打ちは女性を辱める刑罰として歴史的にもポピュラーなものであったが、戦争終結後の解放時にそれが民衆によって爆発したのは不幸といってもいい。
登場した女性たちに純粋な恋物語があったことが救いである。
読了日:10月19日 著者:
藤森 晶子
生還者(サバイバー)たちの声を聴いて: テレジン、アウシュヴィッツを伝えた30年の
感想毎年のように出版されるナチス、ホロコースト関連の本は星の数ほどあり、その犯罪の広域性を象徴するかのように、茫洋たる海原に放り出されたごとく、どれだけ読んでも断片をつまんでいるにすぎない。
本書はアウシュヴィッツの中継点となった、子供たちを収容したテレジン収容所の生還者を追ったルポ。著者は子供たちが描いた絵を日本国内で展示する活動を行っているが、コロナ禍にあって活動の中断に追い込まれていることの焦りを述べている。
後半ではナチス高官たちの末裔の苦悩やアーリア人製造工場【レーベンスボルン】についても触れている。
読了日:10月18日 著者:
野村 路子
ノモレの
感想イゾラドとは文明社会と接触していない先住民のこと。2008年に世界のメディアが伝えた、アマゾンの奥地でセスナ機に向かって矢を放とうとする赤や黒でペインティングしたイゾラドの画像は衝撃的だった。
私はフェイクニュースだと思っていたが、その後NHKスペシャルでも放送され、今の世に外部社会と接触がないまま生活している部族がいることを知った。
タイトルの「ノモレ」は先住民イネ族の言葉で「友、仲間」のこと。本書は100年の時を越えて生き別れになったイゾラドとのか細い絆を、交流を通して紡いでいく壮大で哀しい物語である。
読了日:10月17日 著者:
国分 拓
13億人のトイレ 下から見た経済大国インド (角川新書)の
感想IT大国として世界をけん引し経済大国の道を進むインド。
一方で5億人を超える【野外排泄人口】を擁している。
そのギャップの根底にはカーストを起因とする根強い身分差別があるという現実を知った。ダリットと呼ばれる最下層の人々のトイレ清掃業務が世襲により支えられており、生活の基盤となっているその報酬は驚くべき低賃金である。
モディ政権による衛生状態の改善政策とアピールは表面的な対策にとどまっているようである。
差別意識を変え人権を守る大ナタを振るう指導者が出ない限り、インドのトイレ事情の根本的解決はないように思う。
読了日:10月16日 著者:
佐藤 大介
NHKスペシャル ルポ 車上生活 駐車場の片隅での
感想昨年観た同番組が印象に残っていた。
本書でも何度も語られているが、車上生活者だからといって皆一様に不幸であるとは限らない。
貧困やDV、逃亡などおおよそ想像がつく苦しい背景以外に、自宅があっても車上生活が好きでそれを楽しんでいる人々も一定数いる。
車の中で暮らすこと=可哀そうなこと…と仮定し、大きな社会問題として訴えようとする意図から無理な番組作りが見え隠れしていたが、それに気づき軌道修正していくスタッフたちの真摯な姿勢が垣間見えたのが救いだ。
固定観念からとかく誇張しやすい問題を冷静に見つめることができた。
読了日:10月15日 著者:
NHKスペシャル取材班
ミュージアムグッズのチカラの
感想ミュージアムグッズのコレクターがいるとは知らなかった。
紹介されているグッズはユニークなものばかりで、お土産としても重宝しそうだ。目黒寄生虫館のサナダムシTシャツはきっと大うけするのでは。
グッズばかりに目が行きがちだが、侮れないのは全国49ヶ所の一癖ありそうなマニアックなミュージアムの魅力をきちんと紹介していることにある。
ちなみに私は2つしか行ったことがないので、これからの旅の楽しみと目的が広がりそうだ。見学のエンドロールのごとくグッズの品定めが余韻に浸る楽しみになれば、この本の価値はさらに高まるだろう。
読了日:10月15日 著者:
大澤夏美
喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~ (ワニブックスPLUS新書)の
感想立花隆亡き今、稀代の本読みと私が認識しているのが紀田順一郎、松岡正剛、そして荒俣宏の三人。
荒俣氏は知の巨人であり、博覧強記といえる唯一の人だと思っている。本書は読書の魅力を分かりやすく語っているが、まるで講義を受けているような心地よさがある。
博物学の話から、自然に関心を持つことは知の出発点として理想形であるというフレーズには、心に響くものがあった。
【尻取りゲーム型読書法】は読書家のほとんどが知らないうちに実践し、身についけている習慣なのではないだろうか。知識欲と好奇心を満たす方法には読書に勝るものはない。
読了日:10月13日 著者:
荒俣 宏
文豪ナビ 谷崎潤一郎 (新潮文庫)の
感想初めて手にした文豪ナビ。他にも三島や川端、芥川、山本周五郎なども出ているようだ。谷崎のおすすめコースは、刺青→痴人の愛→春琴抄→卍…最後は細雪。
『細雪』以外はずっと昔に大方読んでいるが、すっかりストーリーを忘れている。
10分で読む要約で少しは思い出すことができた。これはなかなかスバラシイ企画。
桐野夏生のエッセイは谷崎愛に溢れており、ミステリ作家としてのするどい洞察力が見える。『春琴抄』の春琴と佐助の関係が純愛物語と断言しているところは引っかかるけど、まぁ見方はそれぞれなので、気にしないでおこう。
読了日:10月01日 著者:
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