体調がまだ万全ではないのか、寝汗をかく一夜となった。
今にも落ちてきそうな重く垂れ込めた曇天のなか、7時過ぎに出発。
室戸岬手前にある24番最御崎寺までは、荒涼とした海を左手に見ながら行く。
しめ縄が張られた夫婦岩や、空海が修行したという御厨人窟に立ち寄りながら歩くと、遍路道は急な山道となった。
雨が強くなってきたので雨具の上下を着込み、24番最御崎寺まで一息に登り、門前に立った。
3日ぶりの納経を済ませ、雨に煙る遠望を楽しみながら室戸スカイラインを下り、室戸の集落に出た。
25番津照寺を打ち、途中にあった津波避難用タワーの真下でパンを食べたが、時折出てくるこの施設が唯一の雨宿りスポットだった。
26番金剛頂寺に向かう遍路道の入口には今日泊まる予定の民宿があり、宿の女将さんに一言伝えて寺の往復に向かう。
宿の前にはシャワー室とトイレが完備されたお遍路休憩所があり、テントを立てている人が見えたので、親しみと興味本位もあって立ち寄ってみた。
テントの主は、かなりのご老人だが、金剛杖が置かれているので、お遍路のようだ。
立ち話をすると、ずっと野宿で回っていることだった。
雨が強くなった午後3時、26番金剛頂寺を打ち下山すると、先ほどの老遍路の話の続きが気になってしまい、頭から離れない。
自販機でお茶のペットボトルを買い、差し入れがてらテントに立ち寄ることにした。
80才の老遍路は、私のぶしつけな質問にも訥々と話してくれた。
それは驚くべき内容だった。
なんと30年も遍路をしており、生きる支えは托鉢である。
順打ち、逆打ちを含め、100回を超えてから数えることを止めたという。
バブルがはじけたことで事業に失敗し、行者の経験があったこともあり、四国に流れてきたという。
昔は自分のような遍路は200人ほどいたが、今では数人しか残っていない。
老遍路は自らを「乞食遍路」と呼ぶが、単なるホームレスではなく、遍路としてのプライドを失っていないように見えた。
100回以上回った人にしか与えられない、錦の納め札を売って欲しいという人に対しても、決して金に変えることはなかったという。
行者の修行で21日間の断食経験があり、食事ができない状態が続いても我慢ができるというが、風呂には入りたいと、本音をこぼした。
歩き遍路をする意味合いが分からないまま四国に来た私に対して、
「あんたはお大師様に選ばれた人であり、四国に来たのは導かれたからだ。なので、最後まできっちりやり遂げるべきである」
というアドバイスまでいただいた。
行政の援助を含め、生きていく手段はいくつもあるのに、なぜ苦しい野宿の旅をするのか。
死ぬまで歩き続けるという老遍路に対して、私には、そのこだわりを理解する裁量はない。
答えは当人だけが持っている。
別れ際に、老遍路は言った。
「こうして出会ったのも、偶然ではなく、前から決まっていたこと」
私が泊まる宿と道路を隔て、向かい合わせで野宿をする老遍路。
外の雨は、強さを増した。
遍路の世界の業の深さと哀しみ。
そして闇を見た気がする。
数ヵ月前に読んだ「草辺土」(上原善広著)との出会いは、衝撃的だった。
◼️2023年3月17日 24番最御崎寺~26金剛頂寺
◼️40530歩 26.34㎞
◼️雨
◼️民宿うらしま

※雨のなか、鉛色の海を見ながら歩く

※夫婦岩

※前を歩くSさん

※こうした看板が随所にあった

※巨大な弘法大師像

※室戸岬が近づいた

※空海が修行したと伝わる洞窟

※漁業遭難者を弔う石仏があった

※24番最御崎寺の登り

※最御崎寺本堂

※同 大師堂

※金属音が鳴る石があった

※室戸岬灯台

※室戸スカイラインを下ると、室戸の町が一望できた

※津波タワーが至るところにあった

※25番津照寺目指して歩く

※同上

※25番津照寺

※26番金剛頂寺の登り

※同上 本堂
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ご無沙汰しております。細菌性のご病気、早く回復されて良かったです!
長い距離を歩いていると、こういう病気の可能性もあるんですね。足のマメ、侮ってはいけないんですね。
ずっと以前に、私も一度88箇所めぐりをやってみたいというようなことをこちらでコメントさせていただいたと思いますが、記事を読ませていただいていると勉強になります。
こういう昔ながらの過酷な行としての遍路旅をされている方がまだいらっしゃるんだなあと。もうここまでのお遍路さんは今の時代にはいないと思っていました。
1年程度かけて行に取り組まれる方はまだたくさんおられるだろうと思っていましたが、何十年もこの生活というのが凄いことですね。
でも、純然たる歩き遍路が少なくなっているというのは、歴史文化の継承の面でも寂しい気がします。
未だなんら具体的な計画があるわけではないのですが・・参考にさせていただきます。
また出発されるのを楽しみにしております。お身体には気をつけてくださいませ!
コメントありがとうございます
上原善弘著「草辺土」を読んでいなければ、こうした人の存在は気にならなかったかもしれません。
遍路の世界は奥が深いですね。
歩くことの意味を自分に問いかけ、次のチャレンジをしたいと思います。
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